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3. 彼らは自称、転生騎士団
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「ひ、非常識だ……」
私の口からかろうじて絞り出されたその言葉は、爆発的な喧騒の中では誰の耳にも届かなかったらしい。目の前の四人の美少年――自称・騎士団は、公開プロポーズという名のテロ行為を成功させたことに満足したのか、実に晴れやかな表情を浮かべていた。
「さあ、参りましょう、我らが女王陛下。このような騒がしい場所は、貴女様にはふさわしくありません」
リーダー格の一条彰人くんが優雅に言い放つと、私の返事を待つまでもなく、ひょいと軽々と私を横抱きにした。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
「なっ……!? なにを……! お、降ろしてください!」
突然の浮遊感に、私の脳はようやく再起動を始める。腕の中で必死にもがくが、彼の腕は鋼のように固く、びくともしない。周囲の女子生徒から「キャー!」という悲鳴と「ズルい!」という怨嗟の声が同時に上がるのが聞こえる。お願いだからやめてくれ。私のHPはもうゼロよ!
「道を開けよ! 我らが主君のお通りである!」
一条くんが高らかに宣言すると、まるでモーセの奇跡のように、ごった返していた人混みが左右に割れていく。その隙間を、彼は私を抱えたまま、少しの揺れもなく堂々と進んでいく。その後ろを如月くん、倉吉くん、早苗くんが、まるでSPのように固めてついてくる。
「クロード、西側ルートを確保。リュシアンは後方の牽制を。ルイは先行して安全確認を頼む」
「了解した、レノー」
「御意に」
「任せとけって、団長!」
……レノー? クロード?リュシアン?ルイ?
何やら不穏な単語が聞こえた気がするが、今の私にそれを気にする余裕はなかった。私はただ、この悪夢のような状況から一刻も早く脱出することしか考えられない。
彼らが向かったのは、体育館から校舎へと続く渡り廊下の先、おそらく新入生は誰も足を踏み入れないであろう、旧体育館の裏手だった。日陰になっていて、少しひんやりとした空気が漂う、まさに告白かカツアゲの定番スポット。そんな場所に、私は大事に大事に、床に預けるように降ろされた。
「はあ、はあ……な、なんなんですか、あなたたちは! いきなり人を抱きかかえて連れ去るなんて、誘拐ですよ!」
ようやく解放された私は、息を切らしながら、最大限の勇気を振り絞って彼らを睨みつけた。制服のスカートについた砂埃を払いながら、頭の中ではいくつかの可能性をシミュレーションする。
一つ、これは手の込んだドッキリ番組だ。どこかに隠しカメラがあって、後でプラカードを持った芸人が出てくる。
二つ、彼らは新手の宗教か、マルチ商法の勧誘員だ。最初にこういう突飛な行動で相手を混乱させ、判断能力を奪って契約書にサインさせる手口に違いない。
三つ、ここは精神科の病院で、私は患者。そして彼らも患者。これは全て私の見ている幻覚だ。
そうでも考えなければ、この非現実的な状況を説明できるはずがなかった。
「誘拐などと、とんでもない。我らは貴女様を、愚かな大衆の目に晒し続けることからお救いしたまで。……申し遅れました、乃蒼様」
一条くんは私の剣幕にも怯むことなく、再び恭しく片膝をついた。他の三人も、それに倣う。
「我はレノー。前世において、貴女様が治められたアレンアン王国の騎士団『四聖獣の騎士団』にて、団長を務めておりました "紅蓮の獅子" です。こちらの世界では、一条彰人という名を拝借しております」
レノー? アレンアン王国? 紅蓮の獅子?
ファンタジー小説の読みすぎじゃないだろうか。痛々しいにも程がある。
「同じく副団長、そして軍師を務めておりました、"蒼穹の鷲" クロードです。現世での名は、如月伊呂波。貴女様の幸福度を最大化するためのロジックを構築するのが、私の使命です」
如月くんが、眼鏡の位置を直しながら冷静に告げる。幸福度を最大化するロジック、とは。
「…… "翠緑の蛇" リュシアン。諜報および、貴女様に仇なす者を秘密裏に排除するのが役目でした。今は、倉吉凪と。貴女様の御髪の香りは、千年の時を超えてもなお、私の心を安らげます」
倉吉くんが、うっとりとした表情で、何を言っているのかよくわからないポエムを呟く。
「オレは "白銀の狼" ルイ! 遊撃と特攻担当だったんだ! こっちじゃ早苗翔。ま、細かいこたぁいいんだよ! とにかく、また会えてめちゃくちゃ嬉しいぜ、乃蒼さま!」
最後に、早苗くんが屈託のない笑顔で歯を見せた。彼だけが唯一、まともな現代語を話している気がするが、内容は全くまともではなかった。
四人の自己紹介が終わる。全員の視線が、期待に満ちた眼差しで私に注がれていた。おそらく、感動の再会を喜ぶ私の言葉を待っているのだろう。
無理だ。
「……あの」
私が恐る恐る口を開くと、四人の顔がパッと輝いた。
「はい、乃蒼様!」
「人違い、では……ないでしょうか?」
私の渾身の、そして最も穏便に事を済ませようという提案に、四人の表情が凍り付いた。
「……は?」
一条くんの口から、素っ頓狂な声が漏れる。
「人違い……? あり得ません。我らが、我らが仕えた唯一無二の女王陛下、乃蒼様のお顔を、魂を、見間違えるはずがない!」
その通りですと、如月くんが続ける。
「我々は、貴女の魂が放つ特有の霊的波長を感知し、入学式でその姿を視認した瞬間に、封印されていた前世の記憶が完全に覚醒しました。この事象は、科学的に見ても貴女様が我らが主君であることの証明に他なりません」
科学的とは。どの世界の科学なんだ。
それに……と、倉吉くんが私の目をじっと見つめてくる。
「その瞳です。全てを慈しむような、それでいて、芯の強さを隠したその瞳の色は、我らが最後に見た女王陛下のそれと寸分違わぬ……ああ……」
「そうそう! なんか、アナタ見てるとさ、胸の奥があったかくなるっていうか、懐かしい感じがすんだよな! これはもう、絶対本人だって!」
早苗くんが、うんうんと一人で頷いている。
話が一ミリも噛み合わない。
彼らは本気だった。本気で、私を前世の女王様の生まれ変わりだと信じ込んでいる。ドッキリでも勧誘でもなく、ただただ、純粋に、壮大に、勘違いをしているのだ。
「待ってください、お願いします、落ち着いて聞いてください」
私は両手を前に出し、彼らを制する。
「まず、私は女王様ではありません。夢見ヶ崎乃蒼です。冒険家の両親に振り回されて、ジャングルとか砂漠とかにはちょっと詳しいですけど、王国を治めた経験は一切ありません」
「なんと、幼少期は左様な過酷な環境に! 我々がお側にいなかったばかりに……! 万死に値する!」
一条くんがなぜか自分の非を悔いて拳を握りしめている。違う、そうじゃない。
「それに、あなた方の言う前世の記憶とやらも、何かの集団催眠とか、あるいは同じアニメやゲームにハマった人たちのオフ会的なノリなのでは……?」
「だとしたら、我々四人が全く同じ記憶を共有していることの説明がつきません。アレンアン王国の地理、歴史、文化、そして隣国ルーハンド帝国との百年に渡る戦争の記憶。その全てが、寸分の狂いもなく一致しています」
如月くんが、冷静に、しかし的確に私の反論を潰してくる。
もうだめだ。何を言っても無駄だ。彼らの脳内では、完璧なファンタジー世界が出来上がってしまっている。私にできることは一つしかない。
「わかりました」
私は、大きく一つ頷いた。
「あなた方が、そう信じていることは理解しました。その上で、申し上げます」
私は四人の顔を順番に、しっかりと見つめて、はっきりと宣言した。
「私は、あなた方の女王になるつもりも、妻になるつもりも、一切ありません。私はただ、平凡で、目立たない、普通の高校生活を送りたいだけなんです。ですから、どうか、もう私に関わらないでください。お願いします」
深々と私は頭を下げた。これでわかってくれるはずだ。これ以上、関わりたくないという私の固い意志が。
しかし。
顔を上げた私の目に映ったのは、絶望する四人の姿……ではなく、なぜか、頬を赤らめ、感極まったような表情で私を見つめる四人の姿だった。
「……おお」
一条くんが、感動に打ち震える声で呟いた。
「なんと奥ゆかしい……! 前世での立場を笠に着ることなく、あくまで一人の少女として振る舞おうとされるその謙虚さ! やはり、我らが女王はこうでなくては!」
「え?」
「なるほど、平凡、ですか」
如月くんが、何かを納得したように頷く。
「確かに、王族としての身分を隠し、市井の人々の生活を体験することは、次代の統治者として非常に有意義な経験となるでしょう。承知いたしました。我々も全力で、貴女様の普通の高校生活ごっこをサポートさせていただきます」
「ええ?」
「……ああ、なんと愛らしい。照れていらっしゃるのですね。我々のような男共にいきなり求婚されて、恥ずかしくないはずがない。貴女様のその初心な反応、私の心に深く刻みつけました」
倉吉くんが、恍惚の表情で胸に手を当てている。
「えええ?」
「そっかー! そういうことか! いきなり妻になれは、こっちの常識だったもんな! ごめんな、乃蒼様! でも、気持ちは本当だからな! これからゆっくり、オレたちのことわかってくれよな!」
早苗くんが、ニカッと笑いながらウィンクまでしてきた。
「ええええええええええ!?」
話が通じていない。
それどころか、私の全力の拒絶が、全て彼らにとって都合のいい方向へと超解釈されてしまっている!
キーンコーンカーンコーン……。
その時、無情にも、最初のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
それを合図に、私は脱兎のごとくその場から駆け出した。
「わ、私は、教室に戻りますので! これで、失礼します!」
背後から「お待ちください、乃蒼様!」「危ないので走っては!」「我々もご一緒します!」という声が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
教室に駆け込み、自分の席に滑り込む。心臓が、ありえないくらい速いリズムで鼓動を刻んでいた。
なんてことだ。私の高校生活、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったのではないか。
私の平穏な日常は、どこ?
私の普通の青春は、一体どこに行ってしまったの?
教室の喧騒が、やけに遠くに聞こえた。
前途多難。その言葉だけが、私の頭の中をぐるぐると回り続けていた。
私の口からかろうじて絞り出されたその言葉は、爆発的な喧騒の中では誰の耳にも届かなかったらしい。目の前の四人の美少年――自称・騎士団は、公開プロポーズという名のテロ行為を成功させたことに満足したのか、実に晴れやかな表情を浮かべていた。
「さあ、参りましょう、我らが女王陛下。このような騒がしい場所は、貴女様にはふさわしくありません」
リーダー格の一条彰人くんが優雅に言い放つと、私の返事を待つまでもなく、ひょいと軽々と私を横抱きにした。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
「なっ……!? なにを……! お、降ろしてください!」
突然の浮遊感に、私の脳はようやく再起動を始める。腕の中で必死にもがくが、彼の腕は鋼のように固く、びくともしない。周囲の女子生徒から「キャー!」という悲鳴と「ズルい!」という怨嗟の声が同時に上がるのが聞こえる。お願いだからやめてくれ。私のHPはもうゼロよ!
「道を開けよ! 我らが主君のお通りである!」
一条くんが高らかに宣言すると、まるでモーセの奇跡のように、ごった返していた人混みが左右に割れていく。その隙間を、彼は私を抱えたまま、少しの揺れもなく堂々と進んでいく。その後ろを如月くん、倉吉くん、早苗くんが、まるでSPのように固めてついてくる。
「クロード、西側ルートを確保。リュシアンは後方の牽制を。ルイは先行して安全確認を頼む」
「了解した、レノー」
「御意に」
「任せとけって、団長!」
……レノー? クロード?リュシアン?ルイ?
何やら不穏な単語が聞こえた気がするが、今の私にそれを気にする余裕はなかった。私はただ、この悪夢のような状況から一刻も早く脱出することしか考えられない。
彼らが向かったのは、体育館から校舎へと続く渡り廊下の先、おそらく新入生は誰も足を踏み入れないであろう、旧体育館の裏手だった。日陰になっていて、少しひんやりとした空気が漂う、まさに告白かカツアゲの定番スポット。そんな場所に、私は大事に大事に、床に預けるように降ろされた。
「はあ、はあ……な、なんなんですか、あなたたちは! いきなり人を抱きかかえて連れ去るなんて、誘拐ですよ!」
ようやく解放された私は、息を切らしながら、最大限の勇気を振り絞って彼らを睨みつけた。制服のスカートについた砂埃を払いながら、頭の中ではいくつかの可能性をシミュレーションする。
一つ、これは手の込んだドッキリ番組だ。どこかに隠しカメラがあって、後でプラカードを持った芸人が出てくる。
二つ、彼らは新手の宗教か、マルチ商法の勧誘員だ。最初にこういう突飛な行動で相手を混乱させ、判断能力を奪って契約書にサインさせる手口に違いない。
三つ、ここは精神科の病院で、私は患者。そして彼らも患者。これは全て私の見ている幻覚だ。
そうでも考えなければ、この非現実的な状況を説明できるはずがなかった。
「誘拐などと、とんでもない。我らは貴女様を、愚かな大衆の目に晒し続けることからお救いしたまで。……申し遅れました、乃蒼様」
一条くんは私の剣幕にも怯むことなく、再び恭しく片膝をついた。他の三人も、それに倣う。
「我はレノー。前世において、貴女様が治められたアレンアン王国の騎士団『四聖獣の騎士団』にて、団長を務めておりました "紅蓮の獅子" です。こちらの世界では、一条彰人という名を拝借しております」
レノー? アレンアン王国? 紅蓮の獅子?
ファンタジー小説の読みすぎじゃないだろうか。痛々しいにも程がある。
「同じく副団長、そして軍師を務めておりました、"蒼穹の鷲" クロードです。現世での名は、如月伊呂波。貴女様の幸福度を最大化するためのロジックを構築するのが、私の使命です」
如月くんが、眼鏡の位置を直しながら冷静に告げる。幸福度を最大化するロジック、とは。
「…… "翠緑の蛇" リュシアン。諜報および、貴女様に仇なす者を秘密裏に排除するのが役目でした。今は、倉吉凪と。貴女様の御髪の香りは、千年の時を超えてもなお、私の心を安らげます」
倉吉くんが、うっとりとした表情で、何を言っているのかよくわからないポエムを呟く。
「オレは "白銀の狼" ルイ! 遊撃と特攻担当だったんだ! こっちじゃ早苗翔。ま、細かいこたぁいいんだよ! とにかく、また会えてめちゃくちゃ嬉しいぜ、乃蒼さま!」
最後に、早苗くんが屈託のない笑顔で歯を見せた。彼だけが唯一、まともな現代語を話している気がするが、内容は全くまともではなかった。
四人の自己紹介が終わる。全員の視線が、期待に満ちた眼差しで私に注がれていた。おそらく、感動の再会を喜ぶ私の言葉を待っているのだろう。
無理だ。
「……あの」
私が恐る恐る口を開くと、四人の顔がパッと輝いた。
「はい、乃蒼様!」
「人違い、では……ないでしょうか?」
私の渾身の、そして最も穏便に事を済ませようという提案に、四人の表情が凍り付いた。
「……は?」
一条くんの口から、素っ頓狂な声が漏れる。
「人違い……? あり得ません。我らが、我らが仕えた唯一無二の女王陛下、乃蒼様のお顔を、魂を、見間違えるはずがない!」
その通りですと、如月くんが続ける。
「我々は、貴女の魂が放つ特有の霊的波長を感知し、入学式でその姿を視認した瞬間に、封印されていた前世の記憶が完全に覚醒しました。この事象は、科学的に見ても貴女様が我らが主君であることの証明に他なりません」
科学的とは。どの世界の科学なんだ。
それに……と、倉吉くんが私の目をじっと見つめてくる。
「その瞳です。全てを慈しむような、それでいて、芯の強さを隠したその瞳の色は、我らが最後に見た女王陛下のそれと寸分違わぬ……ああ……」
「そうそう! なんか、アナタ見てるとさ、胸の奥があったかくなるっていうか、懐かしい感じがすんだよな! これはもう、絶対本人だって!」
早苗くんが、うんうんと一人で頷いている。
話が一ミリも噛み合わない。
彼らは本気だった。本気で、私を前世の女王様の生まれ変わりだと信じ込んでいる。ドッキリでも勧誘でもなく、ただただ、純粋に、壮大に、勘違いをしているのだ。
「待ってください、お願いします、落ち着いて聞いてください」
私は両手を前に出し、彼らを制する。
「まず、私は女王様ではありません。夢見ヶ崎乃蒼です。冒険家の両親に振り回されて、ジャングルとか砂漠とかにはちょっと詳しいですけど、王国を治めた経験は一切ありません」
「なんと、幼少期は左様な過酷な環境に! 我々がお側にいなかったばかりに……! 万死に値する!」
一条くんがなぜか自分の非を悔いて拳を握りしめている。違う、そうじゃない。
「それに、あなた方の言う前世の記憶とやらも、何かの集団催眠とか、あるいは同じアニメやゲームにハマった人たちのオフ会的なノリなのでは……?」
「だとしたら、我々四人が全く同じ記憶を共有していることの説明がつきません。アレンアン王国の地理、歴史、文化、そして隣国ルーハンド帝国との百年に渡る戦争の記憶。その全てが、寸分の狂いもなく一致しています」
如月くんが、冷静に、しかし的確に私の反論を潰してくる。
もうだめだ。何を言っても無駄だ。彼らの脳内では、完璧なファンタジー世界が出来上がってしまっている。私にできることは一つしかない。
「わかりました」
私は、大きく一つ頷いた。
「あなた方が、そう信じていることは理解しました。その上で、申し上げます」
私は四人の顔を順番に、しっかりと見つめて、はっきりと宣言した。
「私は、あなた方の女王になるつもりも、妻になるつもりも、一切ありません。私はただ、平凡で、目立たない、普通の高校生活を送りたいだけなんです。ですから、どうか、もう私に関わらないでください。お願いします」
深々と私は頭を下げた。これでわかってくれるはずだ。これ以上、関わりたくないという私の固い意志が。
しかし。
顔を上げた私の目に映ったのは、絶望する四人の姿……ではなく、なぜか、頬を赤らめ、感極まったような表情で私を見つめる四人の姿だった。
「……おお」
一条くんが、感動に打ち震える声で呟いた。
「なんと奥ゆかしい……! 前世での立場を笠に着ることなく、あくまで一人の少女として振る舞おうとされるその謙虚さ! やはり、我らが女王はこうでなくては!」
「え?」
「なるほど、平凡、ですか」
如月くんが、何かを納得したように頷く。
「確かに、王族としての身分を隠し、市井の人々の生活を体験することは、次代の統治者として非常に有意義な経験となるでしょう。承知いたしました。我々も全力で、貴女様の普通の高校生活ごっこをサポートさせていただきます」
「ええ?」
「……ああ、なんと愛らしい。照れていらっしゃるのですね。我々のような男共にいきなり求婚されて、恥ずかしくないはずがない。貴女様のその初心な反応、私の心に深く刻みつけました」
倉吉くんが、恍惚の表情で胸に手を当てている。
「えええ?」
「そっかー! そういうことか! いきなり妻になれは、こっちの常識だったもんな! ごめんな、乃蒼様! でも、気持ちは本当だからな! これからゆっくり、オレたちのことわかってくれよな!」
早苗くんが、ニカッと笑いながらウィンクまでしてきた。
「ええええええええええ!?」
話が通じていない。
それどころか、私の全力の拒絶が、全て彼らにとって都合のいい方向へと超解釈されてしまっている!
キーンコーンカーンコーン……。
その時、無情にも、最初のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
それを合図に、私は脱兎のごとくその場から駆け出した。
「わ、私は、教室に戻りますので! これで、失礼します!」
背後から「お待ちください、乃蒼様!」「危ないので走っては!」「我々もご一緒します!」という声が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
教室に駆け込み、自分の席に滑り込む。心臓が、ありえないくらい速いリズムで鼓動を刻んでいた。
なんてことだ。私の高校生活、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったのではないか。
私の平穏な日常は、どこ?
私の普通の青春は、一体どこに行ってしまったの?
教室の喧騒が、やけに遠くに聞こえた。
前途多難。その言葉だけが、私の頭の中をぐるぐると回り続けていた。
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