(休載中)自殺したはずが何故か溺愛されまくる生活を送っております

rifa

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4話

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 しかしその笑みとは真逆の、怒ったような感じが空気から伝わってくる。おそらく自分を抱きかかえていることがストレスに感じているのだろうが、それを悟らせないようにと笑顔でいてくれているのだと思った。
 だから機嫌をとるように慌てて答えようとしたが、また喉が痛み咳き込んでしまった。
「アシル!」
 ナインがアシルを叱りつけるように声を荒げた。アシルは「忘れてた!」と、こちらが気の毒に思うほど狼狽していた。
「悪い、悪かった……無理に話させて……」
 そのうろたえ方を逆に申し訳なく思い、頭を振って見せる。
 だがアシルはなおも申し訳なさそうな表情だ。
 こんな場面でも、自分は何も出来ない。
 何もわからないのだ。
 どうやったら相手の機嫌を取れるかなど。
 自分の存在は空気だから、ただ己の存在を殺していれば、誰も自分のことで気を煩わせることはしない。だから今回もそうしたかったのに、何故かこの場の中心に自分がいる気がした。
 アシルとナインの心配そうな視線が自分に刺さる。それが申し訳なくて、居心地が悪くて消えたくて仕方がない。でも消えることも、自分に向けられる視線を交わすことも出来ない。
(どうしたら……)
 静寂に包まれた広い通路に、パタパタという音が響く。
「なにをやっているんですか、まだこんなところに突っ立って!」
 サーナが怒りながら戻ってきた。怒っていると言っても、本気で怒っているわけではない。怒ると言うより、呆れているというか、愛のある怒り方だ。……お世話になっていた親戚の家の大人が、自分以外の子どもをたしなめるときのものに似ている。
(私は、こんな叱り方をされたことなかったな)
 だって、自分は透明人間のようで、その家にいたのに、その家にいるのかいないのかわからない。本来ならその家にいて良い存在ではない人間だったから。
 案の定怒られているのはアシルとナインだった。大きな男性二人が小柄な少女にたしなめられている姿はどこか滑稽にも見える。
 ふとサーナが自分の方へ視線を向けた。
「! どうなさったんですか?」
「?」
 何故か顔色を変えて慌てだしたサーナの姿に、声をかけることさえ出来ない。
「あ! そうだ、サーナ、ルミ……じゃなかった、こいつにムリヤリ喋らせちまって、魔法で治せるか?!」
 アシルが慌てて状況を説明すると、穏やかな少女の表情が険しいものに変わっていく。
「アシル!」
 そして、先ほどのたしなめるような咎め方ではなく、雷でも落ちるのではないかという本気の怒りを見せた。
 天使の少女の変わりように、直接怒声を浴びせられたわけでもないこちらまでも縮み上がってしまう。
「あ、すみません。あなたに怒ったわけではないのですが……怯えさせてしまいましたね、申し訳ありません」
 サーナは、怯える自分に気づくと、瞬間、先ほどまでの天使のような表情に戻った。
 その二面相の激しさに、つい生唾を呑みこむ。
「食堂に薬草を煎じたお茶を用意させてありますので。……アシル、今度はちゃんと守ってくださいね?」
 サーナがにこりと笑みを浮かべたまま、アシルに念を押す。笑顔なのに声に圧があるのが逆に怖い。
 アシルは怒られたからか表情を硬くして、自分を抱きかかえる腕に力を入れた。
 まるで、離すまいとするように。
(あんな怒られ方されたら、そりゃ従うか。……ごめんなさい)
 自分なんかをいつまでも抱きかかえているなんて嫌だろうに、叱られて命じられたから仕方なしに自分と接しているのだと思ったら、アシルに申し訳なさを感じた。
 するとどこからか、先ほど自分の身体をマッサージしていてくれた白い毛玉たちが戻ってきており、また自分の身体をマッサージしてくれていた。
 こんな自分のことなど構わなくて良いと言いたかったが、言葉が出ずに伝えられない。
 自分の身体を懸命にマッサージする毛玉たちの健気さを申し訳なく思っていると、アシルがまた優しい声をかけてくれた。
「あとでオレがマッサージしてやるから、それまではこいつらで我慢してくれ」
「???」
 意味が分からない。
 困ってナインに視線を向けると、彼は何故か疲れたように首を左右に振っていた。
 結局意味がわからないまま、気づいたら食堂と思われる部屋に着いていた。
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