上 下
14 / 39
第二話

志半ばで夢を断たれた魂 -2-

しおりを挟む
 〈ナラ聞クッスケド、説明ガアレバアノ水飲ンデタカンスカ?〉

 プルートーの質問にサアヤは飲ンデタ!と言い切る。

 〈ダッタラ再現シテモラウッス〉「クロさん、ちょっとばかし手伝ってくんないっすか?」

 「承知しました、こちらのお嬢さんの時間軸を入店直前までに戻せばいいんですね?」

 「さすが話が早えっす、宜しくっす」

 承知。クロノスは愛用品の懐中時計のネジを逆回転させると、サアヤは巻き戻し再生の様に来た道を戻って店の外に出て行った。

 「クーさん、メルさん、再現頼むっす。メルさんは水の効果の説明をお願いしまっす」

 「「了解」♪」

 二人はサアヤが入店する前の状態にスタンバイし、クロノスが懐中時計のネジを押した事で再現はスタートされた。

 「いらっしゃいませ、先ずはこちらをお飲みください」

 〈……何テ?〉

 サアヤにはメルクリウスの言葉が通じず、クーに助けを求める。先ほどと全く同じ会話が繰り広げられている。

 〈【オ冷ヤ】飲ンデ、ッテ言ッテルンデス♪〉

 〈アッソウ、喉乾イテナイカライイヤ〉

 〈コノ水ヲ飲メバ世界中ノアラユル言語ガ理解出来ル様ニナリマスヨ〉

 メルクリウスはご丁寧に“アース星”の言語で水についての説明をした。その様子をクロノスとプルートーは遠巻きで見つめている。



 「あの嬢ちゃん百パー断るっす」

 「同感です」

 「賭けにもなんねぇっす……」

 「予測以前の問題です、彼女はただのへそ曲がりですから」



 〈飲ンデオイタ方ガ後々楽デスヨ♪〉
 
 クーもまた先ほどと違いサアヤにお冷やを勧める。がしかし……

 〈コンナ怪シイ水ナンカ飲ム訳無イジャン、バッカジャナイノ?〉



 「『バッカジャナイノ?』は余計ですね」

 「口悪ぃガキっす」

 遠巻きの二人は渋い表情を浮かべているが、メルクリウスはあっさり諦めて淡々と接客している。

 「結局“アース星”の言語っす……嫌っす、あそこの言語面倒いっす……」

 プルートーはガックリと肩を落とし、厨房に入っていく。クロノスはそのまま待機し、クーは彼を目指して結局水を飲まなかったサアヤを連れてきた。

 「ただいまクロノス♪予想通り過ぎて笑いそうになっちゃった♪」

 「ですね、見なくても分かる結末でした……と元に戻しましょう」

 クロノスは再び懐中時計を操作して時間軸を元に戻した。サアヤは夢から覚めたかの様にハッとした表情になり、辺りをキョロキョロとしている。

 〈アタシサッキマデ何シテタノ……?〉

 「ん?入店するところを再現してました♪」

 クーはわざと【デスタウン】公用語を使用する。サアヤには当然通じず、クロノスは必死に笑いを堪えている。

 〈……何テ?〉

 「ですから入店するところを再現してたんですよ♪」

 〈ダカラ何テ言ッテンノヨ!?〉

 相手の言葉が理解できずサアヤはイライラし始めている。
しおりを挟む

処理中です...