14 / 37
13話
しおりを挟む
変な問いをしてしまったから、三人とも何を言われたのか分からないといった感じで、きょとんとしていた。
しかし、ルミナスとしては自分が実は死ぬことが出来ていなかったかもしれないという事の重大性から、目を逸らすことも、話題を変えることも出来なかった。
アシルは何も言わず、いきなりルミナスの胸に手のひらを押し当てるように触ってきた。
「ひゃああァァァ?!」
驚いて後ろへのけ反りすぎて椅子から落ちそうになるが、アシルが腕をしっかり掴んでいたため、それは回避された。
(でもこれってつまり、私が後ろへひっくり返ることを分かっていたってこと?)
腑に落ちない気持ちはあるが、アシルが言葉を発したため、そんな気持ちも四散した。
「心臓動いているだろう?」
「……あ、え? あ……」
たしかに、アシルに胸を触られた恥ずかしさからか、椅子から落ちそうになった驚きからか、心臓がドクドク早い鼓動で鳴っていることに初めて気づいた。
「生きているって……こと?」
絶望感からそう問うと、アシルは眉間に皺を寄せた。
「……まるで生きていたことが嫌だったみたいな言い方だな?」
問われたが、返すことが出来ない。……その通りだったからだ。
死ぬことは悪いことだ。わかっている。わかっているが、こちらにも生存を絶望した理由があるのだ。
「……だ、って、生きているなら、また、また明日も会社に行かないといけないし……みんなだって、わた、私が生きていたら困るから……だか、ら、わた……私は……」
混乱しすぎて、自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
ただパニックになりながらも、アシルに自分が死ななくてはいけなかった理由を必死に説明していた。
彼は、何もかもを吸い込むような深さを感じる漆黒の瞳でルミナスを真剣に見つめ、じっと耳を傾けてくれていた。
そんな彼の漆黒の瞳を見つめながら話しているうちに、ルミナスの脳が冷静さを取り戻してきた。
冷静を取り戻してきたルミナスは、無意識にぽつりと積年の思いを吐露していた。
「……私は、死なないといけないくらい、悪いことしたのかな……」
気持ちとともに、涙がこぼれ出る。
(あぁ……また出ちゃった。出したら、みんなもっと困るし、もっと私のことを嫌いになるじゃん……。迷惑かけちゃう。なんで私、こんな弱いんだろう……)
拭うことをしなかった涙は眼からあふれ出し続けて、あふれ出した涙で目元に水たまりが出来て、視界がぼやけてしまっていた。
何も見えない。
何も見たくない。
自分が、まわりから蔑むような眼で見られている光景など。
しかしアシルが無情にもルミナスの目元に溜まった涙を指で拭い取ってしまった。
そのコトに心が傷ついていると、彼は真剣な声で語った。
「悪いことしたのなら、オレなんかとっくの昔に死ななくちゃいけねえな」
「……え?」
涙雫が拭われはっきり見えた世界で、アシルが弱弱しい表情で懸命に微笑もうとしていた。
「仮にルミナスが悪いことをしたからって、なんで死ななくちゃいけねえんだ? それに、ルミナスが死んだら、オレは悲しい」
そう言った彼の声が、少し震えていた。それは怒りからか、悲しみからか、その時のルミナスには判断が出来なかった。
それよりも、なんと返すべきかわからず口を開いては言葉が出ず、戸惑うコトしか出来ないほうが問題な気がした。
せいぜい出た言葉は、酷く間抜けで震えた声だった。
「な……んで……?」
訊ねられたアシルは目を瞬かせた。すると漆黒の瞳が緩やかに細められ、紅紫のような色の光が混じり和らいで見えた。
「なんで、って……?」
「な、で……私が死んだら、か、悲しいの……?」
聞いてはいけない質問のような気がする。
その質問は、聞いてはいけないような気がした。
けれど、もう口から出てしまっていた。
アシルの瞳から、また光が消えた。
漆黒の瞳は、どこか虚ろにも見える色を交えながら、ルミナスを見つめている。
「……好きだからだよ」
茶化すわけでも、嗤うわけでもない、真剣な声色に、ルミナスは言葉を失う。
真剣な彼の表情が、今の言葉を本気だと伝えていた。
「なんで、今、さっき会ったばかりの私なん、かを……?」
信じられるわけがないと、自分の心が拒む。
素直に受け止められない。
受け止められなかった。
受け止め方が、わからないからだ……。
生まれて18年間、一度も愛されたことなどなかった。
誰からも。一度も。
だから、アシルの気持ちを信じることも、その気持ちを受け止めることも出来なかった。
『拒絶』にも近い感情だった。
身体がガタガタと震える。
しかし、ルミナスとしては自分が実は死ぬことが出来ていなかったかもしれないという事の重大性から、目を逸らすことも、話題を変えることも出来なかった。
アシルは何も言わず、いきなりルミナスの胸に手のひらを押し当てるように触ってきた。
「ひゃああァァァ?!」
驚いて後ろへのけ反りすぎて椅子から落ちそうになるが、アシルが腕をしっかり掴んでいたため、それは回避された。
(でもこれってつまり、私が後ろへひっくり返ることを分かっていたってこと?)
腑に落ちない気持ちはあるが、アシルが言葉を発したため、そんな気持ちも四散した。
「心臓動いているだろう?」
「……あ、え? あ……」
たしかに、アシルに胸を触られた恥ずかしさからか、椅子から落ちそうになった驚きからか、心臓がドクドク早い鼓動で鳴っていることに初めて気づいた。
「生きているって……こと?」
絶望感からそう問うと、アシルは眉間に皺を寄せた。
「……まるで生きていたことが嫌だったみたいな言い方だな?」
問われたが、返すことが出来ない。……その通りだったからだ。
死ぬことは悪いことだ。わかっている。わかっているが、こちらにも生存を絶望した理由があるのだ。
「……だ、って、生きているなら、また、また明日も会社に行かないといけないし……みんなだって、わた、私が生きていたら困るから……だか、ら、わた……私は……」
混乱しすぎて、自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
ただパニックになりながらも、アシルに自分が死ななくてはいけなかった理由を必死に説明していた。
彼は、何もかもを吸い込むような深さを感じる漆黒の瞳でルミナスを真剣に見つめ、じっと耳を傾けてくれていた。
そんな彼の漆黒の瞳を見つめながら話しているうちに、ルミナスの脳が冷静さを取り戻してきた。
冷静を取り戻してきたルミナスは、無意識にぽつりと積年の思いを吐露していた。
「……私は、死なないといけないくらい、悪いことしたのかな……」
気持ちとともに、涙がこぼれ出る。
(あぁ……また出ちゃった。出したら、みんなもっと困るし、もっと私のことを嫌いになるじゃん……。迷惑かけちゃう。なんで私、こんな弱いんだろう……)
拭うことをしなかった涙は眼からあふれ出し続けて、あふれ出した涙で目元に水たまりが出来て、視界がぼやけてしまっていた。
何も見えない。
何も見たくない。
自分が、まわりから蔑むような眼で見られている光景など。
しかしアシルが無情にもルミナスの目元に溜まった涙を指で拭い取ってしまった。
そのコトに心が傷ついていると、彼は真剣な声で語った。
「悪いことしたのなら、オレなんかとっくの昔に死ななくちゃいけねえな」
「……え?」
涙雫が拭われはっきり見えた世界で、アシルが弱弱しい表情で懸命に微笑もうとしていた。
「仮にルミナスが悪いことをしたからって、なんで死ななくちゃいけねえんだ? それに、ルミナスが死んだら、オレは悲しい」
そう言った彼の声が、少し震えていた。それは怒りからか、悲しみからか、その時のルミナスには判断が出来なかった。
それよりも、なんと返すべきかわからず口を開いては言葉が出ず、戸惑うコトしか出来ないほうが問題な気がした。
せいぜい出た言葉は、酷く間抜けで震えた声だった。
「な……んで……?」
訊ねられたアシルは目を瞬かせた。すると漆黒の瞳が緩やかに細められ、紅紫のような色の光が混じり和らいで見えた。
「なんで、って……?」
「な、で……私が死んだら、か、悲しいの……?」
聞いてはいけない質問のような気がする。
その質問は、聞いてはいけないような気がした。
けれど、もう口から出てしまっていた。
アシルの瞳から、また光が消えた。
漆黒の瞳は、どこか虚ろにも見える色を交えながら、ルミナスを見つめている。
「……好きだからだよ」
茶化すわけでも、嗤うわけでもない、真剣な声色に、ルミナスは言葉を失う。
真剣な彼の表情が、今の言葉を本気だと伝えていた。
「なんで、今、さっき会ったばかりの私なん、かを……?」
信じられるわけがないと、自分の心が拒む。
素直に受け止められない。
受け止められなかった。
受け止め方が、わからないからだ……。
生まれて18年間、一度も愛されたことなどなかった。
誰からも。一度も。
だから、アシルの気持ちを信じることも、その気持ちを受け止めることも出来なかった。
『拒絶』にも近い感情だった。
身体がガタガタと震える。
0
あなたにおすすめの小説
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる