Ambitious! ~The birth of Venus~

海獺屋ぼの

文字の大きさ
4 / 50
DISK1

第三話 Days

しおりを挟む
 高嶺七星。彼に抱いた第一印象は最悪なだった。

 いかにも田舎の高校生のようで、自分の高校時代を思い出してイタい気持ちになる。

 ウラも実の従兄弟とはいえ、接し方を探っている様子だ。

「そんじゃ、俺んち案内するから車に乗ってください! 送りますから!」

 彼は旅館の名前の入ったワンボックスで迎えにきていた。

 運転席には初老の男性が作業着を着て座っている。

 俺たちは七星に言われるまま、旅館のワンボックスに乗りこんだ。

「んじゃ、山さん! はんで車出して!」

「ハハハ、オリちゃん今日は機嫌いいずらなぁ!」

 上機嫌に会話する2人に俺たちはすっかりアウェーな気分になった。

 その上、訛りのせいで内容がよく聞き取れない。

 車の中でウラは緊張しながら従兄弟と会話していた。

 いつものウラなら適当に流したり、言いたいことを言うはずだ。

 しかしその日のウラは借りてきた猫のように大人しい……。

 ワンボックスは30分ほど市内を走った。

 走り始めた時はチェーンの飲食店やコンビニがあった道も気が付くと田舎道に変わっている。
 
 道路沿いにある雑草は冬らしく枯れた色をして寒々しく、空も曇天だった。

 ウラは相変わらず大人しく七星と話をしている。

 どうやら七星はウラのSNSで彼女の素性を突き止めたらしかった。

 ウラが馬鹿正直にフェイスブックにもツイッターにも自分の個人情報をさらしていたのが原因だろう。

 まぁ、近くの駅や自宅付近をアップしていれば身バレしても仕方がない気もする。

「そっかぁ、七星君すげーよ。それで私まで連絡よこしたんだね……」

「そうっすよ! 苦労しました。ウラちゃんの妹さんとこにも行ったけど、忙しいってあんまり相手してくれないし、拝み倒してようやくウラちゃんと連絡とれたんすから!」

 恐ろしい事に七星はウラの実家に押し掛けたようだ。

 俺はウラの妹が七星にしつこく絡まれているところを想像してみた。

 きっと面倒そうに対応したのだろう……。

 そんな彼女を想像して俺は同情せずにはいられなかった。

 ウラと違って彼女はチャラい男子高校生をうまく扱う事ができないだろう。

 まぁ結果的に姉に丸投げしたのだから、ウラにも同情するけど正しい判断だとは思う。

 車は山間の温泉街のようなところに向かっていった。

 意外と活気がある温泉街でこんな状況でなければ休暇にでも来たいと思えるほどだ。

「さぁ、お2人さん! 着きましたよー」

 ワンボックスが旅館の駐車場に停車すると、七星は俺たちに降りるように促した。

 俺とウラは促されるままに車を降りる。

「ここか……?」

「らしいね? 予想外だよ……」

 俺は旅館と聞いた時に、こじんまりとやっている宿屋を想像していた。

 でも違った……。

「ここが俺の家っす! あ、玄関から行きましょうか?」

 たかねや旅館。

 予想外にその宿は大きかった。

 階数を何となく数えただけで10階はある……。

 俺たちは七星に連れられて、旅館の自動ドアから中に入った。

「ようこそいらっしゃいませ!!」

 入ると同時に大勢の仲居と従業員に挨拶される。

 フロントのホールは全面に赤絨毯が敷かれ、天井には大きなシャンデリアが掛かっていた。

 ホールは広く、高そうなソファーと調度品も並んでいる。

「長旅お疲れになったでしょー。さぁさぁお荷物お預かりしましょう」

 そう言うと年配の仲居さんは、俺たちの荷物を慣れた手つきで預かろうとした。

「あ、いいですよ。荷物ぐらい自分で持ちます!」

「いえいえお気になさらずに! それより社長と女将さん今来ますからお掛けになっていてください」

 俺とウラは仲居さんに言われるままソファーに座る。

 フカフカすぎて全く落ち着かない。

 ホールの玄関側は全面ガラス張りになっていて、池のある日本庭園が見えた。

 ご丁寧に錦鯉まで泳いでいる。枯山水だろうか?

「ねえ大志……。やべーよ。私、場違いなところきちまったみたいだ……」

 そう言うウラの顔には今日一番の苦笑いを浮かんでいる。

「俺も正直驚いてるよ。お前の母ちゃんの実家金持ちだったんだな……。この旅館かなりでかいぞ?」

「だよね!? なんでこんな? 今からじいちゃんばあちゃんに会うと思うとやべぇ……」

 俺たちはそわそわしながらソファーで待った。

 それにしても七星はどこに行ってしまったのだろう?

 気がつくと彼はどこかへ消えている。

 俺たちが到着してから何組かの宿泊客が入ってきた。

 ホールは少し賑やかになり、その雰囲気はまさに観光地のようだ……。

 それから10分ほど経っただろうか?

 白髪まじりでスーツを来た初老の男性と和服を着た女性が俺たちの居るソファーに向かって足早に歩いてきた。

「こんにちは、あなたがへカテーちゃん?」

 和服を着た女性が少ししゃがれた声でウラに話しかけた。

 女性の表情は笑っていたが、どこかそわそわしている。

 スーツの男性も同じようにそわそわしている。

「はい! 初めまして京極裏月です。あの……。失礼ですが貴方たちが私の……。おじいちゃんとおばあちゃん? ですか……」

 らしくねーな。

 ウラの受け答えを聞きながら俺はそう感じた。

 いつものノリと勢いが今日の彼女にはない。

 相手の顔色を伺いながら、言葉を選んで話しているようだ。

 こんなウラを見るのは初めてだった。新鮮さを感じるほどに。

「そうよ! 私があなたのおばあちゃんです。それでこっちがおじいちゃん!」

「いやー。本当に良く来てくれたなぁ。なぁお前! この子、恵理香そっくりじゃないか?」

「そうよねー。エリちゃんによく似てるわぁ」

 ウラの祖父母はお互いに嬉しそうに笑った。その目は潤んでいる。

 認知さえしていなかった孫が来てくれたことがよほど嬉しいのだろう。

 俺は彼らに不信感を持つ事なく、素直に良い人たちだと思った。

「あの……。本当は妹も来たがってたんですけど……。今忙しいみたいでごめんなさい。せっかく呼んでいただいたのに」

「いいのよ! へカテーちゃん疲れたでしょ! お風呂でも入ってゆっくりしなさい。お友達も良ければゆっくりしていってね!」

 俺はウラの祖父母に部屋まで案内された。

 どうやらウラとは別の部屋らしい。

「じゃあ大志、悪いんだけど私はばあちゃんたちと話して来るから部屋でゆっくりしててね! 終わったら顔出すからさ!」

「ごゆるりと……」

 俺は皮肉っぽい言い方でウラを見送ると、部屋のテレビを付けて寝転がった。

 それにしても今日のウラはらしくなかった。

 いつもなら言葉を選ぶ前に口が勝手に動いている。

 下手すれば口より先に手が出るぐらいだ。

 なにがそんなにウラを緊張させているのだろう?

 まぁ初めて会う祖父母なわけだし、仕方がないのかもしれないが……。

「大志さーん。入っていいっすかー?」

 ドア越しに七星の声が聞こえた。

 一瞬聞こえないフリをしようかとも思ったが、とりあえず返事だけはすることにした。

「いるけど? なにか用か?」

「ばあちゃんから大志さんを風呂に案内しろって言われたんすよー! よかったら一緒に風呂行きません?」

「ああ、じゃあいくか……」

 断る理由も思いつかなかったので、俺は七星と一緒に行くことにした。

 風呂に向かう途中で七星に色々と質問をされる。

 彼のノリには着いて行けなかったけれど、少なくとも俺たちのバンドを本当に好きだと言う事は伝わってきた。

 悪い気はしない。

 ウラは大丈夫だろうか? 俺はそんな事を考えながらも温泉旅行気分を味わう事にした――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...