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DISK1
第四話 月の女神と雪の情景
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温泉に来るのは本当に久しぶりだった。たしか高校の修学旅行以来、来ていない。
俺は旅館の脱衣所で服を脱ぎ、脱衣カゴに入れると浴室に入った。
風呂は予想以上に大きい岩風呂だった。
この旅館に来てから何もかもが予想外な気がする。
「大志さん! 背中流しましょうか!?」
「いや、いいよ。自分でやっからさ」
俺は七星の申し出を断って、シャワーで汗を流しすと岩風呂に入った。
ウラは今頃、祖父母と何の話をしているのだろう?
21年間放置されていた(認知されていなかったから仕方がないが)相手に何を言われているのだろう?
俺は少しだけ彼女のことが心配になった。
「七星君さぁ、俺ら今日はこうして来たわけだけど、君のおじいちゃんたちウラになんか特別用事でもあったのか?」
「え? ウラちゃんから聞いてないんすか? 今日は俺の親父との養子縁組の話でだとばっか俺思ってましたけど?」
「は? 聞いてねーよ!」
俺がそう言うと七星は引きつったような顔になった。
ウラもそんな話していなかったし、どういうことだ?
「いや……。親父は恵理香おばちゃんの娘ならちゃんと引き取って面倒見たいって言ってたんすよ! だから俺はてっきり大志さんも知ってるもんだとばっかり……」
「まったく聞いてねー」
俺は七星に当たるよな言い方をしてしまった。別に彼に責任があるわけではない。
「あの……。大志さんすいません。なんか俺余計なこと言ったみたいで……」
「……。俺も悪かったよ。七星君は知ってること素直に言ってくれただけなのに悪い……」
俺はそれから間もなく風呂を出ると服を来て部屋に戻った。
気まずいと思ったのか七星は着いてこない。
まぁ、着いてこられても困るけれど……。
俺は部屋の畳に横になってマルボロに火をつけた。
タバコの種火はチリチリと音を立てながら灰を作り上げていく。
肺まで入れた煙は俺の気持ちを落ち着かせてはくれなかった。
ウラはなぜ俺に養子縁組のことを言わなかったのだろう?
割とヘビーな話題だから話づらかったのかもしれないけれど、それにしても……。
いくら考えても考えがまとまらないので俺は考えるのをやめた。
ウラが来たら直接聞けば良いだけだ。
俺は立ち上がると部屋の障子を開けた。
窓の外には真冬の山々が俺を拒むように連なっている。
ぼーっと外の景色を眺めているとチラチラと白くて小さい塊が空から降り始めた。
冷えると思ったが、どうらや雪らしい。
少しずつ降り積もる雪が山々を白くした。
上質な白粉のように木々の色を染め上げていく様子は、残念なくらい情緒的だった。
雪が降ると不思議とウラの妹を思い出す。
俺たちが上京する少し前に、ウラと3人で食事に出かけたことがあった。
確かその日、俺の生まれ育った街は大雪の日だった……。
2017年12月中旬。
俺はウラに呼び出されて水戸市内のカフェに向かっていた。
その日は例年にないほどの大雪で、道路状況は最悪だった。
空は10日分の雲を詰め込んだような曇天で、空気がやたら重く感じた。
水戸駅北口のロータリーは慣れない雪のために渋滞し、タクシー待ちの人々でごった返していた。
俺は約束の時間にミネルヴァというカフェに向かった。
駐車場に車を停めると俺は早足で店へと向かう……。
店は雑居ビルの2階にあった。
雪の影響で階段のところどころには雪が落ちている。
俺はそんな雪を避けるように気をつけて階段を昇ると店のドアを開いた。
ドアを開いてすぐにウラとその妹の姿を見つける。
彼女たちは窓際の席で楽しそうに談笑している。
「大志~! おっせーよ!」
ウラは俺を責めるようにそう言うと自分の席の隣に座るように促した。
「悪ぃー! この雪で道渋滞してよぉー。予定の時間に間に合わなかったんだ」
「あんたは天気よくたって遅刻魔だろ!? 待ちくたびれちったよ」
「お姉さぁ。あんまり大志さん責めないであげてよー。確かに天気悪いし、仕方ないじゃん……」
ウラの妹が俺を庇ってくれた。姉妹とは思えないくらい穏やかな対応だと思う。
京極月姫。彼女はウラの双子の妹だった。
本当にウラとは対照的で言葉遣いも良く、髪の色も服装も可愛らしい女子そのものだ。
俺はこの姉妹に会う度にどうしても見比べてしまう。
顔の造り自体は双子なのでとても似ている。
中身は驚くほど違うが……。
ルナちゃんが黒髪のセミロングで、ウラはショート(ただしこの当時のウラの髪型は半分金髪、半分黒髪というファンキーなものだ)だった。
そのお陰で遠目に見ても見間違うことは皆無だ。
まぁ、仮にまったく同じ姿をしていても見分ける自信はあるけれど……。
「ルナ! 大志を甘やかさないでよねー。この人遅刻の常習犯でいつも私困ってんだからさ!」
「えー! お姉だって学校行ってた頃よく遅刻してたよー」
なぜかルナちゃんは俺を優しく擁護してくれた。
ウラは文句をひたすら言っていたが、妹に諭されてやっと諦めたようだ。
それから俺たちは30分ほどライトな食事会をした。
軽めの食事で、女子2人はパスタランチ。俺も女子女子したランチで済ませる。
カフェと名前が付くだけあって、丼やラーメンは置いていない。残念ながら。
「あー!! ごめん2人とも、私もうそろそろバイト行かないと! 店長に早出するように言われてたの忘れてた!」
ウラはそう言うとテーブルの上に現金を置いて席を立った。
「じゃあお2人さん! ごゆっくりー」
まったくもって自由人だ。
俺とルナちゃんは2人だけミネルヴァに残されてしまった。
「大志さん……。ごめんなさい。いつも姉あんな風だから大変でしょう?」
ルナちゃんは苦笑いを浮かべながら俺に謝ってくれた。
「構わないよ! ウラはああいう奴だからしゃーねーし。それになんだかんだアイツのこと嫌いじゃないからさ」
「ありがとうございます。お姉って大志さんのこと大好きなんですよ! 私の家にたまに帰ってくると『大志がさぁ、大志がさぁ』っていつも大志さんの話ばっかりするんですから!」
「そうなんだ……。アイツが……」
「私はお姉と大志さんが付き合ったら良いなぁとか思うんですよ? お姉は否定してますけど、絶対大志さんのこと好きなんですから! あ! でも大志さん次第か」
ルナちゃんはそう言うと、クスクスと小声で笑った。
ルナちゃんの仕草や表情は本当にアイツとは対照的だと思う。
ウラはどちらかと言えばボーイッシュで、負けん気が強い。
対してルナちゃんは女性的で、気遣いが仕草にも表れている。
ルナちゃんの笑った顔は本当に女の子らしくて可愛かった。
「そんな事ないと思うよ? ウラは俺の事、ただのバンドメンバーぐらいにしか思っちゃいないって!」
「そーかなー。大志さん的にはお姉どうなんですか? 私が言うと可笑しいかもしれないけど、あの人悪い人じゃないですよ?」
「俺は……。ウラと一緒だよ! アイツは俺にとっては大事なバンドメンバーってだけだよ。アイツの事はギタリストとしてもヴォーカルとしても尊敬してるし、人としても決して嫌いじゃないけどな。でもそれだけ」
「そっかぁ。あーあ、お姉可哀想に……。告白もしてないのに大志さんにフラれちゃった」
ルナちゃんは戯けたように笑った。
こうしてルナちゃんを見ているととても不思議な気持ちになる。
顔の造りがウラと瓜二つなのにまるで違う人間なのだ。
それはまるで同じグラスに注いだ2種類のカクテルのようだ。
ウラがスクリュードライバーだとすれば、ルナちゃんはジントニックといった感じだろうか?
その後、ルナちゃんは姉の話を色々してくれた。
彼女は楽しいおとぎ話でもするかのように、ウラの話を話してくれた。
窓から見える駅前の景色はすっかり銀世界に変わっていた。
道路の向こう側にある大銀杏の枝にも雪が積もり、冬本番を告げているようだ。
「大志さん! お姉のこと、これからもよろしくお願いします! あの人強そうだけど、本当は傷つきやすいし頼れる人が1人でも居てほしいんです」
「わかってるさ。俺だってウラと2年近くバンドやってきたんだ。ちゃんと面倒見るし、俺もアイツには世話になってるからお互い様だしさ……」
俺がそう言うとルナちゃんは穏やかに微笑んだ。
ウラの屈託のない笑顔とはまた違う優しくて、そして悲しい笑顔……。
ウラが俺の部屋に来たのはもう辺りが薄暗くなってからだ。
彼女は俺の部屋に入るといつものように悪態を吐きながら笑っていた。
養子縁組の話は出ない。
それから旅館で夕食を一緒に食べ、俺たちは別々の部屋で寝た。
色々と思うところはあったけれど、俺はウラに何も聞けなかった。
昼間から降り続いていた雪のせいか、気味が悪いほどの静寂が俺を取り囲んだ。
その静寂は俺を酷く孤独な気持ちにさせた。
山間の夜がここまで寂しい物だとは思わなかった。
俺はゆっくりと瞳を閉じるとその静寂と同化するように眠りに落ちた――。
翌朝、外は予想通り白銀色に染まっている。
その新雪は日本庭園にも積もって、錦鯉の色と見事なコントラストを作っていた。
俺たちは旅館の従業員とウラの親戚たちに見送られて宿を後にした。
帰りの電車の中でもウラは養子縁組の話を一切しない。
「大志? なんか怒ってる?」
「別に……」
「なんか機嫌悪く見えるんだよねー」
しらばっくれやがって! 俺は内心そう思いながらも平静を装った。
東京に戻る電車の中、俺はまたルナちゃんの言葉を思い出していた。
『お姉のことよろしくお願いします』
でも……。大事なことを話さないウラにどう接すれば良いのだろうか?
ウラにとって俺はその程度の存在でしかないってことか?
だとしたら俺たちの4年間は……。
そこで俺は自分の中にある1つの感情に気づいてしまった。
チッ、気づかなけりゃ良かった。
俺は旅館の脱衣所で服を脱ぎ、脱衣カゴに入れると浴室に入った。
風呂は予想以上に大きい岩風呂だった。
この旅館に来てから何もかもが予想外な気がする。
「大志さん! 背中流しましょうか!?」
「いや、いいよ。自分でやっからさ」
俺は七星の申し出を断って、シャワーで汗を流しすと岩風呂に入った。
ウラは今頃、祖父母と何の話をしているのだろう?
21年間放置されていた(認知されていなかったから仕方がないが)相手に何を言われているのだろう?
俺は少しだけ彼女のことが心配になった。
「七星君さぁ、俺ら今日はこうして来たわけだけど、君のおじいちゃんたちウラになんか特別用事でもあったのか?」
「え? ウラちゃんから聞いてないんすか? 今日は俺の親父との養子縁組の話でだとばっか俺思ってましたけど?」
「は? 聞いてねーよ!」
俺がそう言うと七星は引きつったような顔になった。
ウラもそんな話していなかったし、どういうことだ?
「いや……。親父は恵理香おばちゃんの娘ならちゃんと引き取って面倒見たいって言ってたんすよ! だから俺はてっきり大志さんも知ってるもんだとばっかり……」
「まったく聞いてねー」
俺は七星に当たるよな言い方をしてしまった。別に彼に責任があるわけではない。
「あの……。大志さんすいません。なんか俺余計なこと言ったみたいで……」
「……。俺も悪かったよ。七星君は知ってること素直に言ってくれただけなのに悪い……」
俺はそれから間もなく風呂を出ると服を来て部屋に戻った。
気まずいと思ったのか七星は着いてこない。
まぁ、着いてこられても困るけれど……。
俺は部屋の畳に横になってマルボロに火をつけた。
タバコの種火はチリチリと音を立てながら灰を作り上げていく。
肺まで入れた煙は俺の気持ちを落ち着かせてはくれなかった。
ウラはなぜ俺に養子縁組のことを言わなかったのだろう?
割とヘビーな話題だから話づらかったのかもしれないけれど、それにしても……。
いくら考えても考えがまとまらないので俺は考えるのをやめた。
ウラが来たら直接聞けば良いだけだ。
俺は立ち上がると部屋の障子を開けた。
窓の外には真冬の山々が俺を拒むように連なっている。
ぼーっと外の景色を眺めているとチラチラと白くて小さい塊が空から降り始めた。
冷えると思ったが、どうらや雪らしい。
少しずつ降り積もる雪が山々を白くした。
上質な白粉のように木々の色を染め上げていく様子は、残念なくらい情緒的だった。
雪が降ると不思議とウラの妹を思い出す。
俺たちが上京する少し前に、ウラと3人で食事に出かけたことがあった。
確かその日、俺の生まれ育った街は大雪の日だった……。
2017年12月中旬。
俺はウラに呼び出されて水戸市内のカフェに向かっていた。
その日は例年にないほどの大雪で、道路状況は最悪だった。
空は10日分の雲を詰め込んだような曇天で、空気がやたら重く感じた。
水戸駅北口のロータリーは慣れない雪のために渋滞し、タクシー待ちの人々でごった返していた。
俺は約束の時間にミネルヴァというカフェに向かった。
駐車場に車を停めると俺は早足で店へと向かう……。
店は雑居ビルの2階にあった。
雪の影響で階段のところどころには雪が落ちている。
俺はそんな雪を避けるように気をつけて階段を昇ると店のドアを開いた。
ドアを開いてすぐにウラとその妹の姿を見つける。
彼女たちは窓際の席で楽しそうに談笑している。
「大志~! おっせーよ!」
ウラは俺を責めるようにそう言うと自分の席の隣に座るように促した。
「悪ぃー! この雪で道渋滞してよぉー。予定の時間に間に合わなかったんだ」
「あんたは天気よくたって遅刻魔だろ!? 待ちくたびれちったよ」
「お姉さぁ。あんまり大志さん責めないであげてよー。確かに天気悪いし、仕方ないじゃん……」
ウラの妹が俺を庇ってくれた。姉妹とは思えないくらい穏やかな対応だと思う。
京極月姫。彼女はウラの双子の妹だった。
本当にウラとは対照的で言葉遣いも良く、髪の色も服装も可愛らしい女子そのものだ。
俺はこの姉妹に会う度にどうしても見比べてしまう。
顔の造り自体は双子なのでとても似ている。
中身は驚くほど違うが……。
ルナちゃんが黒髪のセミロングで、ウラはショート(ただしこの当時のウラの髪型は半分金髪、半分黒髪というファンキーなものだ)だった。
そのお陰で遠目に見ても見間違うことは皆無だ。
まぁ、仮にまったく同じ姿をしていても見分ける自信はあるけれど……。
「ルナ! 大志を甘やかさないでよねー。この人遅刻の常習犯でいつも私困ってんだからさ!」
「えー! お姉だって学校行ってた頃よく遅刻してたよー」
なぜかルナちゃんは俺を優しく擁護してくれた。
ウラは文句をひたすら言っていたが、妹に諭されてやっと諦めたようだ。
それから俺たちは30分ほどライトな食事会をした。
軽めの食事で、女子2人はパスタランチ。俺も女子女子したランチで済ませる。
カフェと名前が付くだけあって、丼やラーメンは置いていない。残念ながら。
「あー!! ごめん2人とも、私もうそろそろバイト行かないと! 店長に早出するように言われてたの忘れてた!」
ウラはそう言うとテーブルの上に現金を置いて席を立った。
「じゃあお2人さん! ごゆっくりー」
まったくもって自由人だ。
俺とルナちゃんは2人だけミネルヴァに残されてしまった。
「大志さん……。ごめんなさい。いつも姉あんな風だから大変でしょう?」
ルナちゃんは苦笑いを浮かべながら俺に謝ってくれた。
「構わないよ! ウラはああいう奴だからしゃーねーし。それになんだかんだアイツのこと嫌いじゃないからさ」
「ありがとうございます。お姉って大志さんのこと大好きなんですよ! 私の家にたまに帰ってくると『大志がさぁ、大志がさぁ』っていつも大志さんの話ばっかりするんですから!」
「そうなんだ……。アイツが……」
「私はお姉と大志さんが付き合ったら良いなぁとか思うんですよ? お姉は否定してますけど、絶対大志さんのこと好きなんですから! あ! でも大志さん次第か」
ルナちゃんはそう言うと、クスクスと小声で笑った。
ルナちゃんの仕草や表情は本当にアイツとは対照的だと思う。
ウラはどちらかと言えばボーイッシュで、負けん気が強い。
対してルナちゃんは女性的で、気遣いが仕草にも表れている。
ルナちゃんの笑った顔は本当に女の子らしくて可愛かった。
「そんな事ないと思うよ? ウラは俺の事、ただのバンドメンバーぐらいにしか思っちゃいないって!」
「そーかなー。大志さん的にはお姉どうなんですか? 私が言うと可笑しいかもしれないけど、あの人悪い人じゃないですよ?」
「俺は……。ウラと一緒だよ! アイツは俺にとっては大事なバンドメンバーってだけだよ。アイツの事はギタリストとしてもヴォーカルとしても尊敬してるし、人としても決して嫌いじゃないけどな。でもそれだけ」
「そっかぁ。あーあ、お姉可哀想に……。告白もしてないのに大志さんにフラれちゃった」
ルナちゃんは戯けたように笑った。
こうしてルナちゃんを見ているととても不思議な気持ちになる。
顔の造りがウラと瓜二つなのにまるで違う人間なのだ。
それはまるで同じグラスに注いだ2種類のカクテルのようだ。
ウラがスクリュードライバーだとすれば、ルナちゃんはジントニックといった感じだろうか?
その後、ルナちゃんは姉の話を色々してくれた。
彼女は楽しいおとぎ話でもするかのように、ウラの話を話してくれた。
窓から見える駅前の景色はすっかり銀世界に変わっていた。
道路の向こう側にある大銀杏の枝にも雪が積もり、冬本番を告げているようだ。
「大志さん! お姉のこと、これからもよろしくお願いします! あの人強そうだけど、本当は傷つきやすいし頼れる人が1人でも居てほしいんです」
「わかってるさ。俺だってウラと2年近くバンドやってきたんだ。ちゃんと面倒見るし、俺もアイツには世話になってるからお互い様だしさ……」
俺がそう言うとルナちゃんは穏やかに微笑んだ。
ウラの屈託のない笑顔とはまた違う優しくて、そして悲しい笑顔……。
ウラが俺の部屋に来たのはもう辺りが薄暗くなってからだ。
彼女は俺の部屋に入るといつものように悪態を吐きながら笑っていた。
養子縁組の話は出ない。
それから旅館で夕食を一緒に食べ、俺たちは別々の部屋で寝た。
色々と思うところはあったけれど、俺はウラに何も聞けなかった。
昼間から降り続いていた雪のせいか、気味が悪いほどの静寂が俺を取り囲んだ。
その静寂は俺を酷く孤独な気持ちにさせた。
山間の夜がここまで寂しい物だとは思わなかった。
俺はゆっくりと瞳を閉じるとその静寂と同化するように眠りに落ちた――。
翌朝、外は予想通り白銀色に染まっている。
その新雪は日本庭園にも積もって、錦鯉の色と見事なコントラストを作っていた。
俺たちは旅館の従業員とウラの親戚たちに見送られて宿を後にした。
帰りの電車の中でもウラは養子縁組の話を一切しない。
「大志? なんか怒ってる?」
「別に……」
「なんか機嫌悪く見えるんだよねー」
しらばっくれやがって! 俺は内心そう思いながらも平静を装った。
東京に戻る電車の中、俺はまたルナちゃんの言葉を思い出していた。
『お姉のことよろしくお願いします』
でも……。大事なことを話さないウラにどう接すれば良いのだろうか?
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だとしたら俺たちの4年間は……。
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