アルテミスデザイア ~Lunatic moon and silent bookmark~

海獺屋ぼの

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第四章 京都1992

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 のど自慢大会の前日。栞から手紙が届いた。可愛らしいパステルカラーの封筒にデフォルメされたユニコーンがプリントされている。
 手紙自体はとても簡素で、内容も当たり障りがなかった。東京は京都より暑いとか、新学期に向けて準備しているとかその程度の内容だ。
 気になったのは栞の書いた文字そのものだった。
 便せんに綴られた文字は勢いに任せて書いたように見えた。
 普段の栞はもっとか細く、しなやかな文字を書く。別に今回の手紙の文字が乱雑とまで言わないけれど、栞本来の文字とは思えなかった。
 まるで私への感情がぶちまけられているように感じた。言葉の意味や言い回しや内容ではない。もっと本能に近い部分で。
 おそらく栞は怒っているのだろう。根拠はないけれど確信はあった。
 栞の文字には『今回は私が身を引いたけれど次はないぞ』という意味が込められているように感じた。
 言葉で交わしてこそいないけれど、私は栞に大きな借りを作ってしまったのかもしれない。人生を掛けても返せないほどの大きな借りを……。
 のど自慢大会当日。私は子振り袖に袖を通した。この前に着た着物だ。
 初めは地味だと感じた子振り袖も着慣れてしまうと悪くないと思う。
「お母さんこの着物いくらしたん?」
 私は着付けしてくれている母にそう尋ねた。母は私の質問に「せやね」とだけ応える。どうやら値段を応えたくはないらしい。
「これけっこう良い絹使こうてるやろ?」
 私は質問を変えた。これなら応えるはずだ。
「これはな。特級の正絹やで。それに……。西陣の中でも上物やね」
「そうやろね。そんな気はしてたで……」
 母は終始テキパキと私を着付けてくれた。着物に関してだけは母に敵う気がしない。
「でも珍しいな。あんたが子振り袖着たいなんて言うとは思わんかったで?」
「今日は特別やねん」
「……。ま、何でもええわ。あんたが少しでも和装に興味持ってくれたらウチは嬉しいからな」
 母は珍しく優しく接してくれた。母とこうして一緒にいると改めて思う。私はこの女の娘だと。ずっと認めたくなかったけれど。
 一四歳の私はあまりにも母に似ていた。顔立ちはもとより、声、体型、性格。その全てが母のコピー品のようだ。
 だから私が母に抱いているのは紛れもなく同族嫌悪だろう。
 悲しいけれど仕方がない。血とはそういうものだ。
 着付けが終わると私は府民ホールへと向かった。心音が少しだけ早くなっていた。
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