私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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27. 二人三脚と不協和音

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 一条彰人は、障害物競走を物理的に破壊し、失格寸前に。
 如月伊呂波は、借り物競走でお題を捏造し、堂々と失格処分となった。
 騎士団達が立て続けに、ある意味で伝説的な爪痕を残したことで、一年四組の注目度はもはや天元突破の状態に達していた。

『さあ、続いては、男子二人三脚です! 二人の息を、いかにぴったりと合わせられるかが勝負の鍵となります!』

 スタートラインに立つのは、倉吉凪と早苗翔。
 ミステリアスな影の暗殺者と、考えるより先に体が動く太陽の特攻隊長。
 水と油。静と動。
 どう考えても、相性が良いとは思えない、異色のコンビだった。

「……早苗。足を出すタイミングは、私が合図を送る。それ以外は、何も考えるな。ただ、私の動きに合わせろ」
「へいへい、わーってるよ、凪。細かいこたぁいいんだよ。勢いで、なんとかなるって!」

 スタート前から二人の間には、不穏な空気が流れていた。
 莉緒ちゃんが私の隣で、面白そうにスマホを構える。

「うわー、あの二人、絶対ヤバいじゃん。喧嘩とかしなきゃいいけど」
「……もう、どうなっても、知らない」

 私は悟りを開いたような顔で、ただ、目の前の光景を見つめていた。
 お互いの足を一本の紐で結びつけられた二人は、ぎこちない様子でスタートの合図を待つ。
 その姿はまるで、無理やり鎖で繋がれた、仲の悪い獣のようだった。
 パーン!
 ピストルの音と共に、各組が一斉にスタートする。
 他の組が、「いち、に、いち、に!」と、声を掛け合いながら順調に歩を進めていく中、倉吉くんと早苗くんのペアだけは、スタートラインでぴくりとも動かなかった。

「……なぜ、出ない、早苗」

 倉吉くんが低い声で、隣の相棒を睨みつける。

「いや、お前こそなんで右足から出そうとしてんだよ! 普通、左からだろ!」
「私の計算では、第一歩を右足で踏み出す方がコンマ0.2秒、タイムを短縮できる。黙って、私に合わせろ」
「うるせえ! 俺の野生の勘が、左だって言ってんだよ!」

 スタートラインのど真ん中で、彼らは本気の言い争いを始めてしまった。
 その間に、他の組はどんどん先へと進んでいく。あっという間に、彼らはぶっちぎりの最下位となった。

「あー、もう、埒が明かねえ!」

 ついに、しびれを切らした早苗くんが、叫んだ。

「こうなったら、俺が、お前を引っ張ってってやる!」
「なっ……! 待て、この猪武者!」

 早苗くんは、倉吉くんの制止を振り切り、まるで犬ぞりの犬のように、強引に前へと走り出した。当然、倉吉くんの足も、それに引きずられる形になる。

「うわっ!」
「ちょっ!」
「危ない!」

 二人は、もはや「二人三脚」とは呼べない、千鳥足のめちゃくちゃな動きで、コース上を暴走し始めた。

「こらー! ぶつかるぞ!」

 審判の教師の怒声が飛ぶが、彼らの耳には届いていない。
 二人はまるで一つの巨大な酔っ払いのように、蛇行運転を繰り返しながら、先行する他のペアを次々と、ごぼう抜きにしていく。
 そのスピードは、異常だった。
 息が合っていないにも関わらず、いや、合っていないからこそ生まれる、予測不可能な動き。
 右に傾いたかと思えば、次の瞬間には左に大きく揺れる。そのランダムな動きが、なぜか、驚異的な推進力を生み出していた。

「な、なんだ、あのペアは!?」
「速い! 息はバラバラなのに、めちゃくちゃ速いぞ!」

 観客席が、どよめき始める。
 そして、ついにトップを走っていたペアのすぐ後ろにまで、彼らは追いついた。
 最後の直線。勝負は、ここからだ。

「……早苗、右に三歩、大きく跳べ!」

 それまで、引きずられるがままだった倉吉くんが、突然、鋭い声で指示を出す。

「おうよ!」

 早苗くんは、その指示に即座に反応する。
 二人は、大きく右へとホップ、ステップ、ジャンプ。
 その動きは、まるでフィギュアスケートのペアダンスのように、不思議と、優雅だった。
 そして、トップのペアのすぐ横に並んだ、その瞬間。

「――今だ!」

 倉吉くんの、二度目の指示。
 次の瞬間、早苗くんは倉吉くんの身体を、抱きかかえた。

「なっ!?」

 そして、早苗くんを抱きかかえたままの状態で、ゴールラインへと、猛然とダッシュしたのだ。
 二人分の体重をものともしない、驚異的な脚力。

「えええええええええっ!?」

 グラウンドにいる、全ての人間が絶叫した。
 それは、もはや二人三脚ではない。ただの、力技の障害物運搬だ。
 ゴールラインを駆け抜けた早苗くんは、倉吉くんをそっと地面に降ろした。
 そして、二人は何事もなかったかのように、顔を見合わせ、ふん、と鼻を鳴らした。

「……お前の、猪のような突進力がなければ、勝てなかっただろうな」
「へへっ。お前の、変な指示がなきゃ、あそこで抜けてなかったかもな」

 彼らは、お互いの健闘を素直に認め合うことなく、しかし、どこか満足げな表情を浮かべていた。
 息は合っているようで、全く合っていない。
 けれど、その根底にある勝利への執着と、仲間への歪んだ信頼。
 それだけが、奇跡的な化学反応を起こし、彼らを一位へと導いたのだ。
 もちろん、そのゴールは審議の対象となった。

「……ただいまのゴールについて、審議中です。しばらく、お待ちください」

 アナウンスが、困惑気味に告げる。
 結局、彼らの記録は、「前代未聞の反則行為」として失格にはならなかったものの、「参考記録」という奇妙な扱いに落ち着いた。
 こうして、騎士団の三組目の出走もまた、伝説として碧海高校の歴史に、深く深く、刻み込まれることになった。
 そして、私の胃は、痛みを感じる神経すら麻痺してしまっていた。
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