深くフードをかぶって

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始まり

今までとまりはべるがいと憂きを

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今日は風が強い。
私は強い風になびく髪の乱れを治すように耳にかけた。

カリカリと自転車のチェーンが雨で錆びついて学校に行く道を拒むように音を響かせる。

(今日も遅刻した。やっぱりサボってしまおうか。)

私は遣る瀬無い気持ちを押し殺して錆びつく自転車を急がせた。

学校の近くの公園にいつもいる男子。今日も一人でベンチに座って遠くを見つめている。何か言いたげでいつも寂しそうで毎日見る姿に私は心を惹かれていた。

(今日も学校に行かずにここにいるんだ。私と一緒だなぁ。話しかけてみようかな。)

その日に限って自分の意地の悪さに苛立ちを覚えてなんとか収めてしまいたいと勢いよく声に出した。

「理不尽だよねー!世の中!」

彼はビクッとして振り向いた。

「き、君は...」

彼は篭っていた。話すのが苦手なのか。

「あー...えっと、ごめんなさい。私いつもここにいる君見てて。何してるのかなぁって…」

「あ、あの、ん、えっと。お、れ一人…なんだ。」

「え、えっと。私もだよ?」

「ぁあ…」

(んー、やっぱり話しかけないほうがよかったかなぁ…あれ、彼の制服…私の学校と同じ…同じ学校かな?…でも不登校の男の子なんていたっけ。)

私の学校は在学生も少ないため在学中の生徒の名前はみんなが知っている。だから噂や悪さもすぐにみんなに知れ渡り晒し上げにされる。

今思えば彼との沈黙は数分だったのに何時間にも感じた。彼はどこか重たい空気をまとい、固く閉じていた口を開いた。

「君の名前は?」

「えっと、あき。」

「あ、あき。うん」

いきなりにも流暢に話すもんだからびっくりした私はどこの誰かもわからない相手に本名を言ってしまった。今の世の中は物騒なのに私は注意散漫だった。

「君は?」

「俺?…名前はない」

「名前ないの?」

「ない。無くした。」

この時から彼は不思議で何を考えているか全く見当もつかなかった。そんなところに惹かれた私も不思議だが、これが彼との初めての出会いだった。

この日彼に出会わなければ私は朝から夜までのバイトも単位のために毎日学校に行くことも大学受験も就職も人生でないくらい頑張ることはなかっただろう。彼と一緒にいるにはそうしなければならなかったから。
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