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17話
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ただ誤算だったのが、場所は合っていたが、異世界に『飛ばされた』時期に差異があったのだ。
ルミナスがこの異世界に生を成したのは『アシルが生まれてから数年後』であった。
その可能性に気づいたのは15の時だった。もう全国を回ってしまった後だ。
「どうりで見つからないわけだ……」
そう弱音を吐いたが、諦めるわけもなかった。
この頃になると、すっかりこの世界にも慣れてきた。相変わらず冷遇はされていても、しょせん人間だ。人間である以上、自分の欲望に抗える人間はそんなにいない。アシルはそこを巧みに利用して小金を稼ぎ、情報を得て、地道にルミナスを探し続けた。
姿を見ればわかる。残念ながら、これ以外に手掛かりはなかった。ルミナスはおそらく『ルミナス』という名前で生きてはいないだろうと思っていたからだ。
アシルもこの日本での名前を持っていたが、その名前を使うことは一度もなかった。幸いなことに家族には「おい」とか「お前」とか呼ばれていたから、自分が『アシルである』ことを忘れずに済んでいた。
ただ、アシルの容姿が変わっていなかったのだ。
だから、もしかしたらルミナスも容姿は変わっていないかもしれない。それに賭けた。
そしてそれは半分当たっていた。
ルミナスの顔の作りと背丈と体型は元の世界と同じだが、髪の色と瞳の色が、この世界に順応するように変わっていたのだ。
ルミナスを見つけたあの日、廃ビルに入って行く彼女を見つけてはじめて知ったことだったが。
アシルたちがいた世界のルミナスは、綺麗な夕焼け色をしていた。そして、瞳は晴れた日のスカイブルーの色をしていた。
まるで昼と夜が混ざり合うような彼女の色を、アシルはよく眩しそうに見つめていた。
対してアシルは夜の色だ。髪は漆黒、瞳もバイオレットカラー。ルミナスとはまるで対照的だ。
それをルミナスは「素敵だと思う」と言ってくれた。お互いに無いものに惹かれあっていたのかもしれない。
だがこの世界のルミナスは、真っ黒な髪を一つにお団子ヘアでまとめて、濃い茶色の瞳を曇らせ、生気のない面持ちで廃ビルへ入って行った。
その時はルミナスを見つけることが出来た喜びと嬉しさで、そんな面持ちをした人間がひと気のない廃ビルへ入って行くということがどういう事か、考えることを怠っていた。
我に返った時彼女はすでにビルの中へ入っていて、アシルも慌てて後を追ってビルへ入った。
これも幸いと言うべきか、日本へ来る直前の二人の年齢はともに22だった。ルミナスはそれより少し若いが、ともに当時と大差ない見た目をしていた。
とくにアシルは、当時と大差ない背格好をしている。生まれた時は短かった髪も、ルミナスが気づきやすくするよう伸ばして、元の世界と同じ長さにまでした。
(いきなり話しかけたら驚かせるかな。でも、はやく話したい。はやく抱きしめたい。はやく……会いたい)
そんなことを考えながら、足場の悪い階段を歩いていたから、屋上に着くのが少し遅れてしまった。
アシルが屋上に着いた時、彼女はもう屋上の端に立ち、身を投げようとしていた。
その光景を目にした刹那、アシルは考えるより先にそちらへ駆けだしており、彼女が身を投げ出してから少し遅れたが、勢いをつけて自分も飛び降りた。
この世の何も目に映していないような彼女の茶色の瞳に、うっすら青空のような色が滲みだしていたのを、確かに見た。
それが嬉しくて、アシルはその身体を自分の方へ抱き寄せ、安堵した。
やっと。
『見つけた……』
そして、落下する直前で、この世界に来る前にサーナに教わっていた術式を展開した。
帰還の魔法陣を、空中に展開させたのだ。
魔法など得意ではないアシルが付け焼刃で学んだ術式だったためか、元の世界に帰る時空を通る際、アシルの身体もルミナスの身体も酷く『損傷』してしまったのだ。
帰還してから一週間ほどして、ルミナスは一度を覚ました。
「ここはどこ? あなたたちはだれ?」
アシルたちを見てそう呟いたルミナスの言葉で察した。
彼女は何も覚えていないのだ、と。
そもそも、いつから覚えていなかったのだろうか。
自分たちがいた『異世界』に生まれた時点で忘れていたのか。それとも、こちらに来る際、身体を損傷しただけではなく記憶にも影響が出たのだろうか。
そしてそれからまた一か月ほど、ルミナスは眠り続けた。
アシル以上に損傷が激しかったようだ。
癒しの魔物である白い毛玉たちにルミナスの身体をマッサージしてもらい、内部の損傷はサーナが毎日治癒してくれた。
ルミナスがこの異世界に生を成したのは『アシルが生まれてから数年後』であった。
その可能性に気づいたのは15の時だった。もう全国を回ってしまった後だ。
「どうりで見つからないわけだ……」
そう弱音を吐いたが、諦めるわけもなかった。
この頃になると、すっかりこの世界にも慣れてきた。相変わらず冷遇はされていても、しょせん人間だ。人間である以上、自分の欲望に抗える人間はそんなにいない。アシルはそこを巧みに利用して小金を稼ぎ、情報を得て、地道にルミナスを探し続けた。
姿を見ればわかる。残念ながら、これ以外に手掛かりはなかった。ルミナスはおそらく『ルミナス』という名前で生きてはいないだろうと思っていたからだ。
アシルもこの日本での名前を持っていたが、その名前を使うことは一度もなかった。幸いなことに家族には「おい」とか「お前」とか呼ばれていたから、自分が『アシルである』ことを忘れずに済んでいた。
ただ、アシルの容姿が変わっていなかったのだ。
だから、もしかしたらルミナスも容姿は変わっていないかもしれない。それに賭けた。
そしてそれは半分当たっていた。
ルミナスの顔の作りと背丈と体型は元の世界と同じだが、髪の色と瞳の色が、この世界に順応するように変わっていたのだ。
ルミナスを見つけたあの日、廃ビルに入って行く彼女を見つけてはじめて知ったことだったが。
アシルたちがいた世界のルミナスは、綺麗な夕焼け色をしていた。そして、瞳は晴れた日のスカイブルーの色をしていた。
まるで昼と夜が混ざり合うような彼女の色を、アシルはよく眩しそうに見つめていた。
対してアシルは夜の色だ。髪は漆黒、瞳もバイオレットカラー。ルミナスとはまるで対照的だ。
それをルミナスは「素敵だと思う」と言ってくれた。お互いに無いものに惹かれあっていたのかもしれない。
だがこの世界のルミナスは、真っ黒な髪を一つにお団子ヘアでまとめて、濃い茶色の瞳を曇らせ、生気のない面持ちで廃ビルへ入って行った。
その時はルミナスを見つけることが出来た喜びと嬉しさで、そんな面持ちをした人間がひと気のない廃ビルへ入って行くということがどういう事か、考えることを怠っていた。
我に返った時彼女はすでにビルの中へ入っていて、アシルも慌てて後を追ってビルへ入った。
これも幸いと言うべきか、日本へ来る直前の二人の年齢はともに22だった。ルミナスはそれより少し若いが、ともに当時と大差ない見た目をしていた。
とくにアシルは、当時と大差ない背格好をしている。生まれた時は短かった髪も、ルミナスが気づきやすくするよう伸ばして、元の世界と同じ長さにまでした。
(いきなり話しかけたら驚かせるかな。でも、はやく話したい。はやく抱きしめたい。はやく……会いたい)
そんなことを考えながら、足場の悪い階段を歩いていたから、屋上に着くのが少し遅れてしまった。
アシルが屋上に着いた時、彼女はもう屋上の端に立ち、身を投げようとしていた。
その光景を目にした刹那、アシルは考えるより先にそちらへ駆けだしており、彼女が身を投げ出してから少し遅れたが、勢いをつけて自分も飛び降りた。
この世の何も目に映していないような彼女の茶色の瞳に、うっすら青空のような色が滲みだしていたのを、確かに見た。
それが嬉しくて、アシルはその身体を自分の方へ抱き寄せ、安堵した。
やっと。
『見つけた……』
そして、落下する直前で、この世界に来る前にサーナに教わっていた術式を展開した。
帰還の魔法陣を、空中に展開させたのだ。
魔法など得意ではないアシルが付け焼刃で学んだ術式だったためか、元の世界に帰る時空を通る際、アシルの身体もルミナスの身体も酷く『損傷』してしまったのだ。
帰還してから一週間ほどして、ルミナスは一度を覚ました。
「ここはどこ? あなたたちはだれ?」
アシルたちを見てそう呟いたルミナスの言葉で察した。
彼女は何も覚えていないのだ、と。
そもそも、いつから覚えていなかったのだろうか。
自分たちがいた『異世界』に生まれた時点で忘れていたのか。それとも、こちらに来る際、身体を損傷しただけではなく記憶にも影響が出たのだろうか。
そしてそれからまた一か月ほど、ルミナスは眠り続けた。
アシル以上に損傷が激しかったようだ。
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