悪魔の手の中 改訂版

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前編

教室での情事

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楓と俺の行為は日を増すごとに大胆になっていった。

初めは彼の部屋で性行為に及ぶことが多かったのに、今では誰もいない教室で体を重ねようとしている。

「…恥ずかしいよ。」

こんなところでするのは嫌だ、そう伝えて彼の気分を害するのが嫌だった。そうすることで、求められなくなる事が怖かった。だから、せめてもの抵抗で出た言葉だった。

「大丈夫だよ。気にしないで。」

放課後の教室。外では部活動に励んでいる生徒たちの声が聞こえる。
いつ誰が入ってきてもおかしくないのに、柔らかな落ち着いた声で平気で言ってのける彼の気持ちが分からない。

「真澄。」

机に腰かけた楓が俺の名前を呼んで、促す。

もう靴下以外、何も纏っておらず、なんとも間抜けな格好をしたまま彼の方へと足を進めた。

俺とは対極的に乱れてもいない制服姿の楓は、いつもみんなの前で見せている完璧な姿を彷彿とさせる。
それでもその美しい顔に浮かべた妖艶な表情は、昼間、みんなの前で見せるものとは違っていた。

楓の体の上に跨れば、熱を含んだ瞳を向けられる。尻の窄みに既に硬くなった彼のものが触れる。顔がじんと熱くなり、頭が熱にうなされたようにぼんやりとしてくる。

ああ、この感覚。

誰かに求められていると実感できるこの瞬間、俺はとても幸福だ。向けられるそれが肉欲だったとしても構わない。

誰かに見られるかもしれない不安とか、そういう余計な感情は頭の隅に追いやられる。

スラックスの上からも分かるくらい大きくなったそこに自ら手を這わせれば、楓は満足そうな表情を浮かべた。

ーーーーーーーーーー

次の日の朝、一緒に登校した楓のクラスの前で別れる。

すぐに男女問わず、クラスメートたちに囲まれた楓は俺に軽く手だけ上げると教室の中に姿を消した。
楓はみんなの前では必要以上に接してこない。体の関係を持つ前からそうだった。

俺への配慮なのか、それとも俺との仲を知られたくないのか、よく分からなかったが、楓はその端正な容姿と人気で目立つので俺もそのほうがよかった。気弱な性格上、誰かに目をつけられ敵視されることは避けたかった。

昨日、楓とまぐわった教室に何もなかったかのような顔をして足を踏み入れる。なんだか、とてもバツの悪い気分になる。

クラスメートが談笑し合うこの教室で、昨日、自分はここの生徒としてあるまじき、淫らなことをしてしまったのだ。

「早川、おはよう!」

自分の机の前まで来たところで、俺の後ろめたい気持ちをかき消すような快活な声で挨拶をされる。声の持ち主は前の席の男子生徒、水瀬太一みなせ たいちだ。

「水瀬くん……、おはよう。」

先週の席替えで前後の席になった水瀬は爽やかでイケメンなクラスの人気者で人懐っこくて、俺とは接点の一つもないような人なのだが、席が近くなってから少し話すようになった。

人懐っこい彼は、近くの席になった生徒に必ず話しかけるのだ。陰気な生徒だろうが関係なく。
だから彼にとって俺は特別ではなく、周りのクラスメートとなんら変わりない。みんなそれを周知しているので人気者であっても、まだ話やすい。

「早川、ここの数学の問題、解いてある?今日、俺当てられるかもしれなくてさ。」

「ああ…、うん。」

「見せてくれる?」

「うん、…いいよ。」

一限目の数学まで、まだ時間がある。水瀬はいつも授業の合間とか、朝のホームルーム前とかに、前の授業で出された課題とも呼べないくらいの量の課題について尋ねてくるのでその度に答えを見せている。

イケメンで人気者だけど、どうやら勉強は苦手らしい。でも、その欠点が彼をより人気者にさせているような気がした。

いつものように振り返り、後ろの俺の机に教科書とノートを広げる。
楓とは系統の違った端正なその顔立ちがぐっと近づく。近距離でその切れ長の美しい瞳に見つめられ、太陽のような明るく、くだけた笑顔をニコっと向けられれば、女子生徒なら勘違いして好きになってしまってもおかしくない。

実際に勘違いして告白した女子生徒を何人も知っている。彼のこの距離感の近さが人を惹きつける理由の一つなのだと思う。

水瀬のたくましい腕が置かれた机の上にふと目を向けると、昨日の放課後の記憶が蘇る。

机に飛び散った、どちらのものか分からない白濁。上気した頬、熱を孕んだ瞳。教室に漂う、いやらしい匂い。

「早川、どうした?」

こちらを不思議そうに眺める水瀬に、ぼう、としていた意識がはっきりとしていく。

「なんでもない。」と、教室に入った時と同じように何もなかったかのような顔をして答える。

バツの悪さも後ろめたさもすっかり忘れて、楓との淫らな行為の末に与えられる幸福感に脳を侵されながら。
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