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オリヴァーの昔話
グランからオリヴァーへ・3
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下町に帰ると、並木通りに続く入り口付近で、なにやら人が集まっていた。
その人の中にロザリーの姿を見て、グランは急いで駆けつけた。
「母さん、どうしたの?」
「……グラン」
母は呆然とした面持ちでグランを見やった。
だが、やや間をおいてから、ゆっくりと頭を振った。
「……なんでもないのよ、本当。えぇ……」
ロザリーの顔つきはうつろで、どこか疲れたようにも見えたので、グランはそれ以上の追及はせず、身体の弱い母を気遣って家に帰ることにした。
グランとロザリーが今暮らす家は、下町の外れにある小さな小屋だ。
元は、酒場の二階の一室を借りてロザリーが住み込みをしていた。
だが、母は身体の弱さから仕事を続けることが出来ずに、部屋を追い出された。
グランがまだ4歳にも満たない幼子だったこともあり、町長が町の外れにある今は使われていない小屋を住処として提供してくれたのだ。
そしてロザリーの代わりにグランが、4歳になり活発に動くようになった頃から、自分も働くと言い出したのだ。
町の皆は反対したし、ロザリーはその一件でますます町の人間から「幼子に働かせて、自分は何もしない大人」と言われ冷ややかな目を向けられていた。
しかしその頃にはすでに母はふさぎ込むようになり、寝床から出ることも出来なくなっていた。
たびたびロザリーを心配してか、マルクの父のアンドロが様子を見にきてくれる。
はじめは、ただ様子を見てくれているのだと思った。
だが彼がグランとロザリーに金銭的援助をしていると知ったから、グランがそれを拒むために自ら働きだすと言ったのだ。
何故、と問われれば答えは簡単だ。
「そんな義理はない」
それだけだ。
ロザリーとアンドロにどんな縁があるのかは知らないが、アンドロから援助を受けるのは、幼いグランにとって不可解でしかないのだ。
「子どもはそんなことを気にしなくていい。子どもを守るのが大人の義務だ」
そう説得を試みるアンドロに、グランも譲らなかった。
その時は語彙が足らず、言葉にして伝えられなかったが、グランの頭の中では、幼い四歳の頭の中では、「その大人が働けないのなら、子どもである自分が頑張ればいい」という考えが出来上がっていた。
そして、グランはアンドロに感謝はしても、それに甘んじることはするべきではない、とも思っていた。
それはアンドロだけではなく、どの大人にも言えた。
とくに下町の人間は、自分たちの食い扶持を稼ぐだけで精一杯で、グランたちを支援する余裕などないだろう。
その証拠に、酒場の店長はロザリーとグランを、酒場の貸部屋から追い出した。
拙くそう告げれば、アンドロはいくつか言葉を返したが、グランは首を縦に振らない。
4歳児に根負けしたアンドロは、それ以上何かを言うことはなかった。
その様子を傍らで見守っていたマルクに「おまえ、がんこだな」と呆れたように言われるが、グランはなにも間違ったことは言っていない。
ただ、間違ったことは言っていないが、正しさが必ずしも人を救うわけではない。
下町の考えに馴染んでいたグランの考えと、生まれた時から貴族として生きてきて未だ下町に馴染むことができないロザリーの気持ちが、この時からすでに大きくすれ違っていた。
グランはグランで、強情なのだ。それは親譲りの性質であった。
その人の中にロザリーの姿を見て、グランは急いで駆けつけた。
「母さん、どうしたの?」
「……グラン」
母は呆然とした面持ちでグランを見やった。
だが、やや間をおいてから、ゆっくりと頭を振った。
「……なんでもないのよ、本当。えぇ……」
ロザリーの顔つきはうつろで、どこか疲れたようにも見えたので、グランはそれ以上の追及はせず、身体の弱い母を気遣って家に帰ることにした。
グランとロザリーが今暮らす家は、下町の外れにある小さな小屋だ。
元は、酒場の二階の一室を借りてロザリーが住み込みをしていた。
だが、母は身体の弱さから仕事を続けることが出来ずに、部屋を追い出された。
グランがまだ4歳にも満たない幼子だったこともあり、町長が町の外れにある今は使われていない小屋を住処として提供してくれたのだ。
そしてロザリーの代わりにグランが、4歳になり活発に動くようになった頃から、自分も働くと言い出したのだ。
町の皆は反対したし、ロザリーはその一件でますます町の人間から「幼子に働かせて、自分は何もしない大人」と言われ冷ややかな目を向けられていた。
しかしその頃にはすでに母はふさぎ込むようになり、寝床から出ることも出来なくなっていた。
たびたびロザリーを心配してか、マルクの父のアンドロが様子を見にきてくれる。
はじめは、ただ様子を見てくれているのだと思った。
だが彼がグランとロザリーに金銭的援助をしていると知ったから、グランがそれを拒むために自ら働きだすと言ったのだ。
何故、と問われれば答えは簡単だ。
「そんな義理はない」
それだけだ。
ロザリーとアンドロにどんな縁があるのかは知らないが、アンドロから援助を受けるのは、幼いグランにとって不可解でしかないのだ。
「子どもはそんなことを気にしなくていい。子どもを守るのが大人の義務だ」
そう説得を試みるアンドロに、グランも譲らなかった。
その時は語彙が足らず、言葉にして伝えられなかったが、グランの頭の中では、幼い四歳の頭の中では、「その大人が働けないのなら、子どもである自分が頑張ればいい」という考えが出来上がっていた。
そして、グランはアンドロに感謝はしても、それに甘んじることはするべきではない、とも思っていた。
それはアンドロだけではなく、どの大人にも言えた。
とくに下町の人間は、自分たちの食い扶持を稼ぐだけで精一杯で、グランたちを支援する余裕などないだろう。
その証拠に、酒場の店長はロザリーとグランを、酒場の貸部屋から追い出した。
拙くそう告げれば、アンドロはいくつか言葉を返したが、グランは首を縦に振らない。
4歳児に根負けしたアンドロは、それ以上何かを言うことはなかった。
その様子を傍らで見守っていたマルクに「おまえ、がんこだな」と呆れたように言われるが、グランはなにも間違ったことは言っていない。
ただ、間違ったことは言っていないが、正しさが必ずしも人を救うわけではない。
下町の考えに馴染んでいたグランの考えと、生まれた時から貴族として生きてきて未だ下町に馴染むことができないロザリーの気持ちが、この時からすでに大きくすれ違っていた。
グランはグランで、強情なのだ。それは親譲りの性質であった。
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