本当に美しい国だった

志生帆 海

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誕生日の夜

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 珍しく夜まで一度も戦闘がなく、いつになく穏やかな日だった。

 朝から気分がいいのは、今日が僕の誕生日だということもある。家族を亡くしてから、誰かに祝ってもらうことなんて一度もなかった。だけどこんな日はいつもの集落を離れ、小高い丘に駆け上りたくなる。

 そう……天国に一番近い所へ行きたくなる。丘の上にある1本の樹が、僕が僕を祝う場所。ここがいつもの定位置だ。そこまで近づいて、はっとした。何故かそこにセイフが座っていた。

「なんで、セイフが」
「なんだパドゥルか。どうしたこんな場所に?」
「え……別に」
「いいぜ、来いよ」

今日のセイフは少し変だ。どこか沈んでいる?いつもは逞しいまでのリーダーシップを放っているのに。

「どうかしたのか」
「んっちょっとな……」
「僕に話して」
「はっお前にか」

 セイフは意外そうな顔をして、肩を揺らした。

「笑うなよ。僕はもう大人だ」
「そうだな。いつの間に大きくなったな。オレも歳を取るわけだ」
「セイフは今何歳?」
「もう30歳だ」
「見えないな。僕の外見はもうすぐセイフを追い越しそうだ」
「ははっ確かに、背もガタイも良くなったな。お前、昔はあんなに小さかったのに」

 僕のことをじっと見つめるセイフを、僕も見つめ返した。セイフの髪は銀髪なのに、今日は夜空を映して紺碧色に見える。サラサラの髪が夜風にはためいて綺麗だ。

 肌は僕たちみたいな褐色ではなく、欧州の血のせいか白く滑らかだ。こんな砂漠暮らしなのに、いつもしっとりときめ細かなのが不思議だ。僕の大好きなセイフの目じりのほくろを、そっと盗み見た。本当にセイフの顔は美しい。女性と比べるとかそういうレベルではなく、戦いに明け暮れている男どもとは違う、澄んだ光を纏っている。

「なんだよ、じっと見て。照れるな」

 そう言ってセイフはぷいっと背中を向けてしまったので、僕も腰かけて彼の背中に自分の背中を合わせてみた。

 砂漠の空気は夜になると冷えて澄み渡り、頭上には幾千もの星たちがチカチカと瞬きだしていた。

「少し冷えるな」
「そうだね」

もたれるように……
支え合うように……

僕たちは背中から、体温を分け合った。

「セイフ……」
「なんだ?」
「実は今日は僕の誕生日なんだ。二十歳になった。僕はもう大人だ」
「あぁそうか今日だったな。おめでとう」
「え……もしかして知っていたのか」
「当たり前だ、オレはお前の育ての親みたいなもんだろう」

そう言われて初めて気付くことがあった。今まで誕生日には新しい靴が置いてあったり、いつもより食事が一品多かったり。僕はもしかして……セイフからさりげなく祝ってもらっていたのか。

「んな顔するなよ。孤児は他にも沢山いるから、お前だけ大っぴらに特別扱いは出来ないだろう」
「セイフ!ありがとう。僕は今まで……」
「お前はオレが拾ってきたしな」

セイフから密かに特別扱いされていたことが嬉しくて、急にずっと心の奥底にしまっていたことを強請りたくなってしまった。今日なら何でも叶う気がする!


「セイフありがとう!嬉しいよ。今年も贈りものが欲しい」

「なんだ?さっきもう大人になったと言った奴が、子供みたいにおねだりか」

「どうしても欲しいものがある」

「ふっ、しょうがない奴だな。いいぞ、くれてやる!」

「本当に?じゃあ……僕はセイフが欲しい」

「はっ?オレ?」

 言葉にして初めて自分の気持ちに気が付いた。僕がずっとセイフ自身を求めていたことを。

「……お前……それどういう意味だ?」

 驚いて怪訝そうな顔をするセイフ。当たり前だ。僕は男でセイフも男なんだから。

「僕はもう大人だ。やっとセイフを愛せる歳になった」

 セイフは口に含んでいた水をぶっと噴き出した。

「ゴホッ!お前それ……言ってる意味分かっているのか」

「当たり前だ。セイフを抱きたい。今すぐに!」

 セイフは唖然とした表情でしばらく固まった後、盛大な溜息をついた。
 
答えはイエスかノーか。目を瞑って、じっとその返事を待った。

「はぁ……参ったよ、お前には。くそっ俺好み成長しやがって。いいぜ、抱けよ。抱かせてやる!」
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