私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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13. 軍師立案! 必勝学習計画(ただしスパルタ)

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 私が不本意ながらも「特別教導官」の任を引き受けた、その翌日の放課後。
 中間試験対策チームの第一回会合が図書室の片隅にあるミーティングスペースで開かれることになった。
 メンバーは私と騎士団の四人。そして、なぜか「面白そうだから!」という理由だけで、オブザーバー参加を表明した莉緒ちゃんの計六名だ。

「よし、全員揃ったな!」

 一条くんが、やる気に満ちた表情で高らかに宣言する。

「これより、第一回 中間試験対策・軍議を開始する! まずは、軍師クロードより、作戦概要の説明を!」
「……一条、図書室では静かに。あと、その呼び方はやめろ」

 如月くんはやれやれといった様子で一条くんを諌めると、持参したノートパソコンをテーブルの上に置いた。そして、カチカチとキーボードを打ち込み、プロジェクターでも持っているかのように、何もない壁に向かってプレゼンテーションを始めた。

「それでは、これより我々が実行する『対中間試験・必勝学習計画』の概要を説明する。作戦名は――『オペレーション・アレンアンズ・ドーン(アレンアンの夜明け)』だ」
「おおー!」

 一条くんと早苗くんがよくわからないままに感嘆の声を上げる。
 莉緒ちゃんは、「プッ……オペレーションて……」と、肩を震わせて笑いをこらえていた。私も、今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
 如月くんはそんな私たちの反応など意に介さず、淡々と説明を続ける。

「本計画の骨子は、大きく三つ。第一に、対象者……すなわち、一条と早苗の基礎学力の短期間における飛躍的向上。第二に、乃蒼様の苦手科目の完全克服。そして第三に、これら全てを試験開始までの残り十三日間で、完璧に達成することにある」

 彼はどこから取り出したのか、レーザーポインターで壁の一点を指し示した。もちろん、そこには何もない。

「そのために、私が昨晩作成したのが、この『完全習熟スケジュール』だ」

 彼はそう言うと印刷してきたのであろう、膨大な量の資料をテーブルの上にドン、と置いた。一人ひとりに配られたその資料を見て、私は絶句した。
 そこには、今日から試験前日までの十三日間のスケジュールがそれこそ分刻みで、びっしりと書き込まれていた。

【オペレーション・アレンアンズ・ドーン 週間スケジュール(抜粋)】
平日
06:00-07:00:起床・早朝トレーニング(※各自、前世の剣技の型を三千回)
07:00-08:00:朝食・移動(※移動中は、私が録音した英単語と古文単語の音声教材を聴取)
08:30-15:20:学校授業(※各自、最大限の集中力で臨むこと)
15:30-19:00:放課後学習(場所:図書室)
19:00-20:00:夕食・休憩(※食事は、私が考案した脳を活性化させる特別メニューのみ)
20:00-24:00:夜間学習(場所:夢見ヶ崎邸)
24:00-01:00:反省会・翌日の目標設定
01:00-05:00:睡眠(※四時間で十分である。騎士たるもの、ショートスリーパーであれ)

休日
05:00-24:00:特別強化合宿(※詳細は別紙参照)

「…………」

 言葉が出なかった。これは、学習計画などではない。もはや、どこかの国の特殊部隊の訓練計画だ。特に、睡眠時間が四時間しか確保されていない点と休日に至っては十九時間ぶっ通しの「特別強化合宿」が組まれている点が、正気の沙汰とは思えなかった。

「ちょ、ちょっと待ってください、如月くん!」

 私がようやく絞り出した抗議の声を、彼は冷静な視線で受け止める。

「何か問題でも? 乃蒼様。これはあらゆる無駄を削ぎ落とし、学習効率を最大化するために、私が論理的に導き出した、唯一無二の最適解です。」
「問題しかありません! 睡眠時間四時間って、普通に死にますよ!? あと、夜間学習が私の家になってるのは、一体どういうことですか!?」

 ご安心を、と彼は眼鏡の位置を直しながら言った。

「もちろん、ばかたれ二人と異なり、貴女様の睡眠時間は別途確保しています。また、夜間学習における貴女様の負担を考慮し、夕食の準備及び後片付けは倉吉が担当します。さらに、我々が夢見ヶ崎邸に滞在する間の警備も彼が完璧に遂行しますので、セキュリティ上の問題もありません」
「そういう問題じゃなくて!」

 隣では莉緒ちゃんが腹を抱えて震えている。

「やばい……面白すぎる……休日の強化合宿って、何するの……?」

 彼女の問いに、如月くんは、まるで当然のことのように答えた。

「滝に打たれながら数学の公式を暗唱したり、火を焚いてその周りで踊りながら歴史の年号を記憶に定着させるなど、前世で我々が実践してきた極めて効果的な学習法を取り入れる予定です」
「それ、ただの精神修行じゃない!?」
 
 莉緒ちゃんの的確なツッコミが、図書室に虚しく響いた。
当の教育対象者である二人はというと。

「おお! さすがは伊呂波だ! これだけやれば、俺も英雄王アストルの偉業を完璧に暗記できそうだ!」

 一条くんは目を輝かせている。

「滝行かー! なんか、強くなれそうだな! やる気出てきたぜ!」

 早苗くんも拳を握りしめてやる気満々だ。
 ダメだ、この人たちにはこの計画の異常性が全く理解できていない。
 むしろ、前世の記憶と共鳴してモチベーションが上がってしまっている。

「……というわけで、本計画の遂行にあたり、特別教導官である乃蒼様には、主にこの二名の学習進捗の監督と、精神的な支柱としての役割をお願いしたい」
「精神的な、支柱……」
「左様です。貴女様が見ていてくださる。その事実こそが、この愚か者二名の潜在能力を最大限に引き出す最も強力な触媒となるのです」

 如月くんはそう言って、私にウインク……のようなものをした。おそらく、彼なりの最大の配慮と信頼の表現なのだろう。
 しかし、私にとってはただの死刑宣告でしかなかった。
 こうして軍師・如月伊呂波によって立案された、あまりにもスパルタで、あまりにも非現実的で、そしてあまりにも前世の常識に引きずられた『必勝学習計画』が、満場一致(私と莉緒ちゃんを除く)で可決されてしまった。
 これから始まる、地獄の十三日間。
 私のささやかな日常は、今度こそ、完全に、中間試験という名の戦渦に飲み込まれていく。
 私は配られた資料をぐっと握りしめ、遠い目をした。
 せめて、私の家に泊まり込みで勉強するのだけは、絶対に阻止しなければ。それだけを、心の固い誓いとして。
 私の新たな戦いの火蓋が、今、切って落とされたのだった。
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