(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

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オリヴァーの昔話

オリヴァーがグランになった日・3

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 母が迎えにきてくれて、また邸に戻るかと思ったが、ロザリーはもうグランディア邸に戻ることはなかった。
 小さなオリヴァーの身体をブランケットで包みながら、貴族街の坂道を下へ下へと……人目を避けながら下っていった。
 幼いオリヴァーは、母のぬくもりに安堵したように、そのまま眠ってしまった。
 正直、ロザリー自身も、自分が今どこへ向かおうとしているのかなど考えていなかった。
 ただグランディア家から遠ざかるために、離れることだけを考えて下っていた。

 途中一度だけ、男爵家街に入るための関門があった。
 着の身着のままで出てきたロザリーは身分を証明するものなど持ってきてはいなかった。
 雨にずぶ濡れて子供を抱きかかえている女など、怪しいだろう。
(ここから先は行けないか)
 行き止まり、ロザリーは空を見上げた。
 雨はいつの間にか雪に変わっていた。
 オリヴァーを冷やさないようにしたかったが、もう自分が羽織っているものは一枚のワンピースだけだ。
 それ以外はなにも着て来なかったのだ。
(足が痛い……)
 ヒールの高い靴で長い道を歩いていたから、逃げることに必死だったから気づかなかった。一度立ち止まり冷静になったことで、今になって足の痛みと疲れが襲ってきたのだ。
(……私、何やっているんだろう)
 あのまま帰れば、またオリヴァーが同じ目に遭わされるかもしれないと恐怖し、その一心で逃げてきた。
 しかし、あの時はクラウドがたまたまどうかしていたのだろう。あの後普通に邸に戻れば、自分のしでかしたことを反省し、今度はオリヴァーのこともしっかり愛してくれただろう。
 それをせず、ありえない妄想で逃げ出してここまで下ってきてしまった。
 冷静になればなるほど、自分は今とてつもなく愚かなことをしでかしてしまったのではないかという後悔の念に苛まれていく。
(私もどうかしていた……)
 この足で今からグランディア邸まで戻るのは無謀であった。体力の問題も含めて、今の二倍近い時間がかかるだろう。
(そうしたらオリヴァーは? こんな小さな子どもの体力が持つかしら……)
 どうしようもなくなって、ひとまずオリヴァーの寝顔を見て自分を鼓舞しようと息子の寝顔を覗き込んで、目を見開いた。
「オリヴァー? オリヴァー!」
 何度も呼びかけ、身体をゆすった。
 だが、青ざめた顔でぐったりとしたまま、息子は目を開けることも、応えることもなかった。
 最悪の事態を想定したが、呼吸はしていた。
 しかしヒューヒューと苦しそうな粗い呼吸だ。このままでは危ないと感じたロザリーは、無我夢中で関門にいた兵士に縋りついた。
 身分証の提示を求めようとしていた兵士だが、ずぶ濡れのロザリーが青ざめた子どもを抱えて「医者は、近くに医者はおりませんか!?」と必死に迫ってきたため、緊急の事態だと感じとってくれたようだ。
「この近くに医者はありません。この上を戻ってしばらく行けば子爵家の医師が……」
「しばらく! しばらくってどの程度行けば着くんですか?!」
 教えてもらったのに、問いただすような口調になってしまったが、今ロザリーにそれを気にする余裕はない。
 問い詰められた兵士は不機嫌になることもなく、根気強く、言葉を慎重に使いながら答えてくれた。
「……足元が危ないので走ることが出来ません。歩いていくとなると、40分ほどはかかると……」
 それを聞き、ロザリーは一瞬眼前が真っ暗になった錯覚に陥った。
 だがすぐに我に返り、それしか方法がないのならやるしかない、と腹を括ろうとした時、男爵街からやってきた馬車が、関門の前で停まった。
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