(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

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オリヴァーの昔話

幼少期の出会い・3

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「あれは……オレが7歳の頃だったかな。下町でグランとして育って生きて、すっかり下町のガキをやっていた」
 まだグランだった頃、とオリヴァーは告げた。
 それを苦い面持ちで食事を続けるクラウドだが、今は見なかったことにして、オリヴァーの話に集中した。
「ある日、下町の子どもたちでかくれんぼをしていて、オレとマルクが同じ隠れ場所を選んで隠れているとき、どこかからすすり泣くような声が聞こえたんだ」
 突然ホラー話が始まったかと思うほどのトーンで、オリヴァーが悪ふざけた。
 だが口を挟まずに黙って聴いている。
「かくれんぼの途中だったが、オレとマルクは声のする方へ移動した。すると、下町の外れにある池のほとりに、見知らぬ子どもが泣いているのを見つけた。声をかけるとその子どもは一層泣き出した。んで、あまりにうるさかったんで……『うるせえ、黙れ』って一喝したら、その子はますます泣き出して……」
 オリヴァーが気まずそうに頬を搔いて俯く。
 迷子の子どもにそんな優しくない言葉をかける時期が、グランにもあったのだなと感心してしまった。
 あと、下町を思い出しながら語っているからか、口調がちょっとグランのものになっていたが、わざわざ突っ込まない。
「次第に大きくなっていく泣き声に、かくれんぼしていた他の連中も集まってきちまって、なんとかしろよと咎められ……ひとまず謝っておこうって謝ったんだ。けどその子どもは全然泣き止まなくて、こっちも次第に腹立ってきちまって……」
 今度は気まずそうに後頭部を掻きながら、何かに詫びるようにしていた。
「『お前みたいな泣き虫、もう知らねえよ。勝手に泣いていろ!』……て、言っちまって。その子どもは泣き止んだけど、俯いちまって……」
 グランにもそんな優しくない時期があったんだな、と感心した。
「気まずくてそっぽ向いたら……向いた瞬間、その子どもから首筋に回し蹴り喰らわされた」
「なぁにぃぃぃぃ!? 誰だ、そのガキは! ボクの可愛いオリヴァーに、しかも首筋に回し蹴りをするとは! その不届き者を同じ目に遭わせてやるわ!」
 オリヴァーの言葉を遮って、一緒に話を聞いていたクラウドが大声で立ち上がった。彼も初めて聞く話だったらしい。
「黙っていてくれませんか?」
 オリヴァーが怒りを込めた笑顔で、大声をあげたクラウドを黙らせた。
 ミレーに話すときは自然とグラン口調になるのに、クラウドに話すときは自然とオリヴァー口調になる使い分けがすごいなと感心した。
 話が始まって10分も経っていないのに、ミレーは感心しかしていなかった。
「オリヴァー……あ、じゃないか、そのときグランは大丈夫だったの?」
「まぁ、相手はまだ4歳の女の子だったから、大したことはなかった。けど、みんな唖然としちまってな」
 乾いた笑いをするオリヴァーに、ミレーは呆れてしまった。
「でも、何が理由かはわからないけど、突然首を蹴るなんて……なんでオリヴァーは笑っていられるの?」
「……あー」
 オリヴァーは言いづらそう頬を掻いて、場を和ますように笑ってから、言った。
「その子どもが……ミレーだったから」
「……ミレーさん?」
「お前のことだからな?」
 困ったように告げるオリヴァーの言葉に、ミレーの全身から汗が噴き出した。
 オリヴァーの背の向こうで、クラウドが目を剥いてこちらを見ていたからだ。
 オリヴァーは背中越しで見えていないはずなのだが、その殺気を感じ取っているようで、ミレーをフォローするように弁解した。
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