冥土の土産に一杯どうだい?

谷内 朋

文字の大きさ
13 / 39
第二話

志半ばで夢を断たれた魂 -1-

しおりを挟む
 〈サァ、到着シマシタヨ♪〉

 本日第二の客を連れてクーが戻ってきた。第二の客はブレザーに短いプリーツスカートを穿いた十代半ばの女の子であった。ドアの脇ではメルクリウスが水の入ったグラスを乗せたトレーを持って立っている。

 「いらっしゃいませ、先ずはこちらをお飲みください」

 〈……何テ?〉

 女の子にはメルクリウスの言葉が通じず、クーに助けを求める。

 〈【オ冷ヤ】飲ンデ、ッテ言ッテルンデス♪〉

 〈アッソウ、喉乾イテナイカライイヤ〉

 「左様ですか、ではそのまま奥にお進みください」

 しかし女の子にはメルクリウスの言葉が分からない。

 〈ネェ、何テ?〉

 〈オ席ニゴ案内致シマス♪『ドウゾ』クライノ事シカ言ッテナイカラオ気ニナサラズ♪〉

 クーは女の子の手を引いて空いている席に連れて行く。女の子は怪訝そうな表情で周囲をキョロキョロしながら、落ち着かなさそうに進められるままカウンター席に座る。

 〈ココッテ酒場ダヨネ?〉

 〈ソウデスヨ♪最初ニ『ビアホール【境界線】ヘヨウコソ♪』ッテ言ッテルハズデスガ♪〉

 〈アタシ未成年ナンダケド〉

 女の子には生前暮らしていた星の“法律”がしっかりと染み付いている様だ。

 〈肉体ト離レテルカラ関係無イデスヨ♪ココハコノ世トモアノ世トモ違ウ世界、法律ナンテアリマセン♪〉

 〈ヘェ、無法地帯ジャン。何デモカンデモヤリ放ジャン〉

 女の子は目を輝かせて満面の笑みを浮かべている。
 
 〈アナタノ様ナ思考回路ハナカナカ危険デスネ、サアヤ♪〉

 クーの口元は笑みを浮かべているが若干眉がピクリと動く。それ以上に自己紹介もしていないのに名前を知られている事に驚くサアヤはその表情に全く気付かない。

 〈何デアタシノ名前知ッテンノヨ!?ソレッテ個人情報保護法違反デショ!?〉

 〈ダカラココニハ法律ナンテアリマセン♪ッテ言イマシタヨネ♪ソレニ顧客情報ヲ把握シテオクノハ仕事デスカラ当然デス♪ソレデハゴユックリ、心ユクマデオ楽シミクダサイマセ♪〉

 クーはやるべき仕事を終えるとさっさと別の客の注文を取り始めている。

 〈セッ忙シナイ店ダナァ……〉

 「お待たせしやしたっす!」

 と注文も取っていないのにほぼ見た目同世代の見習い従業員プルートーがいきなりビールをサアヤの目の前にドンッ!と置いた。

 〈タ、頼ンデナイケド……〉

 「ん?“アース星”では『取り敢えずビール』……って言葉通じてねぇんすか?」

 プルートーは頭を掻いて舌打ちする。

 〈シャアネェナァ、オレ“アース星”ノ言語メッチャ苦手ナンダケドナァ〉

 〈話セルナラ最初カラ使イナサイヨッ!〉

 〈ココニハアリトアラユル星カラ客ガ来ルッス、ソノ度ニイチイチ言語使イ分ケロッテ酷ナ事言ウンスカ?簡単ニヌカサレチャ困ルッス、入口デ水飲メバ万事解決スル話ッス〉

 サアヤは入口の少年の事を思い出してハッとなるが、ソンナ説明無カッタと食い下がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...