閻魔大王の判決、これの前の話(拓海事件編)

みゆたろ

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被害者

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警察での取り調べの最中、あの彼が鈴原カイト《すずはらかいと》と言う名前だと言う事を知った。

「どうしてこんな事をしたんだ?」

睨むような目で俺を見つめると、警察官が言った。

「俺はただケンカを止めようと思って間に入ったんだ。そしたら、彼の方がナイフを出してきて、揉み合ううちに、彼が出したナイフが彼に刺さってしまったんだ。ーーそう、これは事故だ」

俺はそう主張する。

「ーーそう、みたいだな。周囲の人間もそう話していた」

警察官もうなづく。

ーー俺は悪くない。
ーー俺は悪くないんだ。

頭を抱える。
事情聴取が終わると、示談にしたらどうかと警察から話が出た。
相手が凶器を出したのが原因で刺されたのだから、示談は通るだろうと。

「ーーお願いします」

「明日、弁護士が来るように手配しておくから、それまでは拘置所で待ってた方がいいだろう」

警察官に言われ、俺は人生初の拘置所での一夜を明かす事にした。
そこはとても冷たく、出されたご飯すら冷えきっていて、とてもじゃないが、居心地がいいとは言えない環境だった。
たかが一晩。それがすごく長く感じた。

翌朝、弁護士が来てこの事件を示談にする為に動いてくれて、示談が成立した。
幸い相手のケガも対した事はなかったようだ。

今思えば、この事件を期に俺の心の中で何かが壊れ始めていた。

俺の善意が打ち砕かれた、その瞬間だった。
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