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8話
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(わ、私のせいで空気が悪くなっていく……!)
焦ったルミナスは、『いつものように』懸命に取り繕った。
「すみま、せん……。わ……たしは、だい……じょ、ぶですから」
それだけ告げれば、大丈夫なはずだった。
『いつものように』、これでみんな『ルミナスが悪い』と思って治まってくれるはずだった。
それなのに、何故かならなかった。
「いえ、ルミナスさんが謝ることじゃありません! いい加減アシルのオツムの足らない言動には一言言おうと思っていたんです。今日こそしっかり、話を聞きなさい!」
「ナインの言う通りです。ルミナスと会えてうれしい気持ちはわかりますが、それなら尚のコト、彼女を思いやってですね……!」
ナインとサーナが口々に文句を言いながらアシルを責めだした。
(え、え……? なん、なんで……? 私が悪いのに、なんでアシルを責めるの? 私が、私が責められないと)
だがルミナスが口を開く前に、アシルが折れてしまった。
「悪かったよ。ルミナスもいるわけだし、これからは、言動に気をつけるよ」
きまりが悪そうにそう答えるアシルを見て、サーナとナインはようやく溜飲が下がった様子を見せた。
「すみません、ルミナスさん。食事がそろそろ来ますから、先にフルーツを……ルミナスさん?」
「どうしたんですか、ルミナス?」
ナインとサーナは、ルミナスを見て困惑した様子を見せた。隣に座っていたアシルも呆気に取られた様子でルミナスを見てくる。
(え? なんでみんな私を見るの? 私なにかしちゃった? 私の顔が変とか?)
歪んでしまったのかと自分の顔に触れると、頬が濡れていた。どうやら自覚ないままに涙を流していたらしい。
「ご、ごめん……なさ、見苦しいものを……す、すぐに、止めますから……」
不快な思いをさせてしまう。怒られてしまう。
恐怖からまた身体が震えだす。
失望されたくなかった。
こんなに自分に優しくしてくれる人たちには、この人たちだけには、失望されたくなかった。
なのに……涙が止まってくれなかった。
乱暴に目元を拭おうとすると、まだ腕をマッサージしてくれていた毛玉たちが振り払われ、何匹か地面に落ちてしまった。
「ご、ごめ、ごめ……なさ……!!」
自分の身体を労わってくれた毛玉たちを振り払ってしまったことが申し訳なくて、ルミナスは慌てて席から立ち上がり、毛玉たちを掬いあげようとした。
だが立ち上がった時自分の足に力が入らず、そのまま体制を崩して、アシルとは反対側へ大きく身体を傾かせた。
(倒れる……!)
咄嗟にそう感じ、同時に安堵した。
(反対側であったらアシルを巻き込んでしまっていたから、自分一人だけが転ぶだけで済む)
と。
しかし、覚悟していた強い衝撃は訪れなかった。
自分を包むあたたかい感触に、ぎゅっと閉じた目を開くと、何故か反対側にいたはずのアシルがルミナスを支えて安堵のため息を吐いていた。
「あし……るさ……ん」
「大丈夫か、ルミナス?」
大丈夫か、はルミナスのセリフだと思った。
アシルはルミナスの下敷きになって、今床の上で尻餅をついているのだ。
怪我をさせてしまったのではないかと思うと、身体が冷え切っていくような感覚になった。
「ご、め、ごめんなさ……」
「謝らなくていいから。ルミナスが無事なら全然問題ないから」
安心させようとしたのか、優しい表情をしながらアシルはルミナスの頭を撫でながら、もう片方の手でルミナスの頬の涙を拭った。
「……ルミナスが笑顔になってくれたら、もっと嬉しいけどさ」
はじめてだった。
ルミナスは今までの人生で、自分が認められたことはおろか、こんな優しい言葉をかけられ、心配されたことなど一度もなかった。
自分がずっと欲しかった言葉をかけられ、優しく頭を撫でられ、ルミナスは呼吸が出来なくなるほど息苦しくなり、涙が止まらなくなった。
そんなルミナスの身体をアシルがやさしく抱きしめてくれる。
ルミナスの流した涙が、アシルのしっかりとした生地の服に染みこんでいく。
(あぁ……シミになっちゃう……!)
これ以上染みこんでしまう前に離れようとするが、アシルが腕の中にルミナスを閉じ込めたまま、解放しようとしてくれない。
まだ満足に声が出せる状況ではないため、ルミナスは「放してくれ」という言葉が出なかった。
もがいてみせるが、アシルは意外と筋肉があり、力では勝てそうにない。
「泣きたいだけ泣くと良い。いつでもオレが傍にいるから、いつだってこうやって胸を貸してやる。だから、泣きたくなったらオレに抱きつけ。全部受け止めてやる」
その言葉に、身体中のこわばりが解けていった。
苦しかった呼吸も穏やかになり、涙も収まってきた。
それでも……もう少しだけこのまま……このままでいたいと、生まれて初めて欲張りな感想を持った。
焦ったルミナスは、『いつものように』懸命に取り繕った。
「すみま、せん……。わ……たしは、だい……じょ、ぶですから」
それだけ告げれば、大丈夫なはずだった。
『いつものように』、これでみんな『ルミナスが悪い』と思って治まってくれるはずだった。
それなのに、何故かならなかった。
「いえ、ルミナスさんが謝ることじゃありません! いい加減アシルのオツムの足らない言動には一言言おうと思っていたんです。今日こそしっかり、話を聞きなさい!」
「ナインの言う通りです。ルミナスと会えてうれしい気持ちはわかりますが、それなら尚のコト、彼女を思いやってですね……!」
ナインとサーナが口々に文句を言いながらアシルを責めだした。
(え、え……? なん、なんで……? 私が悪いのに、なんでアシルを責めるの? 私が、私が責められないと)
だがルミナスが口を開く前に、アシルが折れてしまった。
「悪かったよ。ルミナスもいるわけだし、これからは、言動に気をつけるよ」
きまりが悪そうにそう答えるアシルを見て、サーナとナインはようやく溜飲が下がった様子を見せた。
「すみません、ルミナスさん。食事がそろそろ来ますから、先にフルーツを……ルミナスさん?」
「どうしたんですか、ルミナス?」
ナインとサーナは、ルミナスを見て困惑した様子を見せた。隣に座っていたアシルも呆気に取られた様子でルミナスを見てくる。
(え? なんでみんな私を見るの? 私なにかしちゃった? 私の顔が変とか?)
歪んでしまったのかと自分の顔に触れると、頬が濡れていた。どうやら自覚ないままに涙を流していたらしい。
「ご、ごめん……なさ、見苦しいものを……す、すぐに、止めますから……」
不快な思いをさせてしまう。怒られてしまう。
恐怖からまた身体が震えだす。
失望されたくなかった。
こんなに自分に優しくしてくれる人たちには、この人たちだけには、失望されたくなかった。
なのに……涙が止まってくれなかった。
乱暴に目元を拭おうとすると、まだ腕をマッサージしてくれていた毛玉たちが振り払われ、何匹か地面に落ちてしまった。
「ご、ごめ、ごめ……なさ……!!」
自分の身体を労わってくれた毛玉たちを振り払ってしまったことが申し訳なくて、ルミナスは慌てて席から立ち上がり、毛玉たちを掬いあげようとした。
だが立ち上がった時自分の足に力が入らず、そのまま体制を崩して、アシルとは反対側へ大きく身体を傾かせた。
(倒れる……!)
咄嗟にそう感じ、同時に安堵した。
(反対側であったらアシルを巻き込んでしまっていたから、自分一人だけが転ぶだけで済む)
と。
しかし、覚悟していた強い衝撃は訪れなかった。
自分を包むあたたかい感触に、ぎゅっと閉じた目を開くと、何故か反対側にいたはずのアシルがルミナスを支えて安堵のため息を吐いていた。
「あし……るさ……ん」
「大丈夫か、ルミナス?」
大丈夫か、はルミナスのセリフだと思った。
アシルはルミナスの下敷きになって、今床の上で尻餅をついているのだ。
怪我をさせてしまったのではないかと思うと、身体が冷え切っていくような感覚になった。
「ご、め、ごめんなさ……」
「謝らなくていいから。ルミナスが無事なら全然問題ないから」
安心させようとしたのか、優しい表情をしながらアシルはルミナスの頭を撫でながら、もう片方の手でルミナスの頬の涙を拭った。
「……ルミナスが笑顔になってくれたら、もっと嬉しいけどさ」
はじめてだった。
ルミナスは今までの人生で、自分が認められたことはおろか、こんな優しい言葉をかけられ、心配されたことなど一度もなかった。
自分がずっと欲しかった言葉をかけられ、優しく頭を撫でられ、ルミナスは呼吸が出来なくなるほど息苦しくなり、涙が止まらなくなった。
そんなルミナスの身体をアシルがやさしく抱きしめてくれる。
ルミナスの流した涙が、アシルのしっかりとした生地の服に染みこんでいく。
(あぁ……シミになっちゃう……!)
これ以上染みこんでしまう前に離れようとするが、アシルが腕の中にルミナスを閉じ込めたまま、解放しようとしてくれない。
まだ満足に声が出せる状況ではないため、ルミナスは「放してくれ」という言葉が出なかった。
もがいてみせるが、アシルは意外と筋肉があり、力では勝てそうにない。
「泣きたいだけ泣くと良い。いつでもオレが傍にいるから、いつだってこうやって胸を貸してやる。だから、泣きたくなったらオレに抱きつけ。全部受け止めてやる」
その言葉に、身体中のこわばりが解けていった。
苦しかった呼吸も穏やかになり、涙も収まってきた。
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