犬

入院

母は突然、入院した。
入院に必要な書類などは由美の母がやってくれた。
こんなにも優しい由美の母とは、対象的で父はまたーー。
父はまた仕事に行っている。

「赤ちゃんが産まれるまで、静香は入院する事になるから、退院するまでここに泊まりなさい」

母は病院に入院する事になった事を、由美の母から聞いた。
妊娠したと聞いてから、かなりの時間が経ったような気がする。

母は突然、入院する事になった。
見た目は全然普通なのにーー。

「心配だね」
由美の母が私に気遣って言った。
けど、私には母が健康そうに見えるから、心配という言葉の示す意味を、理解できないでいた。

翌日、朝早くに電話が鳴った。

「もしもし」
緊迫した空気がその場を支配する。
「はい」
「はい。わかりました。すぐに伺います」

電話の相手も、何を話しているのかもわからない。が「すぐに出かける準備をしなさい」と由美の母に言われ、由美と共に急いで準備をした。
三人で向かった先は、病院だった。

エレベーターに乗り、母が入院している小児科病棟に向かう。
子供たちが眠っているのをガラス越しに見ながら歩いていった。

ーーあー、かわいーなぁ。

目の前の赤ちゃんが小さな手を握ろうとしているけど、握れない。
瞬時に難しい顔をしたと思ったら、赤ちゃんは急に泣き出した。

何してほしいんだろ？
かわいーなぁ。

ガラス越しに子供を見たまま、その場を離れられなくなった私に、由美の母は言った。

「かわいいでしょ？ーー今度は夕夏ちゃんはお姉ちゃんになるんだよ。あんなふうに小さな赤ちゃんが家にくるんだよ」

ーー赤ちゃんがくるのかぁ。
ーーそっか。お姉ちゃんになるっていうのは、そーゆー事なんだ。

私はようやくそれを理解した。
自分が姉になると言う事の意味。
可愛い赤ちゃんを守る、そんな母の思いを責めるべきではないのかも知れない。