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6話
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「…………」
でもまだ声が出せそうにないので、ただ頭を下げて感謝を伝えるしか出来なかった。
「良いんだよ。お前のためならなんでもしてやりたいだけだ、気にするな」
アシルはニカッと白い歯を見せて、少年のような笑みを浮かべた。
(見た目は私より大人っぽいのに……)
「あ。……とりあえず、喉が治ったらまず名前を教えてくれよ」
まるでそれがお礼で良いと言われているようで、そんな挨拶のようなことで良いのかと驚いたが、その問いである違和感に気づいた。
「どうした?」
そんな自分の態度から何かを感じたようで、アシルが眉を顰める。
口を開閉させながら、まだ声が出せず、伝えることを出来ないもどかしさを感じていると、アシルが「無理をしなくていい」という、
「名前は今すぐじゃなくていいから、さ」
寂しそうに笑む彼に、違うと頭を振った。
「ん?」
アシルはこちらの目をじっと見やりながら、言いたいことに気づいてくれたようだ。
「……もしかして、名前を憶えていないとか?」
ずばり言い当ててくれた彼の言葉に目を輝かせて手を握ってしまった。
彼は激しく動揺して見せたので、こちらも慌てて手を放した。
「あ、悪いとかそういうことじゃなく……」
アシルは何故かしょんぼりと落ち込んだ様子を見せる。
(私に触れられたことが嫌だったんじゃないのかな?)
彼は何かを言いづらそうで、どう伝えていいかを懸命に考えているようだ。
やがて思い切ったように言った。
「お、オレが新しく名前を付けようか?」
何故か必死な形相で、顔を真っ赤にそう訊ねるアシル。
名前を付けてあげる、と言われた時、ぼんやりと「そうだよね」と思った。
名前がないと不便だから、自分が思い出せない以上、付けてもらうのもやぶさかではない。
忘れてしまった名前が、どこか自分のものでないように感じられるのは、ずっとその名前で呼ばれていなかったこともあり、執着がないのだ。
だから喜んで新しい名前を迎え入れることが出来た。
自分が頷くと、アシルはその名前を言おうと一回口を開いたかと思うと、また顔を赤らめて言いよどんだ。
「?」
言いにくい名前なのだろうかとこちらも首を傾げてしまう。あまり言いにくい発音は困る。おそらく付けられるのは和名ではないだろうからだ。
アシルとサーナとナイン……彼らが名乗った名前がキラキラネームかとしれないと思わなくもないが、その線は限りなく薄い。
(アシル・パールとか。多分パールって苗字だよね? 外国だとファーストネームが名前でセカンドネームが苗字だと聞いたことがあるし……)
パール、は少なくとも日本の苗字ではありえない。海外ならどうかなど知らないが、少なくとも漢字に当てはめられるものではないだろう。
(天国って洋風なんだ……)
自分が死んだ感覚がまだ実感できないが、先ほどから見る光景は、自分の生きた世界とはまるで違う……まさに別世界だった。
なにより、自分に好意的に接してくれる人がいるということが……それだけで天国は素晴らしいところだと感じていた。
「ルミナス」
ぼんやり考え事をしていたが、アシルの発した言葉で我に返った。
「……?」
「……ルミナス、っていう名前は、どうだ?」
アシルは真剣に自分の瞳を見やっていた。名前一つ付けるのが、そんなに大事なことなのだろうかと思わなくもない。
自分にとって特別思い入れもなかった名前は、新しく名前を付けると言われてもどこか「あだ名」のようなものにしか思えなかったからだ。
今まで「あんた」とか「おまえ」と呼ばれていたものが名前に変わるだけだと、思っていた。
だがアシルにその名前を呼ばれた時、自分の心の中で何かあたたかい感情が生じた気がした。
その感情の名前は判らない。
名前など、所詮呼称でしかない。
ないはずなのに……アシルに「ルミナス」と呼ばれた時、初めて名前という呼称に関心が向いた。
「……どうだ?」
いつまでも反応を示さない自分に不安に不安を抱いたのか、おそるおそるという感じにアシルが再度問いかけをしてきた。
(ルミナス……私の名前? これからアシルたちに、そう呼んでもらえる……?)
そう感じた瞬間、胸の中がもっともっとあたたかくなっていき、無意識にこくりと頷いていた。
「良いのか?」
そう確かめるように問うアシルのバイオレットカラーの瞳がキラキラ輝いていた。
その瞳をいつまでも眺めていたい気持ちはあったが、気恥ずかしさから視線を逸らしながら頷いた。
「……ありがとう。じゃあ、よろしくな、ルミナス」
目を奪われたのは一瞬だった。一瞬だが、「ありがとう」と言ったアシルの表情に魅入ってしまった。
(そんな表情するんだ……)
名前は呼称であった。
感情は現象であった。
そんな呼称や現象に付く名前になど、今まで大して興味はなかった。ただ個別を判断する呼称でしかなかった。
なかったはずであったのに、アシルに名前を呼ばれた時から、自分の中で何かが変わった気がした。
そう。もう自分、ではないのだ。もう自分は『ルミナス』になったのだ。
(私は『ルミナス』……私の名前は、ルミナス)
天国で『生きる』というのは変だが、自分……ルミナスはこれからここで、アシルたちとともに『生きたい』と思った。
でもまだ声が出せそうにないので、ただ頭を下げて感謝を伝えるしか出来なかった。
「良いんだよ。お前のためならなんでもしてやりたいだけだ、気にするな」
アシルはニカッと白い歯を見せて、少年のような笑みを浮かべた。
(見た目は私より大人っぽいのに……)
「あ。……とりあえず、喉が治ったらまず名前を教えてくれよ」
まるでそれがお礼で良いと言われているようで、そんな挨拶のようなことで良いのかと驚いたが、その問いである違和感に気づいた。
「どうした?」
そんな自分の態度から何かを感じたようで、アシルが眉を顰める。
口を開閉させながら、まだ声が出せず、伝えることを出来ないもどかしさを感じていると、アシルが「無理をしなくていい」という、
「名前は今すぐじゃなくていいから、さ」
寂しそうに笑む彼に、違うと頭を振った。
「ん?」
アシルはこちらの目をじっと見やりながら、言いたいことに気づいてくれたようだ。
「……もしかして、名前を憶えていないとか?」
ずばり言い当ててくれた彼の言葉に目を輝かせて手を握ってしまった。
彼は激しく動揺して見せたので、こちらも慌てて手を放した。
「あ、悪いとかそういうことじゃなく……」
アシルは何故かしょんぼりと落ち込んだ様子を見せる。
(私に触れられたことが嫌だったんじゃないのかな?)
彼は何かを言いづらそうで、どう伝えていいかを懸命に考えているようだ。
やがて思い切ったように言った。
「お、オレが新しく名前を付けようか?」
何故か必死な形相で、顔を真っ赤にそう訊ねるアシル。
名前を付けてあげる、と言われた時、ぼんやりと「そうだよね」と思った。
名前がないと不便だから、自分が思い出せない以上、付けてもらうのもやぶさかではない。
忘れてしまった名前が、どこか自分のものでないように感じられるのは、ずっとその名前で呼ばれていなかったこともあり、執着がないのだ。
だから喜んで新しい名前を迎え入れることが出来た。
自分が頷くと、アシルはその名前を言おうと一回口を開いたかと思うと、また顔を赤らめて言いよどんだ。
「?」
言いにくい名前なのだろうかとこちらも首を傾げてしまう。あまり言いにくい発音は困る。おそらく付けられるのは和名ではないだろうからだ。
アシルとサーナとナイン……彼らが名乗った名前がキラキラネームかとしれないと思わなくもないが、その線は限りなく薄い。
(アシル・パールとか。多分パールって苗字だよね? 外国だとファーストネームが名前でセカンドネームが苗字だと聞いたことがあるし……)
パール、は少なくとも日本の苗字ではありえない。海外ならどうかなど知らないが、少なくとも漢字に当てはめられるものではないだろう。
(天国って洋風なんだ……)
自分が死んだ感覚がまだ実感できないが、先ほどから見る光景は、自分の生きた世界とはまるで違う……まさに別世界だった。
なにより、自分に好意的に接してくれる人がいるということが……それだけで天国は素晴らしいところだと感じていた。
「ルミナス」
ぼんやり考え事をしていたが、アシルの発した言葉で我に返った。
「……?」
「……ルミナス、っていう名前は、どうだ?」
アシルは真剣に自分の瞳を見やっていた。名前一つ付けるのが、そんなに大事なことなのだろうかと思わなくもない。
自分にとって特別思い入れもなかった名前は、新しく名前を付けると言われてもどこか「あだ名」のようなものにしか思えなかったからだ。
今まで「あんた」とか「おまえ」と呼ばれていたものが名前に変わるだけだと、思っていた。
だがアシルにその名前を呼ばれた時、自分の心の中で何かあたたかい感情が生じた気がした。
その感情の名前は判らない。
名前など、所詮呼称でしかない。
ないはずなのに……アシルに「ルミナス」と呼ばれた時、初めて名前という呼称に関心が向いた。
「……どうだ?」
いつまでも反応を示さない自分に不安に不安を抱いたのか、おそるおそるという感じにアシルが再度問いかけをしてきた。
(ルミナス……私の名前? これからアシルたちに、そう呼んでもらえる……?)
そう感じた瞬間、胸の中がもっともっとあたたかくなっていき、無意識にこくりと頷いていた。
「良いのか?」
そう確かめるように問うアシルのバイオレットカラーの瞳がキラキラ輝いていた。
その瞳をいつまでも眺めていたい気持ちはあったが、気恥ずかしさから視線を逸らしながら頷いた。
「……ありがとう。じゃあ、よろしくな、ルミナス」
目を奪われたのは一瞬だった。一瞬だが、「ありがとう」と言ったアシルの表情に魅入ってしまった。
(そんな表情するんだ……)
名前は呼称であった。
感情は現象であった。
そんな呼称や現象に付く名前になど、今まで大して興味はなかった。ただ個別を判断する呼称でしかなかった。
なかったはずであったのに、アシルに名前を呼ばれた時から、自分の中で何かが変わった気がした。
そう。もう自分、ではないのだ。もう自分は『ルミナス』になったのだ。
(私は『ルミナス』……私の名前は、ルミナス)
天国で『生きる』というのは変だが、自分……ルミナスはこれからここで、アシルたちとともに『生きたい』と思った。
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