男気ゴリラが大暴れ!恋する魔法少女リーザロッテは今日も右往左往!

ニセ梶原康弘

文字の大きさ
3 / 27
Episode.1 ある日、森の中、王子様に出会った

第3話 魔法少女といったな、あれは嘘だ

しおりを挟む
 そんな彼女の向こう側を鋭く睨んだレディルは次の瞬間、マントの下に隠した刀子を目にも留まらぬ早業で投げつけた。
 「僕の顔を見て」と言ったのは、驚愕したリーザロッテが妙な動きをして刀子が当たらぬよう、彼女の注意を自分へ向けさせる為だったのだ。

「ひょえっ!」

 彼女の顔のすぐ横を掠め、矢のように飛んだ刀子は茂みの向こうにある巨木の影に刺さった。そこから「ギャッ!」という獣じみた悲鳴があがる。
 同時に付近から幾つかの影がバッと飛び退った。

「勘の鋭いことだな、レディル王子」
「薄汚い刺客風情が気安く僕の名を略すな、下郎」

 冷ややかに吐き捨てた王子は、硬直したリーザロッテへ「びっくりした? ごめんね」と困ったように謝りながら立ち上がった。

「ちっ、護衛なしじゃやっぱり不用心だったな。銃くらい持ってくるんだった」
「レーベンスディルファー・フォル・レストリア殿下とお見受けする。我等と共に来てもらおう」
「行くつもりはないが一応聞いておこう。どこへだ?」
「……」

 応えの代わりにレディルとリーザロッテ達を取り囲むように七つの影が浮かび上がった。黒装束をした覆面の男達。いずれも小柄で敏捷そうな体つきをしている。背中には細身の長刀を差していた。

「王位を返上した貧乏国の末王子なんか拉致する価値もないのにな。ご大層なことだ」
「お、王子様。もしかして強盗ですか?」
「そんなもんだね。でもちょっと違うかな」

 肩をすくめたレディルは、突然現われた不審者達を見下すように含み笑いした。

「身のこなしが違う。この人達は暗殺とかをお仕事にされてる方々だよ。要するに僕の身柄を政治的に利用しようと考えているところから人攫いに来たんだな。で、その依頼主の名はたぶん……」

 一人の男が奇声を上げて飛び込んできた。
 驚いて固まったリーザロッテを突き飛ばすと、レディルは腰に挿した佩剣に手を掛けた。真横に飛び退りながら、裂帛の気合と共に抜き打ちで剣光を一閃させる。
 次の瞬間、斬られた刺客の血飛沫が夜空に高く上がった。恐らく名前を言わせまいと仕掛けてくる、とレディルは読んでいたのだ。驚愕するリーザロッテの目には、月光に煌めいた鮮やかな刀の軌跡と血飛沫が自分の知らない魔法のように映った。

「二人手負いになったな。さて、どうする?」
「……」

 覆面の男達は黙ったまま、包囲の輪を崩さない。レディルは冷然としていたが、当てが外れて内心焦慮に駆られた。
 懸命に鍛錬した剣技で意表を衝き、敵を八人から六人にした。これで自分を買い被って退散してくれたらと期待したが、やはりそう上手くはいかなかった。相手は幾度も修羅場をくぐった者達らしく、ほとんど動揺は見られない。
 一対一ならともかく成人に満たない少年が手練れを六人も相手にしては到底敵いそうになかった。
 と、言ってもこちらには足弱の少女がいる。逃げる訳にもいかない。

(参ったな。どうするって実はこっちの話だったりして)

 対面している影の中央に位置した頭目らしい男へ、傍にいる腹心らしい男が小声で問いかけた。

「どうします?」
「手足の一本は構わん。生きてさえいればいいとのお達しだ」
「女は?」
「口を封じておけ。小娘一人、殺すのに造作もあるまい」
「承知」

 距離を詰める刺客達を前にレディルは覚悟を決めた。勝ち目はないが死に物狂いで戦う以外に道はない。

「リーザロッテさん、出来るなら僕が戦ってる間に逃げて。いいね」
「王子様……」
「僕へのお礼だと思って逃げて」

 目もくれずに言うと、レディルは脇に挿した短剣も抜き、両手にそれぞれ長短の剣を構えた。
 リーザロッテは迫ってくる刺客達と王子を交互に見た。明らかに、レディルは自分を逃がすため劣勢を承知で戦おうとしている。

(王子様……)

 彼女は、首許の星石を握りしめた。

 お婆ちゃんが授けてくれた特殊魔法。まだ使ったことはなく、石一個しかないから使えるのだって一度きり。
 どんな魔法が飛び出すのかも分からないけど、でも使うのは今しかない。飢え死にしかけていた自分を助けてくれた王子様。優しい魔法少女と言ってくれた王子様。この人のためなら惜しくない!

「ごめんなさい、逃げません。リーザロッテは王子様をお助けします!」
「えっ?」
「星石魔法、召喚!」

 夜空へ放り投げた星石は、リーザロッテが「魔力解放!」と叫ぶと砕け散り、虹色の眩い光を辺り一面に放った。飛び掛かろうとしていた刺客達も迎え撃とうとしていたレディルも、時間を凍らせる光条を浴びて一瞬動きが止まる。

 僅かな刹那の中、静かな心臓の鼓動を聞きながらリーザロッテは己に暗示を掛けた。

(仮初めの間、自分はみすぼらしい魔法使いではなくなる)
(我は誇り高き西の魔女ゾルフィー・プレッツェルの子、リーザロッテ。その誇りに掛けて恩義の王子を護らん。天の神々よ、ご照覧あれ!)

 光に照らされてリーザロッテの足元に魔法陣が浮かび上がる。反射鏡のような魔法陣の光に包まれた彼女は、青銀に輝く美しい魔法装束姿に変身した。

「魔法少女リーザロッテ、見参!」

 止まった時が動き出す。刺客達は変身したリーザロッテを見て「これは!」と身構えた。
 身体中に凄まじい魔力が満ちているのが分かり、リーザロッテは歓喜した。これならきっとどんな悪が相手だって戦える! と思った。
 そのはずだったが次の瞬間、彼女はカクンと首を折って意識を失ってしまった。
 同時に今度は彼女の身体から眩い閃光が迸った。レディルも刺客達も、思わず顔を背けたり目をつむる。
 そして……

「グォゴガァアアアアアアアアアアアアア!!」

 明らかに何かとてつもなく重たいものが地面に降り立ったと分かる地響きが、続いて獣じみた咆哮が森の中にこだました。

「!?」

 閃光が消え、ようやく目を開けた一同の前に、魔法少女の姿はなかった。別の生き物がいる。
 そして、それを見た刺客達もレディルもプッティも……その場にいた全員がポカンとなった。
 パンパンに膨らんだ腕と足、真っ黒な長い体毛、丸く盛り上がった頭、圧し潰したような耳と鼻。その姿はどこからどう見てもゴリラ一匹。それも身長十メートルはあろうかという、巨大スケールのゴリラがいた!
 「魔法少女といったな、あれは嘘だ」と、言わんばかりの二段変身だった。
 肩の上にそびえるいかつい頭から血走った眼がギロリと動き、眼下で呆気に取られている刺客達に向かって巨大な口がクワッと開いた。

「この世の極悪正すべし! 神の摂理が決めずとも、俺が勝手にそう決めた! 平和を乱す卑劣漢は貴様らかぁぁぁぁぁぁ!」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...