私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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23. 騎士団式・早朝トレーニング

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 私が不本意ながらも応援団長に就任することが決定した、その翌朝のことだった。
 ピピピピッ、ピピピピッ――。
 まだ薄暗い午前五時。けたたましい目覚まし時計の音に、私は重たい瞼をこじ開けた。

(……眠い)

 昨夜は応援団長という重圧と、これから始まるであろう地獄の日々を想像して、ほとんど眠れなかったのだ。せめて、あと一時間……。
 私が二度寝の誘惑に抗えずに、再び布団に潜り込もうとした、まさにその時だった。
 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!
 玄関のチャイムがまるで非常ベルのように、けたたましく鳴り響いた。
 こんな早朝に、一体誰だ。新聞の勧誘? それとも、何かの事件だろうか。

「はーい、今、行きます……」

 眠い目をこすりなが、寝間着のスウェット姿のまま、私は玄関のドアを開けた。
 そして、その光景に、完全に目が覚めた。

「おはようございます、乃蒼団長!」
「おはよーっす、団長!」
「……おはようございます」
「乃蒼様、清々しい朝ですね」

 ドアの前には、なぜか、揃いの真っ赤なジャージに身を包んだ、騎士団の四人がやけに爽やかな笑顔で立ってい た。その手には、竹刀やら、木刀やら、ヌンチャクやら、物騒な得物まで握られている。

「……な、なんで、あなたたちが、ここに……?」

 私のあまりにも当然の疑問に、一条くんが、自信満々の笑顔で答えた。

「何を仰いますか! 体育祭という聖戦を前に我々騎士団が、身体を鍛え上げるのは当然のこと! そして、我らが団長である貴女様に、その成果を検分していただくのもまた、当然の義務であります!」
「は?」
「というわけで!」

 早苗くんが、元気よく私の腕を掴んだ。

「今日から体育祭本番まで、毎朝、オレたちと一緒に早朝トレーニングと洒落込もうぜ、団長!」
「いや、意味がわからないんですが!?」

 私の抗議など、彼らの耳には届かない。
 有無を言わさず、私は家の外へと引きずり出され、そのまま近所の公園まで連行されてしまった。
 そして、公園の広場で世にも奇妙な「騎士団式・早朝トレーニング」の幕が上がった。
 まずは、準備運動からだった。

「よし、まずは柔軟からだ! 伊呂波、号令を頼む!」
「了解した。……一、二、三、四!」

 如月くんの冷静な号令に合わせて、四人が一糸乱れぬ動きでストレッチを始める。その動きは、高校生の部活動のそれとは、明らかに異なっていた。一つ一つの動作に、無駄がなく、まるで戦場での実戦を想定したかのような、鋭さと殺気が込められている。

「……乃蒼様も、どうぞ」

 倉吉くんがそっと私の隣に立ち、手本を見せてくれる。彼の身体は、信じられないほど柔らかく、まるで軟体動物のようにしなやかに曲がっていた。諜報・暗殺担当として、あらゆる場所に潜り込むために、幼い頃から訓練を積んだ結果らしい。
 次に始まったのは、基礎体力トレーニング。
 しかし、それもまた、常軌を逸していた。

「うおおおおおおっ!」

 一条くんは公園の遊具である鉄棒を使い、片手で懸垂を始めた。それも、指一本だけで全体重を支えるという、人間離れした技を披露している。

「行くぜ、おりゃあああ!」

 早苗くんは公園のベンチを、まるで軽々と飛び箱のように、次々と跳び越えていく。
 そして、彼らは、私にもそれを強要してくるのだ。

「さあ、乃蒼団長! 団長たるもの、まずは兵士の模範となるべし! まずは、このベンチで腹筋百回から始めましょう!」
「無理です!」

 あまりの理不尽さに私は、公園の砂場で体育座りをし、断固としてトレーニングを拒否した。すると、彼らは「仕方ない」といった様子で、次のメニューへと移行した。
 それは、「前世の戦闘訓練」の再現だった。
 一条くんは木刀を手に、凄まじい速さで素振りを繰り返す。ブンッ、ブンッ、と、空気を切り裂く音が、早朝の公園に響き渡る。その剣筋は素人の私が見てもわかるほど、洗練され、力強かった。

「我が剣は、乃蒼様をお守りするために!」

 早苗くんは二本のヌンチャクを、まるで身体の一部のように巧みに操り、目にも止まらぬ速さで回転させる。ヒュンヒュン、と風を切る音が、彼の周囲に竜巻を巻き起こしているかのようだ。

「邪魔する奴は、誰であろうと、ぶっ飛ばす!」

 如月くんは竹刀を杖のように持ち、目を閉じ、静かに精神を集中させていた。彼は、いわゆる「心眼」で、仮想の敵の動きを読み、最小の動きで、最大の効果を上げるカウンター戦術をシミュレーションしているらしい。

「全ての攻撃は、予測可能事象に過ぎない」

 そして、倉吉くんはいつの間にか、公園の木の上に登っていた。彼は枝から枝へと、音もなく飛び移りながら、小石を投げて、数十メートル先の空き缶に寸分の狂いもなく命中させてみせる。

「貴女様に仇なす者は、どこにいようと、必ず……」

 彼らが放つ、あまりにも本気の闘気と殺気。
 その光景はもはや「トレーニング」などという生易しいものではなく、「演習」と呼ぶべきものだった。
 私は砂場で膝を抱えながら、その異常な光景を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

(……この人たち、本気だ)

 体育祭を本気で「戦い」だと思っている。
 そして、その戦いで勝利を掴むため、自分たちが持つ全ての技術と能力を再び研ぎ澄まそうとしている。
 その根底にあるのは、ただひたすらに純粋な、「乃蒼様のために」という忠誠心。

「……はぁ」

 ため息が、自然と漏れた。
 もう、何を言っても無駄だ。彼らのこの熱狂を止めることなど、誰にもできはしない。
 しばらくして、彼らの激しいトレーニングがようやく終わりを告げた。
 四人は汗だくになりながらも、どこか満足げな、清々しい表情で私の元へと集まってきた。

「いかがでしたか、乃蒼団長!」

 一条くんが実に爽やかな笑顔で、私に問いかける。

「我々の覚悟の一端は、ご覧いただけましたでしょうか!」

 私は砂まみれになったスウェットの膝を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。
 そして、彼らの期待に満ちた瞳を見つめ返し、一言だけ、告げた。

「……あなたたちが、すごいのは、よくわかりました」
「おおっ!」
「でも、明日からは私を巻き込まないで、あなたたちだけでやってください。私は、普通の女子高生なので早朝五時から、公園でヌンチャクを振り回す趣味はありませんので」

 私の、あまりにも当然のしかし、彼らにとっては予想外だったであろう返答。
 四人は一瞬、きょとんとした顔で固まった。
 そして、朝日が昇り始めた公園に私の「早く家に帰って、朝食の準備をしなければ」という、実に平凡で、切実な心の声が虚しく響き渡るのだった。
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