深夜水溶液

海獺屋ぼの

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第一話 白い灯台

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 社長と会った日の翌日。私は『白い灯台』をグーグルで検索した。
『白い灯台 白いポスト 水族館』
 そんな単語の羅列を打ち込む。半信半疑を表したような言葉の断片だ。でもグーグルはそんな曖昧な言葉にも見事な答えてくれた。
 その場所は千葉県外房の犬吠埼と言う場所のようだ。東京から約三時間半。微妙に遠い場所。
 さて、週末は休みだ。ここに足を延ばしてみようと思う――。

 週末。私は総武線を乗り継いで外房に向かった。天気は快晴。久しぶりの一人旅だ。移動中はスマホで音楽を聴いた。地方都市の景色を眺めながら聴くハードコアも悪くない。
 音楽に飽きるとネット小説を読んだ。異世界転生モノの小説だ。最近はよく深夜放送しているようなやつ。
 そのネット小説は私をひとりぼっちの世界に埋没させてくれた。意識を異世界に飛ばしてくれるような気さえした。サイト内一位の小説をたまたま読んだだけだけれど素直に面白いと思う。
 作家の名前は冬木紫苑。綺麗な名前だ。なんらかの文学賞でも取ってそうな作家名だと思う。雪原に咲く一輪の花。そんなイメージ。
 やはり一位になるのはいいことだ。素直にそう思った。ランキング上位があるからみんな切磋琢磨するのだ。もし個性があればそれでいいという価値観が蔓延したらみんな努力を止めてしまうだろう。勝者がいて、同時に敗者がいる。その必然性はいつの時代も必要なのだと思う。
 私のそんな達観もどきの考えを無視するように電車は進んでいった――。
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