18 / 37
17話
しおりを挟む
ただ誤算だったのが、場所は合っていたが、異世界に『飛ばされた』時期に差異があったのだ。
ルミナスがこの異世界に生を成したのは『アシルが生まれてから数年後』であった。
その可能性に気づいたのは15の時だった。もう全国を回ってしまった後だ。
「どうりで見つからないわけだ……」
そう弱音を吐いたが、諦めるわけもなかった。
この頃になると、すっかりこの世界にも慣れてきた。相変わらず冷遇はされていても、しょせん人間だ。人間である以上、自分の欲望に抗える人間はそんなにいない。アシルはそこを巧みに利用して小金を稼ぎ、情報を得て、地道にルミナスを探し続けた。
姿を見ればわかる。残念ながら、これ以外に手掛かりはなかった。ルミナスはおそらく『ルミナス』という名前で生きてはいないだろうと思っていたからだ。
アシルもこの日本での名前を持っていたが、その名前を使うことは一度もなかった。幸いなことに家族には「おい」とか「お前」とか呼ばれていたから、自分が『アシルである』ことを忘れずに済んでいた。
ただ、アシルの容姿が変わっていなかったのだ。
だから、もしかしたらルミナスも容姿は変わっていないかもしれない。それに賭けた。
そしてそれは半分当たっていた。
ルミナスの顔の作りと背丈と体型は元の世界と同じだが、髪の色と瞳の色が、この世界に順応するように変わっていたのだ。
ルミナスを見つけたあの日、廃ビルに入って行く彼女を見つけてはじめて知ったことだったが。
アシルたちがいた世界のルミナスは、綺麗な夕焼け色をしていた。そして、瞳は晴れた日のスカイブルーの色をしていた。
まるで昼と夜が混ざり合うような彼女の色を、アシルはよく眩しそうに見つめていた。
対してアシルは夜の色だ。髪は漆黒、瞳もバイオレットカラー。ルミナスとはまるで対照的だ。
それをルミナスは「素敵だと思う」と言ってくれた。お互いに無いものに惹かれあっていたのかもしれない。
だがこの世界のルミナスは、真っ黒な髪を一つにお団子ヘアでまとめて、濃い茶色の瞳を曇らせ、生気のない面持ちで廃ビルへ入って行った。
その時はルミナスを見つけることが出来た喜びと嬉しさで、そんな面持ちをした人間がひと気のない廃ビルへ入って行くということがどういう事か、考えることを怠っていた。
我に返った時彼女はすでにビルの中へ入っていて、アシルも慌てて後を追ってビルへ入った。
これも幸いと言うべきか、日本へ来る直前の二人の年齢はともに22だった。ルミナスはそれより少し若いが、ともに当時と大差ない見た目をしていた。
とくにアシルは、当時と大差ない背格好をしている。生まれた時は短かった髪も、ルミナスが気づきやすくするよう伸ばして、元の世界と同じ長さにまでした。
(いきなり話しかけたら驚かせるかな。でも、はやく話したい。はやく抱きしめたい。はやく……会いたい)
そんなことを考えながら、足場の悪い階段を歩いていたから、屋上に着くのが少し遅れてしまった。
アシルが屋上に着いた時、彼女はもう屋上の端に立ち、身を投げようとしていた。
その光景を目にした刹那、アシルは考えるより先にそちらへ駆けだしており、彼女が身を投げ出してから少し遅れたが、勢いをつけて自分も飛び降りた。
この世の何も目に映していないような彼女の茶色の瞳に、うっすら青空のような色が滲みだしていたのを、確かに見た。
それが嬉しくて、アシルはその身体を自分の方へ抱き寄せ、安堵した。
やっと。
『見つけた……』
そして、落下する直前で、この世界に来る前にサーナに教わっていた術式を展開した。
帰還の魔法陣を、空中に展開させたのだ。
魔法など得意ではないアシルが付け焼刃で学んだ術式だったためか、元の世界に帰る時空を通る際、アシルの身体もルミナスの身体も酷く『損傷』してしまったのだ。
帰還してから一週間ほどして、ルミナスは一度を覚ました。
「ここはどこ? あなたたちはだれ?」
アシルたちを見てそう呟いたルミナスの言葉で察した。
彼女は何も覚えていないのだ、と。
そもそも、いつから覚えていなかったのだろうか。
自分たちがいた『異世界』に生まれた時点で忘れていたのか。それとも、こちらに来る際、身体を損傷しただけではなく記憶にも影響が出たのだろうか。
そしてそれからまた一か月ほど、ルミナスは眠り続けた。
アシル以上に損傷が激しかったようだ。
癒しの魔物である白い毛玉たちにルミナスの身体をマッサージしてもらい、内部の損傷はサーナが毎日治癒してくれた。
ルミナスがこの異世界に生を成したのは『アシルが生まれてから数年後』であった。
その可能性に気づいたのは15の時だった。もう全国を回ってしまった後だ。
「どうりで見つからないわけだ……」
そう弱音を吐いたが、諦めるわけもなかった。
この頃になると、すっかりこの世界にも慣れてきた。相変わらず冷遇はされていても、しょせん人間だ。人間である以上、自分の欲望に抗える人間はそんなにいない。アシルはそこを巧みに利用して小金を稼ぎ、情報を得て、地道にルミナスを探し続けた。
姿を見ればわかる。残念ながら、これ以外に手掛かりはなかった。ルミナスはおそらく『ルミナス』という名前で生きてはいないだろうと思っていたからだ。
アシルもこの日本での名前を持っていたが、その名前を使うことは一度もなかった。幸いなことに家族には「おい」とか「お前」とか呼ばれていたから、自分が『アシルである』ことを忘れずに済んでいた。
ただ、アシルの容姿が変わっていなかったのだ。
だから、もしかしたらルミナスも容姿は変わっていないかもしれない。それに賭けた。
そしてそれは半分当たっていた。
ルミナスの顔の作りと背丈と体型は元の世界と同じだが、髪の色と瞳の色が、この世界に順応するように変わっていたのだ。
ルミナスを見つけたあの日、廃ビルに入って行く彼女を見つけてはじめて知ったことだったが。
アシルたちがいた世界のルミナスは、綺麗な夕焼け色をしていた。そして、瞳は晴れた日のスカイブルーの色をしていた。
まるで昼と夜が混ざり合うような彼女の色を、アシルはよく眩しそうに見つめていた。
対してアシルは夜の色だ。髪は漆黒、瞳もバイオレットカラー。ルミナスとはまるで対照的だ。
それをルミナスは「素敵だと思う」と言ってくれた。お互いに無いものに惹かれあっていたのかもしれない。
だがこの世界のルミナスは、真っ黒な髪を一つにお団子ヘアでまとめて、濃い茶色の瞳を曇らせ、生気のない面持ちで廃ビルへ入って行った。
その時はルミナスを見つけることが出来た喜びと嬉しさで、そんな面持ちをした人間がひと気のない廃ビルへ入って行くということがどういう事か、考えることを怠っていた。
我に返った時彼女はすでにビルの中へ入っていて、アシルも慌てて後を追ってビルへ入った。
これも幸いと言うべきか、日本へ来る直前の二人の年齢はともに22だった。ルミナスはそれより少し若いが、ともに当時と大差ない見た目をしていた。
とくにアシルは、当時と大差ない背格好をしている。生まれた時は短かった髪も、ルミナスが気づきやすくするよう伸ばして、元の世界と同じ長さにまでした。
(いきなり話しかけたら驚かせるかな。でも、はやく話したい。はやく抱きしめたい。はやく……会いたい)
そんなことを考えながら、足場の悪い階段を歩いていたから、屋上に着くのが少し遅れてしまった。
アシルが屋上に着いた時、彼女はもう屋上の端に立ち、身を投げようとしていた。
その光景を目にした刹那、アシルは考えるより先にそちらへ駆けだしており、彼女が身を投げ出してから少し遅れたが、勢いをつけて自分も飛び降りた。
この世の何も目に映していないような彼女の茶色の瞳に、うっすら青空のような色が滲みだしていたのを、確かに見た。
それが嬉しくて、アシルはその身体を自分の方へ抱き寄せ、安堵した。
やっと。
『見つけた……』
そして、落下する直前で、この世界に来る前にサーナに教わっていた術式を展開した。
帰還の魔法陣を、空中に展開させたのだ。
魔法など得意ではないアシルが付け焼刃で学んだ術式だったためか、元の世界に帰る時空を通る際、アシルの身体もルミナスの身体も酷く『損傷』してしまったのだ。
帰還してから一週間ほどして、ルミナスは一度を覚ました。
「ここはどこ? あなたたちはだれ?」
アシルたちを見てそう呟いたルミナスの言葉で察した。
彼女は何も覚えていないのだ、と。
そもそも、いつから覚えていなかったのだろうか。
自分たちがいた『異世界』に生まれた時点で忘れていたのか。それとも、こちらに来る際、身体を損傷しただけではなく記憶にも影響が出たのだろうか。
そしてそれからまた一か月ほど、ルミナスは眠り続けた。
アシル以上に損傷が激しかったようだ。
癒しの魔物である白い毛玉たちにルミナスの身体をマッサージしてもらい、内部の損傷はサーナが毎日治癒してくれた。
0
あなたにおすすめの小説
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる