37 / 37
36
しおりを挟む
「は?! なんでそういうことになるんだよ!」
「あなたがそういう後悔をしているように見えたから!」
「オレはそんなことを考えたことはない!」
「じゃあなんでそんなこと言ったのって、聞いているの!」
「ミレーは貴族で、オレは平民だからだ!」
「あなただって貴族なんでしょう! それだって、私の方が爵位はずっと下だったのよ! 住む世界が違う? そんな格下だった私と婚約するのが今更嫌になったっていうのなら、そう言ってよ!」
「そんなことは言ってねえ! 大体、オレは平民だ!!」
「じゃあ私だって平民よ!」
「ミレーは貴族だろう!」
「マルクさんとの養子関係を切れば、今すぐ平民よ!」
がるると、歯を剥き出しにして睨み合っていると、聞き覚えのある声と咳払いが聞こえた。
「君たちは二人とも、こう品格のある喧嘩というものが出来ないのかい?」
グランディア家のメイドに案内されて今来たというマルクが、オリヴァーとミレーを見て呆れた顔をしていた。
その表情に、ミレーは羞恥を覚えて顔を熱くさせた。
「ミレーとの養子関係を切るつもりはないよ」
ガゼボに移動した三人は、メイドが持ってきたお茶とお菓子をつまみながら話を続けた。
その話を続けられるとは思っていなかったミレーは、誤魔化すようにお菓子をかじりながら身を縮こませた。
「当たり前だ」
オリヴァーはお茶も飲まずに背もたれに寄りかかり、ふんぞり返りながらきっぱり言い放った。
「ミレーは、ボクの家と家族の関係でいるのはイヤだったの?」
マルクが悲しそうに眉尻を下げ、責めるようにミレーへ問う。
その視線をチクチクと肌で感じながら、ミレーは自白するように口を開いた。
「……あ、あれは売り言葉に買い言葉という感じで、言ってしまったというか……」
「そういう状況で軽々しく重要な話をしてしまってはいけないと、マナー講座で学ばなかったの?」
「……学びました……」
ミレーの反省の声を聞いたマルクは、次にオリヴァーのほうを向いた。
「で、君は一体いつまで反抗期を続けるつもりか、と前にも聞いたはずだけど?」
「……反抗期ってなんだよ」
「『貴族じゃない』? 君はどう逆立ちしても貴族なんだよ。君の御父上のご厚意に甘えて下町で平民ごっこをさせてもらっている立場だと、いい加減自覚しろ! いつまでも、何歳児のつもりだ!」
「……平民ごっこ?」
オリヴァーの額に青筋が浮かんだのが見えた気がした。
「……お前のことは良き友人だと思っていた。だが、それもついさっきまでの話だったようだな。今後一切、お前と交友関係を続けることはないだろう」
「あぁそう? じゃあミレー、帰ろうか」
マルクは冷めた表情でオリヴァーを見やったかと思うと、にっこりと作った笑顔をミレーに向けて立ち上がった。
「え? 帰る?」
戸惑うミレーに、マルクが笑顔のまま続ける。
「ミレーはうちの養子……うちの家族になったんだよ?」
「う、うん。そうだけど……」
「で、長年仲が良かったグランディア家と今後も交友関係のために、『政略結婚』という形でミレーを嫁がせることとなった。そして婚約期間中、二人の親睦を図るためにグランディア邸で暮らしてもらっている……こういう話だったよね?」
「う、うん……」
マルクが何を言わんとしているのか掴みかねていたが、横目でオリヴァーを見ると、彼は何を言われるのか分かっているようで、苛立った様子で顔をしかめていた。
「つまり、その関係に亀裂が生じる事態になったとすれば、この婚約も一旦考えなければならない。……白紙になるかもしれない相手の家に、ミレーを置いておく理由はないだろう?」
「え、でもそれは……」
クローバー家から絶縁され、貴族でなくなったミレーをオリヴァーと結婚させるための救済案であるだけの話だったのでは、と言いかけたのをマルクに口を塞がれ続けることが出来なかった。
オリヴァーは悔しそうに顔をしかめて、しかし黙って身体を震わせていた。
「だろう?」
マルクが念を押すように、オリヴァーへ問いかける。
「………………ぃ」
「ん?」
マルクが笑顔で聞き返す。
オリヴァーはマルクから目を逸らしたまま、先ほどより大きい声を出した。
「ごめ……んなさい。オレが悪かったでした」
「で?」
「……だから、ミレーを連れ帰らないでください」
「じゃあ今後も友好関係を?」
「良き友人でいてください……」
「そういうのは普通相手の目を見ていうものじゃない?」
今マルクはとても楽しそうな顔をしていた。
反してオリヴァーは、砂糖を入れ忘れたコーヒーを飲まされたような顔をぎこちなく動かして、マルクの方を向いた。
「良き友人でいてください」
まるで表情とセリフが一致していないが、これ以上突っ込むのは悪い気がして、ミレーは黙っていた。
「……これでいいか?」
不満を露わにした顔でマルクに問う。そんな彼へ、マルクが笑いかけた。
「これに懲りたら、君も迂闊なことを言うんじゃないよ? 前も言ったけれど、貴族はこういう言葉尻をとらえるのが得意だ。感情的になって要らないことを言うと、すぐにつけ込まれる。懐に入るのを許したら、どんな負債を被るかわかったものじゃない。わかったか?」
「……はい」
嫌そうな顔で渋々と言った声で答えるオリヴァーに頬が緩みそうになると、マルクはミレーの方へ顔を向けた。
「ミレーもだよ」
その目は鋭くミレーを見つめ、オリヴァーと同様、軽率な言葉は使わないよう責められた。
「ご、ごめんなさい……」
二人から謝罪の言葉を貰ったマルクは、やれやれと溜息を吐きながら肩をすくめた。
「まったく、これで自分たちは住む世界が違うって言い合っているんだから意味が分からない。ボクから見れば、二人ともまったく同じタイプに他ならないよ。要は似た者同士っていうこと」
「…………」
ちらりと横目でオリヴァーを見れば、彼も横目でミレーを見ていた。
それがおかしくて、どちらからともなく吹き出し、盛大に笑い合った。
ひとしきり笑い合って落ち着いた頃、マルクが書類を取りだした。
「あなたがそういう後悔をしているように見えたから!」
「オレはそんなことを考えたことはない!」
「じゃあなんでそんなこと言ったのって、聞いているの!」
「ミレーは貴族で、オレは平民だからだ!」
「あなただって貴族なんでしょう! それだって、私の方が爵位はずっと下だったのよ! 住む世界が違う? そんな格下だった私と婚約するのが今更嫌になったっていうのなら、そう言ってよ!」
「そんなことは言ってねえ! 大体、オレは平民だ!!」
「じゃあ私だって平民よ!」
「ミレーは貴族だろう!」
「マルクさんとの養子関係を切れば、今すぐ平民よ!」
がるると、歯を剥き出しにして睨み合っていると、聞き覚えのある声と咳払いが聞こえた。
「君たちは二人とも、こう品格のある喧嘩というものが出来ないのかい?」
グランディア家のメイドに案内されて今来たというマルクが、オリヴァーとミレーを見て呆れた顔をしていた。
その表情に、ミレーは羞恥を覚えて顔を熱くさせた。
「ミレーとの養子関係を切るつもりはないよ」
ガゼボに移動した三人は、メイドが持ってきたお茶とお菓子をつまみながら話を続けた。
その話を続けられるとは思っていなかったミレーは、誤魔化すようにお菓子をかじりながら身を縮こませた。
「当たり前だ」
オリヴァーはお茶も飲まずに背もたれに寄りかかり、ふんぞり返りながらきっぱり言い放った。
「ミレーは、ボクの家と家族の関係でいるのはイヤだったの?」
マルクが悲しそうに眉尻を下げ、責めるようにミレーへ問う。
その視線をチクチクと肌で感じながら、ミレーは自白するように口を開いた。
「……あ、あれは売り言葉に買い言葉という感じで、言ってしまったというか……」
「そういう状況で軽々しく重要な話をしてしまってはいけないと、マナー講座で学ばなかったの?」
「……学びました……」
ミレーの反省の声を聞いたマルクは、次にオリヴァーのほうを向いた。
「で、君は一体いつまで反抗期を続けるつもりか、と前にも聞いたはずだけど?」
「……反抗期ってなんだよ」
「『貴族じゃない』? 君はどう逆立ちしても貴族なんだよ。君の御父上のご厚意に甘えて下町で平民ごっこをさせてもらっている立場だと、いい加減自覚しろ! いつまでも、何歳児のつもりだ!」
「……平民ごっこ?」
オリヴァーの額に青筋が浮かんだのが見えた気がした。
「……お前のことは良き友人だと思っていた。だが、それもついさっきまでの話だったようだな。今後一切、お前と交友関係を続けることはないだろう」
「あぁそう? じゃあミレー、帰ろうか」
マルクは冷めた表情でオリヴァーを見やったかと思うと、にっこりと作った笑顔をミレーに向けて立ち上がった。
「え? 帰る?」
戸惑うミレーに、マルクが笑顔のまま続ける。
「ミレーはうちの養子……うちの家族になったんだよ?」
「う、うん。そうだけど……」
「で、長年仲が良かったグランディア家と今後も交友関係のために、『政略結婚』という形でミレーを嫁がせることとなった。そして婚約期間中、二人の親睦を図るためにグランディア邸で暮らしてもらっている……こういう話だったよね?」
「う、うん……」
マルクが何を言わんとしているのか掴みかねていたが、横目でオリヴァーを見ると、彼は何を言われるのか分かっているようで、苛立った様子で顔をしかめていた。
「つまり、その関係に亀裂が生じる事態になったとすれば、この婚約も一旦考えなければならない。……白紙になるかもしれない相手の家に、ミレーを置いておく理由はないだろう?」
「え、でもそれは……」
クローバー家から絶縁され、貴族でなくなったミレーをオリヴァーと結婚させるための救済案であるだけの話だったのでは、と言いかけたのをマルクに口を塞がれ続けることが出来なかった。
オリヴァーは悔しそうに顔をしかめて、しかし黙って身体を震わせていた。
「だろう?」
マルクが念を押すように、オリヴァーへ問いかける。
「………………ぃ」
「ん?」
マルクが笑顔で聞き返す。
オリヴァーはマルクから目を逸らしたまま、先ほどより大きい声を出した。
「ごめ……んなさい。オレが悪かったでした」
「で?」
「……だから、ミレーを連れ帰らないでください」
「じゃあ今後も友好関係を?」
「良き友人でいてください……」
「そういうのは普通相手の目を見ていうものじゃない?」
今マルクはとても楽しそうな顔をしていた。
反してオリヴァーは、砂糖を入れ忘れたコーヒーを飲まされたような顔をぎこちなく動かして、マルクの方を向いた。
「良き友人でいてください」
まるで表情とセリフが一致していないが、これ以上突っ込むのは悪い気がして、ミレーは黙っていた。
「……これでいいか?」
不満を露わにした顔でマルクに問う。そんな彼へ、マルクが笑いかけた。
「これに懲りたら、君も迂闊なことを言うんじゃないよ? 前も言ったけれど、貴族はこういう言葉尻をとらえるのが得意だ。感情的になって要らないことを言うと、すぐにつけ込まれる。懐に入るのを許したら、どんな負債を被るかわかったものじゃない。わかったか?」
「……はい」
嫌そうな顔で渋々と言った声で答えるオリヴァーに頬が緩みそうになると、マルクはミレーの方へ顔を向けた。
「ミレーもだよ」
その目は鋭くミレーを見つめ、オリヴァーと同様、軽率な言葉は使わないよう責められた。
「ご、ごめんなさい……」
二人から謝罪の言葉を貰ったマルクは、やれやれと溜息を吐きながら肩をすくめた。
「まったく、これで自分たちは住む世界が違うって言い合っているんだから意味が分からない。ボクから見れば、二人ともまったく同じタイプに他ならないよ。要は似た者同士っていうこと」
「…………」
ちらりと横目でオリヴァーを見れば、彼も横目でミレーを見ていた。
それがおかしくて、どちらからともなく吹き出し、盛大に笑い合った。
ひとしきり笑い合って落ち着いた頃、マルクが書類を取りだした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
好きだと先に言ったのはあなたなのに?
みみぢあん
恋愛
スタッドリー男爵令嬢ニーナは、友人にレブデール子爵令息のケインを紹介される。
出会ったばかりのケインに『好きだ』と告白された。それ以来、ニーナは毎日のように求愛され続けた。
明るくてさわやかなケインが好きになってゆき、ニーナは“秘密の恋人”となった。
――だが、しだいにケインから避けられるようになり、ニーナは自分の他にも“秘密の恋人”がケインにはいると知る。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】
はくら(仮名)
恋愛
更新はマイペースです。
本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。
一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!
夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」
婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。
それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。
死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。
……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。
「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」
そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……?
「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」
不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。
死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる