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オリヴァーの昔話
グランからオリヴァーへ・4
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そして、グランは4歳から自分に出来ることは何でもやった。
酒屋の皿洗いから、掃除、洗濯、風呂焚き、調理手伝い……。
4歳児にはきつい仕事でも、グランは頑張った。
きついからこそ、もらった報酬に疑問を感じなかった。5歳になって数か月が過ぎるまでは。
その頃から、グランはお金の相場を知り、計算能力も身についていた。
町長たちロザリー親子の事情を知っているものたちが、グランに渡す賃金にアンドロ経由でクラウドから貰っている金銭を上乗せしていたのだ。
幼いグランの力だけでは、質素な生活をしても、母子二人で満足に暮らせる稼ぎにはならなかったのだ。
だから、そんなグランに同情するという建前で、町長のリンクが雇い手たちに都度伝え、母子が質素な暮らしが出来るギリギリの金額を渡していたのだ。
それを、5歳になったころからおかしいとグランは気づいた。
自分が働いている仕事内容や量に比べて、相場を知り、お金の価値が分かっていくにつれ、自分の所得以上の額が支払われていることに疑問を抱くようになったのだ。
やがて町長たちが援助してくれていると知ると、グランはそれに対して感謝の気持ちを伝え、そして今後は援助をやめてほしいと言った。
「オレももう、前より出来る仕事が増えたんだ。だから自分の稼ぎだけでもなんとかなる。これでも節約には自信がある。計算したら、切り詰めれば十分生活は出来るから」
大人に混じって話していることが多くなったせいか、グランは下町に来た時よりずっと流ちょうに話すようになっていた。
他の同世代の子どもたちより、しっかりとした話し方をしていた。
同世代の中では唯一、マルクが同じような言葉遣いをするようになった。
「グランばかり大人のような話し方をするのがムカつく」ということらしい。
積極的にグランに話しかけ、大人たちに話しかけ、マルクは二か月もしないうちにグランと同じようにしっかりとした口調で話すようになっていた。
さらに、グランほど手慣れていないが、下町に来たときはグランの仕事の手伝いをすると言い出したのだ。
「うちは託児所じゃないんだが……」とはじめはぼやいていた雇い主だが、負けず嫌いな性格からか、マルクも仕事に慣れるのが早く、グランほどでなくとも、十分な戦力になっていたと認めていた。
この時グランもマルクも、まだ5歳半ばである。
グランの主張はたしかにそのとおりであった。
5歳の稼ぎでも、グランは手当たり次第に、朝早くから夜帰宅するまで、とにかく働いているので、援助がなくともそれなりに暮らせる額になっているはずだ。
さらにグランは贅沢を好まない。
質素な生活でそつなく暮らしていけるだろう。
だがそれは、グラン個人の話である。
もともと生粋の貴族育ちの母ロザリーが、そんな生活に耐えられるはずがないのだ。
それを証明するように、生活が乏しくなるにつれて、ロザリーの体調が悪化していく。
昔から馴染みのある町医者に頼めば、グランたちの生活は一層困窮するだろう。そうすればますますロザリーがふさぎ込むことは目に見えている。
だが、グランはそれを知らないのだ。
ロザリーのことも自分のことも、生粋の下町育ちだと思っているのだ。母のことは、ただ純粋に身体が弱いだけだから、自分が支えていけばいいと、そう思っているのだ。
それはロザリーのために良くない考えだ、と幾度となく事情を知る者は教えてやりたかった。
ロザリーが酒場のウェイトレスの仕事さえ出来なかった時点で、皆察していたのだ。
『ロザリーが下町で暮らしていくのは無理だ』と。
酒屋の皿洗いから、掃除、洗濯、風呂焚き、調理手伝い……。
4歳児にはきつい仕事でも、グランは頑張った。
きついからこそ、もらった報酬に疑問を感じなかった。5歳になって数か月が過ぎるまでは。
その頃から、グランはお金の相場を知り、計算能力も身についていた。
町長たちロザリー親子の事情を知っているものたちが、グランに渡す賃金にアンドロ経由でクラウドから貰っている金銭を上乗せしていたのだ。
幼いグランの力だけでは、質素な生活をしても、母子二人で満足に暮らせる稼ぎにはならなかったのだ。
だから、そんなグランに同情するという建前で、町長のリンクが雇い手たちに都度伝え、母子が質素な暮らしが出来るギリギリの金額を渡していたのだ。
それを、5歳になったころからおかしいとグランは気づいた。
自分が働いている仕事内容や量に比べて、相場を知り、お金の価値が分かっていくにつれ、自分の所得以上の額が支払われていることに疑問を抱くようになったのだ。
やがて町長たちが援助してくれていると知ると、グランはそれに対して感謝の気持ちを伝え、そして今後は援助をやめてほしいと言った。
「オレももう、前より出来る仕事が増えたんだ。だから自分の稼ぎだけでもなんとかなる。これでも節約には自信がある。計算したら、切り詰めれば十分生活は出来るから」
大人に混じって話していることが多くなったせいか、グランは下町に来た時よりずっと流ちょうに話すようになっていた。
他の同世代の子どもたちより、しっかりとした話し方をしていた。
同世代の中では唯一、マルクが同じような言葉遣いをするようになった。
「グランばかり大人のような話し方をするのがムカつく」ということらしい。
積極的にグランに話しかけ、大人たちに話しかけ、マルクは二か月もしないうちにグランと同じようにしっかりとした口調で話すようになっていた。
さらに、グランほど手慣れていないが、下町に来たときはグランの仕事の手伝いをすると言い出したのだ。
「うちは託児所じゃないんだが……」とはじめはぼやいていた雇い主だが、負けず嫌いな性格からか、マルクも仕事に慣れるのが早く、グランほどでなくとも、十分な戦力になっていたと認めていた。
この時グランもマルクも、まだ5歳半ばである。
グランの主張はたしかにそのとおりであった。
5歳の稼ぎでも、グランは手当たり次第に、朝早くから夜帰宅するまで、とにかく働いているので、援助がなくともそれなりに暮らせる額になっているはずだ。
さらにグランは贅沢を好まない。
質素な生活でそつなく暮らしていけるだろう。
だがそれは、グラン個人の話である。
もともと生粋の貴族育ちの母ロザリーが、そんな生活に耐えられるはずがないのだ。
それを証明するように、生活が乏しくなるにつれて、ロザリーの体調が悪化していく。
昔から馴染みのある町医者に頼めば、グランたちの生活は一層困窮するだろう。そうすればますますロザリーがふさぎ込むことは目に見えている。
だが、グランはそれを知らないのだ。
ロザリーのことも自分のことも、生粋の下町育ちだと思っているのだ。母のことは、ただ純粋に身体が弱いだけだから、自分が支えていけばいいと、そう思っているのだ。
それはロザリーのために良くない考えだ、と幾度となく事情を知る者は教えてやりたかった。
ロザリーが酒場のウェイトレスの仕事さえ出来なかった時点で、皆察していたのだ。
『ロザリーが下町で暮らしていくのは無理だ』と。
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