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夜のバルコニーで閣下と二人
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ベッドから飛び出した私を、入ってきた侯爵閣下とメイドは目を丸くして驚いていた。
やや動揺した様子だったが、すぐにいつもと同じ表情に戻った閣下が「そうか」と漏らす。
「無理はしなくていいからな。怖かっただろう。もうあのような目に遭わせることはないから、安心してほしい」
それは、「お前の仕事はない」という意味だろうかと捉え、私は目を伏せる。
だったら、追い出される前に自らここを出て行こうと考えた。他人にいきなり命綱を切られるより、自らそれを切ったほうが、心の準備が出来るだけマシだからだ。
目を伏せてそう考え込む私をどう思ったのか、閣下が戸惑いを含んだ声で話しかける。
「歩けそうか?」
突然意図の読めない質問を投げかけられて困惑したが、頷いた。閣下は柔和に微笑んで、手を差し伸べた。
「なら、ちょっと散歩に付き合ってくれ」
命令ならば従うだけだから、素直に頷く。すると閣下が安心したように笑みを深くした。
「お召し物を替えますか?」
メイドが閣下に問う。閣下は頭を振ってそれを断った。
「いや、少し歩いてくるだけだから大丈夫だ。ただ外は少し冷えるから、ローブを一枚羽織らせてやってくれ」
「かしこまりました」
メイドは閣下に一礼すると、クローゼットから取り出してきた深い緑色のローブを私に羽織らせてくれた。
「……あ、ありがとうございます」
このように優しくされたのは初めてで、来たばかりの頃はどうしたらいいのか分からなかったが、この屋敷での人々のやりとりを見て、親切にされた場合はこうお礼を言うのだと学んだのだ。
お礼を言ったらメイドはとても驚いたような顔をしたが、すぐに優しい顔に戻り、それからにっこり微笑んでくれた。
ローブを身に纏わせてもらったので、「お待たせしました」と閣下を振り返ると、彼もまた唖然とした表情をしていた。すぐに我に返ったようだが。
「では、行こうか」
どうやら怒っているようではないとわかり、心の中でホッと一つ息を吐く。
歩く際は閣下の差し出した手につかまれ、ゆっくり歩いた。
連れてこられたのはバルコニーだ。
空はもう真っ暗な闇に包まれており、頭上で綺麗な白い月が浮かんでいた。
冷たい風が顔を撫でるが、身体はローブのおかげで寒くない。これを着せてくれたメイドと、それを命じた閣下に感謝するべきだろうと、閣下にもお礼を言った。
「さっきも思ったが、君はお礼を言える子だったんだな」
「お礼の仕方は、このお屋敷に来た時、いろいろな方が言っていたのを覚えました。もしや、何か間違っていましたか?」
「いいや、完璧だ。君は状況から学ぶことが出来るようだ。もっと自信を持って良い」
「?」
何の自信を持つのだろうと不思議に思っていると、察した閣下がかみ砕いて話してくれた。
「つまり君は、学んで知恵を身に付ける術を持っている。その術を使えば、身体を売らなくてもすむ仕事を得られる、ということだ」
驚きすぎて声が出なかった。
私に、身体を売る以外の仕事があると言う。
正気を疑うように閣下を見遣れば、また察したように彼が笑った。
「君は今までそんな世界しか知らなかったのだろう。だが、世界は広い。君が望めば、今まで見たことのない、違う生き方も出来るんだ。オレがその手伝いをしてやろう」
「……どうして、そんなことを閣下がされるのか、わかりません」
素直に疑問を打ち明ければ、彼は困ったように眉尻を下げた。
「そう、だな……なんでだろうな」
自分でも分かっていないらしい。
「ただ、君の生い立ちを聴き、やせ細ったボロボロの君を見た時、君をこんな世界に居させてはいけない……なんとかしてあげたい、と思ったんだ」
やや動揺した様子だったが、すぐにいつもと同じ表情に戻った閣下が「そうか」と漏らす。
「無理はしなくていいからな。怖かっただろう。もうあのような目に遭わせることはないから、安心してほしい」
それは、「お前の仕事はない」という意味だろうかと捉え、私は目を伏せる。
だったら、追い出される前に自らここを出て行こうと考えた。他人にいきなり命綱を切られるより、自らそれを切ったほうが、心の準備が出来るだけマシだからだ。
目を伏せてそう考え込む私をどう思ったのか、閣下が戸惑いを含んだ声で話しかける。
「歩けそうか?」
突然意図の読めない質問を投げかけられて困惑したが、頷いた。閣下は柔和に微笑んで、手を差し伸べた。
「なら、ちょっと散歩に付き合ってくれ」
命令ならば従うだけだから、素直に頷く。すると閣下が安心したように笑みを深くした。
「お召し物を替えますか?」
メイドが閣下に問う。閣下は頭を振ってそれを断った。
「いや、少し歩いてくるだけだから大丈夫だ。ただ外は少し冷えるから、ローブを一枚羽織らせてやってくれ」
「かしこまりました」
メイドは閣下に一礼すると、クローゼットから取り出してきた深い緑色のローブを私に羽織らせてくれた。
「……あ、ありがとうございます」
このように優しくされたのは初めてで、来たばかりの頃はどうしたらいいのか分からなかったが、この屋敷での人々のやりとりを見て、親切にされた場合はこうお礼を言うのだと学んだのだ。
お礼を言ったらメイドはとても驚いたような顔をしたが、すぐに優しい顔に戻り、それからにっこり微笑んでくれた。
ローブを身に纏わせてもらったので、「お待たせしました」と閣下を振り返ると、彼もまた唖然とした表情をしていた。すぐに我に返ったようだが。
「では、行こうか」
どうやら怒っているようではないとわかり、心の中でホッと一つ息を吐く。
歩く際は閣下の差し出した手につかまれ、ゆっくり歩いた。
連れてこられたのはバルコニーだ。
空はもう真っ暗な闇に包まれており、頭上で綺麗な白い月が浮かんでいた。
冷たい風が顔を撫でるが、身体はローブのおかげで寒くない。これを着せてくれたメイドと、それを命じた閣下に感謝するべきだろうと、閣下にもお礼を言った。
「さっきも思ったが、君はお礼を言える子だったんだな」
「お礼の仕方は、このお屋敷に来た時、いろいろな方が言っていたのを覚えました。もしや、何か間違っていましたか?」
「いいや、完璧だ。君は状況から学ぶことが出来るようだ。もっと自信を持って良い」
「?」
何の自信を持つのだろうと不思議に思っていると、察した閣下がかみ砕いて話してくれた。
「つまり君は、学んで知恵を身に付ける術を持っている。その術を使えば、身体を売らなくてもすむ仕事を得られる、ということだ」
驚きすぎて声が出なかった。
私に、身体を売る以外の仕事があると言う。
正気を疑うように閣下を見遣れば、また察したように彼が笑った。
「君は今までそんな世界しか知らなかったのだろう。だが、世界は広い。君が望めば、今まで見たことのない、違う生き方も出来るんだ。オレがその手伝いをしてやろう」
「……どうして、そんなことを閣下がされるのか、わかりません」
素直に疑問を打ち明ければ、彼は困ったように眉尻を下げた。
「そう、だな……なんでだろうな」
自分でも分かっていないらしい。
「ただ、君の生い立ちを聴き、やせ細ったボロボロの君を見た時、君をこんな世界に居させてはいけない……なんとかしてあげたい、と思ったんだ」
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