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15寝たふり
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なんで玄関入ってすぐにカールがいるのだろうか。しかもこの状態を見られるのはすごく恥ずかしい。でも、今更目を開けられない。
「盛り上がり過ぎて、酒がすすんだんだよ。ミーナは俺に心を許してるから安心してるのさ。一日二日の付き合いの誰かさんとは違うから」
「ほお。安心ね……さすがはただの幼馴染くんだ」
え?なんかすごい空気が悪い気がする。なんとなく冷気が漂っているのは気のせいなんだろうか。
ダニーからチッと舌打ちが聞こえ、また歩き出したのがわかった。
「バッカスさん、ケイトさん!戻ったよ。ごめん、ミーナ酔って寝ちゃった」
大きな声でそう言うと、ドアの開く音が聞こえおそらく二人共出てきた。
「おかえりなさい。あらあら、ミーナったら」
「お前!ミーナは酒に弱いって知ってんだろ!飲ませんじゃねぇよ」
「度数低いのしか飲ましてないんだけど、疲れてたのかな?ごめん、途中でやめさせときゃよかった」
「……仲直りできたのか?」
「うん。ありがと」
「じゃあ、このままベッドまで運んであげて」
「いや!ダニー代われ!俺が運ぶ」
あ……お父さんの怒った声が聞こえる。
「バッカスさん、ミーナ起きたら可哀想だからそのまま俺が連れて行くよ」
寝てないって知ってるくせに。よくペラペラと嘘がつけるものだと感心する。
私を抱き上げながら、器用にギイッと扉を開けている。ダニーはいつの間にか、私を軽々と運べるくらい大きくなっていることに少し驚く。
そっとベッドにおろされて、小声で「もういいよ」と言われたのでゆっくり目を開けると、至近距離にダニーの顔があったので頬が染まる。
彼は私の頬を愛おしそうにそっと撫でた。私はドキドキと胸が苦しくなる。これはきっとお酒のせいだと自分に言い聞かせた。
「今日はありがとう。楽しかった」
「私も楽しかった。酔って迷惑かけてごめん」
「いつでもどうぞ。むしろ役得」
「くすくす、なによそれ」
私達は外に聞こえないように小声で話している。なんだか秘密を共有しているみたいでくすぐったい。
「おやすみ」
彼は、おでこにちゅっと触れるだけのキスをした。驚いている私に、ふわっと微笑み「またな」と部屋を出て行った。
ドクドクドク
うわぁ。なんか酔いがさらにまわった気がする。私はシーツをかぶってそのまま寝ることにした。
うとうとしていると、小さい音でトントンとノック音が聞こえる。私は眠たくて反応することが出来なかった。
髪や頬を優しく撫でられているような気がする。なんか温かくて気持ちがいいな。
「心配した」
ん……なんか声が聞こえる。
「愛してる」
――誰なんだろう。でも目を開けられないな。
「お願いだ。俺を選んでくれないか」
私はそこで完全に意識を失った。
♢♢♢
うう、体がだるい。爽やかな日差しが今の私には辛い。そうだ、昨日飲み過ぎたんだ。
シャワーを浴びてから身支度を整えて、リビングに行く。
「ミーナ起きたのか。お前、酔ってダニーに送ってもらったんだぞ!この不良娘。寝るまで飲むな」
朝からお父さんのお説教だ。覚悟してたけど。
「おはよう。お父さん、ごめんなさい」
「あいつだから信用してるけど、お前は女だからな。いつだって何かあって傷つくのは女だ!よく覚えとけ。自分の身は自分で守るしかない」
「はい」
「わかったならよし!もう言わねえ」
ニカッと笑って私の背中をパシっと叩いた。お父さんは怖いけど、こういうところが好きだ。お説教にも愛があるし、なにより後腐れなく怒ってくれる。
「カールも心配してたわよ。あとで謝っときなさい」
「カールが?」
「昨日あなたが帰って来ないかと、ずっと玄関を気にしていたもの」
それを聞いてなんだか複雑な気分になる。おそらくカールは護衛騎士の習性がぬけていない。前世の彼は私を常に目の届く範囲に置いていた。流石にいないだろうなと思った時も、キョロキョロと探すと遠くで控えている。そして、必ず私が見える位置を確保していた。そうしないと彼は不安なのだ。
今から思うと、王女というのはプライベートも何もあったものではない。常に誰かに見られていた。よくあんな暮らしができていたものだな、と思う。きっと今あの生活を強いられたら、発狂してしまいそうだ。
「おはようございます」
噂をすればカールがリビングに入ってきた。
「おはよう。あの、昨日は心配かけてごめんね」
「いや。酒飲めたんだな。二日酔いは平気か?」
「少し頭が痛いくらい。でも大丈夫」
なるほど。カールは私が飲めないと思っていたのね。そういえば、前世ではお酒をほとんど飲まなかった。お父様に酔うと危ないから、口をつけるだけにしなさいと言われていたからだ。だから、ミーナになって初めてちゃんと飲酒をした。この国では十五歳からお酒が飲めるので、誕生日がきたその日に試してみたのが初めての体験だった。
「さあ、朝ごはんだぞ。ミーナのために消化のいいものにしといた」
「さすがお父さん」
「優しいだろ」
野菜いっぱいのポトフがじんわりと体に染み渡る。ああ、美味しい。パンはあんまり食べる気にならなくて、少しだけ頬張った。
カールは何かを考えいるようで、無言で食事を終えていた。
「ご馳走様でした」
仕事までまだ時間がある。私はギリギリまで休んでようかなと思っていると、カールがタオルを持って近づいてきた。
リビングのソファーに腰掛け、ポンポンと叩いて隣に座るように促された。一体何なのだろうと思いながらも腰掛ける。すると、そっと肩が抱かれて体が倒され彼に膝枕された。
「な、何するのよ」
「いいから、黙って目を閉じて」
圧を感じたので、黙って従うと瞼の上にひんやりと冷たいタオルが置かれる。
「どう?」
「ん……なんか」
「気持ちいい?」
「んっ……とて……も……気持ちいい」
そう言った瞬間、キッチンの方からガッシャーンと何か落とす音が聞こえた。
私が驚いてタオルをどけると、お父さんがボウルを床に落としていた。
「バッカス!大丈夫?なにしてるのよ」
「い、いや。なんか聞き捨てならない台詞が後ろから聞こえたから」
「なにそれ?」
両親が何か話しているが、よく聞こえない。
「お父さーん、何か落としたの?手伝おうか」
「……大丈夫だ」
「そう?」
「お、お前らなにしてるんだ」
お父さんの質問に、カールはなぜかくすっと意地悪な顔で微笑んだ。
「ミーナの頭が痛いらしいので、冷たいタオルを目に当てていました。二日酔いに効くので」
「な、なんだ!そうか。いや、娘が面倒かけて悪いな」
「いいえ、全然。ミーナ、ほら横になって」
私はまた膝枕をしてもらい、目にタオルを当ててもらう。ああ、本当に気持ちがいい。カールはゆっくりと髪を撫でてくれている。なんか昨日も寝る時にこんな感覚があったような気がする。十分ほどこれをすると、本当に頭がスッキリした。
「あー!スッキリした。ありがとう」
「どういたしまして。ところで昨日は何を飲んだんだ?」
「昨日は……カシスソーダだけ。ダニーが飲みやすいの選んでくれたの」
「そうか。ちなみに彼は何を飲んでた?」
「ダニーはモヒート?だった気がする」
「なるほど。幼馴染くんは、なかなかロマンチストらしい」
私がよくわからずに首を傾げると「知らなくていい」とカールに曖昧に誤魔化された。
「バッカスさん、申し訳ないですが今日は少し町へ出てきてもいいですか?」
「ああ、かまわないぞ」
「すみません。明日からまた教えてください」
なにか用事があるのかな?彼がここに来てから家を空けるなんて初めてだ。
気にはなったが、あんまりプライベートに踏み込むのもなと思ってそのまま仕事へ向かった。
食堂はいつも通り忙しくてバタバタしていたので、あっという間に夕方になった。私は昨日、ダニーと歩いていたのを常連さん達に見られていたらしく冷やかされてた。
今日はカールがいなくてよかったわ。なんとなくこんな話題気まずいもの。
「ダニーと付き合ってるのか?」
「ご飯行っただけ」
「いいじゃねぇか!ダニーが相手なら、バッカスだって安心だよな?町の人気者同士、みんな祝福するに決まってる」
お父さんは困ったように笑っていた。そりゃそうだ。娘の色恋沙汰を客から聞くなんて嫌だろう。
「俺はミーナが幸せなら相手は誰だっていいぜ」
料理をする手を止めずに、お父さんはそう呟いた。お母さんも「人の恋愛を周りがとやかくいうなんて野暮よ」と常連さん達を黙らせていた。
生まれ変わって、本当に二人の子どもでよかったなと思う。
カランカラン
「戻りました。バッカスさん、今日は申し訳ありませんでした」
「気にすんなって!」
「お帰りなさい」
「ただいま」
私が出迎えると、カールが微笑みながら私の頭を優しく撫でた。
「じゃあさ、帰って早々悪いけど……ミーナと一緒に料理の配達頼まれてくれねぇか?それで今日の仕事は終了だ」
「もちろんです。配達なんてしてるんですね」
「ちょっと特別でな。ミーナ一人で行かすと面倒なとこでよ。付き添いがいた方がいい」
カールは「?」と首を傾げて、私を見つめた。
「あー……ちょっと、鬱陶しいの。沢山頼んでくれるし、金持ちだからいいお客さんなんだけど」
「黙らせてやろうか?」
「いいの!穏便にお願いします」
カールが料理を全て持ってくれたので、私は身軽だ。二人で歩いて町の一番奥にある大きな家にたどり着く。
「こんな立派な家がこの町にあったんだな」
「そうなの。この町一番の裕福な商人のお家なの。嫌だけど行きましょう」
私はふう、と息をはいて「ミーナです!参りました」と言うと凄い勢いで、中性的な美しい見た目の長髪の男が降りて来た。うわー……来た来た。
「ミーナ!よく来たね。今日もすっごく可愛い」
満面の笑みで、走り寄って来て私に近付き手をギューっと握られる。
「は……はは、今晩はフレデリック様。イツモ、アリガトウゴザイマス」
私はこの人に可愛い、可愛いと言われると寒気がするのだ。なんでこんなに気障なのだろうか。
「ミーナ、いつも言っているだろう?そんな他人行儀な呼び方はやめてくれ。フレッドと呼んで欲しい」
「いや……そんな不敬ですから」
「そういう奥ゆかしいところも好きだけどね。ほら、そのキュートな唇で恥ずかしがらずに呼んでごらん?」
頬を染めてグッと顔を近付けられて、私は体を思い切り引いた。ヒィーーっ。怖い。
「こちら!ご注文の品です」
ピキピキと青筋を立てながら無理矢理笑顔を作ったカールが、料理を強引に手渡した。
「盛り上がり過ぎて、酒がすすんだんだよ。ミーナは俺に心を許してるから安心してるのさ。一日二日の付き合いの誰かさんとは違うから」
「ほお。安心ね……さすがはただの幼馴染くんだ」
え?なんかすごい空気が悪い気がする。なんとなく冷気が漂っているのは気のせいなんだろうか。
ダニーからチッと舌打ちが聞こえ、また歩き出したのがわかった。
「バッカスさん、ケイトさん!戻ったよ。ごめん、ミーナ酔って寝ちゃった」
大きな声でそう言うと、ドアの開く音が聞こえおそらく二人共出てきた。
「おかえりなさい。あらあら、ミーナったら」
「お前!ミーナは酒に弱いって知ってんだろ!飲ませんじゃねぇよ」
「度数低いのしか飲ましてないんだけど、疲れてたのかな?ごめん、途中でやめさせときゃよかった」
「……仲直りできたのか?」
「うん。ありがと」
「じゃあ、このままベッドまで運んであげて」
「いや!ダニー代われ!俺が運ぶ」
あ……お父さんの怒った声が聞こえる。
「バッカスさん、ミーナ起きたら可哀想だからそのまま俺が連れて行くよ」
寝てないって知ってるくせに。よくペラペラと嘘がつけるものだと感心する。
私を抱き上げながら、器用にギイッと扉を開けている。ダニーはいつの間にか、私を軽々と運べるくらい大きくなっていることに少し驚く。
そっとベッドにおろされて、小声で「もういいよ」と言われたのでゆっくり目を開けると、至近距離にダニーの顔があったので頬が染まる。
彼は私の頬を愛おしそうにそっと撫でた。私はドキドキと胸が苦しくなる。これはきっとお酒のせいだと自分に言い聞かせた。
「今日はありがとう。楽しかった」
「私も楽しかった。酔って迷惑かけてごめん」
「いつでもどうぞ。むしろ役得」
「くすくす、なによそれ」
私達は外に聞こえないように小声で話している。なんだか秘密を共有しているみたいでくすぐったい。
「おやすみ」
彼は、おでこにちゅっと触れるだけのキスをした。驚いている私に、ふわっと微笑み「またな」と部屋を出て行った。
ドクドクドク
うわぁ。なんか酔いがさらにまわった気がする。私はシーツをかぶってそのまま寝ることにした。
うとうとしていると、小さい音でトントンとノック音が聞こえる。私は眠たくて反応することが出来なかった。
髪や頬を優しく撫でられているような気がする。なんか温かくて気持ちがいいな。
「心配した」
ん……なんか声が聞こえる。
「愛してる」
――誰なんだろう。でも目を開けられないな。
「お願いだ。俺を選んでくれないか」
私はそこで完全に意識を失った。
♢♢♢
うう、体がだるい。爽やかな日差しが今の私には辛い。そうだ、昨日飲み過ぎたんだ。
シャワーを浴びてから身支度を整えて、リビングに行く。
「ミーナ起きたのか。お前、酔ってダニーに送ってもらったんだぞ!この不良娘。寝るまで飲むな」
朝からお父さんのお説教だ。覚悟してたけど。
「おはよう。お父さん、ごめんなさい」
「あいつだから信用してるけど、お前は女だからな。いつだって何かあって傷つくのは女だ!よく覚えとけ。自分の身は自分で守るしかない」
「はい」
「わかったならよし!もう言わねえ」
ニカッと笑って私の背中をパシっと叩いた。お父さんは怖いけど、こういうところが好きだ。お説教にも愛があるし、なにより後腐れなく怒ってくれる。
「カールも心配してたわよ。あとで謝っときなさい」
「カールが?」
「昨日あなたが帰って来ないかと、ずっと玄関を気にしていたもの」
それを聞いてなんだか複雑な気分になる。おそらくカールは護衛騎士の習性がぬけていない。前世の彼は私を常に目の届く範囲に置いていた。流石にいないだろうなと思った時も、キョロキョロと探すと遠くで控えている。そして、必ず私が見える位置を確保していた。そうしないと彼は不安なのだ。
今から思うと、王女というのはプライベートも何もあったものではない。常に誰かに見られていた。よくあんな暮らしができていたものだな、と思う。きっと今あの生活を強いられたら、発狂してしまいそうだ。
「おはようございます」
噂をすればカールがリビングに入ってきた。
「おはよう。あの、昨日は心配かけてごめんね」
「いや。酒飲めたんだな。二日酔いは平気か?」
「少し頭が痛いくらい。でも大丈夫」
なるほど。カールは私が飲めないと思っていたのね。そういえば、前世ではお酒をほとんど飲まなかった。お父様に酔うと危ないから、口をつけるだけにしなさいと言われていたからだ。だから、ミーナになって初めてちゃんと飲酒をした。この国では十五歳からお酒が飲めるので、誕生日がきたその日に試してみたのが初めての体験だった。
「さあ、朝ごはんだぞ。ミーナのために消化のいいものにしといた」
「さすがお父さん」
「優しいだろ」
野菜いっぱいのポトフがじんわりと体に染み渡る。ああ、美味しい。パンはあんまり食べる気にならなくて、少しだけ頬張った。
カールは何かを考えいるようで、無言で食事を終えていた。
「ご馳走様でした」
仕事までまだ時間がある。私はギリギリまで休んでようかなと思っていると、カールがタオルを持って近づいてきた。
リビングのソファーに腰掛け、ポンポンと叩いて隣に座るように促された。一体何なのだろうと思いながらも腰掛ける。すると、そっと肩が抱かれて体が倒され彼に膝枕された。
「な、何するのよ」
「いいから、黙って目を閉じて」
圧を感じたので、黙って従うと瞼の上にひんやりと冷たいタオルが置かれる。
「どう?」
「ん……なんか」
「気持ちいい?」
「んっ……とて……も……気持ちいい」
そう言った瞬間、キッチンの方からガッシャーンと何か落とす音が聞こえた。
私が驚いてタオルをどけると、お父さんがボウルを床に落としていた。
「バッカス!大丈夫?なにしてるのよ」
「い、いや。なんか聞き捨てならない台詞が後ろから聞こえたから」
「なにそれ?」
両親が何か話しているが、よく聞こえない。
「お父さーん、何か落としたの?手伝おうか」
「……大丈夫だ」
「そう?」
「お、お前らなにしてるんだ」
お父さんの質問に、カールはなぜかくすっと意地悪な顔で微笑んだ。
「ミーナの頭が痛いらしいので、冷たいタオルを目に当てていました。二日酔いに効くので」
「な、なんだ!そうか。いや、娘が面倒かけて悪いな」
「いいえ、全然。ミーナ、ほら横になって」
私はまた膝枕をしてもらい、目にタオルを当ててもらう。ああ、本当に気持ちがいい。カールはゆっくりと髪を撫でてくれている。なんか昨日も寝る時にこんな感覚があったような気がする。十分ほどこれをすると、本当に頭がスッキリした。
「あー!スッキリした。ありがとう」
「どういたしまして。ところで昨日は何を飲んだんだ?」
「昨日は……カシスソーダだけ。ダニーが飲みやすいの選んでくれたの」
「そうか。ちなみに彼は何を飲んでた?」
「ダニーはモヒート?だった気がする」
「なるほど。幼馴染くんは、なかなかロマンチストらしい」
私がよくわからずに首を傾げると「知らなくていい」とカールに曖昧に誤魔化された。
「バッカスさん、申し訳ないですが今日は少し町へ出てきてもいいですか?」
「ああ、かまわないぞ」
「すみません。明日からまた教えてください」
なにか用事があるのかな?彼がここに来てから家を空けるなんて初めてだ。
気にはなったが、あんまりプライベートに踏み込むのもなと思ってそのまま仕事へ向かった。
食堂はいつも通り忙しくてバタバタしていたので、あっという間に夕方になった。私は昨日、ダニーと歩いていたのを常連さん達に見られていたらしく冷やかされてた。
今日はカールがいなくてよかったわ。なんとなくこんな話題気まずいもの。
「ダニーと付き合ってるのか?」
「ご飯行っただけ」
「いいじゃねぇか!ダニーが相手なら、バッカスだって安心だよな?町の人気者同士、みんな祝福するに決まってる」
お父さんは困ったように笑っていた。そりゃそうだ。娘の色恋沙汰を客から聞くなんて嫌だろう。
「俺はミーナが幸せなら相手は誰だっていいぜ」
料理をする手を止めずに、お父さんはそう呟いた。お母さんも「人の恋愛を周りがとやかくいうなんて野暮よ」と常連さん達を黙らせていた。
生まれ変わって、本当に二人の子どもでよかったなと思う。
カランカラン
「戻りました。バッカスさん、今日は申し訳ありませんでした」
「気にすんなって!」
「お帰りなさい」
「ただいま」
私が出迎えると、カールが微笑みながら私の頭を優しく撫でた。
「じゃあさ、帰って早々悪いけど……ミーナと一緒に料理の配達頼まれてくれねぇか?それで今日の仕事は終了だ」
「もちろんです。配達なんてしてるんですね」
「ちょっと特別でな。ミーナ一人で行かすと面倒なとこでよ。付き添いがいた方がいい」
カールは「?」と首を傾げて、私を見つめた。
「あー……ちょっと、鬱陶しいの。沢山頼んでくれるし、金持ちだからいいお客さんなんだけど」
「黙らせてやろうか?」
「いいの!穏便にお願いします」
カールが料理を全て持ってくれたので、私は身軽だ。二人で歩いて町の一番奥にある大きな家にたどり着く。
「こんな立派な家がこの町にあったんだな」
「そうなの。この町一番の裕福な商人のお家なの。嫌だけど行きましょう」
私はふう、と息をはいて「ミーナです!参りました」と言うと凄い勢いで、中性的な美しい見た目の長髪の男が降りて来た。うわー……来た来た。
「ミーナ!よく来たね。今日もすっごく可愛い」
満面の笑みで、走り寄って来て私に近付き手をギューっと握られる。
「は……はは、今晩はフレデリック様。イツモ、アリガトウゴザイマス」
私はこの人に可愛い、可愛いと言われると寒気がするのだ。なんでこんなに気障なのだろうか。
「ミーナ、いつも言っているだろう?そんな他人行儀な呼び方はやめてくれ。フレッドと呼んで欲しい」
「いや……そんな不敬ですから」
「そういう奥ゆかしいところも好きだけどね。ほら、そのキュートな唇で恥ずかしがらずに呼んでごらん?」
頬を染めてグッと顔を近付けられて、私は体を思い切り引いた。ヒィーーっ。怖い。
「こちら!ご注文の品です」
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