Ambitious! ~The birth of Venus~

海獺屋ぼの

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第四十四話 地獄の国のアリス

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『はい……。もしもし』

「あ……。悪い……。寝てたか?」

 電話口のウラは明らかに寝起きだった。夕方だというのに爆睡していたらしい。

『うん、めっちゃ寝落ちてた。はぁあああー……。何? どうしたの?』

 ウラは大きな欠伸をした。おそらく背伸びまでしていると思う。

「あのよー。百華さんから連絡があったんだけど……」

『なぁにぃ? プロモ関係の話なんかあったのー?』

 ウラは気の抜けた返事をした。空気の抜けた風船。ヘリウムの抜けた風船。

 緊張感の欠片もない。

「なあウラ? メジャーデビューする気ねーか?」

 俺がそう聞くと彼女は電話口で黙り込んだ。

 俺も何も言わずにウラの返事を待つ。

『は? なんて?』

「いやだから、メジャーデビューする気ねーかって……?」

 ウラが電話越しにキョトンとしていた。理解が追いついていないらしい。

 もっとも、俺自身も理解は追いついていないけれど。

 真木さんから聞かされた話はこうだ。

 札幌中央放送でのエンディング放送後。

 俺たちの問い合わせが局に殺到したらしい。

 テレビ局ではそのことで電話応対に追われたそうだ。

 『バービナ』の影響で番組が話題になったとか……。

 信じがたい話だけれど本当らしい。

 どうやら俺たちは札幌ではかなりメジャーな存在になれたようだ。

 そして……。

 大手のレーベルの『ニンヒア』から札幌中央放送に問い合わせがあったらしい。

 どうやら『バービナ』の担当だった百華さんはその『ニンヒア』から呼び出しを受けたらしい。

 百華さんの話だと、『ニンヒア』は自社で俺たちを抱え込みたいようだ。

 何かしら思惑があるのだろうけれど……。

 『ニンヒア』は『アフロディーテ』の所属するレーベルのライバル会社だった。

 ある意味。『アフロディーテ』を目の敵にしている。

 『ニンヒア』の担当者は俺たちを反『アフロディーテ』として育てたいと思ったのだろう。

 これはウラの経歴がかなり作用しているようだが……。

「つーわけだ……。どうする? 完全に『アフロディーテ』敵に回すことになるけど?」

 俺がそう聞くとウラは電話口で黙り込んだ。

 さすがに即答は出来ないだろう。と思う。

『ニンヒアでしょ……? あそこはねー。月子さんの古巣だからね! 担当の名前聞いたときピンときたよ。その人が月子さんを育てた張本人だから』

「なんだお前? ニンヒアの担当者知ってるのか?」

『知ってるも何も……。業界じゃかなりの有名人だよ。私も何回か会ったことがあるし。そもそも、『アフロディーテ』って名前は彼女が決めたんだよ……』

「彼女? 何だ? 担当者って女なのかよ!?」

『そだよ……。彼女が『アフロディーテ』の実質上の生みの親。月子さんも健次さんも彼女に世話になって有名になったんだ! ただねぇ……』

 ウラはそこまで話すと黙り込んでしまった。

「ただ? 何だよ?」

『あの人は一筋縄ではいかない人だよ? だって月子さんでさえ押さえつけてたんだ。それが嫌で『アフロディーテ』は事務所変えたんだしさー』

 明らかにウラは動揺しいていた。

 そこまで影響力がある女なのだろうか?

「なぁウラ? これはチャンスだぞ? 言うまでもねーけどこれほどのチャンスはもうねーと思う」

『わーってるよ! ま! 彼女に会いには行くさ! つーか拒否権なさげだし……」

 ウラがここまで動揺させるのはいったいどんな女なのだろうか?

 俺たちは少しの不安と大きな期待を持って、その女に会いに行くことにした。

 美しき吸血鬼の生みの親。

 業界最強の魔女の元へ。
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