姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一

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第二章 《選抜魔剣術大会》編

第81話 《選抜魔剣術大会》当日の朝

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《リクス視点》



 そして迎えた本番当日。

 

 開会式は朝9時、隣国のメルファント帝国が誇る最大の闘技場 《メルファント・ベース》にて行われる。

 

 現在の時刻は朝の8時45分。

 ぬくぬくとベッドで寝ていた俺の耳に、不意に金属を擦り合わせるような甲高い音が響き渡る。



 枕元に置いてあるそれは、通信用の宝石だ。

 最近、王国の技術魔導師が生み出した画期的なアイテムで、これを持っていれば離れている人と通信できる優れものだ。



 量産するには少々高価で、まだ試作段階であるため、一般市民用に普及していない。

 だが俺がそれを持っているのは、ひとえに姉さんの人徳によるものである。

 姉さんがいくつかその試作品を貰ってきて、「もぅ、一つで十分なのにぃ」と嘆いていた姉さんの残りを譲り受けた。



 はてさて、このプレミア価格がつきそうな魔道具は、売ったら一体おいくら万円するのかしら?

 とホクホク顔だった俺であったが、伯爵家という家柄上俺と同じように通信魔道具を貰っていたサリィから、「リクスさんも持っているなら、連絡先を交換したいですわ」と言われ、そのまま俺の所持品となってしまった。



 ちなみに、残った通信魔道具も、仲間はずれにするのは忍びなかったのでサルムとフランにあげたのである。

 まさか友達に売りつけるわけにもいかないしな。

 

 こうして俺は、ふと湧いた金儲けのチャンスを棒に振ったのである。



 ああ、それと。

 マクラが1人「ずるいずるい! ご主人様達ばかり! 私もそれ欲しい!」と駄々をこねたのだが、「お前、その気になれば念話を誰にでも飛ばせるじゃん。わざわざ通信魔道具持つ意味ないよね」と言ったら途端に押し黙った。



 まあ、とにかく。

 かくして手元にある通信用の貴重な宝石が、けたたましい音を立てて鳴ったのである。



「むぅ~……誰だよ。目覚ましに設定した時間まではあと10分あるんだぞ」

 俺は悪態をつきながら、通信魔道具を手に取る。



「……はぁい。リクスです」

『お、おはようございますわ』

「……なんだ、サリィか。どうしたの」

『いえ、あと15分で開会式が始まるのに、姿が見えないなと思いまして……というか、リクスさん声変じゃありません? もしかして、風邪ですの?』

「あ、いや。違う。単純に今起きたとこだから。寝起きボイス」

『えぇ!? ま、間に合いますの!? 朝の支度とか諸々……ああでも、近くのホテルなんかに泊まっているようなら、間に合うかもしれませんわね――』

「うんにゃ。今自宅」

『……はぁあああああ!?』



 一瞬の間の後、耳を劈くような大声を上げるサリィ。

 そのあまりの音量に、俺は顔をしかめて通信魔道具を耳から遠ざける。



『え? その、え? 自宅って……ラマンダルス王国の?』

「うん」

『しょ、正気ですの!? 会場はメルファント帝国の帝都! 王都からは馬車で一日半はかかる距離ですわよ!!』



 サリィの声に驚きと焦燥の色が窺える。

 だが、そんなことは100も承知。むろん、本当なら馬車に揺られていなければならない昨日を、姉さんが買い物で使い潰したりしない。



「ああ、それは大丈夫」

『大丈夫って何がですの?』

「今からそっち行くから」

『?』



 向こう側で、息を飲むような気配がする。

 俺は通信用魔道具肩と顔の間に挟んで一度伸びをすると、素早く身支度に取りかかった。



 寝間着から素早く昨日買ったコートに着替え、マクラをペンダントの中に移し替えて首にかける。

 壁に立てかけていた剣を腰に下げて、整髪と洗顔は、時短として無属性の清潔魔法でまとめて整える。

 

『今からって……どうやって』

「ひまっへんふぁお(決まってんだろ)」



 俺は、朝早く仕事で出掛けた姉さんが作り置きしていたハムエッグとトーストを全部まとめて口に放り込み、飲み干す。



 それと同時、俺はとある上級魔法を無詠唱で起動した。

 俺の足下に魔法陣が形成され、全身が緑色の光に包まれる。

 そして――その光が収まった頃に。



「こうするんだよ」 

『はい?』



 俺は、全く違う景色の場所に立っていた。

 そこは円形闘技場の端。

 ただし、学校にあるものとはサイズの桁が違う。



 二回りも三周りも大きく、周囲を包む客席は、まるで世界を隔てる壁のよう。

 上を見上げれば、抜けるような青空が丸く切り取られている。

 既に観客席には多くの人が詰めかけ、ステージの端には出場選手とみられる十数名の少年少女が集まっていた。



『あの、こうするって……どうするんですの?』

「だから。こうするんだって」

『あ、あれ。なんだか後ろからもリクスさんの声が聞こえるような……』



 そう言って振り向いたサリィの瞳には、平然と立っている俺が映っていた。



「おはよう」

「ひゃぁあああ!?」



 サリィは通信用の宝石を取り落とし、ビクリと跳ねた。

 ここは言わずもがな、《メルファント・ベース》の一角。

 そこへ突然出現したことに驚いた数名の選手が目を丸くしている。



「な。い、いつの間に……どうやって」

「ん? 転移魔法でサクッと」

「え、えぇ……そんな上級魔法を通話しながらアッサリと……それはそうと、馬車で一日半もかかる距離を移動したら、魔力が枯渇してしまうんじゃありませんの?」

「? そうなのかな……あんま体調に変化はないけど」

「うぐっ……流石はリクスさんですわ。転移魔法の移動距離と魔力の消費量は比例すると言われていますのに。それだけの距離を移動して、魔力欠乏状態どころか顔色に変化も見られないなんて」



 サリィは、はぁとため息をつく。

 あれ、なんか俺呆れられてる? なんで?



 俺は少しばかり首を傾げ。

 そのとき、音声拡張魔法を使ったアナウンスが朗々と響き渡った。



『皆さん、大変長らくお待たせしました。ただいまより第108回《選抜魔剣術大会》の開会式を始めます!』



 大歓声が観客席から上がる。



「いよいよですわね」

「みたいだね」



 気合いの入ったサリィの言葉に首肯する。

 ついに、想定外の波乱を巻き起こす、本年度の《選抜魔剣術大会》が幕を開けた。
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