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第一部 出会い、そして混沌の夜明け
第二章23 激戦の中で
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「なっ!?」
僕は、驚きのあまり目を疑った。
テレサの胴を確かに穿ったはずなのに、まるで幽霊のように剣が彼女の身体をすり抜けたのだ。
それと同時に、テレサの纏う深紅のドレスが、蜃気楼のごとくぐにゃりと歪んで……跡形も無く消えてしまった。
「い、今のって……ッ?」
「《削命法―光輝》……光の魔術を操作して創りだした幻影のワタクシですわ」
その声は、狼狽える僕の背後から聞こえた。
弾かれるように後ろを振り返ると、すまし顔のテレサが立っている。
その右手からは、光の残滓が舞っていた。
「ある程度の位階がある者は、皆使える魔術ですわ。覚えておいた方が宜しいかと」
「それは、ここで僕に手の内を明かしたってことになるけど、いいの?」
僕が問うたのは、純粋な疑問だった。
今後彼女とぶつかることが無いとは、到底言い切れない。先程言われたこと……呪縛という意味深な表現も気になる。
故に、今ここで一つ種明かしをしたのは、向こうにとってハンディになるのでは無いか?
「お戯れを」
だが、テレサは笑止とばかりに言い捨てた。
「あなた様に明かしたところで、ワタクシの絶対的な優位は変わりませんわ」
「それは確かに」
同意してしまった。
この女はレイシアですら子供扱いする化け物だ。
僕が一人で闘ってどうにかなる相手では……ない。
(こうなると、フィリアとロディが来てくれるのを、期待するしかないんだけど……)
テレサを見据えて腰を低く落としながら、僕は思案に耽る。
フィリアとロディを合わせた三人でかかれば、一矢報いることはできるかもしれない。しかしそれは、彼らが来てくれればの話だ。
今現在、東地区で彼らが闘っている相手も、化け物クラスの魔術師だ。
おそらく、二人がかりで相手取るので精一杯のはずだ。
あんなふざけた名前のヤツが反則級に強いとか、勘弁して欲しいけど……文句を言っても仕方がない。
「……さて、お話はこのくらいにして、そろそろ再開しましょうか。もう少しワタクシを熱くしてくださると、嬉しいですわ」
「炎の魔術で勝手に熱くなってくださいよ」
「うふふ。冗談がキツいですわ」
氷のような笑いを浮かべるテレサ。
場の空気が凍り付きそうな程の緊張が、僕とテレサの間に流れ。
つー……と、僕の額を汗が伝う。
それを合図に、テレサが動いた。
「《《削命法―霹靂―四連符》」
テレサの右手に淡い紫色の煌めきが爆ぜ、四条の雷閃が闇を裂いて肉薄する。
「ちょっ!」
僕は咄嗟に飛び下がる。
寸前までいた場所を一条の雷が鋭く穿って、帯電した地面が煙を上げる。
間一髪避けられたが、安心していられる暇は無い。
すぐに視界の端から、次の雷閃が現れる。
「ぬぅううううう!」
身体を思いっきり仰け反らせ、その一撃をやり過ごし――続く三撃目。
身体を仰け反らせることで、上下が反転した視界で、真っ直ぐに突っ込んでくる雷が見え。
「このぉッ!」
無理矢理な体勢から地面を蹴って空中に飛ぶ。
浮いた身体の下を、ギリギリで雷閃が掠めていき――
バク宙をするかのように、一回転して着地。
その瞬間を狙って、最後の雷が僕の真横から殺到し――
「はぁッ!」
躱すタイミングが無いと悟るや否や、僕は剣を横薙ぎに振るい、肉薄する雷閃を弾き返した。
「これで……全部ッ!」
四発の紫電をいなし切り、ほっと安堵の息を吐いたのも束の間。
重大なことに気付いて、身体から血の気が引いていくのを感じた。
(あいつは……!? テレサはどこに!?)
テレサの姿が何処にも見当たらない。
魔術を相手取るので精一杯で、肝心な術者を見失ってしまった。
(やばい! どこに消え――)
「――ここですわ」
ぞくり。
背筋が凍るようなネットリとした声が、僕の背後から聞こえた。
「なっ! いつの間に――ッ!」
慌てて距離を取ろうとするが、それより速くテレサの指に膨大な魔力が集まってゆく。
「終幕といきましょうか」
そんな言葉が聞こえて。
僕は思わず目を瞑った。
僕は、驚きのあまり目を疑った。
テレサの胴を確かに穿ったはずなのに、まるで幽霊のように剣が彼女の身体をすり抜けたのだ。
それと同時に、テレサの纏う深紅のドレスが、蜃気楼のごとくぐにゃりと歪んで……跡形も無く消えてしまった。
「い、今のって……ッ?」
「《削命法―光輝》……光の魔術を操作して創りだした幻影のワタクシですわ」
その声は、狼狽える僕の背後から聞こえた。
弾かれるように後ろを振り返ると、すまし顔のテレサが立っている。
その右手からは、光の残滓が舞っていた。
「ある程度の位階がある者は、皆使える魔術ですわ。覚えておいた方が宜しいかと」
「それは、ここで僕に手の内を明かしたってことになるけど、いいの?」
僕が問うたのは、純粋な疑問だった。
今後彼女とぶつかることが無いとは、到底言い切れない。先程言われたこと……呪縛という意味深な表現も気になる。
故に、今ここで一つ種明かしをしたのは、向こうにとってハンディになるのでは無いか?
「お戯れを」
だが、テレサは笑止とばかりに言い捨てた。
「あなた様に明かしたところで、ワタクシの絶対的な優位は変わりませんわ」
「それは確かに」
同意してしまった。
この女はレイシアですら子供扱いする化け物だ。
僕が一人で闘ってどうにかなる相手では……ない。
(こうなると、フィリアとロディが来てくれるのを、期待するしかないんだけど……)
テレサを見据えて腰を低く落としながら、僕は思案に耽る。
フィリアとロディを合わせた三人でかかれば、一矢報いることはできるかもしれない。しかしそれは、彼らが来てくれればの話だ。
今現在、東地区で彼らが闘っている相手も、化け物クラスの魔術師だ。
おそらく、二人がかりで相手取るので精一杯のはずだ。
あんなふざけた名前のヤツが反則級に強いとか、勘弁して欲しいけど……文句を言っても仕方がない。
「……さて、お話はこのくらいにして、そろそろ再開しましょうか。もう少しワタクシを熱くしてくださると、嬉しいですわ」
「炎の魔術で勝手に熱くなってくださいよ」
「うふふ。冗談がキツいですわ」
氷のような笑いを浮かべるテレサ。
場の空気が凍り付きそうな程の緊張が、僕とテレサの間に流れ。
つー……と、僕の額を汗が伝う。
それを合図に、テレサが動いた。
「《《削命法―霹靂―四連符》」
テレサの右手に淡い紫色の煌めきが爆ぜ、四条の雷閃が闇を裂いて肉薄する。
「ちょっ!」
僕は咄嗟に飛び下がる。
寸前までいた場所を一条の雷が鋭く穿って、帯電した地面が煙を上げる。
間一髪避けられたが、安心していられる暇は無い。
すぐに視界の端から、次の雷閃が現れる。
「ぬぅううううう!」
身体を思いっきり仰け反らせ、その一撃をやり過ごし――続く三撃目。
身体を仰け反らせることで、上下が反転した視界で、真っ直ぐに突っ込んでくる雷が見え。
「このぉッ!」
無理矢理な体勢から地面を蹴って空中に飛ぶ。
浮いた身体の下を、ギリギリで雷閃が掠めていき――
バク宙をするかのように、一回転して着地。
その瞬間を狙って、最後の雷が僕の真横から殺到し――
「はぁッ!」
躱すタイミングが無いと悟るや否や、僕は剣を横薙ぎに振るい、肉薄する雷閃を弾き返した。
「これで……全部ッ!」
四発の紫電をいなし切り、ほっと安堵の息を吐いたのも束の間。
重大なことに気付いて、身体から血の気が引いていくのを感じた。
(あいつは……!? テレサはどこに!?)
テレサの姿が何処にも見当たらない。
魔術を相手取るので精一杯で、肝心な術者を見失ってしまった。
(やばい! どこに消え――)
「――ここですわ」
ぞくり。
背筋が凍るようなネットリとした声が、僕の背後から聞こえた。
「なっ! いつの間に――ッ!」
慌てて距離を取ろうとするが、それより速くテレサの指に膨大な魔力が集まってゆく。
「終幕といきましょうか」
そんな言葉が聞こえて。
僕は思わず目を瞑った。
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