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2話
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(なんで? わた……私は誰からも望まれていなくて、こんな優しい扱いされる人間じゃなかったのに。天国は誰にでも優しいの……?)
その時湧いた感情は「嬉しい」だった。
(こんなに私に優しい世界があるなんて……死なないとわからなかった)
安堵やら感動やらの気持ちが忙しなく動いているからか、今まで感じたことのない現象に見舞われた。
「ぐぅぅ~~」
お腹が鳴ってしまったのだ。
毛玉が自分の身体をマッサージしてくれていたのを忘れて、咄嗟に腹部を隠すようにうずくまった。
毛玉たちがふわりと宙に浮く。
だがそれよりも、鳴りやまないお腹のほうが大事であった。
幼い頃、お腹が空いてぐうぐうと腹の虫を鳴らせていると「卑しい。居候のくせに、図々しい」という言葉をかけられたことがあった。幼すぎて、その意味を正しく理解出来なかったが、お腹を鳴らせることは恥ずべきことなのだと理解した。そして……。
「お腹が減っているようですね。では、食堂に案内しますので……」
男性が案内しようとしてくれたが、自分はガタガタと震えだした身体を抑えるようにうずくまりながら首を振った。
「お腹が空いていないのですか?」
訊ねられ、必死にうなずいた。
視線を合わせる自信がない。
お腹が鳴ることと、お腹を空かせることというのは恥ずべきことなのだと幼い頃に教わってからは、「お腹が空いた」ということを肯定することをしなくなった。
代わりに否定してしまう。
こんなにお腹が鳴ることは今までなかったから誤魔化せたが、今は誤魔化せている自信がない。
それでも必死に首を振って、自分はお腹が減っていないとアピールして見せた。
頭上から困惑する声が聞こえるようだ。
天国とはいえ、優しくしてくれたからとはいえ、長年身についた習性はすぐには変えられない。
「いらないのね」と冷たい声が降ってくるまで安心はできない。
ただうずくまって、空腹が訴えるのを止めるのを待つしか出来ないでいると、慌ただしい音が飛び込んできた。
「起きた?!」
初めて聞く声だが、初めてではない……どこかで聞いた気がする、懐かしい気もした。
「アシル! まだ具合が悪いようなのですから、静かに入ってきてください! それとノック!」
少女の声が、今部屋に飛び込んできた……アシルと呼ばれた声を責める。責められた声は柳のように攻撃をやんわり受け流しながら、こちらへ近づいてくる。
「具合が悪いのか?」
優しく、慈愛に満ちた男性の声……。
自分に語りかけているようだが、まだ鳴りやまないお腹の音のせいで顔が上げられない。
「……サーナ、ナイン。食事に連れて行かないのか?」
アシルと呼ばれていた声は、少女と男性に話しかけた。その声は自分を労わってくれた声とは違って、冷たく、責めるようなものであった。
「それが、お腹が減っていないと言い、先ほどからこう……」
「こんなに腹がぐーぐー鳴っていて、腹が減っていないっていう道理が通じるとでも思っているのか? なあ?」
声が自分に向けられた気がした。
だが、自分に向けられたという確信はないし、なによりなんか少し怖いので顔が上げられないでいる。そうしていると、勝手に自己紹介が始まった。
「オレはアシルって言うんだ。アシル・パール、覚えているか?」
『覚えているか』という言葉が気になって顔を上げ、息が止まりそうになった。
まさに息を呑むような美男子……端正な顔立ちに白い肌、バイオレットカラーの瞳が真ん前に突き出されていた。
「ッッッ!!」
驚きのあまり声が出そうになったが、声が出て来ず、代わりに喉に焼けるような痛みが走った。
その時湧いた感情は「嬉しい」だった。
(こんなに私に優しい世界があるなんて……死なないとわからなかった)
安堵やら感動やらの気持ちが忙しなく動いているからか、今まで感じたことのない現象に見舞われた。
「ぐぅぅ~~」
お腹が鳴ってしまったのだ。
毛玉が自分の身体をマッサージしてくれていたのを忘れて、咄嗟に腹部を隠すようにうずくまった。
毛玉たちがふわりと宙に浮く。
だがそれよりも、鳴りやまないお腹のほうが大事であった。
幼い頃、お腹が空いてぐうぐうと腹の虫を鳴らせていると「卑しい。居候のくせに、図々しい」という言葉をかけられたことがあった。幼すぎて、その意味を正しく理解出来なかったが、お腹を鳴らせることは恥ずべきことなのだと理解した。そして……。
「お腹が減っているようですね。では、食堂に案内しますので……」
男性が案内しようとしてくれたが、自分はガタガタと震えだした身体を抑えるようにうずくまりながら首を振った。
「お腹が空いていないのですか?」
訊ねられ、必死にうなずいた。
視線を合わせる自信がない。
お腹が鳴ることと、お腹を空かせることというのは恥ずべきことなのだと幼い頃に教わってからは、「お腹が空いた」ということを肯定することをしなくなった。
代わりに否定してしまう。
こんなにお腹が鳴ることは今までなかったから誤魔化せたが、今は誤魔化せている自信がない。
それでも必死に首を振って、自分はお腹が減っていないとアピールして見せた。
頭上から困惑する声が聞こえるようだ。
天国とはいえ、優しくしてくれたからとはいえ、長年身についた習性はすぐには変えられない。
「いらないのね」と冷たい声が降ってくるまで安心はできない。
ただうずくまって、空腹が訴えるのを止めるのを待つしか出来ないでいると、慌ただしい音が飛び込んできた。
「起きた?!」
初めて聞く声だが、初めてではない……どこかで聞いた気がする、懐かしい気もした。
「アシル! まだ具合が悪いようなのですから、静かに入ってきてください! それとノック!」
少女の声が、今部屋に飛び込んできた……アシルと呼ばれた声を責める。責められた声は柳のように攻撃をやんわり受け流しながら、こちらへ近づいてくる。
「具合が悪いのか?」
優しく、慈愛に満ちた男性の声……。
自分に語りかけているようだが、まだ鳴りやまないお腹の音のせいで顔が上げられない。
「……サーナ、ナイン。食事に連れて行かないのか?」
アシルと呼ばれていた声は、少女と男性に話しかけた。その声は自分を労わってくれた声とは違って、冷たく、責めるようなものであった。
「それが、お腹が減っていないと言い、先ほどからこう……」
「こんなに腹がぐーぐー鳴っていて、腹が減っていないっていう道理が通じるとでも思っているのか? なあ?」
声が自分に向けられた気がした。
だが、自分に向けられたという確信はないし、なによりなんか少し怖いので顔が上げられないでいる。そうしていると、勝手に自己紹介が始まった。
「オレはアシルって言うんだ。アシル・パール、覚えているか?」
『覚えているか』という言葉が気になって顔を上げ、息が止まりそうになった。
まさに息を呑むような美男子……端正な顔立ちに白い肌、バイオレットカラーの瞳が真ん前に突き出されていた。
「ッッッ!!」
驚きのあまり声が出そうになったが、声が出て来ず、代わりに喉に焼けるような痛みが走った。
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