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食堂、と言っていたのでここが食堂だと思ったが、自分の想像している食堂とはまったく異なる光景だったため、説明されるまでそこが食堂だと確信出来なかった。
豪奢な空間だ。
天井は学校の体育館ほどの高さで、電灯の代わりにたくさんのシャンデリアが吊るされていた。
テーブルも、その空間ほどではないが、何十人と座ることが出来そうなほど大きなもので……それなのに椅子が四つしかない……そこにレースのようなシーツが敷かれている。
天井も壁も一面純白で、こんなに広いのに掃除が行き届いており、眺めているだけで気持ちが良くなってくるようだ。
抱きかかえられていて見えなかったが、椅子に座らせてもらった際ちらりと見ると、やはり床もゴミ一つ落ちていない綺麗なものであった。
(それどころか、輝いてさえ見える……)
そんな床に自分の足が触れることが恐れ多い気がして、若干足を床からわずかに離してプルプル震わせていたが、すぐに限界が来て、床に足を下ろすこととなった。
(なんか体力ないな……?)
「なにやってんだ?」
隣の席に腰を下ろしたアシルが、今の行動を見ていたのか怪訝な表情でこちらを見やってくる。
改めて「なにをやっていたのか」と聞かれ、恥ずかしさがこみあげてきて顔を俯かせるしか出来ない。
「……オレの格好良さに目がくらんでしまったとかか?」
問われ、とりあえずそういうことにしておこうと頷くと、呆れた声が返ってきた。
「そこはツッコめよ」
呆れさせてしまったとわかり、また申し訳なさがこみあげてくる。
申し訳なく思っていると、ナインの声がアシルをたしなめた。
「彼女は声が出ないと言っているでしょう」
「あ」
「何度言えば覚えるんですか、あなたのオツムは」
「はいはいはい、悪かったでございます~」
ナインの苦言を適当な態度で応じるアシルを見ていると、こちらが不安になってくる。
自分のせいで、サーナとナインのアシルに対する印象が悪くなってしまっているのでは、と。
アシルの代わりに二人へ謝罪をしたかったが、声が出なかった。声を出そうとすると、喉がこわばるようだ。先ほど感じた痛みが蘇ってくるのだ。
いたたまれなくなり、ただ小さくなっているしか出来ないでいると、目の前のテーブルに白いティーカップが静かに置かれた。
「?」
置いたのはサーナだ。
「にぎやかすぎますよね、申し訳ありません。この二人はいつもこうなんですよ。顔を合わせると息をするように」
いつも……ということは、自分のせいというわけではないのだろうか。
そんな考えが頭に浮かび、さすがにそれはおこがましいとすぐさま頭を振る。
「どうぞ、温かいうちに飲んでください。薬草を煎じたお茶です。喉の痛みを抑えて、筋肉のこわばりを取る作用があります。喉が温まれば声も出せるようになりますよ」
そう告げられれば飲むしかない。
早く話せるようになって、こんな世話をさせてしまったことなど諸々を謝らなくてはいけなかった。
サーナに小さく頭を下げると、彼女は柔和な笑みを浮かべてくれる。その慈悲深い笑みが、まだお茶を飲んでいないのに胸をじんわりあたためてくれていた。
オレンジ色のお茶を一口飲んで、思わずカップを落としそうになった、
「~~!!」
驚いている自分より、他の三人のほうが驚いていた。
「どうした?!」
アシルが真っ先に声をかけ、カップを受け取りながら心配してくれた。
「どうされました? もしかして苦かったですか?」
次に声をかけてくれたサーナの具体的な疑問は助かった。首を振るだけで済むからだ。
だが、気を遣っていると思われたようで、「無理をしなくていい」とか「もっと甘い薬草とかねえのかよ」とアシルがサーナへ問いかけている。
しかし、ナインが何かを感じ取ってくれ、その疑問を口に出した。
「もしかして……熱かったですか?」
その具体的な疑問も非常に助かった。頷くだけで済むからだ。
「……猫舌ァ?!」
アシルが安堵したように声を上げた。
せっかく用意してもらったお茶を、熱いと言うだけで飲めないなど失礼かもしれないと怯えていると、頭を優しく撫でられた。
「じゃあ、少し冷ましたら飲めるな。オレが冷ましてやるよ」
アシルはそう言って、先ほど受け取ったカップの中で揺らぐ水面に、「ふー、ふー」と息を吹きかけて冷ましてくれた。
「唾は入っていないでしょうね」
ナインの問いかけに、アシルが「入らねえようにしたよ、いちいちうるせえな」と渋柿を食べたように顔をしかめた。
アシルに渡されたカップを受け取り、おそるおそる一口飲んでみた。
「!」
「熱くないか?」
アシルのその問いに、コクコク頷いて飲んで見せた。
じんわりと温かいお茶が、喉を優しく撫でるように労わってくれているようだ。
その優しい温度と感触に、うっとりと目を細めた。
豪奢な空間だ。
天井は学校の体育館ほどの高さで、電灯の代わりにたくさんのシャンデリアが吊るされていた。
テーブルも、その空間ほどではないが、何十人と座ることが出来そうなほど大きなもので……それなのに椅子が四つしかない……そこにレースのようなシーツが敷かれている。
天井も壁も一面純白で、こんなに広いのに掃除が行き届いており、眺めているだけで気持ちが良くなってくるようだ。
抱きかかえられていて見えなかったが、椅子に座らせてもらった際ちらりと見ると、やはり床もゴミ一つ落ちていない綺麗なものであった。
(それどころか、輝いてさえ見える……)
そんな床に自分の足が触れることが恐れ多い気がして、若干足を床からわずかに離してプルプル震わせていたが、すぐに限界が来て、床に足を下ろすこととなった。
(なんか体力ないな……?)
「なにやってんだ?」
隣の席に腰を下ろしたアシルが、今の行動を見ていたのか怪訝な表情でこちらを見やってくる。
改めて「なにをやっていたのか」と聞かれ、恥ずかしさがこみあげてきて顔を俯かせるしか出来ない。
「……オレの格好良さに目がくらんでしまったとかか?」
問われ、とりあえずそういうことにしておこうと頷くと、呆れた声が返ってきた。
「そこはツッコめよ」
呆れさせてしまったとわかり、また申し訳なさがこみあげてくる。
申し訳なく思っていると、ナインの声がアシルをたしなめた。
「彼女は声が出ないと言っているでしょう」
「あ」
「何度言えば覚えるんですか、あなたのオツムは」
「はいはいはい、悪かったでございます~」
ナインの苦言を適当な態度で応じるアシルを見ていると、こちらが不安になってくる。
自分のせいで、サーナとナインのアシルに対する印象が悪くなってしまっているのでは、と。
アシルの代わりに二人へ謝罪をしたかったが、声が出なかった。声を出そうとすると、喉がこわばるようだ。先ほど感じた痛みが蘇ってくるのだ。
いたたまれなくなり、ただ小さくなっているしか出来ないでいると、目の前のテーブルに白いティーカップが静かに置かれた。
「?」
置いたのはサーナだ。
「にぎやかすぎますよね、申し訳ありません。この二人はいつもこうなんですよ。顔を合わせると息をするように」
いつも……ということは、自分のせいというわけではないのだろうか。
そんな考えが頭に浮かび、さすがにそれはおこがましいとすぐさま頭を振る。
「どうぞ、温かいうちに飲んでください。薬草を煎じたお茶です。喉の痛みを抑えて、筋肉のこわばりを取る作用があります。喉が温まれば声も出せるようになりますよ」
そう告げられれば飲むしかない。
早く話せるようになって、こんな世話をさせてしまったことなど諸々を謝らなくてはいけなかった。
サーナに小さく頭を下げると、彼女は柔和な笑みを浮かべてくれる。その慈悲深い笑みが、まだお茶を飲んでいないのに胸をじんわりあたためてくれていた。
オレンジ色のお茶を一口飲んで、思わずカップを落としそうになった、
「~~!!」
驚いている自分より、他の三人のほうが驚いていた。
「どうした?!」
アシルが真っ先に声をかけ、カップを受け取りながら心配してくれた。
「どうされました? もしかして苦かったですか?」
次に声をかけてくれたサーナの具体的な疑問は助かった。首を振るだけで済むからだ。
だが、気を遣っていると思われたようで、「無理をしなくていい」とか「もっと甘い薬草とかねえのかよ」とアシルがサーナへ問いかけている。
しかし、ナインが何かを感じ取ってくれ、その疑問を口に出した。
「もしかして……熱かったですか?」
その具体的な疑問も非常に助かった。頷くだけで済むからだ。
「……猫舌ァ?!」
アシルが安堵したように声を上げた。
せっかく用意してもらったお茶を、熱いと言うだけで飲めないなど失礼かもしれないと怯えていると、頭を優しく撫でられた。
「じゃあ、少し冷ましたら飲めるな。オレが冷ましてやるよ」
アシルはそう言って、先ほど受け取ったカップの中で揺らぐ水面に、「ふー、ふー」と息を吹きかけて冷ましてくれた。
「唾は入っていないでしょうね」
ナインの問いかけに、アシルが「入らねえようにしたよ、いちいちうるせえな」と渋柿を食べたように顔をしかめた。
アシルに渡されたカップを受け取り、おそるおそる一口飲んでみた。
「!」
「熱くないか?」
アシルのその問いに、コクコク頷いて飲んで見せた。
じんわりと温かいお茶が、喉を優しく撫でるように労わってくれているようだ。
その優しい温度と感触に、うっとりと目を細めた。
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