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DISK2
第四十三話 風味絶佳
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俺たちのプロモの出来映えはかなり良かった。
手前味噌……。かもしれないが。
高橋さんは一流のプロに仕事を依頼したらしい。
映像クリエイター。ハイパーメディアクリエイター的なやつだ。
映像の中のウラは本当に美しく、まさに女王のようだ。
俺たち4人はプロモを確認して、修正して欲しい箇所をまとめると高橋さんに連絡した。
高橋さんは俺たちの要望を聞くと二つ返事で了解してくれた。
話の早い人だ。尊敬に値する。
「いやー、みんなお疲れー! これで一先ず今回のお仕事はお終いだねー」
「それにしても京極さんすごく格好よかったよ! 本当に売れてるアーティストみたいだった」
「じゃん? やっぱねー。私って実は可愛いんじゃないのかなー」
ウラはそう言って俺の方を見て笑った。
目が嫌らしい。そして最高にウザい。
「あー。確かに出来の良いプロモだったなー」
「もう! これだから大志は素直じゃないんだよー。本当は私のこと可愛いとか思ったんじゃね?」
本当にウザかった……。
しかし、残念なことにプロモのウラは本当に可愛かった。
本人には絶対言わないけれど――。
数日後。札幌中央放送で例のバラエティ番組のエンディングが流れた。
その日の夜には百華さんが連絡をくれた。
「あー、大志さん! 今日ね! 例の番組の曲さぁ、封切りだったんだよー!」
百華さんは興奮気味に言うと「フフっ」と可愛らしい声で笑った。
「今日でしたよね! 俺らは東京なんでぜんぜん見れてないっすけど」
「そだよねー。録画したからあとで送るよー。みんなカッコ良かったよー! もう家族で興奮しながら見ちゃった!」
「俺も見たかったっすねぇ。本当は札幌まで行きたいくらいっすけど!」
「ほんとだよー。ま! さすがにテレビ見るためだけにこっちには来れないもんねー。さっきウラちゃんに話したら、めっちゃ喜んでたよー」
「本当に良かったですよ。今回の企画はあいつが一番頑張ってましたからね! 本当に百華さんにも高橋さんにも色々と手を尽くしていただいて……」
「アハハハ、いーんだよ! 私らも好きでやっただけだから! 高橋さんも今回はノリ気だったしー。それよりも『Ambitious!』ヒットするといいねー」
百華さんはまるで自分のことのように喜んでくれた。
本当に感謝だ。言葉では言い尽くせないほどに――。
プロモ撮影が終わると俺の生活は気味が悪いほど平穏になった。
他のメンバーもすっかり落ち着いてしまい、新曲について特に話すこともなかった。
放映後の反響だとか、俺たちのバンドに対する問い合わせだとかがあればそれに越したことはない。
しかし、そういうことにあまり関心が向かなかった。
良い物を作れたと思う。それに対する結果はあくまでオマケみたいなモノだ。
グリコの玩具ぐらいのオマケ――。
グリコのオマケが予想外の形で俺たちにもたらされたのは、『Ambitious!』の発表から1週間後のことだ。
やはりというか、吉報はいつも真木さんが持ってくる。
「ま、ま、松田先輩!」
真木さんは例によって作業着で営業所までやってきた。
彼女は明らかに慌てた様子だ。
他の営業部の社員たちもさすがに俺たちの方を凝視する。
「真木さん落ち着け! どうした!?」
「あ、あ、ああの!! たいへ……。大変なんです!」
言葉になっていない。あまりに取り乱している。俺も思わず苦笑いした。
「とりあえず、場所変えるぞ! 他の社員に迷惑だ!」
俺は彼女を宥めながら、どうにか営業部から連れ出した。
本当に勘弁して貰いたい。
真木さんを自販機の前まで連れて行き、飲み物を渡して落ち着かせた。
彼女は掛けている眼鏡がずれ落ちるほど動揺している。
「で? どうした? いくら何でも取り乱しすぎだろ!?」
「はぁ、はぁ……。実はお姉ちゃんから連絡がありまして……」
それから俺は真木さんから風味絶佳な話を聞かされることになる。
キャラメルのように甘く舌に残るような話を――。
手前味噌……。かもしれないが。
高橋さんは一流のプロに仕事を依頼したらしい。
映像クリエイター。ハイパーメディアクリエイター的なやつだ。
映像の中のウラは本当に美しく、まさに女王のようだ。
俺たち4人はプロモを確認して、修正して欲しい箇所をまとめると高橋さんに連絡した。
高橋さんは俺たちの要望を聞くと二つ返事で了解してくれた。
話の早い人だ。尊敬に値する。
「いやー、みんなお疲れー! これで一先ず今回のお仕事はお終いだねー」
「それにしても京極さんすごく格好よかったよ! 本当に売れてるアーティストみたいだった」
「じゃん? やっぱねー。私って実は可愛いんじゃないのかなー」
ウラはそう言って俺の方を見て笑った。
目が嫌らしい。そして最高にウザい。
「あー。確かに出来の良いプロモだったなー」
「もう! これだから大志は素直じゃないんだよー。本当は私のこと可愛いとか思ったんじゃね?」
本当にウザかった……。
しかし、残念なことにプロモのウラは本当に可愛かった。
本人には絶対言わないけれど――。
数日後。札幌中央放送で例のバラエティ番組のエンディングが流れた。
その日の夜には百華さんが連絡をくれた。
「あー、大志さん! 今日ね! 例の番組の曲さぁ、封切りだったんだよー!」
百華さんは興奮気味に言うと「フフっ」と可愛らしい声で笑った。
「今日でしたよね! 俺らは東京なんでぜんぜん見れてないっすけど」
「そだよねー。録画したからあとで送るよー。みんなカッコ良かったよー! もう家族で興奮しながら見ちゃった!」
「俺も見たかったっすねぇ。本当は札幌まで行きたいくらいっすけど!」
「ほんとだよー。ま! さすがにテレビ見るためだけにこっちには来れないもんねー。さっきウラちゃんに話したら、めっちゃ喜んでたよー」
「本当に良かったですよ。今回の企画はあいつが一番頑張ってましたからね! 本当に百華さんにも高橋さんにも色々と手を尽くしていただいて……」
「アハハハ、いーんだよ! 私らも好きでやっただけだから! 高橋さんも今回はノリ気だったしー。それよりも『Ambitious!』ヒットするといいねー」
百華さんはまるで自分のことのように喜んでくれた。
本当に感謝だ。言葉では言い尽くせないほどに――。
プロモ撮影が終わると俺の生活は気味が悪いほど平穏になった。
他のメンバーもすっかり落ち着いてしまい、新曲について特に話すこともなかった。
放映後の反響だとか、俺たちのバンドに対する問い合わせだとかがあればそれに越したことはない。
しかし、そういうことにあまり関心が向かなかった。
良い物を作れたと思う。それに対する結果はあくまでオマケみたいなモノだ。
グリコの玩具ぐらいのオマケ――。
グリコのオマケが予想外の形で俺たちにもたらされたのは、『Ambitious!』の発表から1週間後のことだ。
やはりというか、吉報はいつも真木さんが持ってくる。
「ま、ま、松田先輩!」
真木さんは例によって作業着で営業所までやってきた。
彼女は明らかに慌てた様子だ。
他の営業部の社員たちもさすがに俺たちの方を凝視する。
「真木さん落ち着け! どうした!?」
「あ、あ、ああの!! たいへ……。大変なんです!」
言葉になっていない。あまりに取り乱している。俺も思わず苦笑いした。
「とりあえず、場所変えるぞ! 他の社員に迷惑だ!」
俺は彼女を宥めながら、どうにか営業部から連れ出した。
本当に勘弁して貰いたい。
真木さんを自販機の前まで連れて行き、飲み物を渡して落ち着かせた。
彼女は掛けている眼鏡がずれ落ちるほど動揺している。
「で? どうした? いくら何でも取り乱しすぎだろ!?」
「はぁ、はぁ……。実はお姉ちゃんから連絡がありまして……」
それから俺は真木さんから風味絶佳な話を聞かされることになる。
キャラメルのように甘く舌に残るような話を――。
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