私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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22. 種目決めは大荒れ

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 体育祭が「乃蒼様への聖戦」であると騎士団の中で勝手に認定されてしまった、その日の放課後。
 一年四組では、早速、出場種目を決めるためのホームルームが開かれていた。

「えー、それじゃあ、各種目の出場者を決めていくぞー。まずは、100メートル走からだな。足に自信のある奴はいるかー?」

 担任の気の抜けた声に、クラスの運動部員たちが「はい!」と元気よく手を挙げる。
 私もその他大勢の生徒たちと共に、配られた種目一覧のプリントに目を落としていた。

(よし、狙うは『玉入れ』か『大玉転がし』だな……)

 個人技が問われず集団の中に紛れることができ、なおかつ、そこそこの運動量でクラスに貢献できる。これほど、私の理想に合致した種目はない。これなら目立つことなく、平凡に体育祭を楽しむことができるはずだ。
 私が自分の名前を玉入れの欄に書き込もうとした、まさにその時だった。

「先生! 僭越ながら、俺から一つ、提案があります!」

 ビシッ、と。
 教室中に響き渡るような声と共に、一条彰人が勢いよく立ち上がった。
 クラス委員である彼が発言するのは、別におかしなことではない。しかし、その瞳がいつもの五割増しでギラギラと燃え上がっているのを見て、私の胸に警報が鳴り響いた。

(……始まった)

「なんだ、一条。提案って」
「はい! 我らが一年四組の至宝、夢見ヶ崎乃蒼さんの、体育祭における役割についてです!」

 いきなり、私の名前が出た。
 クラス中の視線が、一斉に私に突き刺さる。やめてくれ。私は今、ただの空気になりたいんだ。

「夢見ヶ崎さんは、ご存知の通り、才色兼備、文武両道でありながらその奥ゆかしさゆえ、自ら表舞台に立つことを望まれません!」

(いや、別に文武両道ではないし、ただ目立ちたくないだけ……)

「しかし! 彼女のような、クラスの太陽というべき存在が、後方で玉を投げているだけでよいのでしょうか!? いや、断じて否!」

 一条くんは芝居がかった仕草で、首を横に振る。

「そこで、提案です! 夢見ヶ崎さんにはこの体育祭において、我ら一年四組の『応援団長』を務めていただくのが、最もふさわしいと俺は愚考するものであります!」
「…………は?」

 彼のあまりにも突拍子もない提案に私だけでなく、クラスのほとんどの生徒が、ポカンと口を開けて固まった。
 応援団長。それは体育祭における、最も目立ち、最もリーダーシップが問われる、花形中の花形の役職。
 人前に立つのが苦手で、平凡を愛する私が最も対極にいるポジションだ。

「い、一条くん! 何を言ってるんですか! 私に応援団長なんて、絶対に無理です!」

 私が慌てて立ち上がって反論する。
 しかし、一条くんはそんな私の声を力強い笑顔でねじ伏せた。

「ご謙遜を、乃蒼様! 貴女様があの地獄の中間試験で、俺たちダメ騎士二人を導いてくださった、あのカリスマ性! あの指導力! あれこそ、応援団長に求められる資質そのものではありませんか!」

(あれは、カリスマ性ではなく、ただの怒りの発露……!)

「俺も、彰人に賛成!」

 すかさず、早苗翔が立ち上がって、援護射撃をする。

「乃蒼さまが団長やってくれるなら、俺たち絶対いつも以上の力、出せるぜ! なあ、みんな!」

 彼がクラスの男子たちにそう問いかけると、なぜか、男子生徒たちが、次々と「おお!」「いいな、それ!」「夢見ヶ崎さんが団長なら、俺、リレー頑張るわ!」などと、賛同の声を上げ始めた。
 おそらく、中間試験の一件で私の評価が、彼らの中で「面白い女」という方向にシフトしてしまったせいだろう。あるいは、ただ単に、学園のアイドルである一条くんと早苗くんに同調しているだけかもしれない。

「女子はどうだ!?」

 一条くんが、女子生徒たちに問いかける。
 女子たちの反応は、様々だった。一部は、「えー、夢見ヶ崎さんが?」と戸惑いの表情を浮かべている。しかし、クラスの中心的な女子グループの一人が、「……まあ、一条くんたちがそう言うなら、いいんじゃない? 面白そうだし」と、呟いた。
 その一言が、決定打だった。

「じゃあ、決まりだな!」
「夢見ヶ崎さん、よろしく!」

 あっという間に教室の空気は、「夢見ヶ崎乃蒼・応援団長」で決定、という流れに傾いてしまった。

「ちょ、ちょっと待ってください! 私は、玉入れに……!」

 私のか細い抵抗も、クラスの盛り上がりの前では、もはや風の前の塵に同じだった。

「よし! では、我らが主君・乃蒼様が応援団長に就任されることが決定したところで、次に、我々騎士団の出場種目を決めさせていただく!」

 一条くんは、完全に場の主導権を握っていた。
 彼は種目一覧のプリントを手に取り、高らかに宣言する。

「まず、俺、一条彰人は花形である『クラス対抗リレー』のアンカーと、『障害物競走』に出場する!」
「へへっ、じゃあ俺、早苗翔は、『100メートル走』と、『二人三脚』だな!」
「ならば、私は、『借り物競走』で私の知略を披露しよう。あらゆる『お題』を予測し、最短時間でクリアしてみせる」
「……私は騎馬戦で、乃蒼様をお守りする『騎馬』となりましょう。私の背中は、誰にも汚させません」

 彼らはまるで当たり前のように体育祭の中でも特に目立つ、花形競技ばかりを、次々と自分たちのものにしていった。
 クラスの他の生徒たちも、もはや、彼らの勢いに何も言えない。むしろ、「四天王が出るなら、優勝間違いなしだ!」と、期待に満ちた目で彼らを見ている。
 こうして、一年四組の種目決めは完全に騎士団の独壇場と化した。
 私のささやかな「玉入れに出たい」という願いは応援団長という、最も避けたい役職に上書きされ、彼らは英雄になるための舞台をいとも簡単に手に入れた。
 ホームルームが終わり、教室がざわめきに包まれる中。
 私は自分の席で力なく、真っ白に燃え尽きていた。

(終わった……。私の、平凡な体育祭が……)

 そんな私の元に莉緒ちゃんが、ニヤニヤしながらやってきた。

「いやー、すごいね、乃蒼ちゃん! ついに、応援団長かー! おめでとう!」
「……全然、めでたくない」
「まあまあ。あんだけカリスマ性見せつけちゃったんだから、仕方ないって。これも、自業自得ってやつ?」
「莉緒ちゃんの、馬鹿……」

 私がぐったりと机に突っ伏していると、満足げな顔をした一条くんが私の前に立った。
 そして、彼は実に晴れやかな笑顔で私に告げた。

「乃蒼様! 心配には及びません! 我らが貴女様を、この学園で最も輝く、最高の応援団長にしてみせます! 貴女様はただ、我々の戦いをその目に焼き付けてくだされば、それでよいのです!」

 彼のキラキラとした瞳。
 そこには私の気持ちを思いやる、という配慮は一ミリも存在しなかった。
 ただただ愛する女王を、最高の舞台に立たせたいという、独善的で純粋な忠誠心だけが燃え盛っている。
 ああ、本当に。なんで、こうなってしまったんだろう。
 種目決めは大荒れの末に、最悪の形で幕を閉じた。
 私の平凡への道はまたしても、彼らの手によって、大きく、大きく、歪められてしまったのだった。
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