どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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やっとこさ本編

不覚だ……

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 今日でテストも終わりを告げ、俺は事前に先生に許可を頂いてたからすぐに帰り支度をして教室を出ようとしたんだけど……そこからの記憶が無いまま次に見た光景は真っ白な天井で、これまた真っ白なベッドで寝かされてた。ここ、何となくだけど記憶にある場所だ、ひょっとしてΔΔΔ区立病院か?
 「……」
 ん?声が出ねぇ、何でだ?
 「伽月君……」
 傍らには誠が居る、何でだ?
 「アナタ学校で倒れたんだよ、覚えてない?」
 覚えてない。声が出ないから首を横に振るだけでしか答えられない。誠は俺の手をそっと握ってくる、普段はむしろ冷たいくらいのアイツの手がほんのりと温かい。俺は握り返すのをためらってしまい、手に力を込めなかった。
 今誠は輝に気持ちが傾いてる。俺は今の関係を続けるって決めたから、アイツの新しい門出の邪魔になる事はしないって。確かに勇とは約束した、誠との関係を新たにする事を考えるってさ。でも俺だけの問題じゃない、誠あっての問題で、アイツが輝に気持ちがある以上、俺は今の関係を続ける選択をした方が良いと思うようになったんだ。
 ならせめて週頭のメールの返信くらいはした方が良かったか……これまで何にも考えなくても当たり前に出来てた事がここ一週間急に出来なくなっちまった。考えちまうんだ、色んな事を。俺とのやり取りで輝に変な気を揉ませやしないかとかさ……もう考えるの嫌なんだよ、だったら何もしない方がいくらかマシだ。
 ……何か調子悪ぃ、起きた瞬間は分かんなかったけど今になって喉が焼けるほどに痛い事に気付く。呼吸するだけでヒリヒリする……水、無ぇのかな?俺が辺りをキョロキョロし始めたもんだから、誠の奴気を利かせてどうかした?と声を掛けてくる。今の俺にその優しさはちょっとキビシイ……。
 「お水欲しいの?僕のでも良い?」
 誠は鞄の中からペットボトルの水を出して俺に手渡してくる。てっきり飲みさしの物だと思ってたらまだ未開封だった。幸い蓋を捻るくらいの体力分は回復してる、取り敢えず開封して水を飲むとこれまた半端無くヒリヒリする!何とか飲み込んだけど、物凄いしかめっ面してたんだろうな、心配そうにこっちを見てきやがる。
 「大丈夫なの?星哉君も波那ちゃんも来てるから呼んでこようか?」
 波那ちゃんここに来てるのか?テストの後病院に寄って帰ったら『好きなの何でも作ってあげる』って言ってたのに……なんて思ってたら、おじさんが兄夫婦、史生谷先生、颯天、輝……喜多川と結嶋まで連れて病室に入ってきた。俺はカーテンに仕切られてる中に居るから気付かなかったんだけど、皆丁寧な挨拶をしながら入ってくるもんだから個室じゃない事だけは分かった。
 「伽月、明後日の午前中まで検査入院だよ。それと一週間学校はお休みね」
 マジかよ!?俺入院すんの!?それで波那ちゃんここに来てるのか……。
 「気管支炎だって、多分大丈夫だと思うけど喘息を再発してないかの検査だそうだよ。泰地も夜には帰ってくるから」
 一週間居てくれるって。あ~兄貴に余計な心配掛けちまったよぉ……ハードな仕事してるのにそれ切り上げてこっちに向かうんだろ?俺よかずっと丈夫に出来てるけど、何か申し訳ないなぁ。
 「……悪い、泰地君には俺が報せた。星哉さんと波那ちゃんの連絡先分かんなくてさ」
 颯天がバツ悪そうに頭を掻く。いや、むしろサンキュ。そう言ってやりたいけど声が出ねぇ……俺は取り敢えず笑顔を見せて気に病むなと頷いてみせる。
 「あっ、伽月君声が出ないみたいなんだ」
 誠の言葉に喜多川がそう言えば、と俺の鞄を差し出してきた。
 「必要なら筆談しろ、筆記具くらいは入ってるだろ?」
 俺は鞄を受け取ってペンとノートを取り出す、学校では右利きなんだけど本来の左利きで【サンキュ】と書いて見せてやった。
 「あれ?伽月左利きなの?」
 輝は右利き以上にスラスラと文字を書いてる俺に驚いてるみたいだ。この事知ってるのは……家族と小田原親子だけだ。前にも話したと思うけど、俺筆記と食事だけは右利きに矯正されてるんだ、それでも家に居る時は左利きでも注意はされない。俺は輝に向けて頷くと、数学の授業左利きで受けたら?と茶化された。
 「本来の利き手の方が脳みそ働くらしいよ」
 「ならもう少しだけ数学の成績上げてくれないか?」
 病床の生徒に向ける言葉かよ、それ……俺は先生を恨めしく見つめたけど、そんなのあっさりスルーされてしまった。
 「まぁテストも無事乗り切れたんだからゆっくり休め、俺たちはこれで失礼しよう」
 先生は兄夫婦に一礼してクラスメイトを連れて病室を出る。皆手を振ってくれたので俺も手を振り返す。するとおじさんも私たちもこれで、と帰ろうとした。
 「もう少しくらいゆっくりなさっても……」
 「僕らが長居すると病人に負担が掛かるよ」
 お大事にね。おじさんは俺に声を掛けてから誠の手を引いて病室を出る。誠の奴名残惜しそうに何度か振り返り、入り口付近で諦めた様に小さく手を振ってきた。俺はいつも通り手を振り返して送り出し、筆記具を鞄に仕舞う。兄さんは傍らにある椅子に腰掛け、波那ちゃんは着替えを持ってきた、とせわしなく動き回ってる。
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