深夜水溶液

海獺屋ぼの

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第一話 白い灯台

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 銚子駅に着くと不健康すぎる昼食を済ませた。マクドナルド。私の主食のひとつだ。ワンコインで腹が満たされる、そんなジャンクな食事。手はフライドポテトの油でベタベタでハンバーガーの包み紙にも油は滲んでいる。こんな食事を続けたらいつか死ぬな。そんな風に思う。
 マクドナルドの店内はとても清潔に感じた。掃除が行き届いているのか床もピカピカでマクドナルド特有の脂っこさはあまりなかった。おそらくは地方のマクドナルドだからだろう。都内の二四時間営業の店舗はいつもどこかしら汚れている。東京はそういう場所なのだ。ネズミの巣窟。都というにはあまりにも不衛生な場所。
 スマホを取り出す。やはり画面にはSNSの通知だけが来ていた。それ以外は特にない。ツイッターとインスタグラム。それだけが活発にスマホの中で走り回っている。
 昼時だというのにマクドナルドの店内は空いていた。私を含めて三組しか客がいない。三〇代くらいの女性と七〇代くらいの男性。その客層はいかにも田舎のマクドナルドといった感じだ。だからなのだろう。私は居心地の悪さを覚えた。
『ここはお前のような奴が来る場所ではない』
 そう言われている気がした。このままここに居たらマクドナルドのピエロにたたき出されるかもしれない。そんなどうしようもない考えが浮かんだ。
 それから私はデイバッグに手を突っ込んで中からノートを取り出した。私の作詞ノート。気がつけばバンドを始めてからずっとこのノートを携帯している。ちなみにこのノートは五冊目だ。一年に一冊使い切るような計算。
 まず私は浮かんだ言葉を箇条書きでノートに書き込んでいった。『鹿のような形の雲』とか『真新しい駅舎』とかそんな単語だけでは意味の無い言葉だ。自分でも不思議だけれど、そんな言葉の破片がやがて歌詞になっていくのだ。断片的な語彙の集合体。それが歌詞であり、文章であるのだと思う。
 一通り言葉を書き留めたらそこに登場人物を投入する。それはときには『私』であり、『わたし』だった。たまに『僕』も現れる。そんな誰かを言葉の海に放り投げるのだ。そうすると自然とストーリーが出来上がっていく。私がすることはストーリーと音楽を結びつける作業だけ。
 私はこの作業が好きだ。私の中にある誰かが勝手にストーリーを展開してくれるのを書き留める。その作業が私にとっての作詞だった。売れる歌詞とかトレンドとかはよく分からないけれど、それでも作詞で困ったことはない。まぁ……。たまに他のバンドメンバーから批判されることもあるのだけれど。
 私はしばらくその作業を続けた。ノートに向かい合って言葉の並びや言い回しを変える。そんなトライアンドエラーの繰り返し。
 時間にして小一時間くらい経っただろうか? マクドナルドが騒がしくなってきた。カウンターに女子高生が列を作り、どうでもいいようなことでケタケタ笑っている。どうでもいいような。そして彼女たちにとってはこの世のすべてであること。
 さて、そろそろ行こう。私はデイバッグに作詞ノートをしまうと立ち上がった――。
 マクドナルドを出る頃には妙にすっきりした気分に変わっていた。風が心地良い。雲間から差し込む太陽も。やはりたまには知らない場所に来るのも悪くないものだ。
 それから私は銚子駅に戻った。そして券売機で『犬吠』行きの切符を買う。さて……。あと少しだ。あと少しであの場所に行ける。欠損した記憶の場所に。
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