男気ゴリラが大暴れ!恋する魔法少女リーザロッテは今日も右往左往!

ニセ梶原康弘

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Episode.1 ある日、森の中、王子様に出会った

第4話 悔い改めろ外道ども!巨大ゴリラ大暴れ!

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 轟く雄叫びで空気がビリビリと震える。
 踊るように分厚い胸板をドムドムと叩き吼え猛る姿に、魔法少女の面影などどこにもなかった。
 あっけにとられていたレディルは、我に返ると真っ青な顔で「リーザさんがいない……リーザロッテさん!」と周囲を見回した。このゴリラがリーザロッテだと、彼は気がついていないのだ。

「な、なんだコイツ?」
「どこから湧いて出やがった!」

 動揺する刺客の一人が次の瞬間、「たわけえええ!」と言う怒号と共に巨大な一撃を真横から喰らった。畳半畳の面積はありそうな特大張り手である。どすこーい! 吹っ飛ばされた先にある大木にそのままゴイーーンと激突。ズルズルと滑り落ちた時には完全に伸びてしまっている。

 「初対面の相手にコイツ呼ばわりとは何様だァァァァ!」

 それを言うならこのゴリラも刺客達を「貴様ら」呼ばわりしているのだが。
 伸びた相手をむんずと掴んだ巨大ゴリラは「おい寝るな! 人の話を聞け!」と豪快な往復ビンタをお見舞いした。
 本人は叩き起こすつもりだったが、そもそも横綱の張り手に数倍するビンタである。気絶した者へ更に無慈悲な追い打ちをかけただけだった。

「……ちっ、根性ナシが」

 泡を吐いて痙攣する男に舌打ちしてポイッと放り投げると、巨大ゴリラは「おい、そこのへなちょこども!」と、刺客達へ向き直った。

「コソコソ出てきて高貴な方を拉致せんとは下劣極まる! その上、礼儀も弁えぬとは恥を知れ恥を! 聞け、いかな悪党とて人であるからにはまず礼節たるものを……」
「ええい、先にこやつを殺せ!」

 刺客達はゴリラのお説教など聞く気はなかった。頭目が手を上げると消音短銃の銃口がさっと向けられる。

「ゴリラさん、危ない!」
「王子よ、心配無用!」

 暗殺用に抑えられた銃声が響く。
 だが、手足や胸にめり込んだ銃弾はどれも「喝ーーっ!」という掛け声と共に、筋肉に押し出され弾け飛んだ。恐るべき筋力だった。

「そんなへっぽこ弾など通用するか! 力を制すは力のみ! 男は黙って肉体言語!」

 ゴリラは逞しい肉体を誇示して力瘤を作った。愚弄されたと思い激昂した刺客の一人が刀を抜き、跳ね飛ぶように斬り掛かる。
 が。

「真剣白刃取りィィィ!」

 ゴリラは振り下ろされた刀をハッシと受けた。そのまま手を横に捻って小枝のようにポキンと折ってしまう。折れた刀をキョトンと見た刺客の顔面に次の瞬間、「天誅――!」と、巨大なストレートパンチが音を立ててめり込んだ。
 刺客達が息を呑んで凝視する中、二人目は悲鳴すら出せずに崩れ落ちた。

「説教も聞かずに素手の相手へ刃を向けるとは卑怯の極みだぞ、恥じろ痴れ者! 戦うなら正々堂々、己のコブシに男を賭けんかぁ!」

 巨大な拳を夜空にかざしゴリラは叱る。もっとも相手は既に気を失っており聞いてなどいない。
 そんな豪快ゴリラ無双にレディルもつい見入ってしまっていたが、傍らで同じようにポカンとしているプッティに気がつくと、その肩を揺さぶった。

「プッティ、リーザロッテさんは一体どこに……」
「リーザは……」

 あの凶暴なゴリラが彼女だと言い出せず、プッティは「ま、魔法使いに変身した時のショックでそこの茂みの中で気絶してる。大丈夫、怪我とかはしてないみたいだ」と、咄嗟に嘘をついた。
 一方、倒れた刺客を「おい、聞いてンのか!」と、掴んだゴリラは「ちっ、こいつも気絶してやがる。情けない奴め」と、伸びている最初の刺客の上にこれまたポイッと放った。

「ええい、死ね!」

 刺客の頭目から爆薬が投げつけられる。レディルが防ぐ間もなく顔面に命中し、大爆発が起きた。さすがの巨大ゴリラも「ぐぉッ!」と呻いてのけぞる。レディルは顔面蒼白となって「ゴリラさん!」と絶叫した。

「ククク、ようやく仕留めたか。一時は焦ったが対戦車地雷の火薬を転用した爆薬ではさすがにひとたまりもあるま……」
「こンの腐れ外道がぁぁぁぁーーー!」

 爆炎の中から怒髪天を衝かんばかりの顔がぬっと現われた。慌てて背中の刀を抜こうとした頭目に再び顔面めり込みパンチが、続いて腹にボディーブロウが入る。白目を剥いて「ゴフゥ!」と仰け反った頭目をゴリラはガッと掴んで引き摺り戻した。

「フザけろ! 何が『ククク』だ小悪党! 情けない飛び道具や卑怯なだまし討ちばかりしおって! うぬらそれでも男か、親が泣くぞ!」

 間髪入れず、唸りを上げておかわりのコブシが飛ぶ。
 飛び道具も不意打ちも暗殺を生業とする者にとっては当たり前の手段だが、激昂した巨大ゴリラにそんな道理など通用するはずがない。昏倒しかけた刺客の頭目へお説教と共に巨大な拳固が容赦なく叩き込まれてゆく。

「どうだ痛いか! だが人の道に外れたうぬらの生き様を嘆く親の心の痛みはこんなものではないぞ! このコブシを親の愛と思え! 親の涙と思え!」

 勝手に成り代わられた刺客の親もいい迷惑である。そして当の頭目といえば最初の殴打で既に昏倒している。何を言われたところで聞いてなどいない。それが「この外道、聞く気もないのか!」とゴリラの怒りを更に掻き立て新たな殴打を呼ぶ。右に崩れれば右から、左によろめけば左から巨大な拳固が飛び、殴打によって無理やり立たされていた。完全なオーバーキルである。
 残った三人は血も涙もないその鉄拳制裁に震え上がっていた。腰が抜け、へたり込んだまま互いに抱き合っている。
 再起不能にまで叩きのめされた頭目が倒木よろしく目の前に倒れると、彼等は「ひィィ!」と声を合わせて悲鳴を上げ、ひれ伏した。「どうか命だけはお助け下さい!」と泣かんばかりに命乞いを始める。

「たわけが! 大の男が三人も揃ってみっともない真似を晒すなァァ!」
「ひィィ!」
「男なら窮地にこそ根性を見せんか。それこそ己の命の値打ちだろうがぁ! それがなんだ、多勢を恃んで襲い掛かかり、劣勢になれば怯えて味方を助けもしない、挙句の果ては無様な命乞い! 見ていて反吐が出るわ!」
「そ、そんな……」
「腐りきったその性根、このコブシで叩き直してくれる。さあ、掛かってこいやァ!」

 根性を叩き直すと言われたところで、結局は「お前らまとめて撲殺!」である。彼らはもはや、レディルを拉致する密命を果たすどころか戦う気持ちすらへし折られていた。

「もう手向かいいたしませんから……どうかお許し下さい」
「ハハハ、遠慮するな。見よ、空には美しき三日月が掛かっておるではないか。さぁ、今宵は男祭り。あの月明りに照らされ、互いのコブシでこころゆくまで語り合おうぞ!」

 頭上の月に向かって嘯くとゴリラは目を細めた。刺客達の哀願などてんで聞いておらず、一人で悦に浸っている。
 そして、コブシをバァン! と打ち合わせると「さぁ、まずはどいつからだ?」と、彼等に向かって四足歩行でのっそりと迫った。
 そのとき……

――ポポンッ!

 突然、ポップコーンでも弾けたような可愛らしい破裂音がすると巨大ゴリラの姿が掻き消えた。
 特殊魔法の時間が切れたのだ。
 煙が消えると、茂みの向こうから魔法少女姿に戻ったリーザロッテがゴソゴソと這い出してきた。

「……」
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