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第二話

志半ばで夢を断たれた魂 -1-

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 〈サァ、到着シマシタヨ♪〉

 本日第二の客を連れてクーが戻ってきた。第二の客はブレザーに短いプリーツスカートを穿いた十代半ばの女の子であった。ドアの脇ではメルクリウスが水の入ったグラスを乗せたトレーを持って立っている。

 「いらっしゃいませ、先ずはこちらをお飲みください」

 〈……何テ?〉

 女の子にはメルクリウスの言葉が通じず、クーに助けを求める。

 〈【オ冷ヤ】飲ンデ、ッテ言ッテルンデス♪〉

 〈アッソウ、喉乾イテナイカライイヤ〉

 「左様ですか、ではそのまま奥にお進みください」

 しかし女の子にはメルクリウスの言葉が分からない。

 〈ネェ、何テ?〉

 〈オ席ニゴ案内致シマス♪『ドウゾ』クライノ事シカ言ッテナイカラオ気ニナサラズ♪〉

 クーは女の子の手を引いて空いている席に連れて行く。女の子は怪訝そうな表情で周囲をキョロキョロしながら、落ち着かなさそうに進められるままカウンター席に座る。

 〈ココッテ酒場ダヨネ?〉

 〈ソウデスヨ♪最初ニ『ビアホール【境界線】ヘヨウコソ♪』ッテ言ッテルハズデスガ♪〉

 〈アタシ未成年ナンダケド〉

 女の子には生前暮らしていた星の“法律”がしっかりと染み付いている様だ。

 〈肉体ト離レテルカラ関係無イデスヨ♪ココハコノ世トモアノ世トモ違ウ世界、法律ナンテアリマセン♪〉

 〈ヘェ、無法地帯ジャン。何デモカンデモヤリ放ジャン〉

 女の子は目を輝かせて満面の笑みを浮かべている。
 
 〈アナタノ様ナ思考回路ハナカナカ危険デスネ、サアヤ♪〉

 クーの口元は笑みを浮かべているが若干眉がピクリと動く。それ以上に自己紹介もしていないのに名前を知られている事に驚くサアヤはその表情に全く気付かない。

 〈何デアタシノ名前知ッテンノヨ!?ソレッテ個人情報保護法違反デショ!?〉

 〈ダカラココニハ法律ナンテアリマセン♪ッテ言イマシタヨネ♪ソレニ顧客情報ヲ把握シテオクノハ仕事デスカラ当然デス♪ソレデハゴユックリ、心ユクマデオ楽シミクダサイマセ♪〉

 クーはやるべき仕事を終えるとさっさと別の客の注文を取り始めている。

 〈セッ忙シナイ店ダナァ……〉

 「お待たせしやしたっす!」

 と注文も取っていないのにほぼ見た目同世代の見習い従業員プルートーがいきなりビールをサアヤの目の前にドンッ!と置いた。

 〈タ、頼ンデナイケド……〉

 「ん?“アース星”では『取り敢えずビール』……って言葉通じてねぇんすか?」

 プルートーは頭を掻いて舌打ちする。

 〈シャアネェナァ、オレ“アース星”ノ言語メッチャ苦手ナンダケドナァ〉

 〈話セルナラ最初カラ使イナサイヨッ!〉

 〈ココニハアリトアラユル星カラ客ガ来ルッス、ソノ度ニイチイチ言語使イ分ケロッテ酷ナ事言ウンスカ?簡単ニヌカサレチャ困ルッス、入口デ水飲メバ万事解決スル話ッス〉

 サアヤは入口の少年の事を思い出してハッとなるが、ソンナ説明無カッタと食い下がった。
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