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24 昔話①【アイザック視点】
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俺とリリーは同じ歳で、家が近所。親同士が仲が良いこともあり物心つく前からずっと一緒に過ごしていた。
昔は体が小さく、魔力量も少なかった俺は泣き虫でよく虐められていた。その度に「こら!」といじめっ子を追い払ってくれていたのはリリーだ。
リリーは小さな頃から可愛くて、聡明で、お転婆で、優しくて……大好きだった。俺の世界の全てがリリーだったと言ってもいい。ベッタリと彼女の後ろについて行き、毎日一緒に過ごした。
そんな時、俺は陰で大人たちが悪口を言っているのをたまたま聞いてしまう。
『長男のアイザックはだめだ。魔力も少なく、泣いてばかり。ハワード家の後継になれん』
『弟はすでに才能があるらしい。兄は使えないのにな』
『あれは本当にアルファード様の子なのか? 拾ってきたんじゃないか』
『それは流石に酷い……あはははは…………』
心無い言葉が幼く弱い俺の精神を砕くのは一瞬だった。こんなことを言われて辛かったが、これは事実だと思った。
俺は泣き虫で弱い魔力しかない自分のことが、大嫌いだった。
――きっと僕は父様と母様の子どもじゃないんだ。拾ってきたから父様みたいに強くないのかな? じゃあ、僕はいらない子じゃないか。
両親の子どもではないと言われたことが一番ショックで、その日からご飯が喉を通らなくなった。心配したみんなが代わる代わる来てくれたが、食べても気持ち悪くて吐いてしまう。
「アイザック、ただの体調不良じゃないだろう? 何があった?」
親父が衰弱した俺の手を握りながら聞いてくるが、本人に聞けるわけがない。俺は「なんでもない」と口を閉ざした。
「お願い……お願いだから少しでも食べて」
いつも明るい母もこの時ばかりは涙ながらにそう訴えていたが、相変わらず食べては吐くを繰り返す。
――このまま僕が死んだら、ジョージが侯爵家を継ぐから……みんな幸せだ。
当時の俺はそんなどうしようもないことを考えていた。そんな絶望の中、急に俺の部屋にリリーがやって来た。
リリーが部屋に入ってきた瞬間、彼女の周りだけがパッと明るく光っているように見えた。なぜそう見えたのかはわからない。
「アイザック何してるのよ? 早く元気になりなさい! だって、遊びたいのに私がつまらないじゃない」
彼女はプンプンと怒っているようだ。大丈夫とかどうしたのではなく「何してるのよ」だ。
俺は思わずフッと笑ってしまった。みんなから慰めたり心配されるのは辛かった。だけど彼女はこんな弱い俺を、ありのまま必要としてくれていると思い嬉しくなった。
「ご飯が……食べれなくて」
「ご飯が? それは大変じゃない! 味が美味しくないの?」
「違うよ。食べても……すぐに吐いちゃうんだ」
彼女は食べるのが大好きなので、僕のその話を聞いてそれはそれは哀しい顔をした。ご飯を食べられないなんてとても可哀想と。
「一人で食べるからじゃない? 私と一緒に食べましょうよ」
そう言って、待っててとバタバタと下に降りて行った。しばらくすると、たくさんの指を怪我した彼女が部屋に戻ってきた。
「その指……どうしたの」
「ちょっとね」
へへへと笑う彼女は、僕にボロボロに切られたリンゴを差し出した。
「私の好きなウサギのリンゴよ! 可愛いでしょ? 初めて作ったから少しだけ失敗したけど」
彼女は、もじもじと恥ずかしそうにしていた。
――これが……ウサギ?
そのリンゴは……なんていうか残虐非道な扱いを受けた瀕死のウサギって感じだった。
でも包丁を持ったことがないであろう彼女が、俺のために怪我をしながら作ってくれたのだと思ったら心がいっぱいになった。
「一緒に食べましょう」
「うん……」
シャリ……甘い。リンゴってこんなに甘かっただろうか?
「美味しいね」
「うん、おい……しい」
俺はリンゴを食べながらポロポロと涙が沢山溢れてきた。リリーは泣いている俺に驚き、ぎゅっと抱きしめてよしよしと頭を撫でてくれた。
そしてなんとか数個のリンゴを食べた後、彼女は俺と一緒のベッドに入り「食べれて偉いね」と言いながら添い寝をしてくれた。彼女の高い体温がぬくぬくして気持ちが良い。
――リリーありがとう……大好き。
俺はこの日、リリーの腕の中で眠り久しぶりに食事をしても吐かずに過ごすことができた。
ずっと後になって聞いたことだが、この日俺にリンゴを食べさせてくれたリリーに両親は泣いて感謝していたらしい。
あのまま食べずにいたらきっと死んでいたから。我が家がみんなリリーを大好きで大事にしているのは、このことが一番大きいかもしれない。
それからリリーは毎日顔を出してくれて、一緒にスープやポトフ……シチューなどを食べてくれた。だんだんときちんとしたご飯が食べられるようになり、体重も戻ってきた。
でも結局何も解決していない。俺は弱いままで、魔力もなくて、両親の子ではないのだから。
昔は体が小さく、魔力量も少なかった俺は泣き虫でよく虐められていた。その度に「こら!」といじめっ子を追い払ってくれていたのはリリーだ。
リリーは小さな頃から可愛くて、聡明で、お転婆で、優しくて……大好きだった。俺の世界の全てがリリーだったと言ってもいい。ベッタリと彼女の後ろについて行き、毎日一緒に過ごした。
そんな時、俺は陰で大人たちが悪口を言っているのをたまたま聞いてしまう。
『長男のアイザックはだめだ。魔力も少なく、泣いてばかり。ハワード家の後継になれん』
『弟はすでに才能があるらしい。兄は使えないのにな』
『あれは本当にアルファード様の子なのか? 拾ってきたんじゃないか』
『それは流石に酷い……あはははは…………』
心無い言葉が幼く弱い俺の精神を砕くのは一瞬だった。こんなことを言われて辛かったが、これは事実だと思った。
俺は泣き虫で弱い魔力しかない自分のことが、大嫌いだった。
――きっと僕は父様と母様の子どもじゃないんだ。拾ってきたから父様みたいに強くないのかな? じゃあ、僕はいらない子じゃないか。
両親の子どもではないと言われたことが一番ショックで、その日からご飯が喉を通らなくなった。心配したみんなが代わる代わる来てくれたが、食べても気持ち悪くて吐いてしまう。
「アイザック、ただの体調不良じゃないだろう? 何があった?」
親父が衰弱した俺の手を握りながら聞いてくるが、本人に聞けるわけがない。俺は「なんでもない」と口を閉ざした。
「お願い……お願いだから少しでも食べて」
いつも明るい母もこの時ばかりは涙ながらにそう訴えていたが、相変わらず食べては吐くを繰り返す。
――このまま僕が死んだら、ジョージが侯爵家を継ぐから……みんな幸せだ。
当時の俺はそんなどうしようもないことを考えていた。そんな絶望の中、急に俺の部屋にリリーがやって来た。
リリーが部屋に入ってきた瞬間、彼女の周りだけがパッと明るく光っているように見えた。なぜそう見えたのかはわからない。
「アイザック何してるのよ? 早く元気になりなさい! だって、遊びたいのに私がつまらないじゃない」
彼女はプンプンと怒っているようだ。大丈夫とかどうしたのではなく「何してるのよ」だ。
俺は思わずフッと笑ってしまった。みんなから慰めたり心配されるのは辛かった。だけど彼女はこんな弱い俺を、ありのまま必要としてくれていると思い嬉しくなった。
「ご飯が……食べれなくて」
「ご飯が? それは大変じゃない! 味が美味しくないの?」
「違うよ。食べても……すぐに吐いちゃうんだ」
彼女は食べるのが大好きなので、僕のその話を聞いてそれはそれは哀しい顔をした。ご飯を食べられないなんてとても可哀想と。
「一人で食べるからじゃない? 私と一緒に食べましょうよ」
そう言って、待っててとバタバタと下に降りて行った。しばらくすると、たくさんの指を怪我した彼女が部屋に戻ってきた。
「その指……どうしたの」
「ちょっとね」
へへへと笑う彼女は、僕にボロボロに切られたリンゴを差し出した。
「私の好きなウサギのリンゴよ! 可愛いでしょ? 初めて作ったから少しだけ失敗したけど」
彼女は、もじもじと恥ずかしそうにしていた。
――これが……ウサギ?
そのリンゴは……なんていうか残虐非道な扱いを受けた瀕死のウサギって感じだった。
でも包丁を持ったことがないであろう彼女が、俺のために怪我をしながら作ってくれたのだと思ったら心がいっぱいになった。
「一緒に食べましょう」
「うん……」
シャリ……甘い。リンゴってこんなに甘かっただろうか?
「美味しいね」
「うん、おい……しい」
俺はリンゴを食べながらポロポロと涙が沢山溢れてきた。リリーは泣いている俺に驚き、ぎゅっと抱きしめてよしよしと頭を撫でてくれた。
そしてなんとか数個のリンゴを食べた後、彼女は俺と一緒のベッドに入り「食べれて偉いね」と言いながら添い寝をしてくれた。彼女の高い体温がぬくぬくして気持ちが良い。
――リリーありがとう……大好き。
俺はこの日、リリーの腕の中で眠り久しぶりに食事をしても吐かずに過ごすことができた。
ずっと後になって聞いたことだが、この日俺にリンゴを食べさせてくれたリリーに両親は泣いて感謝していたらしい。
あのまま食べずにいたらきっと死んでいたから。我が家がみんなリリーを大好きで大事にしているのは、このことが一番大きいかもしれない。
それからリリーは毎日顔を出してくれて、一緒にスープやポトフ……シチューなどを食べてくれた。だんだんときちんとしたご飯が食べられるようになり、体重も戻ってきた。
でも結局何も解決していない。俺は弱いままで、魔力もなくて、両親の子ではないのだから。
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