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16話
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「ミンク、ごちそうさん。美味かったぜ。また夕食もよろしくな」
アシルが優秀な調理人にそう礼を投げかければ、嬉しそうな笑顔が返ってくる。
それに微笑み返してから、食堂を出て、また長い廊下を歩く。
ルミナスの身体をマッサージする毛玉たちは、まだ腕や足に絡みついている。
「まあオレはあの時ちょっと自惚れたんだよ。もしかしたらオレのことを覚えていて、オレとお揃いにするために黒くしてくれたんじゃないかな、って」
「あなたのいた国は黒髪が主流だっただけなんでしょう?」
「そうだけど!」
ナインの指摘に苛立って返してしまう。
「もう、二人も久しぶりの再会じゃないですか! なんでそんなに喧嘩ばかりしているんですか!」
サーナが保護者のような言い方でアシルとナインをたしなめる。アシルたちはお互い顔を見合わせ、気まずい空気で顔を逸らせる。
「久しぶりに会ったのに、喧嘩する呼吸だけは完璧なんて、本当に仲が良いんですね!」
「嫌味か」
「やめてください、サーナさん」
アシルとナインはうんざりとした顔でため息を吐く。
とはいえ、仲が良いということは否定が出来ない、ナインとは昔から気が合う。気は合うが、喧嘩も絶えない。サーナも幼馴染で、彼女の存在がなかったらナインとはとっくに喧嘩別れをしていた自信がある。
それでも、お互いが嫌い合っているわけではない。互いがその存在を認め合っているから、この齢まで友だちをしている。なんだかんだ20年くらいの付き合いだ。
否、アシルが『あちらの世界』に行っていた期間を含めれば、少なくともアシルにとってはその倍ほどの年月信頼し合っていたことになる。
あの日、『ルミナス』は違法とされる『黒魔術』の術式で『こちら』の世界から『異世界』に飛ばされた。
アシルは異世界に飛ばされたルミナスを追いかけるため、サーナの魔術を借りて、自分を異世界に飛ばしてもらうことにした。
それは簡単なことではない。ただでさえ違法とされる術式な上、サーナ自身「自分の魔術の腕は未熟だから成功する保証はない」と拒んだが、アシルが「手段を択ばない」という姿勢を強く見せたため、結局根負けし、アシルを『ルミナス』のいる異世界へ送ることにした。
だがそれがサーナの言う『未熟な腕ゆえ』のコトなのか、アシルは『違う人間』に生まれ変わって異世界の地へ降りた。
そこは地球という星の日本という国で、アシルは一般家庭に普通の少年として生まれ、育った。
アシルもルミナスと同じように、世間から冷遇されて育っていた。おそらくこの世界がアシルとルミナスを『異質な存在』として拒んでいたのだろう。
だがアシルはそんな環境を少しも気にしていなかった。
アシルにとって幸運だったのは、『自分が何者か』知って生まれたことだった。おそらく、ルミナスにかけられた術式とは違い、サーナの組んだ術式が正規に則って組まれたものだからであろう。
だから『この世界にいるはずのルミナスを見つける』という信念で生きることが出来ていた。
しかし、元の世界の記憶があるための弊害もあった。
元の世界で通用したことのほとんどがこの世界では通用しない。
この世界では普通に刑法に当たることもたくさんした。サーナかナインにその話をしたら、「それは捕まるわ」と呆れられたことから、そこは別に異世界だからとかではないらしい。
しかし、魔法もない、武器も持たない、アシルの暮らしていた世界より勝手が違うことに不便は感じていたが、アシルの持つ順応性で乗り切っていた。
心知れた者が近くにいないことに、心細さを感じないと言えば嘘になる。
だからこそ一層、この世界にいるはずのルミナスの存在に固執した。
苦手な勉強も頑張った。不思議なことに言語は自分のいた世界と同じだったから、新たな言語を覚える手間は省けた。
この日本にいない可能性も考えたが、この『異世界』に送られる際にサーナが言った、「ルミナスの痕跡を追って送る」を信じて縋ることにした。
サーナは自身の魔術の腕を信用していないようだが、彼女の才は教会が認めるほどのものだ。アシルも同じくだ。
だからこの『日本』に限定して探すことに努めた。
6歳になるまでは生家で自主的な学びに勤しんだが、この世界の地理をだいたい把握した途端に家を飛び出し、学校に行くことなく、元の世界で得た商売の知識を活かして日銭を稼いでは全国を旅していた。
アシルが優秀な調理人にそう礼を投げかければ、嬉しそうな笑顔が返ってくる。
それに微笑み返してから、食堂を出て、また長い廊下を歩く。
ルミナスの身体をマッサージする毛玉たちは、まだ腕や足に絡みついている。
「まあオレはあの時ちょっと自惚れたんだよ。もしかしたらオレのことを覚えていて、オレとお揃いにするために黒くしてくれたんじゃないかな、って」
「あなたのいた国は黒髪が主流だっただけなんでしょう?」
「そうだけど!」
ナインの指摘に苛立って返してしまう。
「もう、二人も久しぶりの再会じゃないですか! なんでそんなに喧嘩ばかりしているんですか!」
サーナが保護者のような言い方でアシルとナインをたしなめる。アシルたちはお互い顔を見合わせ、気まずい空気で顔を逸らせる。
「久しぶりに会ったのに、喧嘩する呼吸だけは完璧なんて、本当に仲が良いんですね!」
「嫌味か」
「やめてください、サーナさん」
アシルとナインはうんざりとした顔でため息を吐く。
とはいえ、仲が良いということは否定が出来ない、ナインとは昔から気が合う。気は合うが、喧嘩も絶えない。サーナも幼馴染で、彼女の存在がなかったらナインとはとっくに喧嘩別れをしていた自信がある。
それでも、お互いが嫌い合っているわけではない。互いがその存在を認め合っているから、この齢まで友だちをしている。なんだかんだ20年くらいの付き合いだ。
否、アシルが『あちらの世界』に行っていた期間を含めれば、少なくともアシルにとってはその倍ほどの年月信頼し合っていたことになる。
あの日、『ルミナス』は違法とされる『黒魔術』の術式で『こちら』の世界から『異世界』に飛ばされた。
アシルは異世界に飛ばされたルミナスを追いかけるため、サーナの魔術を借りて、自分を異世界に飛ばしてもらうことにした。
それは簡単なことではない。ただでさえ違法とされる術式な上、サーナ自身「自分の魔術の腕は未熟だから成功する保証はない」と拒んだが、アシルが「手段を択ばない」という姿勢を強く見せたため、結局根負けし、アシルを『ルミナス』のいる異世界へ送ることにした。
だがそれがサーナの言う『未熟な腕ゆえ』のコトなのか、アシルは『違う人間』に生まれ変わって異世界の地へ降りた。
そこは地球という星の日本という国で、アシルは一般家庭に普通の少年として生まれ、育った。
アシルもルミナスと同じように、世間から冷遇されて育っていた。おそらくこの世界がアシルとルミナスを『異質な存在』として拒んでいたのだろう。
だがアシルはそんな環境を少しも気にしていなかった。
アシルにとって幸運だったのは、『自分が何者か』知って生まれたことだった。おそらく、ルミナスにかけられた術式とは違い、サーナの組んだ術式が正規に則って組まれたものだからであろう。
だから『この世界にいるはずのルミナスを見つける』という信念で生きることが出来ていた。
しかし、元の世界の記憶があるための弊害もあった。
元の世界で通用したことのほとんどがこの世界では通用しない。
この世界では普通に刑法に当たることもたくさんした。サーナかナインにその話をしたら、「それは捕まるわ」と呆れられたことから、そこは別に異世界だからとかではないらしい。
しかし、魔法もない、武器も持たない、アシルの暮らしていた世界より勝手が違うことに不便は感じていたが、アシルの持つ順応性で乗り切っていた。
心知れた者が近くにいないことに、心細さを感じないと言えば嘘になる。
だからこそ一層、この世界にいるはずのルミナスの存在に固執した。
苦手な勉強も頑張った。不思議なことに言語は自分のいた世界と同じだったから、新たな言語を覚える手間は省けた。
この日本にいない可能性も考えたが、この『異世界』に送られる際にサーナが言った、「ルミナスの痕跡を追って送る」を信じて縋ることにした。
サーナは自身の魔術の腕を信用していないようだが、彼女の才は教会が認めるほどのものだ。アシルも同じくだ。
だからこの『日本』に限定して探すことに努めた。
6歳になるまでは生家で自主的な学びに勤しんだが、この世界の地理をだいたい把握した途端に家を飛び出し、学校に行くことなく、元の世界で得た商売の知識を活かして日銭を稼いでは全国を旅していた。
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