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「は?! なんでそういうことになるんだよ!」
「あなたがそういう後悔をしているように見えたから!」
「オレはそんなことを考えたことはない!」
「じゃあなんでそんなこと言ったのって、聞いているの!」
「ミレーは貴族で、オレは平民だからだ!」
「あなただって貴族なんでしょう! それだって、私の方が爵位はずっと下だったのよ! 住む世界が違う? そんな格下だった私と婚約するのが今更嫌になったっていうのなら、そう言ってよ!」
「そんなことは言ってねえ! 大体、オレは平民だ!!」
「じゃあ私だって平民よ!」
「ミレーは貴族だろう!」
「マルクさんとの養子関係を切れば、今すぐ平民よ!」
がるると、歯を剥き出しにして睨み合っていると、聞き覚えのある声と咳払いが聞こえた。
「君たちは二人とも、こう品格のある喧嘩というものが出来ないのかい?」
グランディア家のメイドに案内されて今来たというマルクが、オリヴァーとミレーを見て呆れた顔をしていた。
その表情に、ミレーは羞恥を覚えて顔を熱くさせた。
「ミレーとの養子関係を切るつもりはないよ」
ガゼボに移動した三人は、メイドが持ってきたお茶とお菓子をつまみながら話を続けた。
その話を続けられるとは思っていなかったミレーは、誤魔化すようにお菓子をかじりながら身を縮こませた。
「当たり前だ」
オリヴァーはお茶も飲まずに背もたれに寄りかかり、ふんぞり返りながらきっぱり言い放った。
「ミレーは、ボクの家と家族の関係でいるのはイヤだったの?」
マルクが悲しそうに眉尻を下げ、責めるようにミレーへ問う。
その視線をチクチクと肌で感じながら、ミレーは自白するように口を開いた。
「……あ、あれは売り言葉に買い言葉という感じで、言ってしまったというか……」
「そういう状況で軽々しく重要な話をしてしまってはいけないと、マナー講座で学ばなかったの?」
「……学びました……」
ミレーの反省の声を聞いたマルクは、次にオリヴァーのほうを向いた。
「で、君は一体いつまで反抗期を続けるつもりか、と前にも聞いたはずだけど?」
「……反抗期ってなんだよ」
「『貴族じゃない』? 君はどう逆立ちしても貴族なんだよ。君の御父上のご厚意に甘えて下町で平民ごっこをさせてもらっている立場だと、いい加減自覚しろ! いつまでも、何歳児のつもりだ!」
「……平民ごっこ?」
オリヴァーの額に青筋が浮かんだのが見えた気がした。
「……お前のことは良き友人だと思っていた。だが、それもついさっきまでの話だったようだな。今後一切、お前と交友関係を続けることはないだろう」
「あぁそう? じゃあミレー、帰ろうか」
マルクは冷めた表情でオリヴァーを見やったかと思うと、にっこりと作った笑顔をミレーに向けて立ち上がった。
「え? 帰る?」
戸惑うミレーに、マルクが笑顔のまま続ける。
「ミレーはうちの養子……うちの家族になったんだよ?」
「う、うん。そうだけど……」
「で、長年仲が良かったグランディア家と今後も交友関係のために、『政略結婚』という形でミレーを嫁がせることとなった。そして婚約期間中、二人の親睦を図るためにグランディア邸で暮らしてもらっている……こういう話だったよね?」
「う、うん……」
マルクが何を言わんとしているのか掴みかねていたが、横目でオリヴァーを見ると、彼は何を言われるのか分かっているようで、苛立った様子で顔をしかめていた。
「つまり、その関係に亀裂が生じる事態になったとすれば、この婚約も一旦考えなければならない。……白紙になるかもしれない相手の家に、ミレーを置いておく理由はないだろう?」
「え、でもそれは……」
クローバー家から絶縁され、貴族でなくなったミレーをオリヴァーと結婚させるための救済案であるだけの話だったのでは、と言いかけたのをマルクに口を塞がれ続けることが出来なかった。
オリヴァーは悔しそうに顔をしかめて、しかし黙って身体を震わせていた。
「だろう?」
マルクが念を押すように、オリヴァーへ問いかける。
「………………ぃ」
「ん?」
マルクが笑顔で聞き返す。
オリヴァーはマルクから目を逸らしたまま、先ほどより大きい声を出した。
「ごめ……んなさい。オレが悪かったでした」
「で?」
「……だから、ミレーを連れ帰らないでください」
「じゃあ今後も友好関係を?」
「良き友人でいてください……」
「そういうのは普通相手の目を見ていうものじゃない?」
今マルクはとても楽しそうな顔をしていた。
反してオリヴァーは、砂糖を入れ忘れたコーヒーを飲まされたような顔をぎこちなく動かして、マルクの方を向いた。
「良き友人でいてください」
まるで表情とセリフが一致していないが、これ以上突っ込むのは悪い気がして、ミレーは黙っていた。
「……これでいいか?」
不満を露わにした顔でマルクに問う。そんな彼へ、マルクが笑いかけた。
「これに懲りたら、君も迂闊なことを言うんじゃないよ? 前も言ったけれど、貴族はこういう言葉尻をとらえるのが得意だ。感情的になって要らないことを言うと、すぐにつけ込まれる。懐に入るのを許したら、どんな負債を被るかわかったものじゃない。わかったか?」
「……はい」
嫌そうな顔で渋々と言った声で答えるオリヴァーに頬が緩みそうになると、マルクはミレーの方へ顔を向けた。
「ミレーもだよ」
その目は鋭くミレーを見つめ、オリヴァーと同様、軽率な言葉は使わないよう責められた。
「ご、ごめんなさい……」
二人から謝罪の言葉を貰ったマルクは、やれやれと溜息を吐きながら肩をすくめた。
「まったく、これで自分たちは住む世界が違うって言い合っているんだから意味が分からない。ボクから見れば、二人ともまったく同じタイプに他ならないよ。要は似た者同士っていうこと」
「…………」
ちらりと横目でオリヴァーを見れば、彼も横目でミレーを見ていた。
それがおかしくて、どちらからともなく吹き出し、盛大に笑い合った。
ひとしきり笑い合って落ち着いた頃、マルクが書類を取りだした。
「あなたがそういう後悔をしているように見えたから!」
「オレはそんなことを考えたことはない!」
「じゃあなんでそんなこと言ったのって、聞いているの!」
「ミレーは貴族で、オレは平民だからだ!」
「あなただって貴族なんでしょう! それだって、私の方が爵位はずっと下だったのよ! 住む世界が違う? そんな格下だった私と婚約するのが今更嫌になったっていうのなら、そう言ってよ!」
「そんなことは言ってねえ! 大体、オレは平民だ!!」
「じゃあ私だって平民よ!」
「ミレーは貴族だろう!」
「マルクさんとの養子関係を切れば、今すぐ平民よ!」
がるると、歯を剥き出しにして睨み合っていると、聞き覚えのある声と咳払いが聞こえた。
「君たちは二人とも、こう品格のある喧嘩というものが出来ないのかい?」
グランディア家のメイドに案内されて今来たというマルクが、オリヴァーとミレーを見て呆れた顔をしていた。
その表情に、ミレーは羞恥を覚えて顔を熱くさせた。
「ミレーとの養子関係を切るつもりはないよ」
ガゼボに移動した三人は、メイドが持ってきたお茶とお菓子をつまみながら話を続けた。
その話を続けられるとは思っていなかったミレーは、誤魔化すようにお菓子をかじりながら身を縮こませた。
「当たり前だ」
オリヴァーはお茶も飲まずに背もたれに寄りかかり、ふんぞり返りながらきっぱり言い放った。
「ミレーは、ボクの家と家族の関係でいるのはイヤだったの?」
マルクが悲しそうに眉尻を下げ、責めるようにミレーへ問う。
その視線をチクチクと肌で感じながら、ミレーは自白するように口を開いた。
「……あ、あれは売り言葉に買い言葉という感じで、言ってしまったというか……」
「そういう状況で軽々しく重要な話をしてしまってはいけないと、マナー講座で学ばなかったの?」
「……学びました……」
ミレーの反省の声を聞いたマルクは、次にオリヴァーのほうを向いた。
「で、君は一体いつまで反抗期を続けるつもりか、と前にも聞いたはずだけど?」
「……反抗期ってなんだよ」
「『貴族じゃない』? 君はどう逆立ちしても貴族なんだよ。君の御父上のご厚意に甘えて下町で平民ごっこをさせてもらっている立場だと、いい加減自覚しろ! いつまでも、何歳児のつもりだ!」
「……平民ごっこ?」
オリヴァーの額に青筋が浮かんだのが見えた気がした。
「……お前のことは良き友人だと思っていた。だが、それもついさっきまでの話だったようだな。今後一切、お前と交友関係を続けることはないだろう」
「あぁそう? じゃあミレー、帰ろうか」
マルクは冷めた表情でオリヴァーを見やったかと思うと、にっこりと作った笑顔をミレーに向けて立ち上がった。
「え? 帰る?」
戸惑うミレーに、マルクが笑顔のまま続ける。
「ミレーはうちの養子……うちの家族になったんだよ?」
「う、うん。そうだけど……」
「で、長年仲が良かったグランディア家と今後も交友関係のために、『政略結婚』という形でミレーを嫁がせることとなった。そして婚約期間中、二人の親睦を図るためにグランディア邸で暮らしてもらっている……こういう話だったよね?」
「う、うん……」
マルクが何を言わんとしているのか掴みかねていたが、横目でオリヴァーを見ると、彼は何を言われるのか分かっているようで、苛立った様子で顔をしかめていた。
「つまり、その関係に亀裂が生じる事態になったとすれば、この婚約も一旦考えなければならない。……白紙になるかもしれない相手の家に、ミレーを置いておく理由はないだろう?」
「え、でもそれは……」
クローバー家から絶縁され、貴族でなくなったミレーをオリヴァーと結婚させるための救済案であるだけの話だったのでは、と言いかけたのをマルクに口を塞がれ続けることが出来なかった。
オリヴァーは悔しそうに顔をしかめて、しかし黙って身体を震わせていた。
「だろう?」
マルクが念を押すように、オリヴァーへ問いかける。
「………………ぃ」
「ん?」
マルクが笑顔で聞き返す。
オリヴァーはマルクから目を逸らしたまま、先ほどより大きい声を出した。
「ごめ……んなさい。オレが悪かったでした」
「で?」
「……だから、ミレーを連れ帰らないでください」
「じゃあ今後も友好関係を?」
「良き友人でいてください……」
「そういうのは普通相手の目を見ていうものじゃない?」
今マルクはとても楽しそうな顔をしていた。
反してオリヴァーは、砂糖を入れ忘れたコーヒーを飲まされたような顔をぎこちなく動かして、マルクの方を向いた。
「良き友人でいてください」
まるで表情とセリフが一致していないが、これ以上突っ込むのは悪い気がして、ミレーは黙っていた。
「……これでいいか?」
不満を露わにした顔でマルクに問う。そんな彼へ、マルクが笑いかけた。
「これに懲りたら、君も迂闊なことを言うんじゃないよ? 前も言ったけれど、貴族はこういう言葉尻をとらえるのが得意だ。感情的になって要らないことを言うと、すぐにつけ込まれる。懐に入るのを許したら、どんな負債を被るかわかったものじゃない。わかったか?」
「……はい」
嫌そうな顔で渋々と言った声で答えるオリヴァーに頬が緩みそうになると、マルクはミレーの方へ顔を向けた。
「ミレーもだよ」
その目は鋭くミレーを見つめ、オリヴァーと同様、軽率な言葉は使わないよう責められた。
「ご、ごめんなさい……」
二人から謝罪の言葉を貰ったマルクは、やれやれと溜息を吐きながら肩をすくめた。
「まったく、これで自分たちは住む世界が違うって言い合っているんだから意味が分からない。ボクから見れば、二人ともまったく同じタイプに他ならないよ。要は似た者同士っていうこと」
「…………」
ちらりと横目でオリヴァーを見れば、彼も横目でミレーを見ていた。
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ひとしきり笑い合って落ち着いた頃、マルクが書類を取りだした。
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