(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

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オリヴァーの昔話

オリヴァーがグランになった日・2

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 森に入ったらますます視界が暗くなった。
 雨はしのげるので先ほどより寒さを感じることがなくなった。……ような気がする。
 実はもうすでに、ほとんど寒さの感覚がなくなっていた。
(どこへ行けばいいんだろう)
 幼いオリヴァーの心に、一抹の不安がよぎる。
「……ちちぅえ、ははぅぇ……あにぅぇ……」
 オリヴァーはまた泣いた。
 もう皆に会えないのだと感じたら、つらくて、悲しくて堪らなかった。
 またあふれ出した涙をとめどなく流しながら家族の名前を呼んでいると、どこかから母の自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
「はは……うえ?」
「オリヴァー、どこ? いたら返事して!」
 そう聞こえた。
 だからオリヴァーは、お腹の底から声を張り上げて母を呼んだ。
「ははうえー! ははうえー!!」
 それが目印になったようで、自分を呼ぶ声が近づいてきた。
 だからもっと近づいてくれればと声を呼んだ時、とうとう目の前に母の姿が現れた。
「ははう……ぅ、あああああ!」
「オリヴァー!」
 やっと渇望していた姿を確認することが出来て、オリヴァーは安堵感から一層声をあげて泣いた。
 そんなオリヴァーに、母は自身が羽織っていたブランケットを、オリヴァーの身体にかけて、その上から強く抱きしめてくれた。
「オリヴァー、もう大丈夫よ。ごめんね、ごめんなさいね」
 そう何度も涙を流して謝る母を見やり、何故母が謝るのか理解出来なかった。
 ただ、零した涙が冷たそうだったから、これ以上寒い思いをさせてはいけないと、小さな手のひらで一生懸命母の目元をぬぐおうとした。
「オリヴァー……」
「ははうえ、さむい? したい?」
 心配してそう訊ねると、母はまた涙をこぼしながらオリヴァーの身体を抱きしめた。
 抱きしめながら背中を必死に撫でながら何度も「ごめんね」と謝った。
 やはり母の謝る理由が分からない。
 ただ、何度も母が謝るので、オリヴァーもそれに倣うようにその言葉を口にした。
「ごめんなさい」
 それを聞いた母は、とても驚いたようにオリヴァーの身体を離し、眼を見開いて息子を見やった。
「……なんで謝ったの?」
 そう訊ねられ、オリヴァーは答える。
「ははうえを、なかせたから?」
 オリヴァー自身も分かっていなかった。
 ただ、真似てしまっただけなのだ。
 何度も謝る母を見ているうちに、自分も同じことをしたほうがいいのだと思ってしまったのだ。
 それを母は察したらしい。
 ゆっくりと頭を振ってから「あなたは謝らなくて良いのよ」とつぶやいた。
「あなたは悪くないのだから」
「だったら、ははうえもわるくないよ? でもあやまるの?」
「……いいえ、もう謝らないと誓うわ。……母が来るまで、よく一人で耐えて、生きていてくれたわね。ありがとう」
 そう言って頭を撫でた貰った。
 オリヴァーはようやく笑顔を浮かべることが出来た。
 先ほどまでガチガチと震えていた身体も、ロザリーが温かいブランケットをかけて撫でてくれたおかげで、ようやく治まったのだ。
 だから、言った。
「ははうえも、ありがと」
 母はまた変な顔をした。
 笑っているのに涙を零していた。
 それは、嬉しいのか悲しいのか、幼いオリヴァーにはわからなかった。
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