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第二十三話 北国のハロウィン
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「はーるばるきたぜぇ~。さっぽろぉ~」
「函館だろ?」
ウラは上機嫌に歌った。
ふざけた歌なのに彼女の歌唱力のせいで妙にこぶしが効いていて上手い。
「2人とも何食べる? せっかくこっち来たんだし、地元の物にしよーかー?」
どうやら今晩は百華さんが案内してくれるらしい。
半分は接待なのだろう。
「そーっすねー。私はなんでもいけますよ! 百華さんのおすすめのお店とかあれば是非!」
「俺もそれで異存ないです!」
「おっけー! しらたねー。カニにしよーかー! 道外の人来たときによく連れてくお店なんだけどねー。あそこなら2人とも満足してくれると思うよー」
「お、カニとか豪勢ですね!」
ウラの目の色が変わる。
現金な女だ。
それから俺たちは百華さんの案内でカニ料理の店へ向かった。
店の看板には大阪の道頓堀を思わせるような大きなカニの模型が付いている。
さらにでかでかと「蟹」と豪快に書かれていた。
店内に入るとカウンターも座敷席も人でいっぱいだった。
「あら~、モモちゃんいらっしゃぁーい。ちょっと待っててねぇ。今いっぱいだからねー」
「奥さんこんばんわぁー。大丈夫よー、したらねー。待っとる!」
どうやら店内は満席のようだ。かなりの人気店らしい。
順番が来るまで俺たちはカウンター前の待合所で席が空くのを待つことにした。
「すごい人気っすね!」
「そだよー。ここは遠方からも来る人いるからねー。待たせて申し訳ないんだけど、待ってでも食べる価値はあると思うから期待してまっててねぇ」
百華さんは顔こそかなり美形でスタイリッシュに見えるものの、話すと北海道特有の訛りが強い。
「百華さん! 改めてありがとうございました! 今ウチらのバンド危機的状況だからこんな風にイベント参加できてすごく助かります! 明日のイベント頑張って成功させますからね!」
「いーえー。こっちこそ千賀子がいっつも世話になっちゃってるみたいだから気にしないでー。むしろ私の方がお礼言いたいくらいだからー」
百華さんはそう言うと落ち着いた笑顔を浮かべた。
「にしても、なんで千賀子ちゃん東京に就職したんすか? 札幌市内だって電子機器メーカーあんのにわざわざ上京するなんて不思議なんすけど?」
俺は真木さん(妹)について気になっていたことを彼女に尋ねた。
「それはねー。あの子昔っから東京に憧れてたからだと思うよー。専門学校だってわざわざ東京の学校選んだし、きっと道内には居たくなかったんだよねー」
「そっかー……。千賀子も色々考えてんだねー。まぁそのお陰で私も千賀子と仲良くなれたわけだからありがたいけど」
「千賀子にはねー。ちっさい頃からすんごい真面目で一生懸命だけど、どうしてもとろいとこがあってねぇ。だから同級生の男の子によくからかわれたりしてたんだよねー。たぶんそれが嫌だったんじゃないかと思う……。もしかしたらそんな奴らを東京行って見返してやりたかったのかもしんないねー。」
妹の話をする百華さんは姉というより母親のように見えた。
心配しながらも自立できるように放任している姿は理想的な保護者のようだ。
それから百華さんは幼い日の姉妹の思い出を話してくれた――。
あれは今から15年前の話だ。
私は短い北海道の夏を満喫するように夏休みを過ごしていた。
私たちは少し歳が離れていて、私が小6で千賀子はまだ一年生だった。
私たちの地元では『ろーそくもらい』という行事が毎年七夕に行われていた。
『ろーそくもらい』とは簡単に言うと日本風のハロウィンだ。
本当にハロウィンに似ていて、違いは仮装しないことぐらいだと思う。
本来はお祭りに使うろうそくを集めるための行事だったらしい。
今はろうそくではなくお菓子を貰うように変わったけれど……。
私と千賀子もそのイベントに参加していた。
「ろーそくだーせーだーせーよー。だーさーないとかっちゃくぞー。おまーけーに噛みつくぞ!」
子供たちは浴衣姿で近所の家の玄関前でそう歌った。
「はいはい、じゃあこれ持っていきなさい」
近所の主婦がニコニコしながら袋に入ったお菓子を子供たちに配る。
「わーい。おばちゃんありがとー」
お菓子を貰った子供たちは楽し気にお礼を言うとそのまま次の家へと向かって練り歩いていった。
「千賀子ー。おっせーよー。さっさとこいよー」
「待ってよぉー。置いてかないでー」
近所の男の子にからかわれながら千賀子は必死に『ろーそくもらい』の列に着いていった。
私も千賀子と同じ班で、妹の手を握って足早に次の家へと向かう。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってよー。みんな早いってー」
「ちーちゃん頑張ってー。もう少しだからねー」
千賀子は一生懸命小走りで着いてきた。
でも他の子たちより足は遅い。
千賀子はあまり運動神経が良くはなかった。
お世辞にも活発とは言えず、かなり内向的な少女だと思う。
近所いっぱい歩き回ってお菓子を集め終える頃には千賀子は疲れてふらふらになっていた。
「ちーちゃん大丈夫!? もうおうち帰る?」
「うん……。疲れたー」
私が千賀子を抱きかかえていると近所の男の子がやってきた。
「やーい。千賀子ー! お前ほんとにとっろいよなー。だらしないぞー」
「ちょっとあんた! いい加減にしなよー。ちーちゃんは女の子だし、男子みたいに走り回れるわけないじゃないのー」
「えー!? でもそいつ、いっつもどんくさいんだよー。体育んときだって千賀子のせいで負けちゃったりするしさー」
私は頭にきてその男の子に手を振り上げる。
「わぁ怖ぇー! 逃げろー」
男の子はそんな私を見て走って逃げていった。
「お姉ちゃんごめんなさい。ちーが鈍くさいせいで……。うぅ」
千賀子はそう言うと泣き出してしまった。
「ほら! 泣かないの!」
私は妹を慰めながら彼女の手を引いて家へと帰った――。
千賀子を家に連れ帰ると、彼女はよほど疲れたのかすぐに眠ってしまった。
泣きすぎて目の周りは真っ赤になってる。
「百華ちゃん、千賀子また虐められたの?」
母さんは恐る恐る私に聞いてきた。
「そうなんだー。まったく悪ガキだよあの子たち! 私が怒ったら逃げてったけどさ」
「そう……。いつも千賀子のこと庇ってくれてありがとうね……」
「母さん……。そんなに私に気を使わないでいいよ。もう母子なんだからさ」
母さんは「そ、そうね」と空気の抜けたような返事をする。
私の今現在の母親は実父の再婚相手で私の実母ではなかった。
私の本当の母親は私を生んだときに敗血症で具合が悪くなり、そのまま死んでしまったらしい。
顔も覚えていないのであまり実感がないけれど……。
彼女は私が4歳の時に父と再婚した。
その時に身ごもったのが千賀子で、私と千賀子は異母姉妹というわけだ。
本当に幼い頃に私の母親になった義母ではあったけど、なかなか私に気を許してはくれなかった。
後で知ったことだけれど、義母は私の実母の親友だったらしい。
実母が死んだときに父に寄り添って父を支えたのが彼女だったのだ。
私は義母に感謝していたし、彼女のことがとても好きだった。
でも義母としては、親友の旦那を奪ったという罪悪感があったようで、私に接するときは妙によそよそしかった。
今はすっかりわだかまりも消えたので、結果オーライな気もするけれど……。
七夕の翌日。
眠い目を擦りながら千賀子が私のところにおぼつかない足取りでやってきた。
「お姉ちゃんおはよー」
「おはようちーちゃん。昨日は頑張ったね!」
昨日の今日なので近くはぐったりしていた。
6歳児には酷だったかもしれない。
それから私たちは自宅の縁側に座って一緒に朝顔を眺めた。
千賀子はぽっーとしながら欠伸をする。
「お姉ちゃん……。ごめんね、ちーがもっとしっかりしてたらあの子たちに虐められないのに……」
「んー? いーんだよ気にしないでー。ちーちゃんは悪くないってー。いじめっこなんてサイテーだし、ちーちゃんは気にすることないよー」
私がそう言うと、千賀子はぱぁーっと明るい顔になった。
「ありがとー。でもね、ちーはもっともぉーと頑張るんだ! お姉ちゃんの役に立てるようになりたいよ」
千賀子はそう言って無邪気な笑顔を浮かべた。
「ありがとうちーちゃん! お姉ちゃんもちーちゃんのために頑張るからね!」
「あのね、あのね! ちー大きくなったらとうきょうってところ行きたいんだー。すんごく立派で大きなビルとかもあるんだってよー。ちーはそこで一生懸命働いて一人前になって、お姉ちゃんに喜んでほしいのー」
「うんうん! そだねー。ちーちゃんならきっと立派になれるよ!」
朝顔は昇り始めた朝日に照らされて、花を咲かせた。
紫と白が朝露を浴びてキラキラと輝いている。
「朝顔綺麗だねー」
千賀子は嬉しそうに朝顔を見つめた。
「本当だね」
私は嬉しそうにしている妹の顔が大好きだった。
この顔が見られるだけで、どんなことでも頑張れる気がする……。
私は千賀子をこれからもずっと大切にしたいと思った。
半分しか血のつながらない妹だとしても、私にとっては掛け替えのない妹なのだから……。
そのとき私はそんな決心に似た何かを抱いた――。
百華さんは幼い日の話をしながら時折瞳を潤わせていた。
「というわけでこれからも千賀子のことよろしくねー。松田さんは仕事でずいぶん面倒見てくれてるみたいだし、京極さんもあの子のこと理解してくれてるみたいだからさー」
「言われなくても! 私だって千賀子のこと好きだしさ! こっちこそよろしくお願いします」
ウラはそう言って百華さんの手を握った――。
それから俺たちはカニをこれでもかというほど貪り食った。
どういうわけか、カニを食べ始めるとみんな無言になる。
山のように積まれたカニの殻は壮観だった。
ウラも百華さんもこれでもかというほどカニを食べつくす。
俺も人のことは言えないが……。
「したらねー。明日のイベントよろしくねー。今日は2人ともゆっくり休んで明日に備えて!」
食事を終えると俺たちは予約しておいたホテルへと向かった。
「じゃあ大志! 明日よろしくね! ドラムだけは大志にやってもらわないと私困るからさ!」
「おう! 任せとけ! じゃあおやすみ」
ウラと別れて自室に入る。
そして……。自室に入ると同時ぐらいにジュンから電話が掛かってきた。
「函館だろ?」
ウラは上機嫌に歌った。
ふざけた歌なのに彼女の歌唱力のせいで妙にこぶしが効いていて上手い。
「2人とも何食べる? せっかくこっち来たんだし、地元の物にしよーかー?」
どうやら今晩は百華さんが案内してくれるらしい。
半分は接待なのだろう。
「そーっすねー。私はなんでもいけますよ! 百華さんのおすすめのお店とかあれば是非!」
「俺もそれで異存ないです!」
「おっけー! しらたねー。カニにしよーかー! 道外の人来たときによく連れてくお店なんだけどねー。あそこなら2人とも満足してくれると思うよー」
「お、カニとか豪勢ですね!」
ウラの目の色が変わる。
現金な女だ。
それから俺たちは百華さんの案内でカニ料理の店へ向かった。
店の看板には大阪の道頓堀を思わせるような大きなカニの模型が付いている。
さらにでかでかと「蟹」と豪快に書かれていた。
店内に入るとカウンターも座敷席も人でいっぱいだった。
「あら~、モモちゃんいらっしゃぁーい。ちょっと待っててねぇ。今いっぱいだからねー」
「奥さんこんばんわぁー。大丈夫よー、したらねー。待っとる!」
どうやら店内は満席のようだ。かなりの人気店らしい。
順番が来るまで俺たちはカウンター前の待合所で席が空くのを待つことにした。
「すごい人気っすね!」
「そだよー。ここは遠方からも来る人いるからねー。待たせて申し訳ないんだけど、待ってでも食べる価値はあると思うから期待してまっててねぇ」
百華さんは顔こそかなり美形でスタイリッシュに見えるものの、話すと北海道特有の訛りが強い。
「百華さん! 改めてありがとうございました! 今ウチらのバンド危機的状況だからこんな風にイベント参加できてすごく助かります! 明日のイベント頑張って成功させますからね!」
「いーえー。こっちこそ千賀子がいっつも世話になっちゃってるみたいだから気にしないでー。むしろ私の方がお礼言いたいくらいだからー」
百華さんはそう言うと落ち着いた笑顔を浮かべた。
「にしても、なんで千賀子ちゃん東京に就職したんすか? 札幌市内だって電子機器メーカーあんのにわざわざ上京するなんて不思議なんすけど?」
俺は真木さん(妹)について気になっていたことを彼女に尋ねた。
「それはねー。あの子昔っから東京に憧れてたからだと思うよー。専門学校だってわざわざ東京の学校選んだし、きっと道内には居たくなかったんだよねー」
「そっかー……。千賀子も色々考えてんだねー。まぁそのお陰で私も千賀子と仲良くなれたわけだからありがたいけど」
「千賀子にはねー。ちっさい頃からすんごい真面目で一生懸命だけど、どうしてもとろいとこがあってねぇ。だから同級生の男の子によくからかわれたりしてたんだよねー。たぶんそれが嫌だったんじゃないかと思う……。もしかしたらそんな奴らを東京行って見返してやりたかったのかもしんないねー。」
妹の話をする百華さんは姉というより母親のように見えた。
心配しながらも自立できるように放任している姿は理想的な保護者のようだ。
それから百華さんは幼い日の姉妹の思い出を話してくれた――。
あれは今から15年前の話だ。
私は短い北海道の夏を満喫するように夏休みを過ごしていた。
私たちは少し歳が離れていて、私が小6で千賀子はまだ一年生だった。
私たちの地元では『ろーそくもらい』という行事が毎年七夕に行われていた。
『ろーそくもらい』とは簡単に言うと日本風のハロウィンだ。
本当にハロウィンに似ていて、違いは仮装しないことぐらいだと思う。
本来はお祭りに使うろうそくを集めるための行事だったらしい。
今はろうそくではなくお菓子を貰うように変わったけれど……。
私と千賀子もそのイベントに参加していた。
「ろーそくだーせーだーせーよー。だーさーないとかっちゃくぞー。おまーけーに噛みつくぞ!」
子供たちは浴衣姿で近所の家の玄関前でそう歌った。
「はいはい、じゃあこれ持っていきなさい」
近所の主婦がニコニコしながら袋に入ったお菓子を子供たちに配る。
「わーい。おばちゃんありがとー」
お菓子を貰った子供たちは楽し気にお礼を言うとそのまま次の家へと向かって練り歩いていった。
「千賀子ー。おっせーよー。さっさとこいよー」
「待ってよぉー。置いてかないでー」
近所の男の子にからかわれながら千賀子は必死に『ろーそくもらい』の列に着いていった。
私も千賀子と同じ班で、妹の手を握って足早に次の家へと向かう。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってよー。みんな早いってー」
「ちーちゃん頑張ってー。もう少しだからねー」
千賀子は一生懸命小走りで着いてきた。
でも他の子たちより足は遅い。
千賀子はあまり運動神経が良くはなかった。
お世辞にも活発とは言えず、かなり内向的な少女だと思う。
近所いっぱい歩き回ってお菓子を集め終える頃には千賀子は疲れてふらふらになっていた。
「ちーちゃん大丈夫!? もうおうち帰る?」
「うん……。疲れたー」
私が千賀子を抱きかかえていると近所の男の子がやってきた。
「やーい。千賀子ー! お前ほんとにとっろいよなー。だらしないぞー」
「ちょっとあんた! いい加減にしなよー。ちーちゃんは女の子だし、男子みたいに走り回れるわけないじゃないのー」
「えー!? でもそいつ、いっつもどんくさいんだよー。体育んときだって千賀子のせいで負けちゃったりするしさー」
私は頭にきてその男の子に手を振り上げる。
「わぁ怖ぇー! 逃げろー」
男の子はそんな私を見て走って逃げていった。
「お姉ちゃんごめんなさい。ちーが鈍くさいせいで……。うぅ」
千賀子はそう言うと泣き出してしまった。
「ほら! 泣かないの!」
私は妹を慰めながら彼女の手を引いて家へと帰った――。
千賀子を家に連れ帰ると、彼女はよほど疲れたのかすぐに眠ってしまった。
泣きすぎて目の周りは真っ赤になってる。
「百華ちゃん、千賀子また虐められたの?」
母さんは恐る恐る私に聞いてきた。
「そうなんだー。まったく悪ガキだよあの子たち! 私が怒ったら逃げてったけどさ」
「そう……。いつも千賀子のこと庇ってくれてありがとうね……」
「母さん……。そんなに私に気を使わないでいいよ。もう母子なんだからさ」
母さんは「そ、そうね」と空気の抜けたような返事をする。
私の今現在の母親は実父の再婚相手で私の実母ではなかった。
私の本当の母親は私を生んだときに敗血症で具合が悪くなり、そのまま死んでしまったらしい。
顔も覚えていないのであまり実感がないけれど……。
彼女は私が4歳の時に父と再婚した。
その時に身ごもったのが千賀子で、私と千賀子は異母姉妹というわけだ。
本当に幼い頃に私の母親になった義母ではあったけど、なかなか私に気を許してはくれなかった。
後で知ったことだけれど、義母は私の実母の親友だったらしい。
実母が死んだときに父に寄り添って父を支えたのが彼女だったのだ。
私は義母に感謝していたし、彼女のことがとても好きだった。
でも義母としては、親友の旦那を奪ったという罪悪感があったようで、私に接するときは妙によそよそしかった。
今はすっかりわだかまりも消えたので、結果オーライな気もするけれど……。
七夕の翌日。
眠い目を擦りながら千賀子が私のところにおぼつかない足取りでやってきた。
「お姉ちゃんおはよー」
「おはようちーちゃん。昨日は頑張ったね!」
昨日の今日なので近くはぐったりしていた。
6歳児には酷だったかもしれない。
それから私たちは自宅の縁側に座って一緒に朝顔を眺めた。
千賀子はぽっーとしながら欠伸をする。
「お姉ちゃん……。ごめんね、ちーがもっとしっかりしてたらあの子たちに虐められないのに……」
「んー? いーんだよ気にしないでー。ちーちゃんは悪くないってー。いじめっこなんてサイテーだし、ちーちゃんは気にすることないよー」
私がそう言うと、千賀子はぱぁーっと明るい顔になった。
「ありがとー。でもね、ちーはもっともぉーと頑張るんだ! お姉ちゃんの役に立てるようになりたいよ」
千賀子はそう言って無邪気な笑顔を浮かべた。
「ありがとうちーちゃん! お姉ちゃんもちーちゃんのために頑張るからね!」
「あのね、あのね! ちー大きくなったらとうきょうってところ行きたいんだー。すんごく立派で大きなビルとかもあるんだってよー。ちーはそこで一生懸命働いて一人前になって、お姉ちゃんに喜んでほしいのー」
「うんうん! そだねー。ちーちゃんならきっと立派になれるよ!」
朝顔は昇り始めた朝日に照らされて、花を咲かせた。
紫と白が朝露を浴びてキラキラと輝いている。
「朝顔綺麗だねー」
千賀子は嬉しそうに朝顔を見つめた。
「本当だね」
私は嬉しそうにしている妹の顔が大好きだった。
この顔が見られるだけで、どんなことでも頑張れる気がする……。
私は千賀子をこれからもずっと大切にしたいと思った。
半分しか血のつながらない妹だとしても、私にとっては掛け替えのない妹なのだから……。
そのとき私はそんな決心に似た何かを抱いた――。
百華さんは幼い日の話をしながら時折瞳を潤わせていた。
「というわけでこれからも千賀子のことよろしくねー。松田さんは仕事でずいぶん面倒見てくれてるみたいだし、京極さんもあの子のこと理解してくれてるみたいだからさー」
「言われなくても! 私だって千賀子のこと好きだしさ! こっちこそよろしくお願いします」
ウラはそう言って百華さんの手を握った――。
それから俺たちはカニをこれでもかというほど貪り食った。
どういうわけか、カニを食べ始めるとみんな無言になる。
山のように積まれたカニの殻は壮観だった。
ウラも百華さんもこれでもかというほどカニを食べつくす。
俺も人のことは言えないが……。
「したらねー。明日のイベントよろしくねー。今日は2人ともゆっくり休んで明日に備えて!」
食事を終えると俺たちは予約しておいたホテルへと向かった。
「じゃあ大志! 明日よろしくね! ドラムだけは大志にやってもらわないと私困るからさ!」
「おう! 任せとけ! じゃあおやすみ」
ウラと別れて自室に入る。
そして……。自室に入ると同時ぐらいにジュンから電話が掛かってきた。
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