私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

文字の大きさ
18 / 30

18. 夜食と、ほんの少しの前世の記憶

しおりを挟む
 私の怒りの鉄槌が下されてから、騎士団の学習態度は劇的に変化した。
 いや、学習態度というより試練に立ち向かう姿勢と呼ぶ方が正しいかもしれない。
 一条彰人は本当に校庭を走りながら、汗だくで歴史の年号を叫び続けた。途中、下校途中の生徒たちから奇異の目で見られていたが彼は一切気にしなかった。
 早苗翔も本当に図書室の蔵書数を数え始めた。何度も途中で数を間違えてはそのたびに「ちくしょう!」と叫びながら最初からやり直していた。司書の先生からは最終的に「君、静かにできないなら出ていきなさい」と、こっぴどく叱られていた。
 彼らの行動は学習効率という点では、相変わらずゼロに等しいかもしれない。
 しかし、その姿にはこれまでなかった必死さと覚悟が滲み出ていた。私の理不尽な命令に彼らは文句一つ言わず、ただひたすらに、真正面から向き合っている。
 そして、その変化は彼ら二人だけにとどまらなかった。
 如月伊呂波は、破り捨てられた自分の学習計画書をセロハンテープで修復しながらも、私の鬼教官ぶりを「……なるほど。論理や効率だけでは、人の心は動かせない、ということか。興味深いデータだ」と、何やら真剣に分析していた。
 倉吉凪は私のスケッチをする手を止め、黙々と、ダメ騎士二人が使うであろう参考書の重要箇所にマーカーを引いたり、付箋を貼ったりする作業に徹していた。
 私の一喝がバラバラだった彼らの心を、図らずも一つにしたのかもしれない。
 打倒・中間試験、そして、乃蒼教官の期待に応えるという、共通の目的の下に。
 結局、その日は、閉館時間ギリギリまで図書室に残りその後、私たちの戦いの舞台は、近くのファミリーレストランへと移された。

「……というわけで、昨日の一条と早苗の醜態は全て私の監督不行き届きによるもの。この埋め合わせは、必ずや」
「もういいから、如月くん。それより、注文しないとお腹すいたよ」
「しかし、乃蒼様……」
「いいの。それより、一条くんと早苗くん、大丈夫? まだ生きてる?」

 私の問いにテーブルの向かい側に座る二人は、まるで幽鬼のように、力なく顔を上げた。

「……乃蒼様……。俺は、走り切りました……。そして、悟りました……。人間、やればできる、と……」
「……指の数が全部で十本あることの奇跡を、俺は今、噛み締めている……」

 二人とも完全に燃え尽きて、抜け殻のようになっていた。
 そんな彼らの前に注文したハンバーグやらパスタやらが、次々と運ばれてくる。その匂いで、二人の目にようやく生命の光が戻った。

「「いただきます!」」

 ものすごい勢いで、料理にがっつき始める二人。その姿は騎士というより、数日間何も食べていなかった野生動物のようだった。

「まあまあ、ゆっくり食べなよ。喉詰まらせるよ」

 莉緒ちゃんが、呆れながらも水の入ったコップを彼らの前に置いてあげる。
 全員が食事に集中し、しばらくの間、店内には食器の音だけが響いていた。
 その穏やかで、どこにでもあるファミレスの光景がなぜだか私の心をじんわりと温かくした。数週間前まで、こんな風に彼らと食卓を囲む日が来るなんて想像もできなかった。

「……うめえ」

 唐揚げを頬張りながら、早苗くんがぽつりと呟いた。

「なんか、死ぬほど疲れた後に食うメシって、格別だな」
「うむ。身体に染み渡るようだ」

 一条くんもハンバーグを噛み締めながら、深く頷く。

「……そういえば」

 彼はふと、何かを思い出したように、遠い目をした。

「前世でも、こんなことがあったな」
「え?」

 私が聞き返すと彼は少し照れたように、はにかんだ。

「ルーハンド帝国との、大きな会戦の後だ。我々は三日三晩、飲まず食わずで戦い続け、辛くも勝利を収めた。戦いが終わった後、生き残った者たちで焚き火を囲んで、なけなしの干し肉と硬いパンを分け合って食べたんだ」
「……」
「決して、美味いものではなかった。だが、あの時のパンの味は王宮で食べるどんな豪華な料理よりも美味しく感じられた。……今、このハンバーグを食べて、ふと、その時のことを思い出した」

 彼の言葉に、早苗くんも頷く。

「あったな、そんなこと。あの時、彰人、最後のパンを一番年下の新兵に譲ってただろ。団長なのに」
「当然だ。上に立つ者は常に、部下のことを第一に考えねばならん」
「へへっ。そういうとこ、昔から変わんねえよな、あんたは」

 二人は顔を見合わせて、懐かしそうに笑った。
 それは私がこれまで見たことのない、一条彰人と早苗翔の穏やかで、少しだけ大人びた表情だった。
 いつもは、私の前で「乃蒼様!」「乃蒼さま!」と騒いでばかりいる彼ら。
 でも、彼らには私の知らない、彼らだけの記憶と絆がある。
 剣と魔法の世界で騎士として、仲間として、生死を共にしてきた、確かな時間。
 その事実が、すとんと、私の胸に落ちてきた。

「……乃蒼様が我々に分け与えてくださった、あの夜食のスープの味も、忘れられませんな」

 不意に、如月くんが、静かに言った。

「戦場で冷え切った我々の身体をあの温かいスープがどれだけ癒してくれたことか」
「……え? 私が、スープ?」

 はいと、凪くんが小さく頷く。

「貴女様はご自分の分を、いつも負傷した兵士に分け与えておられた。そして、おっしゃるのです。『民を守るのが、王族の務めですから』と。そのお姿に我々は、何度、心を奮い立たされたことか」

 四人の視線が私に集まる。
 その瞳にはいつもの狂信的な熱量ではなく、ただ純粋な、深い敬愛と懐かしさの色が浮かんでいた。
 私にはそんな記憶は、もちろんない。
 でも、彼らが語る「前世の私」は私が思っていたよりも、ずっと立派で、優しい女王様だったのかもしれない。

「……そう、ですか」

 私はなんと返事をしていいかわからず、ただ、そう呟くことしかできなかった。
 その時、莉緒ちゃんがにっと笑って、私の背中をパンと叩いた。

「へえー! 乃蒼ちゃん、前世では結構いい女王様やってたんだね!」
「り、莉緒ちゃん!」
「よし、決めた! その女王様お手製の夜食スープとやらを再現してもらおうじゃないの! 試験勉強の夜食は、それで決まりだね!」
「ええええええ!?」

 莉緒ちゃんのあまりにも無茶な提案に、私は素っ頓狂な声を上げた。
 しかし、騎士団の四人は、「おお!」「それは素晴らしい!」と、大いに盛り上がっている。
 こうして私の意思とは全く関係なく、中間試験までの残り一週間、私が彼らのために夜食を作ることがなぜか決定してしまった。
 平凡な日常とはやっぱり違う。
 でも、目の前で本当に美味しそうにご飯を食べる彼らの姿を見ていると、まあ、夜食くらい、作ってあげてもいいかな、なんて。
 ほんの少しだけ、本当に、ほんの少しだけそう思ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...