閻魔大王の判決

みゆたろ

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拓海、その後

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拓海ーー。
「控訴」
その頃、死の判決を受けた拓海は、眠っている間に案内人に移動させられていた様だった。
目を開けると、真っ暗な闇が広がっている。
ーーここはどこなんだろう?
ゆっくりと体を起こす。
眠っていたと言うよりは、意識が飛んでいたようだ。拓海の目が暗闇にも慣れてきた。ぼんやりと周りのものが見えてくる、、。
あの落とし穴のようなところは、こんな砂利道に続いていたらしい、、。
小さな石がゴロゴロと転がっている。
誰もいない、、。ただ砂利道が続いているだけで、何もない、、。
ーー俺は今、生きているのだろうか?死んでいるのだろうか?
よくわからない今の現状に拓海は首を傾げる。しかし、判決は死だったはずだ。
俺はもう生きてはいないのだろう。

「ーーご案内します」
突然、目の前に現れた老人は、そう言って名刺を差し出した。
そこにはーー地獄案内人、と書かれている。
名刺を見た途端、背筋が凍るような気持ちになった。
地獄と言うからには、昔から想像していたような世界だろう。針山とか、永遠に働かされ続けるとかーーそんなイメージを持っていた。
案内人と言った男は、かなりの大男だ。
腕を持たれ、まるで連れ去られるようにして、拓海はその先に向かった。
まず、手始めに寄ったのは、小さな建物だった。ほとんど歩いていないし、さっきまでは見えなかっただけなのだろう。
「ーーまずはここで、あなたの罪を裁く事になります」
地獄案内人が説明する。
「ーー俺をどーする気だ?」
「ーーそれはあなたが決める事です。ここでの指示に従って下さい」
案内人はそう言って、拓海を部屋に案内すると外に出ていった。
「ーーあなたは今、死に近づいてます。今後どのようにしたいですか?改めて控訴する方法もありますが、、」
「ーー決まってんだろ!こんなの納得がいかない。こんな裁判やり直しだー!やり直ししろー」
拓海はこの裁判自体が、理不尽だと思った。
「山崎さま、残念ですが、、あなたの一存でやり直すことは出来ません。裁判長に聞いてみないとーー」
地獄の案内人は、走り去っていく。
ーーどーして、俺だけが死んだのか?
ーー他の人たちはなぜここにいないのか?
不思議だった。
その答えは裁判長にしかわからない。
この世界には、時計がない事に今更ながら気がつく。
どれくらいの時間が流れてるのか?まったくわからない。不思議とお腹も空かない。

ーーあー、やっぱり俺、死んだんだ。
急に自分が死んだ事を実感する。

「死」これまで遠くに見えてたものが、すごく身近だった事に気づいた。
そのせいか、小さな部屋の中に、一人きりでいるのが急に寂しく思える。

タッタッタッ。
誰かが、かけてくる足音がした。
体のでかい先程の案内人だ。
「ーー山崎さま、良かったですね」
「良かった?ーーじゃ、俺、やり直せるのか?」
「ーー裁判長からの伝達です。あなたの返答次第で、やり直してもいいと言っています」
「ーー返答?」
拓海は首を傾げる。
「ーーそうです。ここでの裁判を受け、その答え方次第で、、ですが、、」
「それじゃどう答えたらいーんだ?」
「ーーウソをつかない事です」
「ーーウソ?」
案内人が頷いた。
「それだけか?」
「はい」
「分かった」
「ただし、あなたがウソをついた場合、もっと死に近づき、裁判をやり直すことは出来なくなりますが、、。」
拓海は静かに思いをめぐらせた。
覚悟を決めた様にして、案内された部屋に入っていく。

地獄裁判の行われる部屋は、とてもこじんまりとしている。
広さ的には四畳半くらいだろうか?
前の時よりもだいぶ狭い。
室内は前回の時と同じようにして、ドラマとかでよく見るような配置になっている。
「ーーそれでは始めます」
裁判長がそう言って、罪を裁くこの法廷は開廷した。

「ーー被告人、名前を」
「山崎拓海です」
「ーーそれではあなたの罪は何ですか?」
「俺はいろいろな罪を犯してしまいました」
「1つずつで結構です。話してください」
「俺は中学の時、家庭でいろいろあってぐれていた。そのせいで、しょっちゅう喧嘩をしてしまっていた。それで警察に捕まった事も10回以上あります」
「ーーその時あなたは何を思いましたか?」
「あの時は、世間そのものが憎くて、特に悪いことをしていると言った事は考えられなかったです」
「今もう一度、その時に戻れるとしたらあなたはどーしたいですか?」
「今度は自分の事ばかりではなく、相手の事を思いやれるようになりたいーー」
ーーまさか、俺がこんな台詞を口にする日が来るとは思いもしなかったが、とにかく裁判をやり直してもらわなくては始まらない。
模範囚を演じなくては、、。
拓海はひっそりと自分の中に決意を忍ばせる。
「ーー他にも罪はありますか?」
「はい。三人の人を殺してしまいました」
「では、その時あなたはどのように対処したんですか?」
「警察に自首しました。それで罪が消えるとは思いませんが、、」
ーー確かに一度は自首しているんだ。あながちウソではないはず、、。
拓海はそう思った。
「その他の罪も話してください」
「強盗事件の犯人として、捕まりました」
「本当にあなたが強盗したんですか?」
「ーーこの事件は、俺やってないんです。それまでの悪さが目立ったようで、強引に俺が犯人にされてしまいましたが、、」
「そうですか、、他にはありますか?」
「他は、、ないと思います」
「ほんとですか?」
「はい。あるのかもしれませんが、、少なくても俺は罪だと思っていません」
「ーー分かりました。それではしばらくこのまま待機していて下さい」
地獄案内人は、走って行った。

裁判長が、控訴審中の映像を流している。

「この男、山崎拓海と言ったか、、?」
「さようでございます。裁判長」
「なかなか正直に話しているじゃないか。ーー面白い。わしも会ってみたいからな、、。控訴させてやろう」
裁判長が言った。
「ーーよろしいんですか?」
案内人は尋ねた。
「あぁ、、」
裁判長はニヤリと悪意に満ちた笑いを浮かべて、案内人ですら少し恐怖を覚えた。
案内人は、急いで彼のもとに走っていった。
走って行けば、数分ってところだろう?
あっという間に拓海のいる場所に到着すると、案内人は息を切らしていた。
深呼吸を繰り返して、少し冷静になったところで、拓海のいる部屋に入っていく。
「ーー拓海さん、、良かったですね、控訴審が認められました」
「じゃ、俺はみんなのいる世界に戻れるのか?」
拓海の顔が喜んでいるのが手に取るようにわかった。
ーーみんなに会える。
表情に光が差した時、せきを切るように案内人が言った。
「控訴審は、これまでの世界で行う訳ではありません」
「じゃ、どこでやるんだ?」
「ここで控訴審と言うものをする事になります。これまでどーり、拓海さまには裁判を続けて頂きます」
「ここでってーー何にもないじゃないか?どーやるんだ?」
「この暗い空の下で裁判を受けてもらいます」
今回は建物すら見えないし、建物内で裁判を受ける訳でもないようだ。砂利道の上での裁判ーーこんなの聞いた事がない。
「ここで裁判を受けて、俺は元に戻れるのか?」
「あなた次第です」
案内人は、いつもこの答えばっかりだ。
不平不満を顔に出しながら、拓海は大きなため息を一つこぼした。
ーー俺、これから一体どーなるんだろ?


「幸枝」

突然、この世界に訪れたのはまだ子供だった。
本来なら、こんな世界に来るはずではない。きっと間違えて来てしまったんだろう。
案内人は彼女の元に向かった。
彼女はまだ五歳程度の女の子が座っている。
道に迷っているようにして、大泣きをしている。
「おじょうちゃん、、名前は??どうしてここにいるの?」
優しく案内人は声をかけた。
「私、相川幸枝」
「どーしてここにいるの?」
「なんかよく分からないけど、道間違えたみたいで、どーしたら帰れるのか?わからなくて」
泣きすぎて目を張らしている割には、ちゃんと話している。
「じゃおじさんが、ちゃんとした行くべきとこに連れていってあげるね」
案内人は手を差し出す。
「知らないおじさんに付いてっちゃダメだって、いつもお母さんが言ってたもん」
「ーーそうだね。お母さんの言い付けを守るいい子なんだね!」
「でも、迷子になってるでしょ?ちゃんとした行くべきところに、早く戻らないとお母さんたちに会えなくなっちゃうよ。それでもいーの?」
案内人は尋ねた。
「やだ」
幸枝の目から涙が溢れ出す。
「ーーじゃ、おじさんと一緒に行こう!ちゃんとした場所に連れていってあげるから」
「うん」
ヒックヒックしながら、案内人の手を取り、幸枝は案内人に連れられる様にして、静かに歩き出す。
一歩一歩、、着実に、、。
突然、少女は足を止めた。
案内人は振り返り、少女に尋ねる。
「どうしたの?」
「私、どこで道を間違えちゃったんだろ?」
さっきまで泣いていた女の子とは思えないほどしっかりした声で、案内人に訪ねる。
「ちゃんと連れていってあげるから大丈夫だよ!」
「ところでお嬢ちゃんは、どうしてこの世界に来ちゃったのかなぁ?」
まだ小さな子供だ。
もしかしたら聞いてはいけない事を聞いてしまったのかも知れない。が、しかし、少女は不思議そうに答えた。
「私もわかんないんだよね、、気がついたらここにいたのーーねぇ、ここはどんな世界なの?」
「ここはね。お星さまになった子が来る場所なんだよ」
「お星さま?ーー私死んじゃったの?」
「まだ分からないよ。幸枝ちゃんは生き返れるかも知れないよ?」
「そーなんだ。なんで私ここに来ちゃったんだろう?」
「おじさんが調べてあげるね」
「うん。ありがとう」
幸枝という少女の顔に、始めて微笑みが浮かんだ。
「ーーじゃいこうか」
少女は案内人に手を繋がれ、ゆっくりと確実に歩いていく。


「拓海ー控訴審」

案内人に連れられて、拓海は少し先に進んでいく。徒歩数分のところに、そこは存在した。
目の前に黒い壁の建物が一つある。
周りは白い綿毛のような大きな雲の塊が、たくさん浮かんでいる。
この場所からは、雲が動くのがよく見えた。
そこに立つと拓海は大きなため息をつく。俺はすごく緊張した。
半分が「生」で、半分が「死」という中途半端な体になって、どれくらいの時間が流れたのかは定かではないが、、この世界に来て、初めて拓海は緊張を感じる。
なぜならば、前回の様に部屋の中ではなく、外での裁判だと言うことと、俺を取り巻くように大勢の人たちが、俺を取り囲んでいたのだから。

「被告人、名前をー」
「山崎拓海です。」
「被告人は現在の判決に納得できないーーそうですね?」
そう聞いたのは案内人だ。
「当たり前だ。こんな結果で納得できる訳がないーー」
「では、被告人、あなたの望む判決はどんなですか?」
「俺は、一人になりたくないんだ。みんなといたいんだ」
「あなたの人生を振り返ってみてください」
案内人が言う。
「はい」
拓海は目を閉じた。
これまでの人生を振り返る為にーー。
「ーーあなたの人生はどんなでしたか?」
「色んな人を傷つけました」
「それでも、あなたの側には誰かいましたか?」
「ーー誰もいなかった」
拓海の大きな瞳から涙が溢れだす。本気の涙だった。
「あなたはどう思いましたか?」
「誰かにいてほしくて、、誰もいてくれなくて、俺は一人が怖かった。だから、、」
もう声が震えている。
拓海は拓海なりの思いがあった事を知る。
「ーーだからと言って、人を傷つける事を繰り返してもいいという事でもないですよ?あなたはそれを繰り返して、幸せでしたか?」
「幸せじゃなかったーーほんとはいつも寂しくて仕方がなかった。でも、誰もいない事の寂しさを誰にも伝えられなくて、気がついたらこんな人生を歩いていた」
「それでは聞きます。ーー被告人は今、裁判のやり直しをしています」
黙って拓海はそれに頷く。
「ーーそれにより、今後生き返る可能性もあるのは、わかっていますね?」
「はい」
「ーーもしも、生き返る事が出来たら、被告人は改めてどんな人生を歩きたいですか?」
「今度は友人や恋人に囲まれて過ごせる自分になりたい」
「わかりました。ーーあなたにとって今までの人生を思い出して、その思いを言葉にしてみてください」
「ーー後悔と孤独です」
「どちらの思いが強いですか?」
「孤独です」
「今までのあなたの行動に反省すべきところはありませんか?」
「ーーあると思います」
「どうしたら、人に囲まれて過ごせると思いますか?」
「自分の思いを伝え、相手を思いやる事が出来れば、人がいてくれる自分になれるんじゃないか?ーーそう思いますが、、」
「そうですね」
案内人はニッコリと微笑んだ。
それはゴツイ体の割に、優しそうな笑顔に見えた。
黙って聞いていた裁判長も、言葉を発することなく頷いている。
裁判長が、言葉を発する。
「ーーそれでは、被告人、山崎拓海の控訴審を終わります。判決が出るまでこの部屋でお待ちください」
暗闇の中へと案内人は消えていった。


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