売られた元令嬢は自分を買った伯爵閣下のもとで幸せになります

rifa

文字の大きさ
4 / 17

夜のバルコニーで閣下と二人

しおりを挟む
 ベッドから飛び出した私を、入ってきた侯爵閣下とメイドは目を丸くして驚いていた。
 やや動揺した様子だったが、すぐにいつもと同じ表情に戻った閣下が「そうか」と漏らす。
「無理はしなくていいからな。怖かっただろう。もうあのような目に遭わせることはないから、安心してほしい」
 それは、「お前の仕事はない」という意味だろうかと捉え、私は目を伏せる。
 だったら、追い出される前に自らここを出て行こうと考えた。他人にいきなり命綱を切られるより、自らそれを切ったほうが、心の準備が出来るだけマシだからだ。
 目を伏せてそう考え込む私をどう思ったのか、閣下が戸惑いを含んだ声で話しかける。
「歩けそうか?」
 突然意図の読めない質問を投げかけられて困惑したが、頷いた。閣下は柔和に微笑んで、手を差し伸べた。
「なら、ちょっと散歩に付き合ってくれ」
 命令ならば従うだけだから、素直に頷く。すると閣下が安心したように笑みを深くした。
「お召し物を替えますか?」
 メイドが閣下に問う。閣下は頭を振ってそれを断った。
「いや、少し歩いてくるだけだから大丈夫だ。ただ外は少し冷えるから、ローブを一枚羽織らせてやってくれ」
「かしこまりました」
 メイドは閣下に一礼すると、クローゼットから取り出してきた深い緑色のローブを私に羽織らせてくれた。
「……あ、ありがとうございます」
 このように優しくされたのは初めてで、来たばかりの頃はどうしたらいいのか分からなかったが、この屋敷での人々のやりとりを見て、親切にされた場合はこうお礼を言うのだと学んだのだ。
 お礼を言ったらメイドはとても驚いたような顔をしたが、すぐに優しい顔に戻り、それからにっこり微笑んでくれた。
 ローブを身に纏わせてもらったので、「お待たせしました」と閣下を振り返ると、彼もまた唖然とした表情をしていた。すぐに我に返ったようだが。
「では、行こうか」
 どうやら怒っているようではないとわかり、心の中でホッと一つ息を吐く。
 歩く際は閣下の差し出した手につかまれ、ゆっくり歩いた。

 連れてこられたのはバルコニーだ。
 空はもう真っ暗な闇に包まれており、頭上で綺麗な白い月が浮かんでいた。
 冷たい風が顔を撫でるが、身体はローブのおかげで寒くない。これを着せてくれたメイドと、それを命じた閣下に感謝するべきだろうと、閣下にもお礼を言った。
「さっきも思ったが、君はお礼を言える子だったんだな」
「お礼の仕方は、このお屋敷に来た時、いろいろな方が言っていたのを覚えました。もしや、何か間違っていましたか?」
「いいや、完璧だ。君は状況から学ぶことが出来るようだ。もっと自信を持って良い」
「?」
 何の自信を持つのだろうと不思議に思っていると、察した閣下がかみ砕いて話してくれた。
「つまり君は、学んで知恵を身に付ける術を持っている。その術を使えば、身体を売らなくてもすむ仕事を得られる、ということだ」
 驚きすぎて声が出なかった。
 私に、身体を売る以外の仕事があると言う。
 正気を疑うように閣下を見遣れば、また察したように彼が笑った。
「君は今までそんな世界しか知らなかったのだろう。だが、世界は広い。君が望めば、今まで見たことのない、違う生き方も出来るんだ。オレがその手伝いをしてやろう」
「……どうして、そんなことを閣下がされるのか、わかりません」
 素直に疑問を打ち明ければ、彼は困ったように眉尻を下げた。
「そう、だな……なんでだろうな」
 自分でも分かっていないらしい。
「ただ、君の生い立ちを聴き、やせ細ったボロボロの君を見た時、君をこんな世界に居させてはいけない……なんとかしてあげたい、と思ったんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

「出て行け!」と言われたのですから、本当に出て行ってあげます!

睡蓮
恋愛
アレス第一王子はイザベラとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してイザベラが言葉を返したところ、アレスは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。イザベラがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでアレスはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にイザベラは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるアレスであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...