22 / 37
21話
しおりを挟む
「じゃあ、二度寝すっか」
アシルはあくび交じりにそう言うと、ルミナスの身体を抱きしめたまま、また柔らかいシーツの上に横たわった。
強制的に一緒に横たわることになったルミナスは、また悲鳴じみた声をあげる。
「なんだよ、耳元で叫ぶなって……寝不足にひびく……」
そう告げられ、気遣いながら声のボリュームを落としながら、先ほどからの問いを再度投げかけた。
「なんだよって、なんで、なんで私が一緒に寝ているんで……ていうかなんで……アシルは裸で、私は仕事に行かないといけないの……に!?」
混乱しながら問いを投げかけまくっていると、アシルが眼を細めながらルミナスの後頭部を厚い胸板に押し付けるように抱きしめてきた。
「???!!!!!????」
困惑しているルミナスに寝ぼけた声で、しかしアシルは逐一返答してくれた。
「オレは、寝るときは脱いでるんだ……なんか着ていると落ち着かねえっていうか……あっちの世界では、いちおう着ていたけど……。あとお前の仕事は……とりあえず今日は休みだから、あんしんして寝ていろ……」
「だ、だからって、なんで私が一緒に寝て……」
「お前と離れたくないから……一緒に、いたくて」
アシルの言葉がたどたどしくなるにつれ、自分の後頭部を抱きしめていた腕の力が弱まっていく。
そこで思い切って彼の腕から逃れて身体を起こした。
ルミナスの顔を見たアシルは、幸せそうに顔を蕩かせて、瞼を閉じるその時までずっとやさしさを孕んだバイオレットの瞳でルミナスを眺め続けていた。
彼が瞼を閉じて、こてんと顔を傾かせてから安らかな寝息を立て始めた。
あっという間に深い眠りについた彼の、眠る前に浴びた柔らかい視線を思い出し、熱を帯びていく自分の顔を鎮めようとシーツに突っ伏す。
(……見なきゃよかった)
自分の心臓が、まるでどうかしてしまったようだ。
息が苦しい。
アシルが傍にいると、とても苦しくなって仕方がない。
今までどんなに周りから冷たい視線を浴びても、嫌なことを言われても、 こんな気持ちになったことはなかった。
(まるで……自分が自分ではなくなったようだ……。それなのに、アシルに問われた言葉が、どうしてか嬉しいと感じてしまう)
どうかしてしまったのだ、と自分を責めていると、アシルが手を彷徨わせながら「ルミナスぅ……」と寝ぼけた声で自分を呼んだ。
(寝言……? 私の夢を見ているの?)
「どこだ……。ルミナス……ルミナス……」
自分の名を呼ぶその声が、どんどん乏しくなっていくような気がした。
ルイナスも、先ほど自分が見ていた夢を思い出す。
(アシルも夢の中で、ひとりぼっちなのかな……)
独りぼっちの中、何故か自分を求めているということが気になった。
(会ったばかりの私を、どうしてそんなに求めるのかな……)
本当に独りぼっちの自分と違いって、アシルの傍には、親しそうに話すサーナやナインやミンクがいる。
それなのに、どうして昨日話したばかりのルミナスに優しくするのだろうと、それが気になった。
(仲良くなろうとしてくれているのかな……?)
今まで、自分と親しくなろうと存在は一人もいなかった。
だから今更仲良くしてくれようとする存在をありがたく思いつつ、しかし接し方がわからず戸惑ってしまうのだ。
「ルミナス……」
ただ、このさまよう手を、放っておきたくないと思った。
空をさまようアシルの手を両手で握りしめながら「ここにいるよ」と耳元で囁いた。
「……ルミナス」
アシルの表情が、安堵からか喜びからか、和らいでいくのがわかった。
どんな理由かはわからないけれど、彼が本当に自分を求めてくれているのだなと思うと、それを嬉しいと感じる自分の心に気づいた。
アシルはあくび交じりにそう言うと、ルミナスの身体を抱きしめたまま、また柔らかいシーツの上に横たわった。
強制的に一緒に横たわることになったルミナスは、また悲鳴じみた声をあげる。
「なんだよ、耳元で叫ぶなって……寝不足にひびく……」
そう告げられ、気遣いながら声のボリュームを落としながら、先ほどからの問いを再度投げかけた。
「なんだよって、なんで、なんで私が一緒に寝ているんで……ていうかなんで……アシルは裸で、私は仕事に行かないといけないの……に!?」
混乱しながら問いを投げかけまくっていると、アシルが眼を細めながらルミナスの後頭部を厚い胸板に押し付けるように抱きしめてきた。
「???!!!!!????」
困惑しているルミナスに寝ぼけた声で、しかしアシルは逐一返答してくれた。
「オレは、寝るときは脱いでるんだ……なんか着ていると落ち着かねえっていうか……あっちの世界では、いちおう着ていたけど……。あとお前の仕事は……とりあえず今日は休みだから、あんしんして寝ていろ……」
「だ、だからって、なんで私が一緒に寝て……」
「お前と離れたくないから……一緒に、いたくて」
アシルの言葉がたどたどしくなるにつれ、自分の後頭部を抱きしめていた腕の力が弱まっていく。
そこで思い切って彼の腕から逃れて身体を起こした。
ルミナスの顔を見たアシルは、幸せそうに顔を蕩かせて、瞼を閉じるその時までずっとやさしさを孕んだバイオレットの瞳でルミナスを眺め続けていた。
彼が瞼を閉じて、こてんと顔を傾かせてから安らかな寝息を立て始めた。
あっという間に深い眠りについた彼の、眠る前に浴びた柔らかい視線を思い出し、熱を帯びていく自分の顔を鎮めようとシーツに突っ伏す。
(……見なきゃよかった)
自分の心臓が、まるでどうかしてしまったようだ。
息が苦しい。
アシルが傍にいると、とても苦しくなって仕方がない。
今までどんなに周りから冷たい視線を浴びても、嫌なことを言われても、 こんな気持ちになったことはなかった。
(まるで……自分が自分ではなくなったようだ……。それなのに、アシルに問われた言葉が、どうしてか嬉しいと感じてしまう)
どうかしてしまったのだ、と自分を責めていると、アシルが手を彷徨わせながら「ルミナスぅ……」と寝ぼけた声で自分を呼んだ。
(寝言……? 私の夢を見ているの?)
「どこだ……。ルミナス……ルミナス……」
自分の名を呼ぶその声が、どんどん乏しくなっていくような気がした。
ルイナスも、先ほど自分が見ていた夢を思い出す。
(アシルも夢の中で、ひとりぼっちなのかな……)
独りぼっちの中、何故か自分を求めているということが気になった。
(会ったばかりの私を、どうしてそんなに求めるのかな……)
本当に独りぼっちの自分と違いって、アシルの傍には、親しそうに話すサーナやナインやミンクがいる。
それなのに、どうして昨日話したばかりのルミナスに優しくするのだろうと、それが気になった。
(仲良くなろうとしてくれているのかな……?)
今まで、自分と親しくなろうと存在は一人もいなかった。
だから今更仲良くしてくれようとする存在をありがたく思いつつ、しかし接し方がわからず戸惑ってしまうのだ。
「ルミナス……」
ただ、このさまよう手を、放っておきたくないと思った。
空をさまようアシルの手を両手で握りしめながら「ここにいるよ」と耳元で囁いた。
「……ルミナス」
アシルの表情が、安堵からか喜びからか、和らいでいくのがわかった。
どんな理由かはわからないけれど、彼が本当に自分を求めてくれているのだなと思うと、それを嬉しいと感じる自分の心に気づいた。
0
あなたにおすすめの小説
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ダメンズな彼から離れようとしたら、なんか執着されたお話
下菊みこと
恋愛
ソフトヤンデレに捕まるお話。
あるいはダメンズが努力の末スパダリになるお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
愛があれば、何をしてもいいとでも?
篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。
何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。
生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。
「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」
過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。
まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる