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第二十四話 ヴォヤージュ2005~2016
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「お疲れ! どう北海道は?」
ジュンはいつもの調子で俺に尋ねる。
「今んとこは順調かな? ウラもノリノリだし問題ねーと思う」
「なら良かったよ。ほら、京極さんまだ病み上がりだし、こっちじゃすっかり干されてたから心配してたんだ」
ジュンは安心したように笑った。
「実際どうなのかは分かんねーけどな。やっぱり『アフロディーテ』には多少未練があるみてーだし……」
おそらくウラは古巣にホームシックを起こしているのだ。
いくらブラックな職場環境だったとしてもウラにとって『アフロディーテ』は大切な場所だったのだろう。
「まだ1か月くらいしか経ってないしねー。京極さん自身まだ気持ちの整理はついてないのかもね……。明日は大志も出るんでしょ?」
「一応はな……。キーボードとベースは会場で用意してくれるらしいけど、ドラムだけ俺に担当しろとさ。うちの女王様からの希望だからやらねーわけにもいかないかんなー」
「大志愛されてるなー。俺も行ければ良かったんだけど……。今回は悪かったね。今度穴埋めするって京極さんに伝えといてよ! それはそうと……。大志もうすぐ京極さんとも約束の期限になるけど……」
約束――。ウラとの誓いの話。
俺たちがバンドを結成してもうすぐ丸5年になる。
俺とジュンでウラをバンドに引き入れてからちょうど5年だ。
あの当時は5年は長いと感じていたが、今思い返すと早かったようにも感じた。
当時、ウラは俺たちのバンドに加入するために2つの条件を提示してきた。
1つ目はバンド名の命名権。これはウラが速攻で決めて『The birth of Venus』というバンド名になった。
そしてもう1つの条件……。
それは5年以内にこのバンドでメジャーデビューを果たすというものだった。
これは未だに叶えられていない。
「そうだな……。もうあと1か月もすれば『バービナ』結成5周年だしなー。未だにメジャーの『メ』の字もないのはいただけないよなー」
「覚えてて良かったよ……。もし叶えられなかったらどうするつもり? まぁ京極さんなら笑って許してくれそうな気もするけどさ……」
「どうにかするよ……。もし出来なかったら俺らのバンドは解散するしかねーしさ。あの時だって軽い気持ちであいつの条件受けたわけじゃねーんだ! お前の言う通り、ウラならきっと笑って許してくれるだろうけど、それじゃあまりにも不誠実すぎるだろ?」
俺がそう言うと、ジュンは電話口で大笑いした。
「ハハハ! カッコいいこと言うね! そうだよね。たしかに誠実さは大事だ。でも現実問題としてお前どうすんのかなーって思ってね」
「ジュン……。俺は大真面目にメジャーデビュー目指してんだからよー。そんな笑うんじゃねーよ。たしかに今の状況は最悪に近いし、八方塞がりだけどどうにかするしかねーんだからさ」
「大志は昔から変わらないなー。俺がバンド組みたいって話したときもそんな風に熱かったよ」
「そうだったか……? よく覚えてねーけど」
「いやいや、なかなか熱かったよ。まぁいいや! とりあえず東京戻ってきたら作戦会議だね! 本格的に『バービナ』を売るために本気で考えよう!」
ジュンはそう言うと電話を切った。
電話を切ると俺は客室の窓を開けてマルボロに火を着けた。
思い返せばジュンともすっかり腐れ縁だ。
幼稚園からだからかれこれ20年以上になる。
ジュンとはたまたま家が近く、昔からよくお互いの家を遊び場にしていた。
子供の頃の俺は割と外でサッカーや野球をして遊ぶのが好きだった。
近所の公園に友達と集まっていつも何かしら体を動かして遊んでいたのだ。
一方、ジュンは完全にインドア派だった。
奴はテレビゲームをしたり、本を読んだりするのが好きで、俺と一緒に外ではあまり遊ばなかった。
それでも俺たちはいつも一緒に居た気がする……。
「やぁ大志、今ちょうどばーちゃんたち出かけちゃったんだー。今日はプレステし放題だからゆっくりしてきないよー」
「よっしょー! じゃあテイルズやろうぜー。今日こそ召喚獣手に入れてやる!」
俺たちはまだ10歳で、その当時流行っていたRPGに熱中していた。
その当時の俺たちは勇者のレベル上げが一番の楽しみだったのだ。
「やっぱテイルズおもしーよなー! 毎日やっても飽きねーよ」
「大志はRPG好きだもんねー。お! お金貯まったし最強装備そろそろ変えた方がいーんじゃない?」
俺たちは一気にダンジョンのモンスターを片づけていった。
シンボルエンカウントではないので山のようにモンスターが現れる。
子供特有の集中力だろうか?
気が付くと4時間以上ゲームをやり込んでしまった。
「やっべ! そろそろ帰らねーと!」
「そうだねー。また明日やろー」
そんな風に俺とジュンは毎日RPGのレベル上げに明け暮れた。
学校が終わると俺はジュンの家に直行した。
それからジュンと一緒にダンジョンを攻略して行った。
俺の母親には小言を毎日言われたけれど、そんなこと気にしなかった。
典型的な悪ガキ……。だったと思う。
俺たちが中学生になる頃にはゲーム熱はすっかり下がっていた。
ジュンが自分用のベースを買ったのはちょうどその頃だ。
「おめーギターなんか始めたのかよ! キザったらしいよなー」
「違うよ大志。これはベース! ギターとは別物だからさぁ。大志も何か楽器やったらいいじゃん?」
「俺、楽器とか出来ねーよ。興味持ったこともねーし、たぶん向いてねーと思う」
「そーかなー? とりあえずやるだけやってみたら? ゲームだって最初は乗り気じゃなかったのに今は大志の方がやり込んでるしさぁ」
その当時の俺は本当に楽器に興味がなかった。
音楽の授業も真面目に聞いた試しがない。
リコーダーさえまともに吹けないくらいだ。
「いいから! 欺されたと思ってやってみなよ! やらず嫌いじゃ勿体ないからさ」
こういう場面だとジュンは強引だ。
やれやれ、と思う。
結果的に俺はジュンに無理やり楽器店に連れていかれた。
楽器店には色とりどりのギターやベース、キーボードなどが所狭しと飾られている。
「大志は何やりたい? 俺がベースだからできればギターとか始めてくれると助かるけど……」
「助かるって……。お前俺と一緒にバンドでも組むつもりかよ!?」
「へ? 当然そのつもりだったけど?」
マジでやれやれだ。
ジュンは時々こうやって強引に話を進める。
俺はとりあえずギターを試弾きした。
案の定思い通りにはいかない。
「あー!! マジ指が動かねーよ! こんなもん出来っかよ!」
「まーまー。最初は誰だってそうだって! とりあえず入門用に安いギター買って練習でもしなよ」
「正直やりたくねーなー」
「しょうがないなー。じゃあ他の楽器はどう?」
「いやいや、こんなチマチマ指を動かすの俺無理だから! つーか俺細かいの嫌いだし!」
俺がそう言うとジュンは呆れたようにため息を吐いた。
「じゃあさー。適当にドラムでも叩いてみなよ! 俺のベースと同じリズム隊だし、大志みたいな単細胞にはその方が向いてるかもしんないよ?」
「誰が単細胞だ!」
俺は全力で抗議した。
でも、そんなことお構いなしに練習用ドラムセットに連行される。
「で? どうやるんだ?」
「とりあえず大志は説明するよりやって見せた方が早いから俺が見本見せるよ」
そう言うとジュンはドラムセットの前に腰を下ろした。
「まず、ドラムセットの名前だけは説明しとくよ。この大きいのがバスね! で、こっちがスネア、それでこれは……」
ジュンはドラムセットについて簡単に説明をしてくれた。
残念ながらその時は全く覚えられなかったけれど……。
「で、スティックをこう握ってこんな風に叩いていくんだよ」
そう言うと、ジュンは遅いペースでドラムを叩き始めた。
「お前、ドラムも出来んのかよ!?」
「まぁ多少はね……。あとはベース、ギター、ドラム、ピアノ、フルートくらいは出来るかな?」
「十分すぎるだろ!? お前今まで楽器出来るなんて一言も言ってなかったじゃねーか!」
「小さい頃にマリさんに教わったんだよ。あの人、もともとは歌手になりたかったみたいでねー。だから一通り教えられちゃった」
マリさん……。ジュンの母親だ。
「とりあえず見様見真似でいいからやってみなよ! 力いっぱい叩くと楽しいよ」
「しゃーねーなー」
俺は渋々ドラムセットの前に座りドラムを叩いた。
思い返せば、あの時ジュンは俺に手取足取りドラムの叩き方を教えてくれた。
見様見真似でやっている俺に飽きることなく付き合ってくれたのだ。
「いいじゃん大志! 初めてなのにうまいよ!」
それから気が付くと俺は、約1時間楽器店内でドラムの練習をしていた。
「はー。疲れちったよ……」
俺は息を切らしながらジュンの顔を見た。
奴の顔は妙にニヤニヤしている。
「よし! そしたら大志はドラムで決定だね!」
「勝手に決めるな……。でも思ったより楽しかったから始めてもいいかもな……」
ミイラ取りがミイラになる。
とはよく言った物だ。
ジュンの思惑通り、俺はすっかりドラムにハマってしまったのだ。
あいにくドラムセットを買う金がなかったのでしばらくはスタジオ通いだったけれど……。
それから俺とジュンは同じ高校に進学した。
ここまで来るといい加減腐れ縁だ。
その頃には俺もバイト代で多少は金銭的に余裕が出てきた。
そして……。遂に自分専用のドラムを持つことが出来たのだ。
「ようやく自分用のドラム買えたんだね」
ジュンは感無量のようだ。
「おぉ! やっと買えたよ! これでやっとバンド活動とかできそうだよなー」
「そうだねー。あとはせめてギタリストくらいは欲しいなー」
だが。
それからが長かった。
俺もジュンも必死に楽器の練習に明け暮れたけれどギター担当は見つからなかった。
悲しいかな、リズム隊だけしか居なかったのだ……。
高校を卒業すると俺とジュンは人生で初めて違う大学に通うことになった。
ジュンは大学内の軽音サークルに入部したようだ。
俺はサークル活動はしないものの、自分なりにドラムの練習をこなしていた。
ジュンとの合同練習は毎週末していた。
水戸駅前のマルイの楽器店のスタジオが俺たちの練習場だった。
そんな風に学生生活を満喫しながら、俺たちはギタリストを探し続けていた。
大学の1年も残りわずかとなった2月。
俺は例によって楽器屋をぶらついていた。
店内を物色する。いつもと変わらぬ店内。
ただ、その日は1つだけ違いがあった。
ギターコーナーから聞き覚えのあるメロディが聞こえたのだ。
その当時、俺とジュンがハマっていた『アフロディーテ』というバンドの『デザイア』という曲だ。
俺はその音色に吸い寄せられるようにギターコーナーへと向かった。
『デザイア』を弾いていたのは思いのほか若い……。というより幼い少女だった。
彼女は集中しているのか、俺が近づいたことに全く気付かずに演奏を続けていた。
彼女の演奏は恐ろしく上手かった。
ジュンもギターを弾けるけれど、レベル的には彼女の方が明らかに上だと思う。
その少女の容姿はかなり個性的だった。
特に髪型は半分金髪で半分黒髪という、どこぞのユーチューバーのような姿だ。
『デザイア』の演奏が終わると彼女は大きなため息を吐いた。
「ギターうまいね」
気が付くと俺は彼女に声を掛けていた。
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、それからそっけない感じで「あ、どうも」と答えた。
「今の曲、『アフロディーテ』の『デザイア』だよね?」
「ええ、そうっすよ!お兄さんも『アフロディーテ』聞くの?」
「ああ、聞くよ! つーかドはまりしてる!」
「そうなんだねー。お兄さんも楽器やんの?」
「やってる! 俺はドラムだけどさ! 今は幼なじみと一緒にバンド組もうって話してるんだ! そいつはベースだからあとはギターいるといいんだけどさー」
「ふーん」
やはり彼女はそっけない。
でもその時俺はこの女がバンドに必要だと確信していた。
「君さぁ、良かったら一緒にセッションしてみねーか? 俺らのバンドのギタリスト探しててさ! 相性よければ一緒にやりたいんだ!」
「見ず知らずの男とバンド組むような奴いっと思うの?」
そう言うと彼女はガンを飛ばすように俺を睨んできた。
「そんなこえー顔すんなよ! 縁って大事じゃね?」
「私は知らねー男から身を守る方が大事だね!」
「わーったよ! まぁしゃーねーな! まぁ気が向いたら連絡くれよ。これ俺らの連絡先だから」
俺は半ば無理やりメモに携番を書いてその少女に渡した――。
その日、俺は速攻でジュンに連絡した。
「ジュン聞けよ! 今日すげー女の子に会ってよー!」
「へぇ、なにナンパでもしたの?」
「ちげーよ! すげーギターのうまい女の子だったんだ! 思わず携番渡しちまった」
俺がそう言うとジュンは呆れたようにため息を吐いた。
「別に構わないけど、あんまり期待しないほうがいいんじゃないの? 今までだって俺らギタリストに恵まれなかったじゃん?」
ジュンは酷く冷めた言い方をした。
「でもあの子がバンド入ってくれたらすげーと思うんだ! 連絡こねーかなー?」
運命の悪戯……。とでも言うべきかもしれない。
結果から言うとその少女が今現在の俺たちのヴォーカル兼ギタリストになったわけだ。
これに関してだけは俺も『運命』というものを信じたくなる。
それから1か月後、俺たちは『バービナ』を立ち上げることになる。
最初ノリが悪かったジュンもウラとセッションしてからは彼女を評価するようになった。
俺はホテルのベッドに横になるとバンド結成からの5年間を思い返した。
バンド活動もそれ以外もいつもウラとジュンが近くにいた気がする。
果たしてこれからもあの2人と一緒に居られるのだろうか?
理由は判らないが俺は妙な不安に襲われた――。
ジュンはいつもの調子で俺に尋ねる。
「今んとこは順調かな? ウラもノリノリだし問題ねーと思う」
「なら良かったよ。ほら、京極さんまだ病み上がりだし、こっちじゃすっかり干されてたから心配してたんだ」
ジュンは安心したように笑った。
「実際どうなのかは分かんねーけどな。やっぱり『アフロディーテ』には多少未練があるみてーだし……」
おそらくウラは古巣にホームシックを起こしているのだ。
いくらブラックな職場環境だったとしてもウラにとって『アフロディーテ』は大切な場所だったのだろう。
「まだ1か月くらいしか経ってないしねー。京極さん自身まだ気持ちの整理はついてないのかもね……。明日は大志も出るんでしょ?」
「一応はな……。キーボードとベースは会場で用意してくれるらしいけど、ドラムだけ俺に担当しろとさ。うちの女王様からの希望だからやらねーわけにもいかないかんなー」
「大志愛されてるなー。俺も行ければ良かったんだけど……。今回は悪かったね。今度穴埋めするって京極さんに伝えといてよ! それはそうと……。大志もうすぐ京極さんとも約束の期限になるけど……」
約束――。ウラとの誓いの話。
俺たちがバンドを結成してもうすぐ丸5年になる。
俺とジュンでウラをバンドに引き入れてからちょうど5年だ。
あの当時は5年は長いと感じていたが、今思い返すと早かったようにも感じた。
当時、ウラは俺たちのバンドに加入するために2つの条件を提示してきた。
1つ目はバンド名の命名権。これはウラが速攻で決めて『The birth of Venus』というバンド名になった。
そしてもう1つの条件……。
それは5年以内にこのバンドでメジャーデビューを果たすというものだった。
これは未だに叶えられていない。
「そうだな……。もうあと1か月もすれば『バービナ』結成5周年だしなー。未だにメジャーの『メ』の字もないのはいただけないよなー」
「覚えてて良かったよ……。もし叶えられなかったらどうするつもり? まぁ京極さんなら笑って許してくれそうな気もするけどさ……」
「どうにかするよ……。もし出来なかったら俺らのバンドは解散するしかねーしさ。あの時だって軽い気持ちであいつの条件受けたわけじゃねーんだ! お前の言う通り、ウラならきっと笑って許してくれるだろうけど、それじゃあまりにも不誠実すぎるだろ?」
俺がそう言うと、ジュンは電話口で大笑いした。
「ハハハ! カッコいいこと言うね! そうだよね。たしかに誠実さは大事だ。でも現実問題としてお前どうすんのかなーって思ってね」
「ジュン……。俺は大真面目にメジャーデビュー目指してんだからよー。そんな笑うんじゃねーよ。たしかに今の状況は最悪に近いし、八方塞がりだけどどうにかするしかねーんだからさ」
「大志は昔から変わらないなー。俺がバンド組みたいって話したときもそんな風に熱かったよ」
「そうだったか……? よく覚えてねーけど」
「いやいや、なかなか熱かったよ。まぁいいや! とりあえず東京戻ってきたら作戦会議だね! 本格的に『バービナ』を売るために本気で考えよう!」
ジュンはそう言うと電話を切った。
電話を切ると俺は客室の窓を開けてマルボロに火を着けた。
思い返せばジュンともすっかり腐れ縁だ。
幼稚園からだからかれこれ20年以上になる。
ジュンとはたまたま家が近く、昔からよくお互いの家を遊び場にしていた。
子供の頃の俺は割と外でサッカーや野球をして遊ぶのが好きだった。
近所の公園に友達と集まっていつも何かしら体を動かして遊んでいたのだ。
一方、ジュンは完全にインドア派だった。
奴はテレビゲームをしたり、本を読んだりするのが好きで、俺と一緒に外ではあまり遊ばなかった。
それでも俺たちはいつも一緒に居た気がする……。
「やぁ大志、今ちょうどばーちゃんたち出かけちゃったんだー。今日はプレステし放題だからゆっくりしてきないよー」
「よっしょー! じゃあテイルズやろうぜー。今日こそ召喚獣手に入れてやる!」
俺たちはまだ10歳で、その当時流行っていたRPGに熱中していた。
その当時の俺たちは勇者のレベル上げが一番の楽しみだったのだ。
「やっぱテイルズおもしーよなー! 毎日やっても飽きねーよ」
「大志はRPG好きだもんねー。お! お金貯まったし最強装備そろそろ変えた方がいーんじゃない?」
俺たちは一気にダンジョンのモンスターを片づけていった。
シンボルエンカウントではないので山のようにモンスターが現れる。
子供特有の集中力だろうか?
気が付くと4時間以上ゲームをやり込んでしまった。
「やっべ! そろそろ帰らねーと!」
「そうだねー。また明日やろー」
そんな風に俺とジュンは毎日RPGのレベル上げに明け暮れた。
学校が終わると俺はジュンの家に直行した。
それからジュンと一緒にダンジョンを攻略して行った。
俺の母親には小言を毎日言われたけれど、そんなこと気にしなかった。
典型的な悪ガキ……。だったと思う。
俺たちが中学生になる頃にはゲーム熱はすっかり下がっていた。
ジュンが自分用のベースを買ったのはちょうどその頃だ。
「おめーギターなんか始めたのかよ! キザったらしいよなー」
「違うよ大志。これはベース! ギターとは別物だからさぁ。大志も何か楽器やったらいいじゃん?」
「俺、楽器とか出来ねーよ。興味持ったこともねーし、たぶん向いてねーと思う」
「そーかなー? とりあえずやるだけやってみたら? ゲームだって最初は乗り気じゃなかったのに今は大志の方がやり込んでるしさぁ」
その当時の俺は本当に楽器に興味がなかった。
音楽の授業も真面目に聞いた試しがない。
リコーダーさえまともに吹けないくらいだ。
「いいから! 欺されたと思ってやってみなよ! やらず嫌いじゃ勿体ないからさ」
こういう場面だとジュンは強引だ。
やれやれ、と思う。
結果的に俺はジュンに無理やり楽器店に連れていかれた。
楽器店には色とりどりのギターやベース、キーボードなどが所狭しと飾られている。
「大志は何やりたい? 俺がベースだからできればギターとか始めてくれると助かるけど……」
「助かるって……。お前俺と一緒にバンドでも組むつもりかよ!?」
「へ? 当然そのつもりだったけど?」
マジでやれやれだ。
ジュンは時々こうやって強引に話を進める。
俺はとりあえずギターを試弾きした。
案の定思い通りにはいかない。
「あー!! マジ指が動かねーよ! こんなもん出来っかよ!」
「まーまー。最初は誰だってそうだって! とりあえず入門用に安いギター買って練習でもしなよ」
「正直やりたくねーなー」
「しょうがないなー。じゃあ他の楽器はどう?」
「いやいや、こんなチマチマ指を動かすの俺無理だから! つーか俺細かいの嫌いだし!」
俺がそう言うとジュンは呆れたようにため息を吐いた。
「じゃあさー。適当にドラムでも叩いてみなよ! 俺のベースと同じリズム隊だし、大志みたいな単細胞にはその方が向いてるかもしんないよ?」
「誰が単細胞だ!」
俺は全力で抗議した。
でも、そんなことお構いなしに練習用ドラムセットに連行される。
「で? どうやるんだ?」
「とりあえず大志は説明するよりやって見せた方が早いから俺が見本見せるよ」
そう言うとジュンはドラムセットの前に腰を下ろした。
「まず、ドラムセットの名前だけは説明しとくよ。この大きいのがバスね! で、こっちがスネア、それでこれは……」
ジュンはドラムセットについて簡単に説明をしてくれた。
残念ながらその時は全く覚えられなかったけれど……。
「で、スティックをこう握ってこんな風に叩いていくんだよ」
そう言うと、ジュンは遅いペースでドラムを叩き始めた。
「お前、ドラムも出来んのかよ!?」
「まぁ多少はね……。あとはベース、ギター、ドラム、ピアノ、フルートくらいは出来るかな?」
「十分すぎるだろ!? お前今まで楽器出来るなんて一言も言ってなかったじゃねーか!」
「小さい頃にマリさんに教わったんだよ。あの人、もともとは歌手になりたかったみたいでねー。だから一通り教えられちゃった」
マリさん……。ジュンの母親だ。
「とりあえず見様見真似でいいからやってみなよ! 力いっぱい叩くと楽しいよ」
「しゃーねーなー」
俺は渋々ドラムセットの前に座りドラムを叩いた。
思い返せば、あの時ジュンは俺に手取足取りドラムの叩き方を教えてくれた。
見様見真似でやっている俺に飽きることなく付き合ってくれたのだ。
「いいじゃん大志! 初めてなのにうまいよ!」
それから気が付くと俺は、約1時間楽器店内でドラムの練習をしていた。
「はー。疲れちったよ……」
俺は息を切らしながらジュンの顔を見た。
奴の顔は妙にニヤニヤしている。
「よし! そしたら大志はドラムで決定だね!」
「勝手に決めるな……。でも思ったより楽しかったから始めてもいいかもな……」
ミイラ取りがミイラになる。
とはよく言った物だ。
ジュンの思惑通り、俺はすっかりドラムにハマってしまったのだ。
あいにくドラムセットを買う金がなかったのでしばらくはスタジオ通いだったけれど……。
それから俺とジュンは同じ高校に進学した。
ここまで来るといい加減腐れ縁だ。
その頃には俺もバイト代で多少は金銭的に余裕が出てきた。
そして……。遂に自分専用のドラムを持つことが出来たのだ。
「ようやく自分用のドラム買えたんだね」
ジュンは感無量のようだ。
「おぉ! やっと買えたよ! これでやっとバンド活動とかできそうだよなー」
「そうだねー。あとはせめてギタリストくらいは欲しいなー」
だが。
それからが長かった。
俺もジュンも必死に楽器の練習に明け暮れたけれどギター担当は見つからなかった。
悲しいかな、リズム隊だけしか居なかったのだ……。
高校を卒業すると俺とジュンは人生で初めて違う大学に通うことになった。
ジュンは大学内の軽音サークルに入部したようだ。
俺はサークル活動はしないものの、自分なりにドラムの練習をこなしていた。
ジュンとの合同練習は毎週末していた。
水戸駅前のマルイの楽器店のスタジオが俺たちの練習場だった。
そんな風に学生生活を満喫しながら、俺たちはギタリストを探し続けていた。
大学の1年も残りわずかとなった2月。
俺は例によって楽器屋をぶらついていた。
店内を物色する。いつもと変わらぬ店内。
ただ、その日は1つだけ違いがあった。
ギターコーナーから聞き覚えのあるメロディが聞こえたのだ。
その当時、俺とジュンがハマっていた『アフロディーテ』というバンドの『デザイア』という曲だ。
俺はその音色に吸い寄せられるようにギターコーナーへと向かった。
『デザイア』を弾いていたのは思いのほか若い……。というより幼い少女だった。
彼女は集中しているのか、俺が近づいたことに全く気付かずに演奏を続けていた。
彼女の演奏は恐ろしく上手かった。
ジュンもギターを弾けるけれど、レベル的には彼女の方が明らかに上だと思う。
その少女の容姿はかなり個性的だった。
特に髪型は半分金髪で半分黒髪という、どこぞのユーチューバーのような姿だ。
『デザイア』の演奏が終わると彼女は大きなため息を吐いた。
「ギターうまいね」
気が付くと俺は彼女に声を掛けていた。
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、それからそっけない感じで「あ、どうも」と答えた。
「今の曲、『アフロディーテ』の『デザイア』だよね?」
「ええ、そうっすよ!お兄さんも『アフロディーテ』聞くの?」
「ああ、聞くよ! つーかドはまりしてる!」
「そうなんだねー。お兄さんも楽器やんの?」
「やってる! 俺はドラムだけどさ! 今は幼なじみと一緒にバンド組もうって話してるんだ! そいつはベースだからあとはギターいるといいんだけどさー」
「ふーん」
やはり彼女はそっけない。
でもその時俺はこの女がバンドに必要だと確信していた。
「君さぁ、良かったら一緒にセッションしてみねーか? 俺らのバンドのギタリスト探しててさ! 相性よければ一緒にやりたいんだ!」
「見ず知らずの男とバンド組むような奴いっと思うの?」
そう言うと彼女はガンを飛ばすように俺を睨んできた。
「そんなこえー顔すんなよ! 縁って大事じゃね?」
「私は知らねー男から身を守る方が大事だね!」
「わーったよ! まぁしゃーねーな! まぁ気が向いたら連絡くれよ。これ俺らの連絡先だから」
俺は半ば無理やりメモに携番を書いてその少女に渡した――。
その日、俺は速攻でジュンに連絡した。
「ジュン聞けよ! 今日すげー女の子に会ってよー!」
「へぇ、なにナンパでもしたの?」
「ちげーよ! すげーギターのうまい女の子だったんだ! 思わず携番渡しちまった」
俺がそう言うとジュンは呆れたようにため息を吐いた。
「別に構わないけど、あんまり期待しないほうがいいんじゃないの? 今までだって俺らギタリストに恵まれなかったじゃん?」
ジュンは酷く冷めた言い方をした。
「でもあの子がバンド入ってくれたらすげーと思うんだ! 連絡こねーかなー?」
運命の悪戯……。とでも言うべきかもしれない。
結果から言うとその少女が今現在の俺たちのヴォーカル兼ギタリストになったわけだ。
これに関してだけは俺も『運命』というものを信じたくなる。
それから1か月後、俺たちは『バービナ』を立ち上げることになる。
最初ノリが悪かったジュンもウラとセッションしてからは彼女を評価するようになった。
俺はホテルのベッドに横になるとバンド結成からの5年間を思い返した。
バンド活動もそれ以外もいつもウラとジュンが近くにいた気がする。
果たしてこれからもあの2人と一緒に居られるのだろうか?
理由は判らないが俺は妙な不安に襲われた――。
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これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
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