(休載中)自殺したはずが何故か溺愛されまくる生活を送っております

rifa

文字の大きさ
17 / 37

16話

しおりを挟む
「ミンク、ごちそうさん。美味かったぜ。また夕食もよろしくな」
 アシルが優秀な調理人にそう礼を投げかければ、嬉しそうな笑顔が返ってくる。
 それに微笑み返してから、食堂を出て、また長い廊下を歩く。
 ルミナスの身体をマッサージする毛玉たちは、まだ腕や足に絡みついている。
「まあオレはあの時ちょっと自惚れたんだよ。もしかしたらオレのことを覚えていて、オレとお揃いにするために黒くしてくれたんじゃないかな、って」
「あなたのいた国は黒髪が主流だっただけなんでしょう?」
「そうだけど!」
 ナインの指摘に苛立って返してしまう。
「もう、二人も久しぶりの再会じゃないですか! なんでそんなに喧嘩ばかりしているんですか!」
 サーナが保護者のような言い方でアシルとナインをたしなめる。アシルたちはお互い顔を見合わせ、気まずい空気で顔を逸らせる。
「久しぶりに会ったのに、喧嘩する呼吸だけは完璧なんて、本当に仲が良いんですね!」
「嫌味か」
「やめてください、サーナさん」
 アシルとナインはうんざりとした顔でため息を吐く。
 とはいえ、仲が良いということは否定が出来ない、ナインとは昔から気が合う。気は合うが、喧嘩も絶えない。サーナも幼馴染で、彼女の存在がなかったらナインとはとっくに喧嘩別れをしていた自信がある。
 それでも、お互いが嫌い合っているわけではない。互いがその存在を認め合っているから、この齢まで友だちをしている。なんだかんだ20年くらいの付き合いだ。
 否、アシルが『あちらの世界』に行っていた期間を含めれば、少なくともアシルにとってはその倍ほどの年月信頼し合っていたことになる。


 あの日、『ルミナス』は違法とされる『黒魔術』の術式で『こちら』の世界から『異世界』に飛ばされた。
 アシルは異世界に飛ばされたルミナスを追いかけるため、サーナの魔術を借りて、自分を異世界に飛ばしてもらうことにした。
 それは簡単なことではない。ただでさえ違法とされる術式な上、サーナ自身「自分の魔術の腕は未熟だから成功する保証はない」と拒んだが、アシルが「手段を択ばない」という姿勢を強く見せたため、結局根負けし、アシルを『ルミナス』のいる異世界へ送ることにした。

 だがそれがサーナの言う『未熟な腕ゆえ』のコトなのか、アシルは『違う人間』に生まれ変わって異世界の地へ降りた。
 そこは地球という星の日本という国で、アシルは一般家庭に普通の少年として生まれ、育った。
 アシルもルミナスと同じように、世間から冷遇されて育っていた。おそらくこの世界がアシルとルミナスを『異質な存在』として拒んでいたのだろう。
 だがアシルはそんな環境を少しも気にしていなかった。
 アシルにとって幸運だったのは、『自分が何者か』知って生まれたことだった。おそらく、ルミナスにかけられた術式とは違い、サーナの組んだ術式が正規に則って組まれたものだからであろう。
 だから『この世界にいるはずのルミナスを見つける』という信念で生きることが出来ていた。
 しかし、元の世界の記憶があるための弊害もあった。
 元の世界で通用したことのほとんどがこの世界では通用しない。
 この世界では普通に刑法に当たることもたくさんした。サーナかナインにその話をしたら、「それは捕まるわ」と呆れられたことから、そこは別に異世界だからとかではないらしい。
 しかし、魔法もない、武器も持たない、アシルの暮らしていた世界より勝手が違うことに不便は感じていたが、アシルの持つ順応性で乗り切っていた。

 心知れた者が近くにいないことに、心細さを感じないと言えば嘘になる。
 だからこそ一層、この世界にいるはずのルミナスの存在に固執した。
 苦手な勉強も頑張った。不思議なことに言語は自分のいた世界と同じだったから、新たな言語を覚える手間は省けた。
 この日本にいない可能性も考えたが、この『異世界』に送られる際にサーナが言った、「ルミナスの痕跡を追って送る」を信じて縋ることにした。
 サーナは自身の魔術の腕を信用していないようだが、彼女の才は教会が認めるほどのものだ。アシルも同じくだ。
 だからこの『日本』に限定して探すことに努めた。
 6歳になるまでは生家で自主的な学びに勤しんだが、この世界の地理をだいたい把握した途端に家を飛び出し、学校に行くことなく、元の世界で得た商売の知識を活かして日銭を稼いでは全国を旅していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

ダメンズな彼から離れようとしたら、なんか執着されたお話

下菊みこと
恋愛
ソフトヤンデレに捕まるお話。 あるいはダメンズが努力の末スパダリになるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

愛があれば、何をしてもいいとでも?

篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。 何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。 生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。 「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」 過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。 まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。

処理中です...