純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

文字の大きさ
28 / 64
第二章 ニコタマ文芸部

13

しおりを挟む
「どうぞ」
 私は紅茶を煎れると御堂さんの前に置いた。(なぜか文芸部室には紅茶とクッキーが常備してある)
「ありがとう……」
 彼女は照れ笑いを浮かべて会釈した。
「何もお構いできないけど……。まぁ、ゆっくりしていってね」
 私たちの会話を余所に浩樹と楓子は部室で寛いでいた。まぁ、楓子は落書きしていて、浩樹はコーヒーを飲んでいるだけだけれど。
「それで? 浩樹くん説明してくれる?」
「ん? ああ、そうだね……。じゃあ俺から……」
 浩樹はもったいぶった言い方をした。彼は大体の場合、こんな言い方をする。
「昨日の件に関しては二人とも知ってるかな?」
「うん……。陸上部の……。だよね?」
「そうそう! それでどこまで知ってる?」
 どこまで。非常に曖昧な言葉だ。
「うーん……。昨日、グラウンドでなんか揉めてたってことだけかな……」
「そっか。ま、そんなとこだろうね」
 やはりもったいぶっている。浩樹の悪い癖だ。なかなか本題に入ろうとしない。
「いいよ浩樹。自分で言うから」
「お? やっと話す気になった?」
 浩樹の態度にしびれを切らしたのか御堂さんが口を開いた。
「ごめんね。川村さん。ちゃんと話すから……」
 それから御堂さんはことの経緯を教えてくれた――。

 御堂火憐の話。
 二子玉川高校陸上部は都内でも強豪として知られている。特に短距離に関しては全国大会でも何回も優勝しているし、「100メートルのニコタマ」なんて呼ばれるほどだ。
 私自身もそんなニコタマ陸上部に憧れてこの高校に進学した。小中と陸上に打ち込んできたわけだしそれは当然だったと思う。
 中学時代からずっとニコタマ高校に憧れていた。同じ中学だった先輩もいたし、また彼女と一緒に走りたいと思っていた。そのためなら何だってすると思うほどに……。
 だから中学時代には走ることだけに自分の全てを注ぎ込んだ。そのために勉強だとか、遊ぶ時間だとかは当たり前のように犠牲にした。将来に対して支払う犠牲……。そんな感じだ。
 その結果として中学時代の私は都下最速になれた。まぁ正確には関東最速だけれど、それは蛇足だと思う。
 結果を残せた時は正直嬉しかった。まだまだ速くなれる気がした。どこまでも速く。
 だからなのだろう。今の陸上部には私以上のスプリンターはいない。これは本当に言葉のままの意味で男女問わず、私より速く走れる人間は誰もいないのだ。
 でも……。それが全ての火種だった。火種は徐々に大きくなり、次第に業火のように燃えた。
 奇しくも私の名前のように赤く――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ツキヒメエホン ~Four deaths, four stories~ 第一部

海獺屋ぼの
ライト文芸
京極月姫(キョウゴクルナ)は高校を卒業してから、地元の町役場に就職して忙しい毎日を送っていた。 彼女の父親は蒸発していたが、ある日無残な姿となって発見される。そしてこれが彼女の人生の分岐点になった……。 泉聖子は女性刑事として千葉県警に勤めていた。ある日、外房で発生した水死体発見事件の捜査を行うことになった。その事件を捜査していくと、聖子が過去に出会った未解決事件との類似点が見つかった……。 長編小説『月の女神と夜の女王』の正式続編。 ※一部のため、こちらでは完結しません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...