平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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soixante cinq

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 「安藤と……ですか、何かピンときませんね」
 ‎「そりゃあ別の高校に通ってたなつにとってはね。けどあの二人らんと梅雨子と四人でたまに来るわよ」
 ‎「けどほぼ仕事絡みの話だろ、なつの学年は特に“街”と“島”との仲が悪かったんだから良い仲ってのもどうだかなぁ」
 ‎「それも思春期辺りでどうとでも変わるでしょ。中学で一旦別の学区になるんだし、高校生にもなればそこんとこどうでも良くなる事だしね」
 ‎そう言われたらそうかも知れない。県立高校でも“街エリア”の子たちは何人かいたけど、小学校時代ほど険悪な雰囲気は無かったかも。幸い同じクラスにも同好会にもいなかったから何も気にせず高校生活を送ってたわ私の場合。
 ‎「有砂から何か聞いた事無い?」
 ‎「う~ん……無いですねぇ。多分商業科とは校舎が違うって言ってたような」
 ‎「えぇ、普通科四クラスで一棟、商業科簿記二クラスと情報二クラスで一棟、土木造型科、建築デザイン科、電気工学科、機械溶接科各一クラスずつで一棟って分け方してたんでさほど接点って無いんですよ」
 ‎あれ?東さん随分と詳しいですね。確か彼女日商簿記検定一級をお持ちですから……まさかの商業科ですか!?
 ‎「詳しいなお客さん、ひょっとして卒業生ですか?」
 ‎「えぇ、商業科卒です」
 ‎「私も総合高校卒で~す、他県のですけどぉ。共学と言っても名ばかりで……その腐れ縁君と安藤とか言う女の学科次第では可能性はあるんじゃないんですかぁ?」
 ‎「あ~確かに。デザイン科なら女の子もいるし、並以上のルックスであれば逆ハーも可能だと思う」
 ‎その点で言えば安藤は完全に条件揃ってる。同じ棟で数少ない女子生徒、親しくしてなかったとは言え古くからの知り合いである二人なら無くはない話だわ。
 ‎「んであぶれた男子生徒は女子生徒の多い商業科になだれ込むっとぉ。普通科は男女比率が均等ですから相手にされないんですぅ」
 ‎それ鉄則よね。睦美ちゃんの言葉に東さんも頷いた。
 ‎「商業科だと相手にされるんですか?」
 ‎「そこはもちろん人によるけど……商業科は工業科と逆の現象が起きるから、ナンパ狙いで工業科男子に色目使う子とかストレートに逆ナンする子はいたわよ」
 ‎それ完全に有砂の事じゃん……奴は端から工業科男子狙いで用も無いのに工業科の校舎付近を彷徨いてどうたらとか確かてつこが迷惑そうに言ってた!で思い出したんだけど。
 ‎「てつこそこの野球部だったんで、他所の学校の生徒相手の方にモテてた印象がありますよ。高校時代であればミッション系の女子高に通ってた女の子と付き合ってたはず」
 ‎だから安藤とどうとか言われてもピンとこなかったんだ、高校時代ほぼ三年間その子と付き合ってたはずだもの。
 ‎「何だそうなのか、姉貴の勘繰りも大概だけどなつも思い出すの遅っせぇよ」
 ‎「ゴメンゴメン、『十年一昔』とはよく言ったもんよね」
 ‎「ホント、何せ昔の事だもの。噂はあくまで噂だったみたいだし……三人ともビールでよければ一杯分ずつ奢らせていただくわ」
 「「「遠慮なく頂きま~す!」」」
 ‎やった!折角奢って頂くんだから何か一品頼もうかなぁなんて思いながらメニューを眺めていると、こんばんはと言う女性の声と共にガラガラと戸の開く音が聞こえてきた。
 ‎「いらっしゃいませ……お一人でとは珍しいわね」
 ‎「えぇまぁ……来てたんだ五条」
 ‎ん?何?知り合い?などと思いながら入り口の方に視線をやると安藤カンナが立っていた。噂をすれば何とやら?
 ‎「お一人ならカウンター席になさる?」
 ‎「えぇ……隣、いいかしら?」
 ‎安藤は何を思ったか私の隣の椅子に座ってきた。まだ同意してませんけどって言ってももう遅そうだわ。
 ‎「随分とめかしこんでるじゃない」
 ‎「さっきまで婚活パーティーに参加してました、撃沈したけどね」
 ‎「見せかけほどのヤル気は感じられないもの、大してダメージも受けてないんでしょ?」
 それどういう意味だぁ?って絡む気は無いけど、そんなにやる気無さそうに見えてんの?
 ‎「そうでもないわよ。ただ腐れ縁の紛れてる婚活パーティーって結構萎えるわね」
 ‎腐れ縁?安藤の問いかけにてつことぐっちーも参加していた事を話すと、ゴローちゃんを軽く超えるオーバーリアクションで驚きを表現してくれた。
 ‎「中西君も参加してたの!?そういうのに興味がないタイプだと思ってた」
 ‎まぁ事情を知らなかったらそう思うで……って事は安藤には推定話してないっと。ポロッと口が滑らぬよう注意しておかないとね。
 ‎「まぁ……そうね」
 ‎「やっぱりお母さんの必要性を考えてるのかしらね?娘さんだってもうじき中学生になられるし、女性ならではの悩みも出てくるだろうから」
 ‎「そう……なのかな?基本そういう話しないから」
 ‎「そうなのね、五条になら何か話してると思ったんだけど。娘さんとも仲が良いみたいだし……私も面識くらいはあるけど挨拶程度の会話しかしたことが無くて」
 ‎この感じだと“中西電気店の社長”としての付き合いしかなさそうだな。
 ‎「中西との付き合い、あるんだね」
 ‎「ほとんどが仕事絡みよ、モデルルームの内装の事とか……前々から気になってたんだけど、“島”の子たちって内と外の使い分けが徹底してるわよね?」
 ‎「そうかしら?」
 ‎ん?何の事言ってるんだろ?
 ‎「……さっきだって内輪では“てつこ”って呼んでるところをわざわざ“中西”って言い換えたでしょ、私だけかも知れないけどそれちょっとした疎外感を覚えるのよね」
 ‎えっ!?急にどうした安藤!?
 ‎「それは他所の人にニックネーム言ったって伝わらない場合だってあるじゃない、それに対する措置に過ぎないんだけど」
 ‎「そう……小学校時代からずっとそうだったからそこに壁を感じてたの。学校の風土とかにもある程度問題はあったけど、あなたたち七人の結束力は誰にも隙を与えてくれなかった」
 ‎いえまぁ確かに私達の学年って“島エリア”っ子が七人しかいなかった分固まって一緒にはいたけど……そんなに重苦しく考えてたんなら何でアンタカーストトップの一二三なんかとつるんでたの?けどまぁはみ出すって勇気要るよね?十代って学校が社会だからそこはみ出すと一気に生きづらくなるもんね。
 ‎「それって“島”の男共の中に好きな奴でもいたとか?」
 ‎話の流れ考えたらてつこで確定だろうけど。
 ‎「昔の話よ、高校時代にフラレてる」
 ‎「当時彼女いたからねぇ……」
 ‎「はぁ!?何それ聞いてないっ!」
 ‎んな訳無いでしょ、私でも知ってんだからアイツだって隠してなかったって。
 ‎「アンタ同じ学校通ってたんだから見た事くらいあるでしょ、ほら、大学病院近くのミッション系の女子高の」
 ‎「無いわよ~。噂以上でしか聞いた事が無かったから半信半疑だったし、これ以上嫌われる事したくなくてずっと確認出来なかったのよ」
 ‎「拗らせてんなぁアンタ……」
 ‎「煩いわね、誰のせいだと思ってんのよ!?」
 ‎そりゃアンタの勘繰りのせいだ、私に言われても知らん。そう言えばさっきから放置状態の東さんと睦美ちゃんはと言えば……。
 ‎「ご店主ゴローさんって仰るんですねぇ~、私立候補してもいいですかぁ?」
 ‎「んもぅ、あなた結構酒癖悪いのね」
 ‎……あ~後輩が壊れました、先輩あと宜しくっす。
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