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オリヴァーの昔話
オリヴァーがグランになった日・4
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馬車から傘を差した従者が出てきて、関門の兵士に通行証を見せる。
ロザリーは馬車の紋章に見覚えがあった。
兵士は通行証を確認している時、ロザリーがその従者へ呼びかけた。
「あの、ディザ……アンドロ・ディザクライン侯爵の使いの方ですか?!」
突然呼びかけられ顔を上げた従者が、ずぶ濡れた姿のロザリーを物乞いと思ったらしく、侮蔑的な目を向けたきり、無視をして馬車に戻ろうとした。
「わたくし、ロザリー……グランディア公爵家のロザリーです! どうか、どうかお話をお聞き届けいただきたくお願い申し上げます!」
その言葉に驚き、従者はまたロザリーを見た。
何度か瞬きをしながら、「グランディア公爵夫人?」と声を出した。
「はい。わけあってこのような姿でお目にかかる無礼をお許しください。ですが、どうかお願いを……」
縋りつこうとする前に、馬車から誰かが出てきた。
「旦那様! 私がお聞きいたしますから、どうか馬車の中へお戻りください!」
「……では、グランディア公爵夫人をこちらにお呼びください」
おっとりとした、聞き覚えのある低い声が聞こえた。
従者はやや戸惑った様子を見せたあと、ロザリーに馬車へ入るよう伝えた。
ワンピースに滴った水分を絞らずに入ることにためらいを感じたが、腕に抱えたオリヴァーを一時も放したく思いで一度詫びを入れてから、ゆっくりと座席に腰を下ろした。
「どうなさったのですか?」
ロザリーの姿を見て驚いたであろうが、そんな様子をおくびにも出さず、目の前の精悍な顔立ちの男性が問いかけてきた。
男性……ディザクライン侯爵は、さらりと伸びた細い金の髪の束を一つに束ね、右肩に垂らしていた。緑色の瞳は、何かを探るようにロザリーを見やっている。
しかし、今は問われたことに悠長に答えを返している余裕がなかった。
「事情は後でお話いたします、ディザクライン侯爵! 申し訳ありませんが、子爵街にあるという医師のもとまで送っていただけないでしょうか? オリヴァーが……!」
今になって寒さを自覚したロザリーの身体が、ガタガタと震えだす。
寒さでかじかみながら、必死にオリヴァーの状態を伝えようとするが、青ざめぐったりと眠るオリヴァーを見たアンドロ・ディザクラインは、すぐに馬車を出させた。
「子爵街の医師は今旅行に出ているらしく、子爵街にはいないのです。伯爵街まで行くと時間がかかりすぎる。下町に戻るほうが早いので、そちらへ向かいます!」
「よろ、よろしくお願いします!」
ロザリーは必死に男性に頭を下げながら、オリヴァーの身体を必死に手のひらでさすった。
(生きて……オリヴァー、どうか生きて!)
さすっていると、少しだがオリヴァーの呼吸の乱れが落ち着いてきた。
そのことに少しだけ安堵し、また懸命にオリヴァーの身体をさすった。
ヒトデのような小さな手と指をもみほぐし、足も指先までもみほぐし、自分の体温を分けてやるように何度も抱きしめた。
それから大して時間もかからないうちに、砂利道へ入ったようだ。馬車がガクガクと揺れた。
「着きました。医師を呼んでくるので、ここでお待ちください!」
アンドロは従者が傘を差すより先に馬車を飛び出していった。従者が慌てて傘を持って主人を追いかけていく。
医師を呼んでくる、と言われ、ロザリーはようやく周りを見渡す余裕が出来た。
馬車の中には、もう一人同行者がいたのだ。
ロザリーは馬車の紋章に見覚えがあった。
兵士は通行証を確認している時、ロザリーがその従者へ呼びかけた。
「あの、ディザ……アンドロ・ディザクライン侯爵の使いの方ですか?!」
突然呼びかけられ顔を上げた従者が、ずぶ濡れた姿のロザリーを物乞いと思ったらしく、侮蔑的な目を向けたきり、無視をして馬車に戻ろうとした。
「わたくし、ロザリー……グランディア公爵家のロザリーです! どうか、どうかお話をお聞き届けいただきたくお願い申し上げます!」
その言葉に驚き、従者はまたロザリーを見た。
何度か瞬きをしながら、「グランディア公爵夫人?」と声を出した。
「はい。わけあってこのような姿でお目にかかる無礼をお許しください。ですが、どうかお願いを……」
縋りつこうとする前に、馬車から誰かが出てきた。
「旦那様! 私がお聞きいたしますから、どうか馬車の中へお戻りください!」
「……では、グランディア公爵夫人をこちらにお呼びください」
おっとりとした、聞き覚えのある低い声が聞こえた。
従者はやや戸惑った様子を見せたあと、ロザリーに馬車へ入るよう伝えた。
ワンピースに滴った水分を絞らずに入ることにためらいを感じたが、腕に抱えたオリヴァーを一時も放したく思いで一度詫びを入れてから、ゆっくりと座席に腰を下ろした。
「どうなさったのですか?」
ロザリーの姿を見て驚いたであろうが、そんな様子をおくびにも出さず、目の前の精悍な顔立ちの男性が問いかけてきた。
男性……ディザクライン侯爵は、さらりと伸びた細い金の髪の束を一つに束ね、右肩に垂らしていた。緑色の瞳は、何かを探るようにロザリーを見やっている。
しかし、今は問われたことに悠長に答えを返している余裕がなかった。
「事情は後でお話いたします、ディザクライン侯爵! 申し訳ありませんが、子爵街にあるという医師のもとまで送っていただけないでしょうか? オリヴァーが……!」
今になって寒さを自覚したロザリーの身体が、ガタガタと震えだす。
寒さでかじかみながら、必死にオリヴァーの状態を伝えようとするが、青ざめぐったりと眠るオリヴァーを見たアンドロ・ディザクラインは、すぐに馬車を出させた。
「子爵街の医師は今旅行に出ているらしく、子爵街にはいないのです。伯爵街まで行くと時間がかかりすぎる。下町に戻るほうが早いので、そちらへ向かいます!」
「よろ、よろしくお願いします!」
ロザリーは必死に男性に頭を下げながら、オリヴァーの身体を必死に手のひらでさすった。
(生きて……オリヴァー、どうか生きて!)
さすっていると、少しだがオリヴァーの呼吸の乱れが落ち着いてきた。
そのことに少しだけ安堵し、また懸命にオリヴァーの身体をさすった。
ヒトデのような小さな手と指をもみほぐし、足も指先までもみほぐし、自分の体温を分けてやるように何度も抱きしめた。
それから大して時間もかからないうちに、砂利道へ入ったようだ。馬車がガクガクと揺れた。
「着きました。医師を呼んでくるので、ここでお待ちください!」
アンドロは従者が傘を差すより先に馬車を飛び出していった。従者が慌てて傘を持って主人を追いかけていく。
医師を呼んでくる、と言われ、ロザリーはようやく周りを見渡す余裕が出来た。
馬車の中には、もう一人同行者がいたのだ。
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