俺は誰?

みゆたろ

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一時間くらいの時間がたち、豊と二人で飲んでいると、彼女はまた俺の目の前に現れた。

「ワタシがわかる?」

黙ってその顔を見つめていると、彼女は言った。

「まだ思い出せないのね?ワタシの事をーー」

うーん。

無意識のうちに、俺はうなり声を上げていたらしい。
隣に座っていた豊が言う。

「なんだよ、努ーーもしかして忘れてるのか?」

「分からないんだ。ただどこか、懐かしい感じがする」

「ーー彼女はお前の母親だよ?」

「え??ーーでも、あの時、俺の母親は亡くなったって言ってたよな?」

「ーーまぁ、、」

豊が頷く。
母親だと言う女は静かな口調で話始めた。

「ーー五年ほど前のあの日。ワタシはいろいろ合って精神が疲れはてていた。自殺する場所を探してたの。そんな時、たまたま同名の人が自殺していた事を知ったのーーそれならワタシが死んだ事にしようと思い、免許証をそこに置いた」

翌日、ワタシの死体(だと思っている)は、努、あなたのいる家に届けられた。

「あなたが大泣きしているのを、ワタシは遠目に眺めていた。
なぜならば、既に死んだ事になっている人間が、軽々しく姿を表す訳には行かなかった。
ワタシはずっとあなたの事を見守っていた。
あなたが撃たれたあの事件の通報をしたのもワタシよーーだけどあなたは少しも思い出してくれなかった」

寂しげに母親らしい女は肩を落とした。

「ーーそれならもっと早く出てきてくれれば良かったのに、、。」

努は涙を流した。

「俺、人をコロシチャッタんだ。だからもう警察に行かないと行けない。サヨウナラ」

「ワタシ、あなたの事を待ってる。ーーこの家でずっと待ってるから」

「ーーありがとう。かぁさん、、」

お会計を済ますと、俺は外に出た。

「豊、今までいろいろとありがとうな、、おかげで俺は俺を取り戻せたよ。これからも元気でな、、」

豊と母に頭を下げる。
店を出ると、先程の二人の男がいた。

「ムリ言ってすいません。もう大丈夫です」

努は頭を下げて、警察官に両手を差し出した。

カチャリ。

手錠の冷たい音がした。
うつむいたまま、俺はパトカーに乗った。
騒々しく鳴るサイレンを身近に感じながら、俺の体は警察署に到着する。

取り調べ室へと連れていかれると、警察官が言う。

「桜木努ーーこれから田中裕美殺害の件で事情聴取を始める」
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